事例本文

出典:財団法人ひょうご中小企業活性化センター
経営改革・IT化事例(発表済事例)
事例企業 株式会社和田企業(Z019) 事例発表日 平成15年3月
事業内容 コンクリート製品製造・販売・施工
売上高 従業員数 資本金 設立
キーワード コンクリート製品製造・販売・施工、ITリテラシ向上


私のIT化初期投資は800円。
入門書を買っただけなんです。


運送事業、コンクリート2次製品事業、一般土木事業の3つの柱で事業を展開する和田企業。必要に迫られてIT導入を実施したのは今から3年前。 導入の先頭にたった和田充弘さんは、パソコンの入門書を800円で購入した以外は一切の投資ゼロ。




株式会社和田企業 和田 充弘さん(43歳)

ワクにとらわれず新たな分野に挑戦することでビジネスチャンスを広げ成長を続ける和田企業の2代目。 現在専務取締役として、主力事業であるコンクリート2次製品と一般土木工事業を統括する。

紙からフロッピーへ、加速する電子提出の動き

 和田企業に、パソコンが初めて導入されたのは1999年の暮れも押し迫った12月。 それまで和田企業には、コンピュータと名のつくものは一切なかった。官公庁や取引先へ提出する公文書。 あるいは日報などの社内文書。そのいずれもがワープロで処理されていた。
 「もっといえば、ワープロが導入されたのも、そのわずか4~5年前。それまでは手書きで処理していました。 でも私たちが特別遅れていたというわけではないんです。土木関連の中堅中小企業はどこも似たようなものだったんですよ」
 だがインターネットが登場する時代になって、状況は一変する。
 「当社が手がけるコンクリート2次製品は、下水道工事やトンネル工事、耐震性防火水槽工事などの公共工事に用いられるもの。 そのため官庁や取引先に提出しなければならない書類が山ほどあるんですが、 1995年から紙の書類ではなくフロッピーやMO(光磁気ディスク)などのデジタルデータとして提出するよう通達があったんです」
 データ納品への流れはいったんストップするものの、90年代後半に再び大きなトレンドとなる。 ISO(国際標準化機構)の基準に合致した公共工事が一気に増えたからだ。
 「こうなるともう遅いか早いかの違いだけですから、いよいよ当社でも覚悟を決めてパソコンを導入。電子提出に対応できる体制作りを始めたんです」

強敵「Excel」、隣にいた助っ人

 それまでワープロしか扱った経験のない和田さんも、さっそくパソコンの猛勉強を始めた。 「パソコン入門」と題するビギナー向けの専門書を書店で購入。 一日中パソコンと向かいあって、「Word」や「Excel」の操作について学ぶ毎日が半年間ほど続いた。
 だが「Word」については、どうにか見よう見まねで動かすことはできたものの、「Excel」についてはまったくのお手上げ状態だった。
 「これはどうしたものかなと、さんざん悩みましてね。 高いお金を払って専門家に来ていただくほどのことではないという気がするし、かといって会社を抜け出してパソコン教室に通うわけにもいかない。 仕事をしながらノウハウを効率良く身に付けられるようなうまい方法はないものだろうかと、ずっと考えていたんですよ(笑)」
 和田さんは悩み抜いたあげく、奥さんの協力をあおぐことにした。
 「家内に思いきり勉強させて、私は家内を"専任教師"として教えてもらう。家内なら気兼ねがいらないし、コストもかからない(笑)」
 かくして和田企業のIT化の行方は、和田さんの奥さんの双肩にかかることになった。

奥さんを教師にExcel勉強、「MOUS検定」にも合格

 和田さんの奥さんは、暑い盛りの2000年夏、自宅に近いパソコン教室に通い始めた。 レッスンは毎週1回。習うのは、もちろん「Word」と「Excel」だ。
 「家内も実はパソコンは初めてなんです。最初は果たしてどうなることやら不安でしたが、一生懸命やってくれましたね」
 和田さんは、少しずつ上達していく奥さんを質問攻めにした。和田さんも、奥さんと歩調を合わせながらテクニックを身につけていった。
 「家内は、結局1年間教室に通いました。昼間は生徒、夜は私という生徒を教える教師。一人二役をよくこなしてくれたと感謝しています。 結局私は、一冊800円の『パソコン入門』の本を買っただけですよ」
 1年も過ぎる頃には、和田さんも「Excel」をどうにか使いこなすことができるまでになり、和田企業のIT化へ道筋ができた。
 「でも何よりも嬉しかったのは、家内が「MOUS検定」に合格したことですね。1年目ではなかなか合格できないといいますから」

ぜんぶ知ろうとするから敷居が高い

 その後、業界内でIT化の流れはさらに加速している。 最近では取引先との間で見積書や注文書といった文書を交わす際もすべてメールの添付ファイルが使われる。 添付ファイルを開くと、そこには案件の設計図が記載されていて、それを見て積算し見積書を送り返す。
 こうしたことがごく日常的に行われるようになった。 ワープロでほとんどすべての文書を処理していたかつての時代が、まるでウソのような変わりようである。
 「私もいまでは、出張などに出かける際ノートパソコンは必需品になりました。 今では当社でも、一日に発生した会社の動きを示す数字をすべてコンピュータに入力し、一元的に管理しています。 その作業を、ぜんぶ私がやっているんです。時代の変化に、ようやくついていっているという感じです。 今でも思うんですが、もしあの時家内まで引っ張り出してIT化をすすめていなかったら、今頃はどうなっているんだろうって思います。 女房さまさまですよ(笑)」
 実際、業界ではIT化に乗り遅れたばっかりに、他社の先行を許してしまった例が少なくないという。
 「ITというと、なんだか難しそうに感じてしまいますが、それはなにもかも覚えマスターしようとするからじゃないでしょうか。 私なんて、おそらく家内がパソコン教室で身につけたものを100とすれば、20%がいいところじゃないでしょうか。 ぜんぶ知ろうとするから敷居が高い。ほどほどでいいんだという開き直りも必要じゃないでしょうか」




【MO(えむおー)】
消去や再書き込みができ、パソコンにも接続できる記録メディア。125MB(メガバイト)、230MB、640MBなどの容量がある。 ちなみに125MBは、フロッピーディスク約125枚分の容量。画像などの容量の大きなデータの記録に適している。
【フロッピーディスク(ふろっぴーでぃすく)】
プラスチックのレコード状円盤に鉄粉などが塗ってあり、これを紙やプラスチックのジャケットなどでカバーした記録媒体。約1MBの記憶容量がある。

<出典>
財団法人ひょうご中小企業活性化センター
2003年3月発行 IT活用奮闘記(ITなんてこわくない)
筆者:六田 伸彦氏(ろくだ のぶひこ)
 (株)ジェイ・シー・エヌ 代表取締役
 ITコーディネータ(0006652001C)・ITCA公認インストラクター、
 ITSSPアドバイザー、中小企業事業団登録IT推進アドバイザー

本事例のお問合せ先:
財団法人ひょうご中小企業活性化センター
産業情報部 情報推進課 八木課長様(078-291-8503)

このページのトップへ