事例本文

出典:財団法人ひょうご中小企業活性化センター
経営改革・IT化事例(発表済事例)
事例企業 株式会社キシモト(Z009) 事例発表日 平成15年3月
事業内容 フォトスタジオ、DPEショップ
売上高 従業員数 10名 資本金 設立 1971年(創業)
キーワード フォトスタジオ、DPEショップ、ITリテラシ向上


フルデジタルのハイテクスタジオ。
やっと思い描いたビジネスモデルができました。


いま岸本さんが、もっとも力を入れているのはフォトスタジオ「ユースマイル」のチェーン展開。 斬新なコンセプトと最新のITを駆使したサービスで人気急上昇。3月には6つ目の店ができた。岸本さんは早くから経営にコンピュータを導入。 ようやく思い描いたビジネスのカタチが整った。




株式会社キシモト 岸本 成司さん(47歳)

株式会社キシモトは、フォトスタジオ「ユースマイル」を6店舗、DPEショップを3店舗展開。 今後は「ユースマイル」を中心に、100店舗のチェーン展開をめざしている。

ビジネスモデル特許も取得、フォトスタジオの新しいカタチ

 フォトスタジオ「ユースマイル」のキャッチフレーズは、『衣裳のそろった写真館』。 祝着やベビードレスは、動物の着ぐるみや漫画のキャラクターウエアなど、ありとあらゆる衣裳がそろい、いちばん気に入ったものを着用しメイクまでしてくれる。 小さな子どもをもつお父さんやお母さんに大人気だ。
 だが「ユースマイル」がユニークなのは、それだけではない。 撮影から写真のセレクト、仕上がりまで、最新のITを駆使することでお客の満足度アップにつながる新サービスを提供しているのだ。
 「貸し衣裳を着せて撮影してくれる子ども向けの写真館やスタジオはたくさんあると思いますが、 フルデジタルでインターネットを駆使した新しいサービスを提供しているところは少ないんじゃないですか?  『新産業育成投資』の選考にも応募しましたし、ビジネスモデル特許取得の申請もしています」
 岸本さんは胸を張る。確かにここまでハイテク装備のフォトスタジオは、全国的にみても極めて少ない。「ユースマイル」独自のビジネスモデルなのだ。

ハイテク装備のフォトスタジオ、プリントまですべてデジタル

 「ユースマイル」には、ハイテクスタジオの名にふさわしい機材がズラリ勢ぞろいしている。
「まず撮影用のカメラはすべてデジタル。 撮影が終わると画像データはすぐにコンピュータに送られ、打ち合わせデスクに設置されたコンピュータの画面上に映し出されます。 コンピュータには写真の画像を大きくしたり、背景のデザインとの合成やレイアウトが自由自在にできる画像編集用のソフトウエアが組み込まれていて、 お客さまは店のスタッフと相談しながら気に入ったものをチョイス。写真が決まると台紙にトリミングしていく。 どこまで入れるか、実際の画面上で確認できるんです」
 今やデジカメはめずらしいものではないが、お客にとってみれば、いまスタジオ撮影されたばかりの写真がその場で見られ、 しかも何枚かの写真の中でいちばん気に入った写真だけをチョイスできるのは何よりも嬉しいサービスだ。
 「さらにお客さまが選んだ写真の画像データは、夜の間に光ケーブルやADSLの高速回線を通じて本部のコンピュータに送られます。 本部では専任のスタッフが画像処理用のソフトウエアを使って切り抜きや合成などの加工を行い、高性能のプリンタで印刷して各店へ配送。 お客さまへお渡しするという仕組みです」
 「ユースマイル」では写真撮影を注文したお客向けの特典として、画像を携帯電話やパソコンのメールに送れるサービスを無料で提供している。 名付けて「たのしメ~ル」。また「かわいい写真展」と題して、撮影した写真の画像をユースマイルのホームページ上に掲示できるサービスもある。 パソコンや携帯電話をもっているユーザーは、ホームページにアクセスすれば撮影した写真の画像をいつでも楽しめるというわけだ。
 岸本さんの夢は、この新業態店舗をチェーン店化し100店舗のチェーン店網を構築することだ。

試行錯誤の10年間、ようやくたどり着いたゴール

 まさにIT時代を先取りした「ユースマイル」。だがここにいたるまでには、さまざまな試行錯誤、紆余曲折があった。
 「最初はカメラの販売店だったんです。でもモノを売っているだけじゃつまらない、メーカーをめざそうというので現像の分野に進出。 1時間仕上げのDPEショップを始めたんです」
 そこからさらにスタジオへと進化したのは、今から10年前のことだ。
 「カメラやフィルムの販売から現像へと進んだら、今度は撮影となるんですが、ただ撮るだけでは差別化できない。 いっそのこと撮影に必要な衣裳、メーク、撮影をワンストップサービスで提供できるスタジオをめざそうというわけでできたのが『ユースマイル』なんです」
 92年オープンの「ユースマイル」1号店は、大きな成功をおさめた。チェーン店化の構想が持ち上がったがひとつ問題があった。 時代はまだアナログ。現像などに手間とコストがかかるためチェーン店化は難しかったのだ。そこで思いきってフルデジタル化へ移行を果たす。
 「思えばいろんな失敗がありました。例えば写真は1枚が4~5MBくらいのデータ量があるんです。 それをそのまま通信で送っていると時間がいくらあっても足りないので、送りやすいように1MB程度まで圧縮して送るんです。 以前はISDNの電話回線で送っていたんですが、送信に一晩中かかったりしていました。 すぐパンクするのは目に見えているので、急いで光ファイバーに切り替えたんです」
 岸本さんとコンピュータのつながりは長い。最初のコンピュータはまだフロッピーディスクが8インチの大きさの時代。以来独学でやってきた。
 

 「必ず会社の中に、一人か二人はコンピュータに詳しい専門家がいるものです。私の場合は、もっぱら彼らから。 今も社内には、イラストレータとかフォトショップに詳しくて、VBをかじっていてHTMLも書けるという専門家がいますよ。 私はいつも彼の後ろにいて、『これなんだ、これなんだ』としょっちゅう邪魔をしながら勉強しているんです。でもそれが手っ取り早い。 一人で勉強する10分の1の時間でマスターできますよ。

ITが可能にした新しいビジネスモデル

 長い間の試行錯誤を経て、岸本さんは独自のビジネスモデルを完成させた。それはまさにITがベース。 高性能のパソコンやデジタル技術の進歩がなければ、実現は難しかったにちがいない。

 「画像をホームページに表示したり、携帯電話のメールに送るには、画像データをいろんなファイルフォーマットに変換する必要があります。 特に携帯電話は、キャリア(通信事業者)によってファイルフォーマットが違う。でもそれをすべてコンピュータが全部自動的に処理してくれるんです。 ITがなければとうてい実現できなかったでしょうね」
 大きな投資もしただけに、これからしばらくは投資を回収する時期だ。
 「お陰で社内はいま、パソコンだらけですよ。1店舗に10台ずつあるとして6店舗だから60台。 さらに本部には40台くらいありますから、合計100台。もしコンピュータをやっていなかったら、もっと儲かってたかも知れませんね(笑)。 IT化するために働いているようなところがありますから」
 だがもし仮りにIT化を進めてなければ、独自のビジネスモデルも存在しなかった。それは確かだ。
 「今の段階ではこうしたサービスはあくまで付加価値のひとつ。あくまで本業は写真と考えています。 特に年輩の方などは、新しいサービスといってもピンとこない。 ただパソコンや携帯電話に親しんだ世代が増えた時、大きな差別化の要素になる―そう考えているんです」




【ADSL(えーでぃーえすえる)】
非対称デジタル加入者線。従来からある電話回線を利用するが、音声電話に使用しない高い周波数を利用することで、高速通信を可能にする技術。
【光ファイバー(ひかりふぁいばー)】
ガラス繊維でできたケーブルで、光通信のネットワークに用いられる。電話回線とくらべると、大量のデータを高速通信できる。
【イラストレータ】
米・アドビ社が開発販売しているグラフィックソフト。コンピュータ上で、絵やCG(コンピュータグラフィックス)を作成できる。
【フォトショップ】
米・アドビ社が開発販売しているフォト・レタッチソフト。写真の色調を変えたり、さまざまな効果をつけたり画像の加工に適している。

<出典>
財団法人ひょうご中小企業活性化センター
2003年3月発行 IT活用奮闘記(ITなんてこわくない)
筆者:六田 伸彦氏(ろくだ のぶひこ)
 (株)ジェイ・シー・エヌ 代表取締役
 ITコーディネータ(0006652001C)・ITCA公認インストラクター、
 ITSSPアドバイザー、中小企業事業団登録IT推進アドバイザー

本事例のお問合せ先:
財団法人ひょうご中小企業活性化センター
産業情報部 情報推進課 八木課長様(078-291-8503)

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