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IT Coordinators Association |
(株)カヤバ |
作成者:(株)事業開発推進機構
土肥 建夫
ITC認定番号:0009732001C |
作成年月日:2002年8月1日 |
1.業界概況と同社の特徴
(1)業界概況
① 系列・階層化した業界
給油所は、系列・階層化が非常に進んだ石油業界に属する。石油精製・元売り企業を頂点に、系列特約店(→副特約店)→個別給油所という業界構造が形成されている。
給油所は、一般消費者と直面する業界の基盤を構成している。 (図表1.ガソリンの流通経路)
② 規制緩和の進展と業界再編の動き
石油業界は、近時規制緩和の強い影響を受けている。昭和40年代後半のオイル・ショックや湾岸戦争もあって、従前、石油の安定供給に主眼が置かれていた。
だが近年では、慢性的な供給過剰や業界全体・給油所に係る規制緩和に伴って、業界再編が進んでいる。
③ 価格を中心とした過当競争
規制緩和や業界再編に伴い、競争が一層熾烈化した。日本の給油所数は6万軒弱と、人口対比で欧米諸国の倍から3倍と格段に多い。
給油所の取扱商品や販売施設に関する規制が緩和されたとは言え、基幹商品はガソリンで、商品面での差別化は難しい。結果、価格を中心にした過当競争が熾烈化する。
給油所数ではあまり変化が見られないが、体力の無い給油所が廃業を強いられたり、有力事業者の傘下に組み入れられたりしている。(図表2.給油所数の推移)
④ 系列制度の崩壊
規制緩和に伴う他系列への移籍の自由化等は、系列制度を崩壊させた。給油所は基本的に低収益のところが多い。
従前元売りは、販売量や給油所の損益分岐点を考慮して事後に仕入れ代金の一部を戻し入れる「事後調整値引き」で給油所を支援してきたが、
近時はそれだけの余力がなくなってきている。
転籍ルールによる縛りもなくなった個別給油所は、より有利な取引条件を求めて他系列に移籍したり、系列以外の業者や同系列業者から正規ルート以外で
供給される商品である、いわゆる"業転玉"を組み合わせた自主的な展開を指向したりせざるを得ない。系列制度の崩壊は、急速に進んでいる。
⑤ 収益多角化の指向と多彩な業態の誕生
長年の過当競争状況、元売りによる支援レベルの低下で、給油所は従前の元売り支援に依存したものとは異なる、新たな事業構造を模索することが必要となっている。
今回の事例のように自動車整備事業と組み合わせたり、コンビニ等を付帯したり、セルフ給油形式にしたりする例が、多くなってきている。
(2)同社の特徴
① 概 要
㈱カヤバの概要を見る。平成12年度の資本金は6,500万円、従業者数は30人、売上高は13億円で、新潟市善久に本社を置いている。
昭和38年10月の創業で、現在社長を務めている萱場和彰氏は創業者の実子で2代目である。
同社は昭和シェル石油の特約店である。今回取り上げる同社が基幹事業とする給油所の他、事業所や一般家庭を対象としたガソリン・灯油等の
石油製品の卸・小売、道路舗装用アスファルトの販売、情報化教育の4種の事業を展開している。
② 競争熾烈化に的確に対応し、経営多角化に注力
同社でも、規制緩和に伴う競争熾烈化の下、安売り販売で給油量を増やし、仕入れ条件の改善を図る試みも行った。だが経営者は、価格競争の限界や危うさを、
的確に見極めていた。
こうして給油所を軸に、急速に経営を多角化していく。まずは車検事業に取り組む。続いて給油や車検の際に得られる顧客情報を活用した、
きめ細やかなサービス・販促へと進んできた。
③ 「カーポータル~町の車の診療所~」をコンセプトに多彩な事業を統合
同社は従前からの給油事業、車検事業に加えて、最近では塗装事業、修理・整備事業、洗車事業、保険事業を多角的に展開している。
たとえ関連した事業領域とはいえ、これだけの事業を展開するとなると、事業間の馴染みが悪くなったりして、問題が起きることもある。
同社の場合、「カーポータル~町の車の診療所~」をコンセプトに掲げ、相互関係の整理・統合を図り、事業間の相乗効果の醸出に努めている。
やや言葉遊び的ではあるが、例えば車検は定期検診、塗装は整形外科、修理は美容整形とする等、社内外の誰もが個別事業をイメージし易くなっている。
(図表3.同社カーポータル事業の概要)
2.同社の情報化への取り組みに関して評価すべき点
(1)全社的経営の視点
① 顧客指向の時代潮流に適合した「人中心のサービス」への転換
長期化する不況、デフレの進行等に伴って、製造から販売までの多くの業界で、顧客指向が高まっている。
こうした中、同社でも、POSデータ・ミラーリングデータ・車検データ等の経営資源を評価・活用した。経営理念・戦略の主軸として「人中心のサービス」を掲げ、
従前、バラバラだったこれらのデータを、データベースによって統合、顧客指向を徹底しようとしている点は、大いに評価すべきである。
② 経営理念・戦略への位置付け
「情報化は情報化」という、部分的な対応がなされることが多い。結果、関連部門や担当以外は、情報化の意義・必要性等への理解を欠き、
全社的に充分な効果を上げることが出来ないことがある。
同社の場合、「人中心のサービス」という考え方を、多様な事業展開のテーマとして織り込んでいる。併せて給油事業の多角化を進める際にも、
「カーポータル~町の車の診療所~」という、誰でも理解し易いコンセプトを設定している。こうした経営理念・戦略への的確な位置付けや、
わかり易い形での全社への広報・浸透・社員の啓蒙が、好結果に繋がってきた。
③ マクロ的視点からの経費効果の検討
今回の事例中、経費に係る効果の検討・見直しが触れられている。具体的には、対象層の選定や目的が曖昧なままの販促費を縮小し、
優良顧客へのきめ細やかな対応へと切り替えたことである。
経費、特に販促費等、直接的な効果を定量的に測ることが難しい経費については、聖域化させ、縮小させられぬままにしてしまうことがある。
こうした領域に経営理念や戦略を軸に踏み込み、効率的な経費配分を実現している点は注目すべきである。
(2)積極的な情報収集、充分な検討・導入手続き
① 積極的な情報収集
同社ではカーケア・ナビゲーション・システムを、経済産業省の補助金を活用し、開発している。こうした取り組みは、同社の積極的な情報収集の成果と言える。
同社は、社長がITSSPの経営者交流会に参加している。補助金情報も、こうした機会に得られたものである。更に、ITコーディネータや専門コンサルタントからも、
様々な情報の収集に努めている。
② きちんとした要件定義と、背景にある「ソフトは有償」との考え方
中小企業が情報化に取り組む場合一般的に、自社の経営資源や成熟度等に照らして、どの位の水準のシステムが必要か、
入力するための仕組みや出力される画面・帳票等は、どのようなものが良いか等の要件定義は軽視されがちである。ところが同社の場合、
ITコーディネータ等を含めた社内外の人材を毎回8人位、80時間程度も使い、経営課題や保有する経営資源を的確に踏まえた要件定義を行っている。
これによって、使い易い見積書、精算書、受注確認書、入力画面等の実現を図っている。
厳しい経営環境下、情報化や経営全般の改善についても、より高次で専門的な知識・ノウハウが必要となる。こうした意味でも、ソフト部分にも充分な資金を投下し、
きちんと効果を測定しながら、高い投資対効果を得ていくという、同社の姿勢は評価し得る。
③ 専門コンサルタントによる充実した教育・研修
システムは人材あってこそ、充分に機能する。同社の場合、人材の重要性や教育・研修の必要性を強く意識している。
人材研修のため、自社の経営課題・システムに合った専門コンサルタントを参画させている。コンサルタント等を活用して、
顧客満足向上のための充実した研修が行われている。
(3)経営者の主体的・積極的な参加
① プロジェクト・オーナーとしての経営者の関与
経営者自らがプロジェクト・オーナーとして積極的に関わって、経営理念・戦略を踏まえた取り組みとしての推進に努めている。
② 専従担当者の存在
経営者だけでなく、専従の担当者の存在も重要である。専従担当者が専門的立場から関わると同時に、経営者が積極的に参画し全社的な見地に配慮することが、
プロジェクト推進上効果的である。
3.同社の課題
(1)全社的経営戦略再構築による、副次的事業領域との相乗効果醸出
同社は事例で紹介されている給油から派生した自動車関連の事業の範囲内では、「カーポータル~町の車の診療所~」というコンセプトの下、
巧みな経営が推進出来ている。ところが同社はこれ以外にも、石油製品の卸・小売、道路舗装用アスファルトの販売、情報化教育等の事業領域を要している。
同社が重要視している顧客指向を徹底すれば、これらの領域でも競争優位を確保するような経営が出来ると思われる。だが、円滑な推進のためには、
これら副次的事業領域までを包含した、全社的な経営戦略の再構築が期待される。そうした戦略の下、最適な経営資源の投入や事業展開があってこそ、
各領域・部門間での相乗効果の醸出・最大化が実現するものと思われる。
(2)新たな経営戦略に合わせた情報化戦略の再構築
(1)のような全社的な経営戦略の再構築が行われた段階で、これを踏まえて情報化戦略も見直し・再構築を行っていくことが期待される。
ポイントとなるのは、カーポータルとそれ以外の事業領域とをどのように連携し、全社的な相乗効果を生み出していくかということと考える。
(3)継続的な環境変化の展望と主体的な対応
同社の成功の大きな要因は、給油事業や車検事業に係る規制緩和という大きな事業環境の変化を早めに睨み、的確な対応を行ったということである。
最近では、事業環境が変化する速度はこれまでにも増して著しく、規制緩和も一層進みつつある。こうした状況に鑑み、事業環境の変化を巧みに見極め、
給油事業の多角化を急いだように、今後についても的確な環境分析と主体的な対応を心掛けていくことが望まれている。
参考文献・ホームページ
日本エネルギー研究所ホームページ
http://www.eneken.ieej.or.jp/
カヤバ(株)ホームページ
http://www.kayaba.co.jp/
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