事例企業 |
有限会社ケアテック(Z010) |
事例発表日 |
平成15年3月 |
事業内容 |
訪問介護サービス |
売上高 |
- |
従業員数 |
50名(ヘルパー) |
資本金 |
- |
設立 |
2003年 |
キーワード |
訪問介護サービス、ITリテラシ向上 |

パソコンとの出会い。
それは人生を変える出会いでした。
かつての部下に、街で偶然再会したのがキッカケでパソコンにのめり込んだ前田さん。
今では「IT講習会」や民間のパソコン教室でインストラクターを務めるまでに。今年4月には独立して新会社を立ち上げ。社長業でもパソコンは手放せない。
有限会社ケアテック 前田 文男さん(63歳)
大手サッシメーカーに勤務。営業所長、関連会社社長などの要職を務め、平成10年に早期退職。
今年4月1日に、訪問介護サービスの有限会社ケアテックを設立。経営者として新しいスタートをきった。 |
老後にむけて準備万端、そんな時パソコンと出会った
前田さんにとって、パソコンは長い間待ち焦がれた恋人のような存在かもしれない。偶然がキッカケで出会い、たちまちその魅力の虜になった。
長いキャリアの中で、コンピュータとの出会いが一度もなかったわけではもちろんない。
営業所長時代には、社内の先陣をきってコンピュータ導入を決断したこともある。だがその頃と比べると飛躍的に技術は進歩し、性能は格段に向上している。
そのことを前田さんは知らないままでいた。
前田さんは平成10年、定年まで一年を残し長年勤めた大手サッシメーカーを辞めた。
早期退職で退職金の増額も受けられ、1年後には年金の支給も始まる。悠々自適の老後が待っている筈だった。
「家庭菜園と釣りと競馬。老後はこの3つに打ち込むつもりで、遠出のためのオートバイやわずかばかりですが畑も手にいれ、着々と準備も整えていたんです」
だがバイクも畑も、結果的にはムダになった。待ち焦がれた"恋人"が、目の前に現れたからだ。
「パソコンとの出会いは、全くの偶然。6年ほど前、街でバッタリかっての部下と再会したのがキッカケでした」
その日は休日。懐かしい顔のその部下は、片一方の手にいま買ってきたばかりのパソコンを重たそうにぶら下げていた。
「何ができるのか半信半疑でたずねてみると、なるほど便利そうだ。
思い立ったが吉日というわけで、さっそく同じ電器店に足を運び、まったく同じセットをその日のうちに予約してしまったんです(笑)」
独学の限界を感じ、意を決してパソコン教室へ
前田さんには、パソコンを使ってやりたいことがひとつだけあった。
この30年あまりの間、思いつくままに書きとめておいた膨大な量のメモを、すべてパソコンの中にしまい込んで管理したかったのだ。
だがパソコンは想像した以上にやっかいな代物だった。
ガイドブックを何冊か買い込んで読んではみたものの、およそ理解の範疇を超えた意味不明な専門用語、カタカナ英語の氾濫。どうにか接続を完了し、
スイッチを入れるが起動しない。頼りになるはずの元部下も、しばらくして東京に引っ越し。前田さんは窮地に立たされた。
「それからはメーカーのサポートセンターに電話をかけまくりました。
ていねいに教えてくれてそれはそれでよかったんですが、独学の限界を感じないわけにはいきませんでした」
前田さんは、ついに意を決してパソコン教室へ通うことにした。だが結果的には、それが正解だった。
「同年輩の人も思った以上にたくさんいたし、良い先生とも巡り会えましたから」
パソコンを使いこなす上で、日本語の文字入力は避けて通れない。一般的に10分間で250字というのが目安で、これ以上だと手書きより早い。
その頃の前田さんの腕前は10分間200字程度。どう頑張っても、これを超えることができなかった。
ところがパソコン教室に通うようになって、ようやくこのハードルを乗り越えることができた。
「入力ミスをしても、気にせずそのまま打ち続けるようにある日先生からアドバイスされたんです。
性格が几帳面なものですから、ミスをほったらかしにしておいて前に進むのは最初抵抗があったんですが、ほどなく250字を超えることが出来ました。
専門の人に習うことの大切さをあの時ほど痛感したことはありませんね」
時間を忘れて夢中になった、インターネットの世界
パソコン教室では、ワープロソフトの「Word」に加え、表計算に使う「Excel」についてもインストラクターの指導を受けた。
とりわけ前田さんが興味を引かれたのは「Excel」だった。
「会社に勤めていた頃は、よく営業会議で目標の売上げや利益を電卓で集計したものです。
ところが何度やっても答えがあわず難儀しました。それがExcelを使えば、数字を入力するだけでたちどころに答えが出てくる。
もう10年早く習っていれば、ムダな労力も使わずに済んだのにと悔やむことしきりでしたね(笑)」
こうしてようやくパソコンを何不自由なく操作できるようになった前田さんは、たちまちのうちにパソコンとインターネットの世界にのめり込んでいった。
料金の安い深夜の時間帯にインターネットを使うために、昼夜逆転の生活を続けたこともある。
チャットにはまり、深夜遅くまで話し相手を探しまわった毎日が懐かしい。
「一度も会ったことがない人とインターネット上で出会い、話し合ったりするというのが最初はどうにも理解できなかったんですが、
実際にやってみるとなかなか楽しいものです。もともと凝り性なところはありますが、これほどのめり込むことになろうとは自分でも想像できませんでした」
失敗もいくつか経験した。4年前に世界中で猛威をふるったウイルスに感染。だが何といっても最大の失敗は、
ようやく入力を終えたばかりの雑記帳のデータを単純な操作ミスで消去してしまったことだ。
「パソコンは信頼性がそれほど高くないので、作動中にフリーズしてせっかくのデータを失ってしまうことが度々あります。
でもなにしろ30年あまりの時間が詰まった私の財産でしたから、ショックも大きかったですね」
だがそれでパソコンへの興味が失われることはなかった。
そして教室に通うようになってからみるみる腕をあげた前田さんは、昨年「シニアIT講師」(民間の認定資格)の資格を取得。
とうとう教わる側から教える側へと立場を変えた。
「去年は、地元の自治体が主催する『IT講習会』で講師を務めたり、
8月から12月は生涯学習センターの『パソコン教室』の講師として40講座を受け持ったりしました。
実は子どもの頃から、先生になるのが夢。パソコンと出会ったことで、とうとうそれも叶えることができたんです」
片時も手放せないパソコン、経営を支えるパートナー
前田さんは、今年の4月1日付けで独立を果たした。要介護の高齢者や障害者の家庭へホームヘルパーを派遣するデイサービスの会社を立ち上げたのだ。
今は毎朝、住宅一棟を借り上げてつくった事務所にクルマで通勤する毎日。
「仕事では、もちろんパソコンをフル活用しています。開業の挨拶状から名刺、ファックスの送付書、営業用の簡単なパンフレット、
さらにはヘルパーさんの誓約書や守秘義務の同意書にいたるまで、仕事で必要なものはほとんどすべてパソコンで自作しました。
印刷会社に注文するとなると、大きな投資が必要だったでしょうね」
「Excel」も大活躍している。50名を数えるヘルパーさんの管理は、「Excel」でつくった「介護サービス実績集計表」で行う。 勤務状況や提供したサービス内容などを入力しておけば、給与も自動的に引き出せる。
利用者の氏名・年齢・症状などの基本データを一元管理するオリジナルのテンプレートも「Excel」で自作した。
「いずれはオリジナルのホームページなんかもつくってみたいですね。
国保連に請求書を発行するソフトウエアの開発にも、一度挑戦してみようと思っているんです」
新会社設立と同時に、パソコンも処理能力の高い最新機種ヘ更新した。
社長業に転身した前田さんにとって、パソコンは経営に欠かせない"パートナー"に違いない。
【Excel(えくせる)】
米・マイクロソフト社の表計算ソフトウエア。強力なグラフ作成機能などを備え、最新のユーザーインターフェースを採用。表計算ソフトの標準ソフトになっている。
【チャット(ちゃっと)】
インターネットにつながっているユーザー同士が、画面上で文字を使ってリアルタイムに会話すること。
【ワクチン(わくちん)】
コンピュータウイルスをチェックしたり、退治したりするためのソフトウエア。
【テンプレート(てんぷれーと)】
一部を変更するだけで繰り返し使用することのできるひな形データ。よく使う定型フォーマットの書類をテンプレートとして保存しておくと便利。
<出典>
財団法人ひょうご中小企業活性化センター
2003年3月発行 IT活用奮闘記(ITなんてこわくない)
筆者:六田 伸彦氏(ろくだ のぶひこ)
(株)ジェイ・シー・エヌ 代表取締役
ITコーディネータ(0006652001C)・ITCA公認インストラクター、
ITSSPアドバイザー、中小企業事業団登録IT推進アドバイザー
本事例のお問合せ先:
財団法人ひょうご中小企業活性化センター
産業情報部 情報推進課 八木課長様(078-291-8503) |
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