事例本文

出典:財団法人ひょうご中小企業活性化センター
経営改革・IT化事例(発表済事例)
事例企業 有限会社大西洋ツーリスト(Z013) 事例発表日 平成15年3月
事業内容 旅行代理店
売上高 1億円 従業員数 8名 資本金 設立
キーワード 旅行代理店、ITリテラシ向上


パソコンなんて仕事に関係無ない―。
何年か前までそう信じてました。


ほんの数年前まで、大西さんにとってITは遠い世界の出来事でしかなかった。 だが、今ではすっかりパソコンがビジネスになくてはならない武器になった。 今年中には、メールを使った新しいサービスにも挑戦したいと大西さんはいう。




有限会社大西洋ツーリスト 大西 洋平さん(39歳)

10年前に中堅旅行社をスピンアウト。大西洋ツーリストを立ち上げた。 従業員は現在8名。個人から法人まで幅広い得意先を対象に、あらゆる旅行商品を取り扱う。3月には加西市内で2つ目の拠点がオープン。

知人から預かった中古のPCがそもそもの始まりだった

 ITの可能性を、いまでは信じて疑わない大西さん。だが、つい数年前まではまったくの無関心を決め込んでいた。
 「たかだか売上げ1億円の小さな旅行社。売上げの集計なら手計算の方が早いし、予約も電話があれば十分こと足りる。 パソコンなんて、旅行代理店の世界には必要のないものだと勝手に思い込んでいたんです。古い感覚に、アタマまでどっぷりつかってたんですね」
 大西さんとパソコンの出会いは今から8年前。 パソコンショップを経営する知人から、1台の中古マシン(Windows3.1)を譲り受けたのが最初だった。
 「譲り受けたといっても、なかば強制的。 『将来、業種を問わずパソコンで売上げや収益を管理したり、メールでメッセージをやりとりする時代が必ずやってくるから今のうちに勉強しとけ!』。 そう言って無理矢理持たされたんですよ。でも、もともと機械が得意な方じゃないし、ローマ字入力さえよく知らない。 しばらくはホコリをかぶったままの状態でした」
 そんな折り、阪神大震災がやってくる。旅行社はどこも開店休業。 時間を持て余した大西さんは、自宅で眠ったままになっている中古マシンを引っ張り出し、参考書を片手に勉強を始めた。
 「コンピュータを勉強するなら、きっと今しかないだろうなと思ったんです。 中堅中小企業の経営者は、毎日の仕事に追われて新しいことを勉強する時間なんてよほどの事がない限り作れませんから。 震災が、思いもよらない時間をプレゼントしてくれたわけです」
 キーボードにはアレルギーのあった大西さんだが、どうにか「Word」を使いこなせるまでにはなった。 そして中古パソコンをくれた知人から、領収書と請求書のテンプレートを借りて、仕事で実際に使ってみることにした。
 「なるほど便利だと思いましたね」
 だが大西さんが、パソコンの真価に気付くには、もう少し時間が必要だった。

低予算で売上管理と顧客管理のシステムを導入

 パソコンの便利さにすっかり魅了された大西さんは、面倒な事務処理をパソコンで肩代わりできないものかと知り合いのソフト開発会社に相談を持ちかけ、 会社の業務形態にあった売上管理と顧客管理のシステムをオリジナルに作ってもらった。成果は予想した以上だった。
 「売上管理システムは、予約番号を入力すればお客さまの氏名や入金日、支払額、残金、利益までを一覧表示することができるシステムです。 以前は、出納帳から数字を目で拾いながら、ほとんど3日がかりでデータを集計していたのがほんの一瞬のうちに画面に表示されるんですから驚きですよ。 今から考えると、どこにでもあるただのデータベースのシステムなんですが、ITの底知れない可能性を初めて肌で感じた気がしましたね」
 顧客管理システムも、なかなかの出来映えだった。 氏名、年齢、過去の売上実績などあらゆる顧客情報を入力しておけば、いつでも必要な時に呼び出すことができる。
 「お客さまから電話が入ると、名前を入力するだけで情報がすぐに画面に表示されます。 何度も住所や電話番号をうかがわなくて済むし、お客さまの事情もたちどころに把握できるので話が通じやすい。 何より分厚い顧客台帳をいちいち手で繰って探す必要がなくなりました」
 将来は、ユーザーの食べ物の好き嫌いや趣味嗜好など、数値化しにくい情報もデータベース化していきたいという。
 「オリジナルのシステムといっても、お願いしてなんとか安く作ってもらいました。 なにも高いお金をかけなくても、使い勝手のあるシステムは作れるんです」
 大西さんは、パソコンを自分でそこそこ使いこなせるようになっていたことが大いに役立ったと話す。
 「パソコンで何ができるかが分かっていれば、自分なりにプランを描けますから。 すべてを業者任せにしないで、まず自分で使ってみる。それが大事だと思います」
 以前はコンピュータやITを、どこか冷ややかな目でながめていた大西さん。 だが毎朝出社して、コンピュータの調子が悪いとたちまちイライラしてくる。それほどパソコンは、仕事にきってもきれないものになっている。

今年中にメールマガジンを使った地域サービスも開始

 こうして1台の中古パソコンをキッカケに、大西さんはITの信奉者になった。 今では販促用の簡単なパンフレットや法人顧客にプレゼンテーションする際の企画書なども、すべてパソコンで自作している。
 「もう以前のようにチラシを大量にばらまくやり方は通用しません。 法人顧客だったら、いつ頃社内旅行の計画があるのか情報をいち早く入手し最適なプランをA4版2ページほどにまとめてパンフレットを作り、 幹事宛に送るようなピンポイントの販促戦略が今は主流になっています」
 また今年中には、自社のホームページも立ち上げ、インターネットを通じて予約の申込みを受け付けるシステムもスタートさせる計画だ。
 「当社のような小さな旅行社が大手代理店のマネをしてホームページを立ち上げても、いったいどれだけの人がそれを見て予約してくるだろうか、 ずっと半信半疑でいました。でも最近は、ホームページから個人の携帯電話に格安のパッケージツアーを電子メールで案内し 成功している個人のエージェントの例もあるくらい。 これに刺激されたわけでもありませんが、当社では地元地域に限定していろんな旅行情報を満載したメールマガジンを 個人のお客さま向けに配信するサービスを始めるつもりです」
 ITは仕事をスピードアップするだけでなく、今やビジネスチャンスを広げる上でもなくてはならないものになりつつある。
 「以前は、大手旅行社の端末を導入しない限りパック旅行の予約・解約・発券はできませんでした。 それが今では、インターネットを通じて海外のホテルとコンタクトし、決済の手続きまでできるんです。 15万円のパソコンとライセンスさえあれば、世界ともビジネスができる時代。 当社のような中堅中小の旅行社にとっては、いろんなチャンスが広がっている時代といえるかもしれません」
 今やインターネットや携帯電話から航空会社のホームページにアクセスし、格安チケットの予約がカンタンにできる時代。 ITはまさに旅行業界のビジネスモデルを劇的に変えた。 そして1台の中古パソコンをキッカケに、大西さんはそんな時代の変化に適応し事業を拡大することに成功した。
  





【Windows3.1(ういんどうず・さんてんいち)】
米・マイクロソフト社が開発したMS-DOS上で動作するウインドウ・システム。 1993年5月に日本語版が発売された。画面も見やすくなり、操作性も飛躍的に向上した。95年に発売された「Windows95」はこの後継OS。
【メールマガジン(めーるまがじん)】
各種の情報を定期的に電子メールで配信するサービス。 コンピュータ系の情報を扱ったものから映画や書籍に関するものまでさまざまなメールマガジンが発行されている。
【Word(わーど)】
米・マイクロソフト社が提供する日本語ワードプロセッサの応用ソフトウェア。 先進的な機能で常に新しいワードプロセッシング環境を提供してきたワープロソフトの代名詞的存在。

<出典>
財団法人ひょうご中小企業活性化センター
2003年3月発行 IT活用奮闘記(ITなんてこわくない)
筆者:六田 伸彦氏(ろくだ のぶひこ)
 (株)ジェイ・シー・エヌ 代表取締役
 ITコーディネータ(0006652001C)・ITCA公認インストラクター、
 ITSSPアドバイザー、中小企業事業団登録IT推進アドバイザー

本事例のお問合せ先:
財団法人ひょうご中小企業活性化センター
産業情報部 情報推進課 八木課長様(078-291-8503)

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