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ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評

図書名: マネージャーのための経営指標ハンドブック 推薦日:2003/04/23
書評者: 渡辺 聡 所属先: キヤノン販売株式会社

【要約と書評】
要  約
 題名が示すとおり、本書は現場のマネージャーが様々な経営指標を自分の担当分野の中で活用し、仕事の成果に結びつけることを目的に書かれている。 具体的には自社や自部門の業績評価を正しく行うことや、取引先企業の経営状態を的確に把握することなどである。 ハンドブックという名の通り、いつも手元において参照することを想定した構成になっている。 特色としては、パート1からパート5までの構成の中に企業活動の内容別に ①営業活動に関する経営指標、②財務活動に関する経営指標、③株式市場に関する経営指標という分類がなされていること。 また、企業会計の枠組み別に①財務会計、②管理会計、③新たな会計の枠組み(キャッシュフロー、企業価値指標、時価会計など)という分類がなされていること。 さらにグローバル経営の視点から米・欧・日の経営指標の比較がデータをもとに解説されていること、などがあげられる。 これらの多次元的な分類方法を採用することにより、誰にとっても使い勝手の良い仕上がりになっている。 ITCプロセスにおいてクライアント企業の支援を行う場合、財務的指標と非財務的指標を目的に応じてバランスよく組み合わせて目標を設定しなければならない。 その点においても「企業活動の何を見たいのか?」という観点から容易に必要な経営指標にたどりつけるように書かれている。 また、クライアントの経営成熟度によっては投資プロジェクトの評価や株主付加価値(SVA)に重点を置いた目標設定が必要になる場合もあるだろう。 本書においてはパート5でそのような新しい潮流を取り上げ平易に解説している。 クライアントの求める姿を実現するのに必要な経営指標のほとんどが本書の中に網羅されているのである。 なおかつ、リファレンスとして使い勝手の良い構成に仕上がっている。ITC活動の実践に役立つ良書である。
書  評
 ITCの中には企業会計の知識に関して、「どうも自信がない」という方が意外に多いのではないだろうか。 評者は間違いなくその一人である。 ITCの中でも公認会計士や税理士などの専門分野をすでに確立されている方や、会計システムの開発に長年かかわってきた方などは、 企業会計に関する高度な知識をすでに備えており、ITC活動においても各種経営指標を適切に使いこなしているものと思われる。 自分の弱い分野を互いに補い合いながら、クライアント企業の期待に応えていくのがITC活動の理想的なありようの1つであるが、 他のITC任せとか、あるいはクライアント企業とすでに契約をしている会計士や税理士の方にお願いしてというのでは何とも情けない。 やはり最低限の知識は当然備えておくべきである。 企業会計の知識を基礎から確実に身につけるには、伝統的なアプローチであるが、やはり簿記の学習に継続的に取り組むのが王道のようである。 日商簿記検定のできれば1級、少なくとも2級レベルの知識というのが望ましい姿だろう。 とはいえ幅広い知識領域を求められるITCである。 じっくり腰をすえてという訳にも行かないのが実情である。 そのようなときには効率を考えて、ショートカットの学習法を探し出すのが得策である。 評者が本書に出会ったのはバランス・スコアカードの学習を行いながら、 財務・顧客・業務プロセス・学習と成長という各視点でのCSFにおいて、適切な業績評価指標は何かということに悪戦苦闘していた時である。 特に難しいのが財務の視点の業績評価指標であり、成長性・収益性・安全性・生産性をはじめとした代表的な領域で使われる経営指標だけでも50個以上が数え上げられる。 それぞれの経営指標をどのような時に、どのように使うのが効果的なのか、ということを理解するのは非常に難しい。 また、因果関係として各経営指標がどのような関連性を持っているかを分析するなどという領域に入ると最早お手上げである。 しかしながら、これらは避けては通れない課題であり、スキルとしても身につけておかなければならない。 そんなことを考えているときに「何か良い参考書はないか」、と情報を収集して探し出したのが本書である。 本書の特色は要約に述べたとおりであるが、まずは翻訳書にありがちな読みづらさが全くない。 外国語を専攻しビジネスの現場で豊富なコンサルティング経験をつんだ方が翻訳を担当したのが良かったのだろう。 肝心の内容であるが、まずは「目で理解する」ことに重点が置かれている。 どのページを開いても右側に表やグラフやフローチャートといった図表が必ず用意され、左側にその解説が平易な表現で書かれている。 数値の増減、比率の変化、数値同士の比較といった指標のとらえ方、使い方や、指標を求める数式、指標を表す関数の持つ意味などが、 まずは視覚的に理解できるように表現されているのである。 また、5つのパートの各章のタイトルも「企業活動の何を見たいのか?」あるいは「企業業績のどこを評価したいのか?」という視点でわかりやすく書かれている。 とにかく必要な項目にすぐにたどりつけるのである。
 冒頭にも述べたが、企業会計の知識に関して、「どうも自信がない」というITCに特にお奨めの一冊である。 しかしながら、しっかりとした知識として企業会計を身につけ、経営指標を的確に使いこなすには、やはり簿記を中心とした学習が欠かせないと改めて認識させられる一冊でもある。 解説本を片手に行うITC活動ではやはり迫力に欠けそうである。 ITC協会認定研修に企業会計の専門コースが加わるのが望まれる。
 最後に注意事項をひとつ、本書の著者はアイルランド人であり、発行元は英国のフィナンシャルタイムズ社である。 そのため英国会計基準に強く影響を受けているようである。 また厳密に国際会計基準の流れを反映させたものでもないようである。 本書を財務会計の専門書として、あるいは学術書として読まれる方はまずいないだろうが、念のためその点を申し添えておきたい。 この書評はあくまでITC活動における実用書としての価値を述べたものとご理解いただきたい。

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