ヤマナカゴーキン事例コメント

IT Coordinators Association
事例コメント
(株)ヤマナカゴーキン 作成者:NTTデータ先端技術(株)
     村上 憲也
ITC認定番号:0013562001C
作成年月日:2002年1月29日

金型業界は世界的な同時不況のもと、製造業全般に大きな影響を与えており、韓国企業に押され気味である。経済産業省が発表している過去12年間の統計情報(参考文献:金型業界統計)からも分かるように、特に金型の単価が減少しており、生産高が向上しても利益が上がらないというジレンマがある。
 東南アジア諸国が急速に実力をつけ始め、自動車、パソコンといった世界のビッグビジネスは生産基地をこれら諸国にシフトしている。我が国の大企業も同じように生産のフィールドを今まで以上に移し始めている。労働賃金の低い東南アジア諸国での生産が主流になりつつあり、日本の得意産業と云われている金型製造業界でさえ、国内の生産技術の空洞化が始まっている。製造工程の出発原点である金型製造に十分な技術力を蓄えていることはある種の強みではあるが、その後の製造生産工程で低コスト化が進み、最終製品が低価格になれば、自ずと金型価格へその影響が及ぶ。その結果、金型製造までもが海外での生産に移行してしまう結果となる。日本の中部地区のように金型生産の国内出荷額が日本一であっても、価格の低下、受注の減少を止めることは出来ない。
 このような状況を打破するために、金型工業会では、グローバル化やネットワーク化を進めている。日本金型工業会西部支部のように新しいプロジェクトを起こして元気を出そうとしている地域もある。
また新しい生産拠点を海外に求めた企業も出始めている。

このような厳しい経営環境の中で、ヤマナカゴーキン(株)では、社内のIT化を進めることにより、生産効率を高め、時間的ゆとりを見出すことにした。このゆとりをもって金型に付加価値を付け、競争力のある製品を開発することを模索している。
 ヤマナカゴーキンにおける問題点は、以下の2点であった。
(1)受注金型の製造工程管理がリアルタイムに出来ない。(基幹業務系の問題点)
(2)受注した試作金型の開発は経験と勘に頼っていたため、駄目なら再作するという繰り返しでリードタイムが大きかった。(技術系の問題点)

金型製造業という業種ゆえに最下流の企業であり、顧客要望が厳しく、受注した製品開発のリードタイムの短縮と高品質化、がヤマナカゴーキンの企業存続の命題であった。IT化を進めるに当たり、基幹系業務としての営業、受注、発注までの管理業務をIT化の対象とした。

 ヤマナカゴーキンでは、第1の問題解決の為に、製品にはバーコードを付与し管理することとした。これにより、製品の開発工程がオンラインで管理可能となり、どの製品がどの製造工程にあるかが容易に把握出来るようになって、お客様対応がスムーズに進むようになった。またリードタイムが70~80%削減出来た。
 第2の問題解決の為に、CAE(注1)を導入した。お客様要望に基づく試作テストプレスを行うなど、少量多品種の商品をお客様要望に基づいて個別に開発・販売してきた。従来は社員の経験と勘を頼りに試作品を作り、試行錯誤を繰り返していた。CAEの導入により、試作開始前に、事前に不具合が予測でき、無駄な試作を繰り返す必要が無くなったことから、開発コストが削減でき、開発時間が短縮できた。


 金型製造業というお客様要望の厳しい、最下流の業界でありながら、お客様要望に答えつつ、コストの削減と開発リードタイムの削減を図り、自社の強みを伸ばす努力をしている。お客様要望に答えるために、企業自ら情報発信することが取引の拡大につながること、IT化を進め適切なパッケージを導入することにより、情報管理の徹底と設計・開発の効率化につながり、コスト削減が実現できることを示した。製造業界における長年の慣習である、設計開発工程におけるKKD(経験・勘・度胸)を廃し、CAD(注2)、CAM(注3)を導入した。その結果、原価が低減し、開発リードタイムが削減されて、高品質の製品を実現することができることを実証した。

 今後は、ITを道具として捉え、不良率の削減原価の低減を達成するための目標管理手法の導入を検討中であり、設計データや作業データのディジタル化を進める予定である。また付加価値創造のための時間の確保が出来る環境作りを進めている。
 ITの活用が効率化を生み、社員へのゆとりとなれば、このゆとりが付加価値創造の意欲をかきたてるために利用され、それが実現されるとすれば、真のIT化の効果であり、究極の成果であると考えられる。


参考文献
(1)金型業界統計

(2)国際金型協会(ISTMA)各国業況報告
       http://www.mold-if.com/close-up/istma-00.html


(3)日本の金型工業会は、地区ごとに支部(東部支部、中部支部、西部支部)設置されており、各支部や所属企業の活動に関しては、以下のURLを参照してください。

   日本金型工業会 西部支部  http://www.moldassociation.com/
   日本金型工業会 中部支部  http://www.cosmonet.co.jp/~eagle/

   日本金型工業会 東部支部  http://www.east.jdmia.or.jp/

(4)金型業界に関して多くの情報を発信している双方向情報サイト。経済産業省から発表された統計情報などもここから入手できます。無料の個人会員登録もあります。
    金型情報Factory       http://www.mold-if.com/






経済産業省(旧:通産省)から提供されている機械統計年報・機械統計月報を掲示しています
































注1:CAE(Computer Aided Engineering
 コンピューターを使って、開発工程の管理やデータの整理、構造の解析など製品開発に必要な業務をコンピューターで実現することをいう。顧客情報の管理や情報共有など、企業の活動助けるツール類も含めていう場合もある。使用するツールの中にはCADツールも含まれる。

注2:CAD(Computer Aided Design
 コンピューターを使って、機械設計やLSI設計、プラント設計などを行う事であり、設計結果のデータを他のCADソフトによって読み込み、次の工程の設計に使う事ができる。最近では、X軸、Y軸を使って平面データを扱う2次元CADに加えて、縦軸(Z軸)を併せて使う3次元CADが使われ出している。3次元CADでは、設計物の立体視や回転のシミュレーションが出来ることから、モックアップを開発・試作して形状を確認するという作業が不用になり、製品の開発期間の短縮に大きく寄与している。

注3:CAM(Computer Aided Manufacturing
 コンピューターを使って機械製作を行うもので、単純なものは数値制御のコンピューターによる製作である。細かい軸合わせや、厚さの調整など、自動的に機械が作業を進める。一部CADデータを使って、それに従って製作を進めることもあるが、メーカの異なるCADツールを使う場合、CADによる設計データを読み込む事が出来ない場合があり、変換が必要になる。このような事が起こらないようにデータフォーマットの標準化が進められている。

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