シャボン玉石けん事例コメント

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事例コメント
シャボン玉石けん(株) 作成者:(株)事業開発推進機構
     土肥 健夫
ITC認定番号:0009732001C
作成年月日:2002年5月10日

1.業界概況と同社の特徴
(1)業界概況
 ① 比較的堅調も景気低迷の影響
 石けんは、民生用から工業用まで、非常に多彩な製品を擁し、国内消費高では8百億円規模の業界と言われている。民生用は生活必需品であり、景気低迷下でも消費が激減することはない。また工業用でも、用途が製造・加工・流通過程の一部を構成するものであることも多く、比較的需要の変動が少ない業界として知られていた。
 しかしバブル崩壊以来の長期的な景気低迷で、全体的な市場規模を縮小してきている。
(図表1.国内石けん消費高の推移)


 ② 製造技術・工程が比較的近似
 石けんは、主原料である各種油脂類を溶解・攪拌し、副次的な原料である香料等と混合し、最終製品としての形状に仕立てるという製造工程を有する。
 従って原材料や最終製品としての仕上げ方法に差異こそあれ、基本的な製造技術や製造工程については、比較的似通っている。
(図表2.参照)


 ③ 流通チャネルやブランド・イメージが競争力の鍵

 石けんは前述のような特性から、製造・販売する企業や製品自体の競争力は、以下2つの要因の影響を受ける。
 まずは、企業として有する川下過程の流通チャネル・販路の規模・強さである。他は特に民生用製品についていえることであるが、企業や製品自体が有するブランド・イメージや知名度の高さである。

 ④ 中小企業性

 石けんは、それほど高度な技術や高額な設備を必要とせずとも製造が可能である。従って、業界には中小企業が多い。
 平成12年の工業統計調査で該当する「化学工業」について、試みに中小企業基本法で中小企業の要件の一つに該当する「従業者数300人」を区切りに見てみる。
(図表3.参照)

 事業所数では実に96.3%を中小企業が占めている。但し出荷額等については、大手が規模の利益や販路の広さ・強さを生かして圧倒的優位にあり、300人未満の中小企業の出荷額等は52.0%に留まっている。中小企業の中には、大手製造・販売業の下請け的な役割を担っているものも多い。

 ⑤ 製品特性
 石けんについても様々な分類がある。ここでは、用途別に「浴用石けん」・「洗濯用石けん」・「粉末石けん」・「その他石けん(繊維用・工業用等)」の4種に区分して、概況を見る。
(図表4.石けんの用途別生産額の推移)

 生産額ベースでみると、浴用石けんが全体の8割以上と大半を占める。しかし時系列的にみると、浴用石けんも含め、全体的に生産額は頭打ち傾向にあり、生産額はここ10年間で4分の3の規模にまで縮小してきている。

 ⑥ 原材料確保・開発が課題
 石けんの主原料となる油脂類の内、比較的高比率を占めるパーム油脂については、大消費国の商社による買占めや、資源自体の絶対量の減少等もあって、原価の高騰が起きてきている。牛脂についても、BSE問題以降は、消費者の不安が強く、使用を手控える企業も多い。
 こうした課題に対応するため、各企業では油脂類の新たな調達ルートの確保や先買い等によって、原価の維持・引き下げに努めている。意欲的な企業の多くは、こうした対症療法的な対応に留まらず、積極的に新たな原材料の開発等に努めている。中小企業が複数で、公設試験研究機関や大学等を媒介に、共同して研究・開発を進めている例もある。

(2)同社の特徴
 ① 概 要
 シャボン玉石けん㈱の概要を見る。平成12年8月期の資本金は3億円、従業者数は121人、売上高は57億円で、北九州市若松区南ニ島に本社を置いている。
 昭和24年5月の創業で、現在社長を務めている森田光徳氏は創業者の実子で2代目である。
 同社は基幹企業であり、製造を主務とする「シャボン玉石けん㈱」、販売を担う「シャボン玉販売㈱」、通販に当たる「㈱シャボン玉本舗」、企画を担当する「(有)シャボン玉企画」の4社でグループを形成する。平成11年9月には、グループ4社でISO14001を認証取得している。

 ② 時代潮流を敏感に読み、隙間市場に参入
 同社は当初、合成洗剤の製造・販売業からスタートしている。昭和49年、販売先の一つであった国鉄から、合成洗剤で車両を洗浄すると腐食が早いため、天然素材産に切り替えるよう打診される。
 これを天然素材・環境指向・健康指向の萌芽と敏感に読み取った現社長が、当時主力であった合成洗剤から、無添加・天然素材のみの製品の製造へと、大胆に方向転換していく。そして社長自身の肌のトラブル・湿疹に効果があったという経験を医学的にも理論付けて、ブランド・製品浸透までの17年間にも及ぶ損失計上期を乗り越えて、以前では考えられなかった「無添加・天然素材」・「アトピー・湿疹対応」等の隙間市場を、本格的に開拓し成長していく。

 ③ 直販主体、通販や電子商取引への積極的対応
 石けん製造業は前述したように、広範で強力な販路の有無が業況に大きく影響する。同社の場合、「中小企業であったこと」や「隙間市場を狙っていたこと」もあって、販路に恵まれていたとは言えない。
 こうした状況を逆手にとって、同社は直販体制を重要視していく。昭和50年には、新たな戦略製品と期待しながら川下工程の流通チャネルの理解不足から充分な売上を確保することが難しかった無添加・天然素材の石けんの直販・販促等のためにも、通販等を担う(株)シャボン玉本舗を設立する。
 現在では、こうした体制が、電子商取引等を積極的に展開していく上でも役立っている。

2.同社の情報化への取り組みに関して評価すべき点
(1)当初からの目的イメージが段階的に明確化
 ① 売り上げの伸びへの効率的対応による機会損失・顧客不満足の回避
 同社では、無添加・天然素材の石けんの価値が市場に理解されるようになるにつれ、受注が急増する。ところが損失が累積していた状況ゆえ、従業者も限られ、迅速な顧客対応が不可能であった。
 同社では「限られた人員での効率的な事務処理」・「受注機会の損失、顧客不満足の回避」等の経営課題を的確に抽出し、そのための情報化という、明確な目的イメージが存在していた。

 ② 顧客管理の徹底
 同社では、単に受発注業務の効率向上に留まらず、顧客管理を徹底して重視している。従って、当初導入されたCTIシステムについても、"コンピュータと電話との統合"という狭隘な範囲での活用に留めず、得られた顧客データを積極的に次の展開につなげていこうとの考えがうかがえる。
 具体的には、得られた顧客データから顧客ごとの購買頻度を算出し、再購買が期待される顧客に対して電子メールを活用して販促を打って行く等である。

 ③ 電子商取引への展開
 同社では、隆盛となりつつある電子商取引についても、積極的に取り組んでいる。従来からの通販に比べればまだ規模は限られているようであるが、直販に注力してきた同社の従前の豊富な経験を生かすことで、今後高い成果を収めていくものと思われる。

 ④ 全社的な戦略的経営の推進
 同社では、単なる情報システム導入による業務効率化の範囲を超えて、戦略的経営を企図した取り組みを進めている。顧客管理の徹底や、得られた情報を活用した積極的な販促等は、その一環である。
 今後、きちんとした経営戦略の下、こうした取り組みが統合・整理された上で推進されれば、同社の一層の発展が期待される。

(2)充分な導入期間
 ① 試行錯誤

 同社では、平成3年頃に顧客からの受注への対応や業務煩雑化が問題となった。以降、平成8年前後のシステム導入発意まで、様々な対症療法的対応を行ってきている。
 こうした試行錯誤の経験が同社にとっての貴重な財産となり、"情報化=機器・システム導入"という短絡的な発想に留まらない、「経営と情報化との連動」を強く意識しての展開が図れたものと思われる。

 ② 準備期間の長さ

 同社では平成3年頃から平成8年前後までの数年間、試行錯誤しながらシステム導入を検討していた。通常、目の前の経営課題への対応を強いられることから、システム構築等のための期間は相当程度圧縮されがちである。
 ところが同社の場合、平成9年にCTIシステムの導入を決定するが、一年程度の充分な準備期間を掛けている。こうした準備期間が、経営課題への対応、利用者の意向の反映、ベンダーの実力発揮等に奏功したものと思われる。

(3)手作り型・不断の更新
 ① 手作り型
 同社では、システム導入を大手ベンダーに依頼している。しかしベンダーに任せ切るのではなく、新入社員からベテラン社員までがシステムへの意向・期待を表明し検討する等、全員参加の手作り型でシステムを構築している。
 こうした姿勢が、同社に利用し易いシステムをもたらすこととなっている。

 ② 不断のシステム更新
 同社では、当初段階で当時の経営課題に応える、単純な顧客対応システムとしてのCTIや受発注伝票の発行が可能な状況を作り上げている。
 同社はこの状況に甘んじず、ベンダーの協力を得てDM兼用伝票発行、電子商取引との連携へとシステムを更新・拡充してきている。こうした不断のシステム更新が、同社の成長を支えている。

(4)確認可能な効果
 ① 本来的な業務効率化の実現
 現在、同社への注文等のための顧客の電話は、一日当たり400件から多い時には600件にも上る。こうした多数の受注に、迅速・的確に応えられているということが、本来的な経営課題である業務効率化の実現という効果として確認することが出来る。
 同社では、業務が集中するお客様相談室等の販売部門について、最近では「残業0」を多数実現しているという。人件費削減面での効果も大きい。

 ② 社員の意識改革
 同社ではシステム導入と前後して、顧客対応・受注担当の社員に対して、「コールセンターのオペレータは全員が営業社員」という意識を徹底している。
 好業績や顧客からの良好な評価もあって、社員の意識改革は順調に進んでおり、モチベーションも高まっている。

3.同社の課題
(1)システム全体としての再編成
 ① 段階的なシステム更新

 同社では業務煩雑化への効率的な対応を端緒として、成長過程に応じた経営課題に則して、段階的にシステムを積み上げ的に更新・拡充してきた。
 これによって、経営状況に合ったシステムを維持してきている。反面で、各段階ごとのシステムの整合性等が、将来的に問題となる可能性もある。

 ② システム全体としての再編成
 こうした問題を顕在化させないため、システム全体としての整合性の全体的な見直し、必要に応じての再編成が期待される。

 ③ 前提としての全社的な情報化戦略の再構築
 システム全体としての整合性や再編成を行う前提・基準として、急成長による現在の経営規模・資源・体制・課題等を反映した、全社的な情報化戦略を再構築することが望まれる。

(2)戦略的情報活用
 ① 得られた情報の多面的な活用
 同社には、顧客データ・販売データ等、経営に有益な多彩なデータが蓄積されている。一例として顧客データでは、既に15万人前後の蓄積がなされている。

 ② 販売部門での活用

 蓄積されたデータは、一義的には販売部門で有効に活用される。この辺りについては、今後システムをアウトバウンド型にしていく上での課題となっている。

 ③ 販売部門以外の部門との緊密な連携
 同社の場合、得られた情報をさらに基幹業務である生産管理や、在庫管理・財務管理等のスタッフ業務に対して、販売によって得られた顧客の嗜好、売れ筋、要望・要改良点、的確な生産・在庫規模等の情報を、随時フィードバックしていくことが望まれる。
 これによって、単なる販売部門での効率化に留まらない、戦略的な情報活用型経営が実現する。
(3)コアコンピタンスの見極め
 ① 製造・企画の一層の強化
 同社のコアコンピタンスは、あくまでも「質の良い石けんの企画や製造」である。CTIシステムによる効率的で緊密な顧客対応は極めて重要であるが、同社の優良な製品があってこそ、その価値を最大限発揮し得るものである。

 ② アウトソーシングも検討
 CTIシステム等を通じて得られたデータの分析、システムや極端な場合にはコールセンターの維持・管理についても、費用対効果を確認し、アウトソーシングの是非を検討することが考えられる。

4.今後に向けて
(1)次段階への経営戦略の構築、KGI・KPIの設定
 ① 経営戦略の再構築
 同社は急速な発展に伴い、システム導入が問題となった当時と比較して、経営に関する状況も激変している。現在の状況を再評価し、新たな将来展望を行い、全社・全グループ的な経営戦略を再構築することが望まれる。
 特に既に着手している電子商取引や、CTIや販売の領域を超えたERP的な展開について、全社的な位置付けが期待されている。

 ② KGI・KPIの設定
 経営環境は非常に早いスピードで激変している。将来展望も難しい。だが同社では従前から時代潮流を見抜き、苦しみながらも柔軟に対応してきた。
 こうした経験を有する同社ゆえ、経営戦略立案時に的確なKGI・KPIを設定し、変化する状況とこれに対する自助努力を随時チェックすることで、現在の成長基調を維持していくことが望まれる。

(2)本格的なCRMへの展開
 ① 超CTI
 同社の展開は、現状狭い意味でのCTIを超えて、情報活用型顧客管理・販売管理の時限に達している。一方、時流は、生活者指向の重視が言われ、CRMのような緊密な顧客対応型経営が指向されている。
 こうした状況下、同社でもDWH・MDB等の組み合わせ・拡充によって、CTIからCRMへの発展を図っていくことが望ましい。特に、既に相当の会員数を擁する「友の会」等を基盤とした、プッシュ型・アウトバウンド型の販促については大きな可能性を有するものと思われる。

 ② 情報を利活用した、他事業者との共同事業
 得られた情報については、自社・グループ内での活用に留まらない。プライバシーの問題に配慮しつつ、同社・製品に係る各種モニターや調査の結果を、社内外の事業者の新製品開発・サービス改善等のための貴重な情報としてフィードバックしたり、共同で研究・開発を行う等、新たな展開も期待される。

(3)ERPの導入、販路とのネットワーク
 ① ERPの構築
 本格的な展開ということになれば、戦略的な情報活用型経営に資するようなERPの構築等が待たれる。投資対効果の点から厳密に検討してERPの導入ということになれば、販売だけでなく生産管理・在庫管理・財務管理等とのデータベース間連結を実現し、情報化の効果を最大化していくことが可能となろう。

 ② SCM的な展開
 売上規模・販路が一層の拡大をみせるようであれば、原材料納入業者・運送事業者・卸売り先等、流通チャネルを構成する他事業者との間で、SCM的なシステムを構築し、顧客対応の緊密化、経営効率の最大化を図っていくことも望ましい。







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