事例本文(九州システムアカデミー)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:50 (株)九州システムアカデミー   事例発表日:平成12年10月17日
事業内容:ソフトハウス
売上高:不明 従業員数:76名 資本金:2億円 設立:1989年5月
キーワード ソフトハウス、

IT化の提言
情報技術の活用と企業経営
  

(株)九州システム・アカデミー URL:http://www.ksa-net.co.jp/

(株)九州システム・アカデミー コンサルタント 櫨川敏則氏
プロフィール

 九州大学卒業後、日本IBM入社。技術部門のシステム化、上流工程の業務分析やシステム構築などを手がける。昭和53年、中小企業診断士資格取得。平成12年より現職を兼任。

~自社の強み弱みを分析し、競争力の部分を磨いてIT戦略に活かす~

 九州システム・アカデミーは、九州地区のシステム開発で多数の実績を有する。東京地区に比べて遅れがちな地方のIT化、だが、着実に進めて成功している企業もある。その事例をご紹介いただいた。


■大分県IT化モデル事業、製造業の事例
  私は九州一円で製造業のお客様を中心に担当しています。中堅・中小企業が多いです。
今日はIT化の具体的な事例として、大分県の地域情報経済センターで行われたモデル事業をご紹介します。大分県においてもパソコン等のコンピュータを導入している会社が70%くらいありますが、本当にうまく使いこなしている企業が少ないという状況にあり、何とか活用していけるよう企画されたものです。大分県下の製造業1社、流通業1社を選び、そのうち、私は製造業の企業を担当しました。
  その企業は建築鉄骨業で、売上高25億円くらいの規模です。大手ゼネコンから受注し、見積をとって図面をもらい解析、手配、材料加工、と個別受注生産の体制で、安定した受注が確保されているのですが、利益率が非常に把握しにくい業種でもあります。そこに月2回程度訪問し、半年ほどかけて、お客様の経営分析、業務分析、それをバックアップするための情報システム計画、具体的なコンピュータシステムの発注、受注のお手伝い等、いわゆる情報部門の肩代わりをするような仕事を行いました。
  まずいちばん念頭においたのは、コンピュータは計算機の延長ではなく、経営の道具だということです。この認識が非常に重要で、多くのお客様は事務処理などをいかに省力化するかというところに観点をおきがちですが、それでは会社全体として仕事が繋がりません。この会社でも、個別受注でいったん受注したものをそこから資材手配、加工、外注と色々おこなって、1本の線で見えることはほとんどありませんでした。お客様から「納期はどうなっているんだ」と聞かれてもすぐ答えられないし、全体として売上と経費はわかっても、案件ごとにどれくらい儲かったかがわからないということで、ほとんど経営の情報がなかったのが現状でした。

■コンピュータという道具と、トップの意志が不可欠
  そこへ、コンピュータは道具という認識で、それを使って業務系、経営改善のための分析と実施を行いました。経営分析はもちろんですが、それを基に競合他社と比較して自社の強み弱みを分析し、なおかつその業界がどのように変わっていくかという分析も行いました。それがSWOT(strong weakness opportunity thread)で、業界あるいは企業が3年後、5年後に迎える環境変化をふまえてどのような部分に力点を置くべきかということを明確にし、それを実現するためにITをどのように使っていくかという目標をはっきりさせることです。
  そのためには、現場から上がってきた改善要求だけではなかなか実現できません。やはりトップの意志が重要です。競争力を高めるために業務をこう変える、コンピュータをこう活用するということを決定していただかないと、革新的な情報の使い方はできません。トップダウンとボトムアップの融合といいましょうか。現状業務の流れの分析や改善点の抽出は現場の方々から出てきますが、最終的には企業としての競争力を高めていくのはトップデシジョンが不可欠なのです。
  それから、具体的には参画するメンバーは設計から営業、資材、経理、原価計算などそれぞれの部門の方に入ってもらって、課題を全部出してもらいます。これをやってみると、意外と、営業さんは製造現場を知らない、逆に製造現場の方は営業の状況がわかっていない、経理は業務とどう繋がっているのかわからない、などのことが明らかになります。つまりみんなばらばらに仕事をしているということがわかるのです。これに対してセッション、会議形式を取り入れますと、トップがどういう方向に向かっているかを認識すると同時に、各部門がやっている仕事を理解し、自分のやった仕事が次の工程にどのような影響を与えているかもよくわかります。

■自社の競争力はどこに?
  もうひとつ大事なことは、取り組みの方法です。皆さん課題を持っていて、ITが役立ちそうだとわかっているのに、どういうふうに使えるかという方法論や具体的な案を持っていないケースがよくあります。失礼ながら大企業でもなかなか全体を見渡しながら情報の知識を持って進めていかれている方はいないのが現状です。そこで、外部の人間が入って、客観的な目つきで分析するのが有効な方法論だと思います。
  仕事のやり方は会社ごとに違います。もっといえば社員の数だけ仕事のやり方があるのでばらばらです。しかし、個人のノウハウでしか仕事が回らないというのではなく、できるだけ業界標準にあてはめていくことがポイントです。最近グローバルスタンダードと言われます。そのまま当てはめることはまだ無理があるかもしれませんが、ひとつの雛形として使うことはできるのではないかと思います。
  進め方としては、具体的な業種ごとのやり方と、自社の仕事のやり方を比べてみて、その差が優位性をもたらすものなのかという分析をします。薬品業界を例にしますと、生産管理の仕組みなどはわりと各社が情報を公開し共有しながら使えるところは使ってコストダウンをしていきましょう、という考え方です。では、そこで各企業の差を出すかというと、新製品の開発競争、中身の部分なのです。このようにできるだけ標準的なやり方でできるところはそれでやり、自分の会社の競争力はどこかを見極めてそれに対しては徹底して独自のやり方を追求していくことが必要だといえます。

■標準化できる部分、独自のやり方を追求する部分の見極めを
  各部門の話を聞いていき、例えばここの計算が大変だとか集計がめんどうだということまで、ひとつひとつをシステムに反映させるとなると、これは膨大なシステム機能になるわけです。ですから、営業は営業で、製造は製造で、やっている機能の1個1個についてそれが会社としてどう役だっているのか、付加価値をもたらしているのか、という視点で見直す必要があります。と同時に、今までの経験や先輩から教えられたやり方でやっているだけの独自のやり方なのかも見極め、会社として必要な機能は何かということを決めていくのです。最近話題のERPやサプライチェーンマネジメントにしても、企業全体の資源を有効に活用するためにその最適化を図るということがポイントで、会社として経営戦略のためにどのような機能が必要かを把握することが大事です。
  ERPを導入されているお客様の事例では、宮崎の延岡地区の企業ですが、化学品など各事業部ごとに19ほどあった工場をかなり統合化し、複数の工場でできるだけ機能を標準化し共通化した機能だけをシステム管理しています。そして、競争力を生み出している機能の部分をシステム化すると同時に、そこからはみ出した部分、つまりその事業部や部門が独自でやっているところに関しては、システムの要件を決める部門を設けてそこで要求を全社として取り込むかどうかの判定をします。それでOKになればもちろん全社の予算で開発しますが、事業部独自の要求の場合はその事業部が予算を持って行う、という仕組みになっています。どうぞ参考にしてください。

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