事例本文(オーテック)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:44 (株)オーテック   事例発表日:平成12年11月29日
事業内容:金型設計・製作、プラスチック射出成型
売上高:不明 従業員数:84名 資本金:1億4900万円 設立:1995年11月
キーワード 金型・プラスチック射出成型製造、
ダイレクトメール、ペーパーレス、
EDI、構内PHS
仕事を獲得するための情報化
  

(株)オーテック URL:http://www.otec21.co.jp/
http://www.mt21.com

(株)オーテック 顧問 光井將宇氏
プロフィール

 立命館大学大学院に社会人入学し、産学共同研究に従事。卒業後、(株)オーテック顧問及びミレニアムトレード(株)取締役。近畿大学で教鞭もとる。

IT化の成功の決めては社員のレベルアップ
身近なところから始めて社員の成長に合わせて大きな成果を得る

 経営コンサルタントとして(株)オーテックの情報化戦略に関わった光井氏の語る事例は、中小零細企業でもすぐに取り組めることばかりだ。初年度5千万円だった年商を5年目に13億円にまで伸ばしたオーテックの成功を支えたIT化ストーリーとは。


■社員の意識改革で儲かる会社にしよう
  私は大学で教えるかたわら、経営コンサルタント業務も手がけ、関西を中心とした中小企業において、経営者や番頭さんが引退しても会社が成り立つためのひとつの提案として、コンピュータを導入しIT化しノウハウをそこに移すお手伝いなどを10年ほどしてきました。そして、(株)オーテックの情報化へのお手伝いという声がかかり、2年ほど前から関わっています。
  (株)オーテックは、金型設計・製作・プラスチック射出成形メーカーです。大手電機メーカーの3次下請けのプラスチック成形メーカーであった父の事業を引き継いだ呉宮(くれみや)が、1995年11月にそれを転換し全く独自の会社として設立したものです。
  それまで3次下請けでやっていたような仕事を直接メーカーに持ち込み、1次下請けにすることに成功し業績を大きく伸ばしました。初年度5千万円だった年商が5年目で13億円になりました。
  本当にものを造ってきた3次下請けだったからこそ、技術を持っていたわけです。しかし、それを顧客に提案する能力を持つまでには努力が必要でした。
  従来の日本の製造業の強味は、資材調達担当者との話の中から要望を聞き取りそれに合ったものを提案する"ご用聞きの能力"があったのですが、世代が交代してその能力がなくなりつつあります。日本の教育システム自体が選択肢主体で提案力のある人材が育たないという環境であり、中小零細企業では一層のこと、優秀な人材、提案力を持った人材を雇うのは困難です。

■社長が社員を育てるツールとしてのIT化
  そこで呉宮社長が考えたのは、会社が伸びるためには優秀な社員が必要だからら育てないといけない、社長=教師になるのだということです。その第一歩が情報化だったのです。社長1人で何人もの社員の面倒を見るとなるとやりとりの手間が大変です。そこにコンピュータは非常に便利なツールであるという発想で、社長が全て相手をするという覚悟のもとにPCの購入補助制度を作り、社員全員にノートPCを持たせました。製造業はなかなか社員の異動が激しいので与えるのではなく月々に金額を給料から天引きし、半年くらいしたら本人のものになるような制度です。
  第一段階は、社内にPHS電話内線網を引き、PHS連絡網を作りました。これで、誰がどこにいても連絡を直接取れる体制にしたわけです。次に社内LANのコンセントを設置して、社員がノートPCにモデムカードを差し込めば社内LANに繋がるような環境を確立しました。ファイルサーバーを立てて、社内の情報、議案書などは全てここに保存し紙を出さないようにしました。コピー機も1台にして、ペーパーレス化を進めました。
  第二段階は、担当者しか書換えができなかったホームページに自動書換えソフトを導入し、各部門から直せるようにしました。この段階から私が関与することになり、社外に情報を出すとはどういうことか、セキュリティの問題等を認識させ、各社員に責任の所在を明確化させたのです。
  その上で、ネット営業を取り入れました。その方法は、200社ほどの資材調達メーカーに、お得な情報や展示会などで相手先の出展を見た感想など、きめ細かな内容のメールを毎週送ることから始めました。3カ月くらいは何の返事もありませんでしたが、やがてぽつぽつと返事が来るようになり、ついには大手メーカーから金型の注文が来るまでになったのです。信頼関係をネットで作っていくことが可能だという例といえましょうか。
  ファイルサーバーにデータを入れて管理したのは、ISO取得の準備を兼ねていました。ISO取得には文書管理が大変ですが、オーテックでは情報化の第一段階でファイルサーバーに皆が慣れたため抵抗感なく対処でき、各部門長がここまではコンピュータでやりましょう、ここはプリントアウトしてファイルに綴じておきましょうと見極めができました。

■大手取引先のニーズ、EDIにも対応
  次に在庫管理、経理の情報化に入っています。通常の会社ですと、最初に経理部門、在庫管理部門がコンピュータ化をします。するとそこの担当者だけが特権階級のように見え、いざ他の社員にコンピュータ化を進めようとした時に軋轢が生じてうまくいかないことがあります。オーテックのように社員全体のスキルが上がって初めて実際の業務に関わる部分をIT化するやり方は参考になると思います。また、目的のないIT化は失敗すると言われますが、逆に、現実にできない仕事はIT化してもできません。手作業で経理と在庫がきっちり合っていない会社はIT化しても数が合いません。それがきっちり合うレベルになってから初めてコンピュータを導入するという視点も必要です。
  また、オーテックは松下、シャープ、サンヨー、トヨタなどの企業と取引していますので、EDI(電子データ交換)に対応せざるをえない状況にありました。各社がそれぞれ自社専用のEDI端末のパソコンを用意しLANで繋ぐことを要求してきますが、機種も違えば操作も違うので、各企業向けに専用のハードとそれを操作するオペレータが必要となり、オーテック1社でEDIに対応するのはコスト的に合わない。それができるのは売上300億円以上の規模の企業ではないか。ならばその部分を代理で行う会社が必要だと考え、新会社ミレニアムトレード(MT社)を作ることになったのです。MT社が各企業から来たデータを変換して会員企業に回す、例えばシャープさんから来たデータは一般用に変換して会員各社に回すので、会員企業の出口はインターネットひとつでいいわけです。MT社の口座を利用してもらうということは会社の信用を貸すことですので、本当に一緒にやっていけるだけの技術力があるのか判断させていただくため、MTクラブを作り会員制とします。無料会員と月額5万円の2段階の会員を考えていて、有料会員には口座をお使いいただき、プラス成功報酬としてサービス料をいただく構想で2000年4月からスタートします。

■オーテックに見るIT化成功の3つの条件
  オーテックがIT化に成功したというのはまだ途中の段階ではありますが、オーテックの事例からIT化を成功させるための3つの条件を掲げてみましょう。
  1)社長が自ら使わないと社員は絶対使わない。
  オーテックでは社長が社員に対して「この間はこれこれこうだったけどその後どうだ」というように全部個人あてにメールで問いかけて、かつCC機能(メールの写しを送信する)で課長、部長にもメールの内容を明確にし、その中でいい提案やアイデアがあったら掲示板に張り付けて社員全員が見られる形を作りました。社長が高齢だとか多忙を理由にそんなことをやっていられないという企業の場合には、社長の代わりに会社の情報を全部管理する情報の責任者(CIO)を決めて下さい。そうしないとせっかくの情報化の流れをトップがせきとめることになりかねません。
  情報化に伴い、社内の人員の配置全体を見直す必要もあります。オーテックの場合は、この2年間に会社の組織を10回変えました。他社に混乱をもたらさないよう名刺上は変えてなくても、社内の実際の予算取り、各人の責任所在、プロジェクトに関するチーム分けなどは2カ月に1回のペースで変わっているということです。ネットを使って色々な提案が出て、取引先の変化もあって、希望者にどんどんその仕事を任せていくということをやっていれば組織が変わるのは当然です。IT化を投資として捉らえた時に、あくまでもITはツールであり会社はその設備を整えたのであって、実際に社員がそれを使って会社にメリットをもたらすプロジェクトを提案するようでなければその投資は回収できません。
  2)報連相の徹底。
  オーテックでは社員教育を徹底させました。といっても実際は"ほう・れん・そう"(報告・連絡・相談)の徹底をさせたのです。報告は過去のこと、連絡は現在のこと、相談は未来のこと。ですから、常にひとつの出来事に対して最初に相談があり、連絡があり、報告がありというワンセットになって終わるはずなのです。社員にその意識を持たせ、報連相対応用にメールの様式を変えました。タイトルを書き、その後に相談1番、相談2番、相談3番と書かせるようにしたのでその後の連絡や報告に繋がり、それがそのまま日報に近い形となって会社としては営業報告書として取引先ごとの重要なデータベースになっています。製造の面では、トラブル報告、不良品発生などが重要な対応マニュアルとなります。
  3)ホームページは優秀な営業マン
  現在、オーテックのホームページには、金型の会員見積システムがつけてあります。金型を発注したい人が条件等を入力すると簡単な金額が出るものです。また、中国や台湾などアジアの企業には日本の金型が非常に優秀だというイメージがあってもどこに頼んだらいいかわからない、そういう時にオーテックのホームページを見た外国企業から注文が来ることもあります。

■必要最低限から始めて、グローバルマーケットで勝つ
  オーテックでは入社初日にPCを渡され、使い方の指導が最初のトレーニングとなっています。PCを使って当然という環境ですから、どの社員も違和感なくできるようになっていきます。システムやソフトは最低限のものしか入れませんでした。
  IT化で社員のレベルが上がる、レベルが上がればやりたいことが増える、増えたらこれまでのシステムは捨てなくてはならない場合が出てきます。あくまでも会社の設備投資としてのITは、使い捨ての側面がありますから最低限の機能で始めるほうがいいと思います。そしてその機能が社員全員に使いこなせるようになった時点で次の機能を考えればいいと思います。もしくは使っているなかでこの機能では足りないということが明確になったら足せばいい。むしろ1年後に、今までのシステムではだめです、こんなシステムにしなくては、と社員から声が出てきたらそれこそ投資効果があったというべきでしょう。
  IT化の本質は、データが残る、1対n、n対nの3つです。
  データが残るので、そのデータを活用してノウハウを磨くことが非常に簡単になります。しかし、データを使える人がいなかったらデータもゴミになってしまいます。ですからデータを活用できる人間をいかに育てるか、それはつまり情報はお金を生むものだと社員が認識してくれるようにすることともいえます。
  1対n、n対nの対話が可能になる、時間と距離の壁がなくなるということは、互いにリアルタイムに情報を共有できるということでもあります。オーテックでは会議の1週間前に全員が議題を提出し(ない人は"ない"と表示)、議題を出した理由や関係資料などは全てメールで流しておきます。ファイルサーバーの文書ファイルで保管されます。ですから、会議当日は、責任者となる提案者がこの問題にこう取り組みたいと案を出し、それに採決をするだけですから30分以内に終わります。
  ホームページも1対nのひとつの形です。時間と距離がなくなるということはグローバル化が進むということです。日本語と日本の大きなマーケットに守られてきた日本の製造業も、ネット調達などによる外国企業の参入を受け、戦わなくてはならない時代です。その生き残りのためにもIT化は必須だと思います。
  身近な所から、まずは、最少の予算で始めて、それを徹底的に使いきることが、
IT化成功へのスタートです。

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