佐倉きのこ園事例コメント

IT Coordinators Association
事例コメント
(有)佐倉きのこ園 作成者:(株)コア
     神山 恵美子
ITC認定番号:0019492002A
作成年月日:2002年1月29日

佐倉きのこ園は資本金300万円、従業員16人の規模ではあるが、ITを有効に活用し、大きなマーケットを開拓している。そのひとつが、大手企業がEC(注1)のBtoC(注2)市場を撤退する中で、楽天市場(注3)に参入し、これを顧客層を広げるマーケットと位置付け、十分な成功を収めている。
平成6年に事業をスタートしてから一貫して、安定した生産と価格そして品位をもって、中国産等の安い輸入しいたけとの差別化をはかり、地元のホテルや学校などの需要の安定した顧客をつかみつつ、一方で一般のファンを増やしていくという方針をとり営業をしきた。そのような方向性の中で、本ケースのITを含めた積極的な取り組みは、農業関係者だけではなく多くの中小企業の参考になると考えられる。佐倉きのこ園のIT化とECを中心としたそれを取り巻く動向について以下に述べる。

<直販/通販事務効率化のためのIT導入>
事業スタートしてほぼ1年後の平成7年(1995年)6月に、産地直送/通信販売業務の効率化を目的に、ヤマトシステム開発の「産直くん」を導入した。業務にあったパッケージソフトを導入したことにより、当初の目的である業務の効率化以外に、タイミングの良いダイレクトメールをはじめとした今まで以上の徹底した顧客サービスを行い、顧客を増やしていった。

<観光農園としての多角経営>
顧客の声を積極的にとりいれ、販売業務以外にも観光農園(注4)としての多角経営を展開していった。
平成11年の農林水産総合技術センターのレポートによると、余暇目的で農村を訪れる都市住民は増加し、佐倉きのこ園同様、多くの農家で観光農園や農産物直売活動等の「都市と農村の交流活動」への取り組みが盛んになっている。
観光農園は1960年代後半から盛んに取り組まれた「都市と農村の交流活動」の一つであり、近年も観光農園部門を経営に取り入れる農家は増加している。

<楽天市場への出店>
佐倉きのこ園では2000年3月に、大手インターネットショッピングサイト楽天市場に出店した。佐倉きのこ園のような個人店舗でインターネットショッピングを展開する場合、自社で独自に展開するケースと楽天のようなショッピングモール(注5)に加盟するケースと2つの方法がある。出店料や自由度の制限があっても、楽天という知名度と、利用する顧客の安心感、そしてキャンペーンなどのマーケティング力を考えると、佐倉きのこ園のような規模の事業が有名モールに出展したのは懸命な判断であったといえる。

<クリックアンドモルタルでの成功例>
また佐倉きのこ園の場合は、ECサイト上での売上のみに着目しているのではなく、相乗的なビジネスの広がりとしての価値を見出しているところが特筆すべき点であると思われる。
サイトだけで収益をあげようとするよりも、先ずは一連のPR活動、顧客サービスや付加価値の一部といった位置付けで、あまり大きな期待をせずにECに挑戦していけるというのが、「クリックアンドモルタル(注6)」といわれる、実店舗をもった企業がその付加価値としてECに進出していくケースの成功例のひとつである。
2001年はアメリカをはじめ世界的に「ネットバブル(注7)崩壊」と言われ、日本でも大手のショッピングモールや企業がEC市場から撤退している。そういった中、実店舗をもつ伝統的な企業によるネット利用である「クリックアンドモルタル」と言われるビジネスモデルは現在、インターネットでの成功例として脚光を浴びており、日本でも家電やコンピュータ販売店のサイトや、衣料品、書籍やCD、航空券などのチケット販売などがあげられる。またネット販売による効果だけではなく、特別な割引クーポンなどを発行して、インターネットでの閲覧者を、実際の店舗への集客に結びつけようという戦略に集約している企業も多く見られる。


日経ネットビジネス誌の第12回インターネット・アクティブ・ユーザ調査(2001年5月22日~6月4日実施)で、EC経験者は10人に7人という結果が出た。インターネットを利用し始めて8ヶ月以内の初心者ユーザだけを見ても、30%→39.1%→45%と着実に伸びていて、つまりオンラインショッピングを目的にインターネットを使い始めたというユーザが増えているとも言える。また、EC経験率は男性よりも女性が上回るという結果がでている。
また、ECで売れる商品は一般的に、1)パソコン関連製品 2)書籍や音楽CD 3)航空券をはじめとするチケットやホテルなどの宿泊予約 といわれがちだが、実際は地方でしか手に入らないお酒や特産品なども注目が集まってきている。日経の調査によると女性ユーザーでは食料品が1位となっている。

今後、光ファイバー(注8)やxDSL(注9)の普及に伴い、家庭でもブロードバンド(注10)と呼ばれる高速で常時接続のインターネット環境が増えていくと、TVやカタログ販売と同じような気楽さでECに参加するユーザ、特に主婦層が増えていくことが予想される。
以上のことを踏まえても、今後佐倉きのこ園のような食品関係でもビジネスチャンスが広がる可能性は大いにある。その場合は、ユーザの不安や不満をいかに取り除き、一人でも多くのファンを獲得していくかが成功の鍵になると考えられる。

小職も実際に楽天で佐倉きのこ園の商品を購入をしてみた。もちろんクレジット決済である。電子メールで通知があった日に商品は届き、期待以上にきれいで肉厚のしいたけのファンになってしまった。


参考したサイト
ヤマトシステム開発 産直くん
http://www.nekonet.co.jp/lineup/pi_01.htm
観光農園経営の現状と課題
http://www.wakayama.go.jp/prefg/070100/070101/seika/nou-h11/2-1.htm
楽天市場
http://www.rakuten.co.jp/
日経ネットビジネス「第12回インターネット・アクティブ・ユーザー調査」
http://nnb.nikkeibp.co.jp/nnb/200107/f_nmmq12.html



*佐倉きのこ園のビジネスビジョン




(日経ネットビジネス誌第12回インターネット・アクティブ・ユーザ調査より

* オンラインショッピングの意識と経験


* 購入品目



* 男女別EC経験者



注1:ECElectronic Commerce
電子商取引。インターネット上のWWWやパソコン通信を利用した通信販売や、、ICカードなどを使った電子財布によって決済行為を行うもの、また電子決済や商品の受渡しまでも含めて全てをオンラインで実施するものまでを含む。

注2:BtoCBusiness to Consumer
企業-個人間取引。企業と一般消費者、つまり業者が個人消費者に販売行為等をおこなうこと。

注3:楽天市場
日本国内の個人向けEC市場をここまで成長させてきた、国内最大のオンラインショッピングモール。運営はインターネットベンチャーの楽天株式会社。出店費用月額5万円からという低価格で、19973月のオープン依頼数多くのショップを集めて急成長し、20004月には店頭市場に株式を公開。20017月現在、契約企業は7000社を突破した。

注4:観光農園
農産物生産農家が、観光客やオーナー制度会員などに自家農産物のもぎ採りや直売などを提供するために整備した農園(山崎光博「観光農園」長谷政弘編著『観光学辞典』、同文館、1997年、p.85

注5:ショッピングモール
オンラインショッピングができるネット上の店舗を、百貨店や商店街のように一つに集めた場所。

注6:クリックアンドモルタル
従来のチャネル(実店舗)と平行して、インターネットを通して、ビジネスを行う企業のおよび、そのビジネスモデル。

注7:ネットバブル
インターネット関連の株は、見込みだけで異常な値上がりを見せていることも多く、これをネットバブルとよんでいる。

注8:光ファイバー
もともとは光伝送用の線材のことだが、高速通信のインフラとしての意味。現在は数10Mbps~数100Mbpsの伝送速度を持つが、最近ではGbitクラスの転送技術も開発されている。

注9:xDSL(x Digital Subscriber Line
既存の電話回線の電話局側と加入者側に対応装置を設置するだけで、デジタル回線並みの高速回線を実現できる。
代表的なのは、下り方向の転送速度を高速化したADSLasymmetric DSL

注10:ブロードバンド(Broadband
DSLやケーブルTVによるインターネット接続などを用いた、高速なインターネット接続サービスのこと。

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