事例本文

出典:財団法人ひょうご中小企業活性化センター
経営改革・IT化事例(発表済事例)
事例企業 伊賀産業株式会社(Z001) 事例発表日 平成15年3月
事業内容 高圧ガス類製造、販売
売上高 従業員数 40名 資本金 設立
キーワード 製造業、高圧ガス類製造販売、ITリテラシ向上


IT化では私が先頭に立ちました。
率先垂範はビジネスの鉄則ですから。


LSIや液晶ディスプレイの製造に欠かせない高圧ガスを大手電機メーカーの工場に供給する伊賀産業。 強力なリーダーシップで40名の従業員を牽引する松岡社長は、社内の誰よりもITに詳しい。 社内のIT化を先頭きって推し進め、経営の効率化を実現している。




伊賀産業株式会社 松岡 稔さん(60歳)

 各種高圧ガスの製造・販売、各種家電製品、住宅設備機器据付工事などを手がけるガス総合サービス業・伊賀産業の代表取締役社長として40名の従業員を率いる。 パソコン歴は15年。率先垂範がモットー。

従業員全員に1台ずつパソコンが普及

 伊賀産業は、大手電機メーカーの半導体工場や液晶工場に酸素・窒素・炭酸ガスなどの高圧ガスを供給している会社。 工場に送られた高圧ガスは、LSIや液晶ディスプレイの製造に用いられる。
 「得意先である半導体工場や液晶工場には当社の自前のプラントがあり、そこから工場内に高圧ガスを供給しています。 高圧ガスの販売会社は全国に多数ありますが、こうしたオンサイトのサービスを提供しているのは、当社だけです」
 高圧ガスは、「高圧ガス取締法」で取り扱いが厳しく規制されている。専門知識を持った有資格者でないと、取り扱うことはできない。 松岡社長は、現場で作業にあたるスタッフ全員にこの「高圧ガス取扱」のライセンスを取得させ、安全管理を徹底している。 取得にともなう費用は、会社が全額負担した。人材育成には、ことのほか熱心だ。
 「オンサイトのサービスを提供できるのは、こうした技術の裏付けがあったからにほかなりません」
 また松岡社長は、人材育成に力を入れる一方で社内のIT化を強力に推進。業務効率化で大きな成果をあげている。 現在パソコンは、40名の従業員ほぼ全員に1台ずつ行き渡り、社内の連絡や業務通達には欠かさずメールが使われている。
 「当社では、毎年5月、各部署ごとに年間の数値目標を発表する『経営計画発表会』を行っています。 発表はすべて『Power Point』。会議の席でもパソコンが欠かせません」
 姫路にある本社を訪ねると、従業員のデスクにはところ狭しとパソコンがならぶ。 いまやパソコンのひとつも使いこなせないようでは、仕事にならないというほどの徹底ぶりなのだ。

パソコンをツールとして社内業務を標準化

 高圧ガスという危険物を取り扱う企業には、公共の安全確保という重い責任が課されている。 伊賀産業も例外ではない。万が一にも公共の安全を損ねるようでは、企業としての社会的責任を果たすことはできない。
 そこで松岡社長は、ISO(国際標準化機構)の認証取得をめざして社内業務の標準化を推し進め、安全管理の一層のレベルアップに力を注いできた。 まず2000年4月には「ISO9002」の認証を取得。昨年4月には「ISO14000」の認証も取得。 さらに今年4月には「ISO9002」から「ISO9001」への更新を行った。
 ITは、こうした一連の認証取得にあたっても重要な役割を果たしている。
 「社内文書の整理、また各担当者、部門長、環境委員会や品質会議などさまざまな階層へのメールを使った業務通達、さらにはそのフィードバックなど、 パソコンを基幹ツールとして社内業務の流れを再構築しました。また今は技術が発達して、メールを誰がいつ見たかまでチェックできます。 もし通達に対するレスポンスが遅かったり、問題意識のない返事が返ってくると、賞与の査定にも影響します」

 なにごとも、徹底的にやるのが松岡社長の主義だ。
 「ISOのお墨付きを得たというだけで、それが100%の安全を保証するものではありません。 しかし業務の標準化にあたっては、現行の業務内容を徹底的に見直し、安全上問題がないかを洗い出した上で、不測の事態を防ぐ業務改善を主体的に行いました。 決して出来合いの基準を取り入れただけの業務改革ではありません」
 このようにITをさまざまな業務に活用する松岡社長だが、ここにいたるまでには時間的にも経済的にも大きな投資が必要だったと振り返る。
 「IT化の前提として一人に1台ずつ端末を用意しなければいけないし、ITリテラシーを磨く社内教育も必要です。経営的には大きな負担でした」
 また社内のIT化にあたっては、まず自らが独学でパソコンをマスター。従業員にお手本を示してきた。 それがIT化を成功させる上でとても重要ということと松岡社長はいう。
 「最初は私が責任者を教え、責任者がさらにそれを部下に伝えるといったやり方で全社に周知徹底させていきました。 上司は部下の仕事をある程度理解した上でマネジメントしないと部下は決してついてきません。それが私の経営者としての持論なんです」

参考書の助けも借りずまったくの独学でマスター

 松岡社長とパソコンの出会いは平成元年。100万円の予算をはたいて購入したDOS/Vマシンが、記念すべき第1号パソコンだった。
 「これからの時代はコンピュータという認識があったことは確かなんですが、 もっと切実な理由としては次男坊が大学受験で家に帰ってもテレビを見ることもできないので、女房に直談判して買ってもらったんです(笑)」
 DOS/Vのコンピュータは、Windowsマシンと比べて操作も難しい。松岡社長は、参考書の助けも一切借りず、文字通り独学でこれをマスターした。
 「画面は文字が中心でしかもモノクロ。アイコンでカラフルなWindowsマシンとは比べようもないし、 アルファベットのコマンドをたくさんおぼえないと仕事をしてくれません。 これから比べれば、Windowsは、なんて使いやすいパソコンなんだろうとあらためて思います」
 ムダなお金もたくさん使ったという松岡社長だが、 2年後にはDOS/マシンで会社の商慣行にマッチしたオリジナルのフォームの納品伝票発行システムを作り上げるまでに上達した。
 「この伝票によって、単純な記載ミスが激減したんです」
 現在使われている納品伝票も、この時に松岡社長が自作した伝票の書式がベースになっている。
 「また、本来ならトップシークレットのはずの大手電機メーカーの工場管理システムの仕様書を特別に許可を得て見せてもらったこともあります。 これを見ていずれ中堅中小企業においてもパソコンがなくてはならないツールになるという確信を得ることができました」
 こうした経験はかけがえのない財産を松岡社長の中に蓄えた。
 「失敗もたくさんしましたが、この時の経験があったからこそ、その後外部の業者にソフト開発を委託する時でも、 具体的にこちらの要望や条件を明確にした上で的確な発注ができたと思います」

 まず自らが体験してみること―。それがビジネスの鉄則と松岡社長はいう。



【DOS/V(どすぶい)】
DOSはDiskOperatingSystemの略。一般的には米・マイクロソフトのMS-DOSの略称として使われる。 DOS/VはこのMS-DOS系のOSで、日本語を表示することができる。
【コマンド(こまんど)】
使っている人がコンピュータに与える命令のこと。今のパソコンでは、プルダウンメニューなどに含まれている。
【プルダウンメニュー(ぷるだうんめにゅー)】
メニュー表示の形式。メニューのタイトルでマウスボタンを押すと、メニュー項目が下方に開いて表示される。

<出典>
財団法人ひょうご中小企業活性化センター
2003年3月発行 IT活用奮闘記(ITなんてこわくない)
筆者:六田 伸彦氏(ろくだ のぶひこ)
 (株)ジェイ・シー・エヌ 代表取締役
 ITコーディネータ(0006652001C)・ITCA公認インストラクター、
 ITSSPアドバイザー、中小企業事業団登録IT推進アドバイザー

本事例のお問合せ先:
財団法人ひょうご中小企業活性化センター
産業情報部 情報推進課 八木課長様(078-291-8503)

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