事例本文(オムロン)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:47 オムロン(株)   事例発表日:平成12年10月16日
事業内容:制御機器・FA、電子部品、PC周辺機
売上高:5942億5900万円
2001年3月
従業員数:6757名 資本金:640億8178万円
2001年3月
設立:1948年5月
キーワード 制御・電子部品・FA機器製造、
物と情報の流れの一致、
CAD、CAM、イントラネット構築
IT技術の活用と21世紀へ向けての事業基盤の強化
  

オムロン(株) URL:http://www.omron.co.jp/

オムロン(株)顧問 田崎 央(ひさし)氏
プロフィール

 昭和34年京都大学卒業、オムロンの前身・立石電機に入社。販売、営業、経営戦略部門をはじめ、中央研究所所長、技術本部長などを歴任。海外事業戦略も担当。専務取締役ののち、顧問に就任。通産省の地域コーディネイタ、ITSSPコーディネイタ、京都高度技術研究所客員研究部長なども務める。

~経営の質を上げるIT技術を柔軟に活用しよう~

 IT化時代の現在、世界各地でビジネスリーダーの役割を果たしている田崎氏は、経歴の通り技術、営業、経営とトータルな眼でIT化をとらえることができる人物である。気さくな関西弁のトーンの中に、最先端の事例や次代に生き抜くための経営へのアドバイスが光る。


■ITによる身の回りの変化とは
  IT革命と言われますが、いったいどんなことが起こっているのかをお話します。私は昨年、今年と通産省の関係でアメリカ、ヨーロッパへ何回か行っていますが、そこで言えるのは元気な国は産学仲良し・ベンチャー頑張れ・IT元気と言う特徴があります。例えばシンガポールもそうです。アメリカは10年前の不況からIT領域の産業により見事に立ち直りました。IT領域の産業はこの10年で7倍になったと言われています。日本ではIT領域のエレメントを全部持っている大手電気メーカーなどの各企業はほとんど成長していないはずです。これはすごく大きな違いです。また、ヨーロッパの例では、フィンランドが今大変景気がいいです。私どもも現地に子会社を持っていますが、毎年5割以上の売上の伸びとなっています。パソコンの普及率も携帯電話の普及率も世界一です。このようなことから、ITが経済のドライビングファクターとなり、ぎゅっと押し上げる効果をもたらしているといえると思います。
  では、我々の身の回りではどんなことが起こっているのでしょうか。一言で、自分の状況がどうなったらIT時代といえるのかというと、自分の好きな機械(iモード、パソコン、デジタルの双方向テレビなど)で自分の好きな時に自分の好きなやりたいことができる。それが例えば情報を集めることだとすると、イスタンブールへ遊びに行くけどどこで食事をしたらいいか、ということがすぐにわかります。あるいは、自分の口座から送金をする、切符を買う、株を売り買いする、役所の証明書類を取る、色々あると思います。フィンランドの例では、独居老人の住居のあちこちに色々なセンサーを付けておき、一日の行動の平均パターンを機械が覚えていて、毎朝8時に起きるのに今日は起きてないという時には、すぐにホームヘルパーさんが駆け付ける仕組みができています。痴呆老人の徘徊にカーナビの技術を応用したり、施設の入口のカメラが顔で識別して出入りを管理したり、というように我々の生活がITによって助けられることが増えていくでしょう。また、人が倒れてから1時間以内に処置できればその後のクオリティオブライフが非常に高いレベルで止めることができる、こんなところにもITが活用されていくと、生涯医療費を大幅に下げることもできると思います。

■ITによる社会及び経営環境の変化とは
  では、社会はどのように変わるのでしょうか。アメリカでは、BtoB、つまり企業間取引において、98年のデータで、年間50兆円がインターネットで取引されています。日本の総小売り金額が145兆円ですから、その3分の1にあたる金額です。また、同じくアメリカでインターネット取引により230万人の雇用が新たに創造されています。ちなみに日本の99年末の失業者総数が300万人です。なぜそういうことが起こるのか、それには色々理由がありますが、ひとつはアメリカでは市内電話がタダなのです。だからインターネットの接続は全員朝から晩まで繋ぎっぱなしで24時間いつでも使える環境があります。日本では使おうと思ったら電話代を心配しなくてはなりませんが、いずれ日本もそうなると思います。
  経営もまた色々変化しています。例えば私が籍を持っているオムロンのある系列会社はソフトウエアの生産を行っていますが、200人くらいが1フロアにいて、全員がソフトウエアの開発をし、一日中一言も言葉を交わしません。仕事は端末で行い、隣りの同僚に用があればメールを打つ、昼休みは一人でゲーム。こうなると中間管理職の部下を管理する役割は非常に難しくなります。マイクロソフトのビル・ゲイツは1日に何百通ものメールを社員とやりとりして会話しています。そのように直接考えが伝達でき、しかも履歴まで残るやり方に変わってきているのです。また、時間空間を越えるのがインターネットですから、例え2人3人の小さな会社でも全部グローバルマーケットを対象に物事を見ているのも特徴です。

■私が推進したオムロンでのIT化投資
  20年前、私は会社(現・オムロン)において、今でいうならITエグゼクティブとして大きな投資を推進しました。その大きな柱は次の3つです。
  1)ネットワーキング
  イントラネットの敷設です。当時30億円か40億円かかりましたが、今なら数十万円でできそうなものです。会社の中で色々な機構が分断されていたのでそれを繋ぎ、営業拠点50何カ所、特約店100店、工場30カ所、下請けや外注先200~250軒、それらを全部繋ぎました。これにより、今まで最適生産ロットという数字にしばられて数カ月分もの在庫を抱えていたものが、2週間分くらいの在庫にスリム化でき、経営の効率化をもたらしました。何よりも効果が高かったのは、コンピュータの何でも無い特徴「ポカミス避け」でした。また、特約店や外注先との結びつきは、新規事業にもネットワークとして活用できる効果がありました。
  2)機械による開発効率アップ
  CAD、CAMの領域です。昭和30年代後半にはかなりの営業マンがいましたが、ほとんどが大卒のセールスエンジニアです。つまり、お客と話している中でニーズを技術者の目でとらえて会社へ持ち帰り、その情報をもとに製品を作ってお届けすることができ、会社は10年で100倍に大きくなりました。ところがそのくらいの規模を経過すると小回りが利かなくなって、開発プロセスが滞りがちになりました。そこで、1度サンプルを作ったらそこで完了できるよう、それまでのプロセスをコンピュータ上で徹底的にシミュレーションするやり方にしました。これにより開発期間が3分の1に短縮できました。
  3)コンピュータに慣らせる
  エレクトロニクスの会社なのにコンピュータになじみがなかったらどうしようもない、と全員がパソコンにさわる環境を考え、当時4000人の社員に対して、パソコンを1,000台購入しました。それで色々とパソコンを使いこなしていくうちに、社内業務用のソフトウエアがいくつもできました。それを基にして他社が作ったパソコンにソフトウエアを積み込んで売る事業も興しました。

■IT化のベースにあった考えとは
  こうしてやった中で、根底にあった考え方は、まずPCを通さないと仕事ができない環境にしてしまうことです。データにさえなれば後は何とかなる。人間のポカミスも減り、生産効率も上がる。機械に任せられることは機械に任せ、人間はもうちょっと人間らしい仕事をさせたいと考えました。次に、1度入力したものをずっと使い続けようということです。工程計画、部品発注、出荷などそれぞれの現場ごとに同じことを入力していては必ず間違いが起こります。いったん受注で入力したデータを最後の売上、入金まで一連の流れの中で使っていけるデータの使い方がポイントです。
  そして、会社の仕事は頭の中で考える部分が多いのですが、機械向きにできるだけ単純化した仕事のやり方に変えていこうということです。自分のやり方で何がなんでも、ではなく、既製服に体を合わせるような物の考え方をしたほうがいいということです。ここでいう既製服とは、世の中の通り相場のソフトウエアややり方を、できるだけ使いこなそうという意味です。そうすれば、Windows2000が仮に2005になっても保証される。自我流にこだわっていたら、データも保証されないし、全て書き換えなくてはならない恐れもあります。
  このスタンダードなスタイルのポイントをいくつかあげましょう。ビジネスにおいて、伝票を動かさない限り物もお金も動かしてはいけませんね。これがIT時代になると、入力しないものは絶対に動かしてはいけないということになります。入力があって初めて物が出ていくというやり方です。また、A社の注文の「イ」はちょっと改造されていて本当は「ロ」のことだから、いつも「イ」の注文に実際には「ロ」を納品している、というような複雑なことは機械系には向きませんから、このような部分も取引先と話し合って改善していく必要があります。世の中の通り相場に合わせるため、方言とも言うべき、特殊な言語や、自分の会社だけが使うソフトも使いません。
  それから、望ましいこととして、ペーパーレスや会議をなくすこともあげられます。当社でもこれだけ情報投資したのだから、紙の消費量だけでも減らそう、意志の疎通ができるはずだから会議をやめよう、とやってみたのですが、なかなかうまくいきませんでした。しかし、経営者はその方向に努力すべきでしょう。
  IT投資は必ずペイすると信じることも大事です。私は、まだ会社がそう大きくなかった時代に膨大な投資を進めたわけですが、人間にはできない領域を機械に助けてもらえると信じて取り組みました。投資した分は必ず見合います。

■IT化は欠かせない経営資源、トップがその意識をしっかり持つ
  IT化に伴い、経営において取り組むべきこともあります。
例えば、短期経営の探索です。先月の売上がこう、今月の売上がこうだからといって、来月の売上もうこうなるとは決して言えません。来月確実に売り上げられる仕掛かり品が不足していたら、受注残の中から来月納期にしてもらうとか手を打たなくてはなりません。それはつまり手の中のデータを大事にするということです。
  また、これからも非常に重要な問題として、ファイヤーウォールがあります。直訳すると防火壁ですが、今コンピュータを使用している会社全てに関わる問題で、ハッカーという悪意の誰かが侵入して会社のデータを全部眺めることへの対処です。これはいくら侵入防止しても無理です。必ず会社の機密データというものは見られます。いちばんいいのは、機密データのない透明の経営をすることです。従業員に対しても社会にも株主にも透明性の高い経営をやっていくべきだと思います。
  トップがパソコンに触らず「ITがんばれ」といくら言っても部下はのってきません。時には部下にわからないようにゲームでもいいから、トップがパソコンをいじっている姿勢を見せることが大事なのです。しょせん、機械はさわらないと覚えません。パソコンを好きになるためにも指でぽつぽつの入力ではなく、両手で、アルファベット入力できるようにして、キーボードに対する恐怖心をなくしましょう。IT関連には特有の意味を持つ横文字が多いですが、その英単語の本来の意味を辞書で引くだけでもITには強くなります。
  最後に、インターネット領域のサーバー事業を行っているサンマイクロ社の経営者マクナリ氏の講演から、名言をご披露します。「IT化は避けられない。逆らうより波に乗れ。さもなくば死ぬぞ」。本当にその通りだと思います。IT技術というのは、ヒト、モノ、カネの経営資源に加えるものです。これを使いこなすことによって、経営の質を上げて新しい世紀を生き残っていこうということです。

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