事例コメント

IT Coordinators Association
事例コメント
株式会社南野産業 作成者:ITC-Labo.
      本多 茂
ITC認定番号:0019182002A
作成年月日:2003年 3月26日
 典型的な中小企業である(株)南野産業は南野社長自ら先頭をきって、トップダウンで社内のIT化に取り組んだ。そのため、社内のIT化への思いが同じベクトルを向いたため、 スムーズにプロジェクトが進み、右肩下がりの業界にあって堅調な経営をされている。
 本事例は、トップのリーダーシップが発揮された典型的な成功事例であり、中小企業のIT化のお手本になるような事例である。

(1)銑鉄鋳造業界の動向
 銑鉄鋳造業界の生産動向は、経済産業省から提供されている機械統計年報・機械統計月報の過去13年間の推移をまとめた日本鋳物工業会の資料(表1)によると、 工場数、従業員数、生産量・生産金額ともに年平均5%前後ずつ減少の傾向にある。さらにこの不況で減少率は加速しつつある。 また、具体的な数字はないが統計では20人以上の企業を集計したものであるから、それ以下の零細企業はさらに厳しい状況にあると考えられるであろう。


 表2によると、さらに追い討ちをかけるように、中国など海外への生産拠点流失や、海外の技術力があがったことによる品質向上などの要因から、鋳造品の輸入が増加している。
 平成2年度から比べると重量ベースでは約2倍、金額ベースでも約1.65倍に達している。逆に輸出は重量ベースで0.56倍、金額ベースでは0.71倍となっている。 重量ベースに比べて金額ベースの落ち込みが少ないのは、高度な技術力を要する鋳物が減少しておらず、むしろ増加傾向にあるので、安価なものは競争力が無くなり、 結果として単価校正が変化したものと考えられる。平成13年度の、輸入品のトン当たりの単価が132,945円に対して、輸出品は255,534円になっている。 これは高度な技術力を要する製品に関しては、日本はまだまだ生き残れているということを示している。今後、中国等での技術力の進歩は目覚しいが、 日本には追いつかれないだけの製品開発力、技術開発力がある。そこに銑鉄鋳物業界の生き残っていくチャンスがあるのだろう。 今までのようにコスト削減、大量生産だけでは産業は成り立たなくなってきている。


(2)IT化への思い
 日本鋳物工業会のホームページによると、大阪鋳鉄工業組合の加盟企業36社のうち、ホームページを持っているのは3社のみである。 中小企業が中心で古い職人気質のはびこる世界なので、IT化は非常に難しいのであろう。そのような状況の中、南野産業はIT化の成功を収めているのである。
 「創業以来、当社は業界をリードする先進の技術指向を基盤に時代と共に移り変わるユーザーニーズに幅広く対応し、鋳造から機械加工までの一貫生産体制を整備することにより、 試作から量産までの納期短縮、製品コストの追求、品質の確保及び維持を実現しています。 品質管理においては諸特性をコンピューターや高精度な計測品により数値でチェックする一方、 システム化された生産管理により要求される納期に合わせ効率の良い生産実績をあげています。」(南野産業ホームページより)
 上記は南野産業のホームページトップに出ているものである。システム化された生産管理とあるように、IT化されたシステムが当たり前のように使われていることを示している。 しかし、これは簡単にベンダーに頼んで導入したというわけではなく、社長自ら苦労をしてこつこつと積み上げていったものである。
<IT化以前>
 工程管理や伝票発行などの業務の進行については、全てを手作業の紙ベースで行っていた。 そのため部品点数が約3,000点もあるので、作業割付や経理関連の作業も非常に煩雑で大変な作業量となっていた。 そのため業務の進行や連絡が行き届かないことも多く、またデータとして残らないため、作業内容なども個人に頼ることが多かった。
<IT化開始>
 こうした現状を踏まえて、南野社長は自ら率先して「トップダウン」でIT化の推進を行うことにした。 もしこの段階で、どこかのベンダーを入れて、もしくはコンサルタントを入れてIT化を進めていれば成功したかもしれないが、莫大な費用がかかってしまっただろう。 南野社長が従業員の協力を、友人の協力をえてこつこつと業務分析からはじめ、ITに関する知識を勉強しながら、自ら自社の業務システムを開発していったのである。 もともとITに関する素人がここまで出来るのか、というレベルに達している。このことが実現できた要因は次のとおりだと考えている。
 (a)南野社長の強力なリーダーシップと意欲
 (b)自社社員による協力体制
 (c)業務を洗い出し、多くを望まずできることからIT化
<IT運用開始>
 南野産業では、社長が苦労して作り上げたITの仕組みが稼動し始めてその有用性と効果を実感している。 たとえばある製品を受注した場合、ボタンひとつで標準工程の情報が得られるようになっている。 また、受注情報や工程情報などは共有化されており、事務所のどのパソコンからも見られるようになっている。
 これは、IT化の基本である属人性を排した情報の共有化そのものになるのではないだろうか。 このように社長のリーダーシップと社員が一丸になってつくりあげた情報システムは、非常に使い勝手の良い、役に立つものになっている。

(3)今後の展開
 今後は市販のパッケージを活用した財務会計の導入。これは既存の販売、仕入れなどのシステムとのインターフェースを設計できれば比較的、早期に可能だろう。 また、外部とのEDIや営業によるモバイル端末の活用などまだまだITに関する課題は残されている。

(4)まとめ
 ITの世界は日々進化し続けている。しかし、中小企業においては湯水のごとくITに投資し続けるわけには行かない。 それこそIT倒れになってしまう。南野産業の事例は中小企業のIT化を進める上でのひとつの指針ではないだろうか。
 (a)社長の強烈なリーダーシップ
 (b)社員の協力
 (c)出来ることからIT化、むだなIT投資はしない
 これらのことが整ってはじめてうまくIT化が出来るのであろう。南野産業については社長のちょっと他人にはまねの出来ないがんばりで実現した。 他社でも同じようなアプローチでIT化の実現を図ろうとしてもなかなか難しいだろう。 ITコーディネーターを活用して、安価に短期間に対投資効果の高いIT化を目指すのもひとつの選択肢と考える。


参考資料
日本鋳物工業会ホームページ
  http://www.chuokai.or.jp/kumiai/jcifa/index.html
南野産業ホームページ
  http://ss7.inet-osaka.or.jp/~nannoind/

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