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出典:財団法人ひょうご中小企業活性化センター
経営改革・IT化事例(発表済事例)
事例企業 木澤鉄工所株式会社(Z008) 事例発表日 平成15年3月
事業内容 鉄工所
売上高 従業員数 10名 資本金 設立 1971年(創業)
キーワード 鉄工所、ITリテラシ向上


時代に取り残されないために、
3次元CADの勉強を始めました。


木澤鉄工所は昭和46年の創業。プラント設備や立体駐車場など多種多様な製品を製造する。 社長の木澤さんは、10年前から鉄骨CADを仕事に導入。今年新たに3次元CADを購入し、勉強を始めたばかりだ。




木澤鉄工所株式会社 木澤 武さん(59歳)

昭和46年、27歳の時、自宅前庭につくった5坪ほどの小さな事務所で木澤鉄工所を創業。 30年あまりにわたって実績を積んできた。今も約10名の従業員の先頭に立って、陣頭指揮にあたる。

新しいWindowsパソコンと最新の3次元CADをこの春導入

 この不況下にあって、鉄工所はどこも難しい経営の舵取りを余儀なくされている。だがそんな中、木澤社長のところだけは、連日大忙し。 10名の従業員は、フル稼動の状態が続いている。
 「ウチは、私自身が真っ黒になりながら従業員といっしょになって働いていますからね。 価格競争力がある。だからヨソ様がヒマな時でも、ヒマにならない。自分の給料は自分で稼ぐというのが私の主義なんです」
 木澤社長は、一人で何役もこなしてしまう。経営者であり、営業であり、モノ作りの職人でもある。
 「図面もコンピュータを使って自分で描いています。何でもかんでも抱え込んでしまうから、体がいくらあっても足りやしない。 性分とはいえ、困ったもんですわ(笑)」
 この3月には、新しいWindowsパソコンと最新の3次元CAD「Cadraw」を揃えたばかりだ。
 「もっとも、勉強はこれから始めるんですけどね(笑)」
 せっかく導入した最新の3次元CAD。本来なら、インストラクターに来てもらって操作の方法をみっちり勉強したいところだが、 忙しすぎてそのための時間すらつくれないのが目下の悩みだ。
 「その代わり、従業員がいつでも自由に使えるようにはしてあるんです。 今まではCADを扱えるのが私だけだったんで、基本図面から詳細図を起こす時は全部私が一人でやらないといけなかった。 でもこれからは誰でもCADを操作できるようなスキル(技能)を持ってもらおうと思っているんです」
 従業員一人ひとりが図面起こしからモノ作りまで、すべて自分でお膳立てを整えられるような技能を持った会社になっていくことが、今の木澤社長の目標だ。 新しいWindowsパソコンと3次元CADは、そんな会社にしていくためになくてはならないツールなのだ。

最初のCADは15年前、1台がなんと550万円

 木澤社長は、多くの鉄工所がまだ情報化とは縁遠かった時代から、設計にコンピュータを使ってきた。 最初のCADを導入したのは昭和62年。今から15年も前のことだ。
 「ちょうどその頃、立体駐車場が当社の主力でしてね。 数えきれないほどの仕事をこなして経営的にずいぶんゆとりができたので、思いきって導入してみることにしたんです」
 最初に導入した鉄骨CADは、開発者の名前をとって『ヒロシくん』といった。
 「1台550万円もしました。CADを買うために、欲しかったクルマをあきらめたほどですよ(笑)。 今のパソコンのことを思えばとてつもない値段ですが、当時はまだコンピュータのことも分からなかったし、 開発した本人がわざわざウチの会社にまで足を運んで一生懸命説明してくれるんで、550万円出す気になったんです」
 だが、それからが木澤社長の悪戦苦闘の始まりだった。
 「2回ほどインストラクターの人に来てもらって操作の方法を習ったんですが、しばらくするとそのソフトメーカーが倒産しましてね。 教えてくれる人が突然いなくなってしまったんですから、使えるわけないじゃないですか(笑)」
 それからしばらく、『ヒロシくん』とMS‐DOSを搭載した最新のパソコンは、木澤さんの事務所の単なる"置き物"と化した。

「友だちネットワーク」でどうにか難関を突破

 だが、なにしろ550万円である。木澤さんは、一念発起して『ヒロシくん』をあらためて一から勉強し直そうと机に向かった。
 「私には実は"前科"がありましてね。初めて買ったパソコンを三日坊主で投げ出したことがあるんです。 女房の顔つきもだんだん厳しくなってくるわ(笑)、図面が必要な仕事も増えてくるわで、やむにやまれず再挑戦することにしたんです」
 木澤さんにとって、唯一の頼りは附属の取扱説明書だった。
 「でも書かれてある日本語がやたらと難しいんです。"コマンド"って何なんだ?兵隊?何でこんなところに兵隊がでてくるんだ?そんな調子ですよ(笑)」
 木澤さんは、友人・知人はもちろん、あらゆる人脈を頼って、聞きかじりでひとつひとつ操作をおぼえていった。
 「豊岡に同じ『ヒロシくん』を使っているエンジニアがいるっていうんで、電話をかけて何度か教えてもらったこともありますよ。 最初はその人も好意でアドバイスしてくれていたんですが、私の電話があんまり頻繁なものだからとうとう怒りだしてしまいましてね(笑)。 『なんで私があなたに教えなきゃいけないんだ』って、ずいぶんしかられました」
 すぐ近くの鉄工所の2代目社長がコンピュータに詳しいというので、さっそく教えてもらいに出かけたこともある。
 「自分より30歳も年下に、『すまん、ちょっと教えてくれよ』なんてお願いして教えてもらうんですから、情けない話ですよ(笑)。 でも、そうやって聞ける仲間が近くにいたっていうのは、今考えれば運がよかったのかも知れませんね」
 "電話作戦"と"友だちネットワーク"が功を奏し、木澤社長はどうにか『ヒロシくん』を仕事で使えるまでに上達した。

3次元CAD「Cadraw」、新しい挑戦がスタート

 やっとの思いでマスターした知識は、なかなか手放せない。木澤社長にとっては、『ヒロシくん』がそれにあたる。 15年前に比べると技術は格段に進歩した。性能や機能の面で『ヒロシくん』に優るCAD製品は、それこそ世の中には数えきれないほどあるにちがいない。 だが木澤社長はいまだに『ヒロシくん』と手を切れないままでいる。仕事で設計をする時は、もっぱらこの使い古した2次元CADが相棒だ。
 「最近は、発注先が基本図面をメールの添付ファイルで送ってくるのが当り前になりました。 CADの図面にはいろんなファイル形式があって、それを『ヒロシくん』で展開できるデータに変換するのに少し時間がかかります。 でもそれ以外は、特別不都合を感じることはありません。そりゃあ新しく入れた3次元CADの方がきっと便利に決まってます。 でも、どうしてもこっちを使ってしまうんですよね」
 『ヒロシくん』に対する愛着は人一倍強い。だが、いつまでもそうは言っていられない。木澤社長は「Cadraw」の勉強に本腰を入れはじめた。
 「また一から勉強のし直しですよ。 でも、長い時間がかかったものの『ヒロシくん』をなんとかモノにできたから、新しいソフトに挑戦する気が湧いてくるんだと思います。 もし『ヒロシくん』で挫折していたら、3次元CADを導入することもなかったでしょうね」
 木澤社長が投じた550万円と、マスターするまでに要した時間は、決してムダではなかったようだ。




【CAD(きゃど)】
Computer Aided Designの略。設計の作業を支援するコンピュータシステムのこと。 建築、電子回路、航空機、自動車など、さまざまな分野で応用されている。平面図を扱うものを2次元CAD、立体図を扱うものを3次元CADとよんでいる。
【Cadraw(きゃどろ)】
平面計画図、立面計画図、3Dパ-ス図を瞬時に自動作図できる3次元CAD。
【ファイル(ふぁいる)】
ひとかたまりのデータやプログラムのこと。データはすべてファイル単位でハードディスクやフロッピーディスクに保存され、管理される。 ファイルデータには文字データだけのテキストファイルと、それ以外のバイナリファイルがある。

<出典>
財団法人ひょうご中小企業活性化センター
2003年3月発行 IT活用奮闘記(ITなんてこわくない)
筆者:六田 伸彦氏(ろくだ のぶひこ)
 (株)ジェイ・シー・エヌ 代表取締役
 ITコーディネータ(0006652001C)・ITCA公認インストラクター、
 ITSSPアドバイザー、中小企業事業団登録IT推進アドバイザー

本事例のお問合せ先:
財団法人ひょうご中小企業活性化センター
産業情報部 情報推進課 八木課長様(078-291-8503)

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