ITC推薦図書

2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: SunONE完全解説 推薦日:2003/03/28
書評者: 森田 恭一郎 所属先: 株式会社大和総研

【要約と書評】
要  約
 IT分野で現在最もホットであるWebサービス。本書はWebサービスを体系的に理解するための解説書となり得る。
 本書はサン・マイクロシステムズが提唱する次世代コンピューティングのビジョンであるSunONEの解説書であり、 「SunONEについての全般的な説明」「SunONEを支えるテクノロジー」「SunONEシステム構築例」 「Webサービスを実現する製品群」という4つのセクションで構成されている。
 また、巻末には「SunONEキーワード&用語集」「J2EE+Webサービス関連製品一覧」が記載されており、 これもWebサービスを理解する意味で非常に便利である。
 本書を参考書、辞書として利用し、Webサービスの概念を理解し、今後継続的にウォッチしてはいかがかと考える。
書  評
 IT分野で現在最もホットであるWebサービス。ITに関わる者としては概要だけでも押さえておきたいものだが、様々な場面で断片的に語られているため、 私自身体系的に理解できずに困っていた。
 本書はこのような悩みを解決する良書であり、初級者、中級者がWebサービスを体系的に理解するための解説書となり得る。
 本書は題名の通りSunONEというSUNの技術解説に偏ってはいるが、J2EEを中心としたWebサービスの基本が全般に渡って記述されており、 SunONEを通してWebサービスの基本を習得することができる。 本書は大きく4つのセクションで構成されている。

1.SunONEについての全般的な説明
 ここではXML等の一般的なテクノロジーも絡めながら話が進んでいく。
SunONEの宣伝的な要素が多いが、まず概念を押さえるという意味で一読の価値がある。
2.SunONEを支えるテクノロジー
 XML、SOAP、UDDI、WSDL、ebXML、J2EE、サーブレット/JSP、EJB、J2EEコネクタアーキテクチャ、 JAX APIとWebサービス、といったオープンなテクノロジーについての説明が記述されている。
 これらは最新のWebサービスを理解する上で必須のものである。 各項目2~5頁程度で説明なされており、図付きで分かり易いものとなっている。
3.SunONEシステム構築例
 内容としては「J2EEを利用したWebサービス構築例」であり、オープンなテクノロジーによるシステム構築例である。 システム構成図や画面例も記載され、Webサービスで何ができるのかということが理解し易くなっている。
4.Webサービスを実現する製品群
 サン・マイクロシステムズ、日本アイ・ビー・エム、日本BEAシステムズ、日本オラクル、ボーランドが各社の関連製品を説明している。
 Webアプリケーションサーバー、開発ツール、各社の今後の戦略が話題の中心であるが、ユーザがそれぞれの製品をどのように利用しているかといったことも記載されている。 例えば、日本IBMのWebSphereについては、製品の方向性が2種類のエリアに伸びてきているようだ。 一方は、従来メインフレームやハイエンドのUNIXサーバー上で構築していたアプリケーションを、J2EEベースでWebAphere上に構築するユーザ。 もう一方はWebSphereをエンジンとして使って、その上で動くパッケージを利用するというユーザである。
 これらの事例は最新の方向性を知る上で非常に参考になる。
また、巻末には「SunONEキーワード&用語集」「J2EE+Webサービス関連製品一覧」が記載されており、これも非常に便利である。 主だったテクノロジーは「SunONEを支えるテクノロジー」に詳しく記載されているが、それ以外の関連用語に関してもかなり網羅されている。 Web関連の文書、記事を読む際にわからない単語が出てきた時に使えるツールである。 いわゆる情報処理用語辞典では網羅されていない用語もここに載っている。

 前述した通りWebサービスはホットなテーマである。 導入するケースは現状そう多くはないが、概要についてはITコーディネータとしては押さえておきたい。
 現状、SUNのJ2EEとマイクロソフトの.NETが2大勢力として争っている状態であり、ハードベンダー、ソフトウェアベンダとの提携話があり、今後の動きは見逃せない。 (例えば、WebSphereを擁するIBMが.NETとJ2EEをつなぐツールを開発しているRational Softwareを買収、 SiebelがMicrosoftと提携して、.NET寄りの製品開発を示唆、SAPがJ2EEと.NETの両方に対応することを発表、等の動きがある。)
 Webサービスについては未だに定義が確立されていない感があるので、巷に流れている情報を乱読すると混乱する可能性がある。 本書を参考書、辞書として利用し、概念を理解し、今後継続してウォッチしていってはいかがかと考える。

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: 金融サービス統合のIT戦略 推薦日:2003/03/29
書評者: 角田 武 所属先: 株式会社日立製作所

【要約と書評】
要  約
新たに投資されたITは企業の業績向上にどのように役立っているのか、 インターネットを利用した付加価値の高い新商品やサービス提供のための情報システムはどのような組織、プロセス、コンテンツで活用されているのか。 海外の先進・斬新的企業の事例調査研究を交えながら、日本の金融機関における次期情報システムのコンセプトを探る。
書  評
 本書は、海外の先進企業のIT活用を例として、日本の金融機関がグローバルコンペティションで生き残るための、経営や制度、情報システムの方向性について述べている。
そもそも、米国を始めとする先進企業は、日本よりも数年早く、金融の自由化が行われ、その後のIT革命による新市場創造が行われている。 その結果、欧米の金融機関は単なる金融機能の提供から総合金融サービス業への脱皮に成功した。 それを支えたのは、外部環境に応じて内部の経営や業務プロセスを柔軟に変化させることができる組織と見事にコンポーネント化された情報システムの存在である。
一方、日本の金融機関では、長年に渡り、クローズな環境のもと、高性能、高信頼性を追及したITインフラを構築しており、急激な外部環境変化対応するため、 金融改革とIT革命が同時進行するという難局に直面している。
本書では、この数々の難題をクリアし、日本版金融総合サービスへの改革を推進していくために、欧米の組織形態や経営管理手法、IT活用例を引き合いに出しながら、 日本の金融機関が進むべき道しるべをIT面から見事に指し示している。

 まず、第一に、欧米の金融機関の特徴として大きく取り上げられるのは、コーポレートとビジネスユニットとの関係であろう。 コーポレートが一般的に持つ機能として①持株会社機能②ビジネス・コントロール機能③シェアドサービス機能をあげ、 とりわけビジネス・コントロール機能が一番重要としている点が明確で、わかりやすい。 それは、IT戦略における貢献度が大きく、企業の競合優位性と収益性に大きく影響すると考えられているからで、 コーポレートとビジネス・ユニットの橋渡しでもあることに起因している。
欧米では、歴史的変遷により、コーポレートとビジネス・ユニットとの権限関係や大きさが異なっているが、明確に分離されている。 日本の金融機関および一般の事業会社では、よく言えば一体、悪くいえば、不透明・不明確な部分であろう。 ただし、こういった欧米型が全てよしというわけではない。 日本の商習慣や文化や制度、タイミングなどに対応した、コーポレートとビジネス・ユニットとの関係を考えることもできる。
むしろここで、学ぶべきポイントは、外部変化への柔軟な対応が可能な組織とITである。
欧米の事例分析では、金融機関に限定せず、対応する企業群の組織形態や経営のあり方まで含めて整理できれば、より有効であったと惜しまれる。

 第二に、ビジネス・コントロールのための機能として、リスク管理、収益管理、顧客管理をあげている。 先進金融機関では、リスク見合いのコストを収益管理の要素として取り入れている。 組織別、商品別のみでなく、顧客別の収益をいかに精度を上げて管理していくかが、今後の課題と指摘している。
さらに、これらの収益を高度に管理しようとすればする程、評価コストがかかる点についても述べている。 各人員の業務を丹念に捕捉したり、業務量を把握するなどの地道な作業が必要なため、 かけられる体力と求められる精度との折り合いをどう考えていけば良いか、参考となる記述が多い。
また、本来顧客管理機能も通常、ビジネス・ユニット側が持つ機能であるが、ここでは、付加価値を与えることができるコーポレート側の機能としている点がおもしろい。 ただし、顧客管理機能とリスク管理、収益管理が往々にして、非連携の日本の金融機関においては、各種異論があるかもしれない。
IT戦略としてのインフラ整備が未整備状態であるし、また、合併、吸収、統合などが大手銀行でようやくひと段落着いた状態である。
さらに、現在、紙から電子媒体への過渡期であるため、電子書類に対応した法整備や各関係機関間での制度の見直しなど、 IT化を推進する上で、立ち遅れている問題について、欧米に比して、日本固有の事情があるはずである。 こういった現実に即した点は、本書では、詳細に述べられていないが、本来目指すべき経営モデルならびにIT化構想という点では、しっかり述べられている。

 第三に、総合金融サービス業としてのIT面での課題である。
インフラ面として、データモデル、統合顧客データベース、メッセージング技術をあげ、それぞれについて判りやすく解説している。 これらの情報インフラをベースにビジネス・コントロールのための、情報システムの実現イメージについて、小気味良く論理展開されている。
さらに、総合金融サービスシステムの将来像として、 情報システムではそれぞれフロント/バック/ミドルといったコンポーネントで顧客関係管理/取引管理/経営管理を行っていくというのも、 各コンポーネントが担うべき役割と関係づけられて記述されているため、論理的で判り易い。
また、特筆すべきは、これらコンポーネント化によって、 ①チャネルの多様化②商品・サービス提供力の強化③会計基準への変化対応④複数コンポーネントの一元管理、を可能としている点である。
顧客を中心とした人、もの、かね、情報が一体となった新たなビジネスモデルの模索が期待される。

 これまでの論点を振り返ると、やや欧米を手本に、日本のIT戦略論が展開される感はあるが、現在生き残りをかけ、 大改革中の日本の金融機関にとっては、従来ITだけが一人歩きしがちな風潮の中で、IT戦略投資を前向きにとらえる良いきっかけになる道しるべになることだけは、確かである。 また、金融機関のみならず、一般企業にとっても自社のIT戦略を、取引先や顧客企業との関わりあいの中で、 如何に構築していくべきかのヒントが、数多く発見できること請け合いである。

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: 業務別データベース設計のためのデータモデリング入門 推薦日:2003/04/12
書評者: 静 俊二郎 所属先: 大阪商工会議所

【要約と書評】
要  約
 ER(エンティティ・リレーションシップ)図について基本的なことは分ったけど、実際にER図を作るにあたり、どのように考えたら良いのか分らない、という方にお勧めの本。
 業務システムを構築した経験が豊富な筆者がデータモデリング(ER図の作成)にあたってのポイント、注意点を、豊富な具体例を交えながら解説している。
 経営系の方にとっては、会計管理、販売管理など業務システムの具体例が多く、実務をイメージしながら読むことができる点で、理論だけの参考書よりも読みやすいと思う。
 また、情報系の方にとっては、実際のシステム構築にあたっては理論通りには行かないということを認識できる点でお勧めできる。
書  評
 ITコーディネータのコンサルティングフェーズの中には、DFD(データフローダイヤグラム)の作成とともに、ER(エンティティ・リレーションシップ)図の作成がでてくる。 研修で基礎的なことは学習したのだが、実際にER図を作成したことがない方には、「実際はどのように考えて作成するのか?」、 「どの会社でもほとんど同じER図になるのでは?」、「そもそもなぜER図が重要なのか?」などの素朴な疑問が沸いてくると思う。 この図書はそのような疑問を解消し、実際にどのように業務システムが設計されているのかをイメージすることができる良書です。
 第一部「データモデルとは何か」、第二部「業務別データモデル用例集」の二部構成になっており、第一部では、データベースの歴史から始まり、 なぜデータモデルが必要なのかについて述べている。 特に、プロジェクト失敗の原因の多くは、システム屋と業務屋のコミュニケーション不全にあり、データモデルは「共通言語」として有効であることを述べている。
 第二部「業務別データモデル用例集」では、実際の業務を例としたデータモデルの用例集となっている。 商品管理、在庫管理、販売管理、購買管理、取引先管理、会計管理の6つの業務分野について、「単純だけど硬直的」なモデルから、 「複雑だけど柔軟」なモデルへと発展させながら解説している。 実際のデータモデル設計において、どのような点がポイントとなり、どのような点が苦労するのかというのがイメージできる。
 実際のシステム構築に即して解説してある良書なのだが、ただ一つの注意点は、ER図の書式(表現の方法)が一般的なものではないことである。 一般の書式よりも少ないスペースで多くの情報が表現できるようになっているのは良いと思うが、 書式が異なると一般のER図の書式に慣れている技術者とのコミュニケーションがスムーズでなくなるので残念である。 本書の書式だけでなく、一般の書式にも慣れておく必要がある。
 しかし、上記の注意点を除けば、実際のデータベース設計、データモデル設計がイメージできるという点においては他に類を見ない。 ITコーディネータ全員がER図の設計をできる必要はないのではないかという意見もあるが、システム技術者が作成したER図を読解して評価できる程度の能力は必要だと思う。 そのような能力の取得のために本書はとてもためになる本と言える。

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: デスマーチ 推薦日:2003/05/12
書評者: 神庭 公祐 所属先: 株式会社ケイズ

【要約と書評】
要  約
 サブタイトルは「なぜソフトウェア・プロジェクトは混乱するか」です。
デスマーチは直訳すると「死の行進」だが、デスマーチ・プロジェクトとは、多くの損失・犠牲、高い確率の失敗が予想されるプロジェクトのことである。 実は、大規模ソフトウェア開発プロジェクトのほとんどはデスマーチ化している。デスマーチに参加するSEは、「このプロジェクトさえ切り抜けたら・・・」と努力するが、 それがどのプロジェクトでも特例ではなく常態になっていることに気付くべきである。

 デスマーチが発生する要因は、社内の政治、ヒロイズム、管理者の交渉能力不足など、それを回避するノウハウが不足していることにある。 要因はいろいろあるが、全ての要因を回避することは難しく、現実にはデスマーチが世界中で発生し続けている。
 もしデスマーチへの参加を求められたら、プロジェクトへの参加を断る勇気を持つことが大切である。 ただし、自分の希望・会社の状況など、さまざまな要因から、どうしても参加せざるを得ない状況に追い込まれる場合がある。 この場合も、絶望的な状況に自分を置くかどうか、自己責任での意思決定が必要である。 そして、参加する場合は、あらゆる方法論を駆使して生残る努力を払わなければならない。 その方法には、交渉の戦略、人選問題、動機付け、要求管理、ベスト・プラクティス、リスク管理など、様々な策がある。 この図書には、その具体論が、発想豊かに盛り込まれている。
書  評
 ソフトウェア開発のマネジメントに関係する人・開発する人ならば、一度は目を通されておくと良い本である。

 まず、「デスマーチ・プロジェクトは特例ではなく常態だ」という宣言に衝撃を受ける。 確かに、ソフトウェア開発において、余裕を持って進められるプロジェクトはほとんど無いことに気付かされる。 デスマーチが発生する原因は図書の中でもいろいろ分析されている。 その結果、世界中で大規模なソフトウェア開発はいつでもデスマーチに陥っている。 デスマーチが常態であると認識を変えると、通常のプロジェクト管理ではデスマーチになって失敗してしまうことが分かる。 その認識があれば、管理する視野がこれまでより広がってくるはずである。

 本書の範囲は、「情報システム開発/試験/導入フェーズ」である。 このフェーズでプロジェクトが万一デスマーチ状態に陥ったとき、外部CIOとしての役割を担うITCには、プロジェクトを正常に戻すための助言・指導が求められる。 本書には、そのデスマーチをいかに乗り切れば良いのか、参考になるアドバイスも盛りだくさんある。 バグを残さない開発品質はもちろんだが、メンバーの選定、利害関係者への気配り、社内外の政治など、さまざまなアドバイスが記載されている。 特に、利害関係者とのコミュニケーションの重要性が印象に残る。 条件が厳しいデスマーチ・プロジェクトでは、関係者間の利害をつかみ、必要な人に配慮しておかないと、突然さらにプロジェクトを混乱させる要求が増えることになりかねない。 コミュニケーションを独立要素として重視しているITCの理想を、テキストとはまた違った表現で追求しているといえる。 その他、ベスト・プラクティス、リスク管理など、ITCの方法論と同じ要素を重視して記載している。

 これらデスマーチの分析と対策を、作者のエドワード・ヨードンが実にユニークに表現しているのも、この図書の大きな魅力である。 例えば、デスマーチ・プロジェクトを4つに分類しているが、その分類の名前は「①スパイ大作戦型」、「②モーレツ型」、「③カミカゼ型」、「④自滅型」である。 名前を見るだけで、そのプロジェクトのメンバーの様子が浮かび上がってくる。 ちなみに「①スパイ大作戦型」は、少数精鋭のメンバーが奇跡を起こしてプロジェクトを成功に導くパターン、 「④自滅型」は、諸般の理由によりプロジェクトを離れられないメンバーたちが静かに失敗のときを迎えるパターンである。 これを読む読者の脳裏には、きっと自分が関係しているプロジェクトがどれかにあたっていると浮かんでくるはずである。

 もうひとつ、本書の読後に、「自分が楽しく仕事するためにはどうすべきか?」という疑問も残る。 例えば、デスマーチが発生する原因の一つに、「若い開発者が困難なプロジェクトに魅力を感じるのは、自然な事であり否定できない」という指摘がある。 確かに、困難なプロジェクトであっても、それに参加して自己実現する喜びもある。 参加メンバーの自己実現の喜びを引き出すことも、プロジェクト成功のための大きな要素で、ITCが貢献すべき部分であると思う。 いずれにせよ本書を参考に、ITCとして、デスマーチプロジェクトにならないための適切な助言、支援を行なえるスキルを身に付けることが大切であると思う。

 本書は、プロジェクトマネージャーや「情報システム開発/試験/導入フェーズ」を中心に活動を行なうITCにお勧めである。 ソフトウェア開発の経験が少ない人ならば、あまり表に出てこないプロジェクトの実態を知ることができる。 また、ソフトウェア開発に携わる人ならば、デスマーチを避けるために有効な知識が得られると思う。 また、万一デスマーチに巻き込まれたときも、そこから抜け出すアドバイスがきっと見つかるはずである。
2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: MOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)入門 推薦日:2003/03/24
書評者: 安川 均 所属先: ITC梁山泊

【要約と書評】
要  約
  • MOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)は、「技術経営」と呼ばれ、企業のバリューチェーンにおける技術投資の費用対効果を最大化する経営を目的とする体系である。
  • MOTは、90年代国際競争力向上の原動力になった米国シリコンバレーのベンチャーなどに見られる企業の技術経営を実践する人材を養成した産学連携の教育課程から発展してきたものである。
  • テクノロジーマネジメント分野の体系では、中核課題として先端技術、新製品・新事業開発、グローバルテクノロジーにおける研究開発マネジメントの方法論などがある。
  • オペレーションマネジメント分野の体系では、生産管理システム、SCMのほか、生産経営システム設計法、投資意思決定論やグローバル展開におけるプロジェクト・マネージメントなどがある。
  • インフォメーションマネジメント分野の体系では、IT戦略立案・導入方法論、技術ナレッジマネジメント体制の構築のほか、経営管理システムの変革、知的財産法の現状、知創経営などがある。
  • 日本では国民意識の集団帰属性(Belonger)が社会構造問題の元凶となっており、経済再生の道筋であるベンチャーが真に活性化するためには、MOT人材育成が求められる。
書  評
 MOTとは、マネジメント・オブ・テクノロジーの略で「技術経営」と呼ばれ、米MITビシネススクールのMOTプログラムを由来として、 「技術投資の費用対効果を最大化すること」(SRIインターナショナルの定義)を目的とする経営の体系である。
 米国は、90年代に経済の閉塞状況から脱して国際競争力を獲得したが、シリコンバレー型のベンチャー主導「技術経営」がその中核の原動力になったことは周知のとおりである。 しかし、その背景には知的資本産業を進展させた米政府の戦略的な政策の下に、産学の密接な連携が存在したのである。 今日までに米国では200以上の大学が産業界の要請を受けて技術を基盤とした経営戦略を学ぶMOT大学院を設置して、 企業から幹部候補として派遣される人材などを受け入れていることがそれを裏付けている。
 経済のグローバル化と知的資本社会の到来の下で低迷する日本企業にとって、再生の鍵とすべきは、かつての米国企業が日本企業から学んだようにその成功要因を真摯に研究し、 強みと思われる経営手法を積極的に取り入れることであろう。 失われた10年と言われながら、総額130兆円にも及ぶ緊急の景気対策、不良債権処理策、省庁改革と規制緩和などが実施されてきたが、 その効果が一向に顕在化しなかったのはなぜだろうか。 経済の再生・発展には新陳代謝が不可欠であり、その真の牽引役には、 国際競争力を有する企業などが抱える有能な技術人材に技術経営ノウハウを修得させて、新技術開発、イノベーション、 社内新事業あるいはスピンオフ・ベンチャー起業へ挑戦させることだとする本書の主張には説得力がある。
 MOTの厳密な定義は、企業のバリューチェーン(経営、人事、情報、マーケティング、開発、調達、生産、物流、アフターサービスなど業務プロセス価値連鎖) における技術課題を体系的に経営することである。 つまり、MOTが企業経営において扱うのは技術課題を伴う全ての領域であり、技術投資の最高意思決定者CTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)を任命し、 製品技術(企業の収益源である製品・サービスそのものに含まれる技術)とオペレーション管理技術(製品を生産するための生産技術、ロジスティック技術、情報管理技術) に体系化されるもので、研究開発管理はその一部を構成するにすぎない。 本書は、MOT体系の学習エッセンスをテクノロジーマネジメント、オペレーションマネジメント、インフォメーションマネジメントの3分野の切り口から解説しており、 経営とITの関係を取り扱うITコーディネータにとって参考になるものである。
 製品技術に対応したテクノロジーマネジメント分野の体系は、開発・生産を管理・統制するものであると言ってよく、特に製造業などにおいては、 企業のコアコンピタンスそのものである。 また、オペレーション管理技術に対応したオペレーションマネジメント及びインフォメーションマネジメント分野の体系は、 経営者が企業経営戦略の企画からITを結びつけて経営改革を行うに際し、最大効果をあげるための支援活動をITコーディネータがする上で修得しておくべき内容が多い。
 テクノロジーマネジメント分野では、具体的に先端技術における技術マップとテックモニタリング、新製品・新事業の開発、 グローバルテクノロジーにおけるベンチマーキングと技術/事業戦略立案、産学連携の制度整備など中核課題となる研究開発マネジメント、 さらに今後強化すべきリスクマネジメントなどについて参考資料や事例を持って方法論を示しており、企業のあるべき製品技術戦略が理解できる。
 オペレーションマネジメント分野では、同様にプロダクト/プロセス・イノベーションの明確化、カンバンからリーン生産にいたる生産管理システム、 トータル・システム・コンセプトを指向するSCMのほか、生産経営システム設計法とプロダクション・マネジメント・システムの展開、 さらに投資意思決定論とその実施方法やグローバル展開におけるプロジェクト・マネージメントの成功モデルなど、 厳しい国際競争において採るべき経営戦略として知見に富んだ内容となっている。
 インフォメーションマネジメント分野では、ITを活用した経営改革とEビジネス進展によるモデル構築とIT戦略立案・導入方法論、 技術資産化やセンター化による技術ナレッジマネジメント体制の構築のほか、企業のポジショニングと経営管理システムの変革、知的財産法の現状、 知創経営における経営改革マップなどについて参考資料や事例を紹介しており、ITコーディネータにとっても今後の研究課題となるものである。
 本書のまとめでは、日本社会でなぜMOT人材育成が求められるかは国民の集団帰属性意識(Belonger)が社会構造問題の元凶となっていることと論じており、 ベンチャーが真に活性化するためにはプロフェッショナル人事制度導入や社内企業家による経験の蓄積とスピンオフ・ベンチャリングの奨励が必須施策であると提言している。 これらベンチャー企業にITコーディネータが参画・支援することも当然予想される。
 新聞の報道によれば、我が国においてもMOT人材を育成するための産学協同プロジェクトが、2002年末から始動しており、 企業50社と大学30校がコンソーシアムを設立して、大学院に技術経営を学ぶMOT修士課程を設け、社会人の技術者(あるいは経営者層)に対して、 上記各テクノロジー分野に企業財務、金融工学、起業論などを加えたカリキュラムを履修するコースを提供している。 MBA(経営学修士課程)が既存事業の経営に必要な専門領域であるのに対し、MOT修士課程は技術革新に伴う新事業創出に必要な経営ノウハウを身に付ける点に違いがあるという。 また、一方で制度整備が行われ、大学からの技術移転機構(TLO)、民間資金による共同研究、人材交流の円滑化などが促進されつつある。
 産業界などには、国内産業の低迷は技術水準が国際的に劣っているのではなく、高度な技術成果を事業化する人材が不足しているためとの認識がある。 今後は企業の業務改革の視点だけでなく、これら産学連携から生まれてくる技術成果を経営に活かすMOT(技術経営)が、 ITコーディネータの能力や活動の中にも求められることになるであろう。

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: 大丈夫か あなたの会社のIT投資 推薦日:2003/03/24
書評者: 大林 茂樹 所属先: 大林茂樹税理士事務所

【要約と書評】
要  約
 金融市場における投資理論とソフトウェアエンジニアリングの考え方に立脚し、IT投資の目的や評価方法に一定の切り口を示すことを目指した書物。
 本書は、全六章から構成されている。第一章「間違いだらけのIT投資」では、IT投資における失敗の原因と成功へのポイントを考察している。
 第二章「システム・コストの分析手法」では、システム・コストの評価方法を平易に解説している。
 第三章「IT投資と企業価値の密接な関係」では、キャッシュフローをベースにしたIT投資の評価手法を平易に解説している。
 第四章「評価手法のIT投資への応用」では、IT投資の評価手法をERPやCRM等の具体的な投資に応用する場合のヒントを例示しながら説明している。
 第五章「より精度の高い評価のために」では、IT投資の評価手法に金融市場におけるオプション理論を導入して、より精度の高い評価方法の確立に挑戦している。
 第六章「IT投資の未来」では、IT投資の近未来像について考察している。
 全六章を通じて、ITプロセスガイドライン全体の復習と特に「戦略情報化企画フェーズ」の費用対効果の原則の理解を深めるために役立つ数少ない良書。
書  評
 最近まで、IT投資は、業務効率を改善と新しいビジネスモデルの構築を約束することによって、バラ色の未来が開けると幻想を抱いていた企業が多い。 そこまで至らなくても、IT投資を行わないと市場から取り残されるという危機感のもと社運を賭けて多額のIT投資を行った企業は枚挙に暇が無い。
 ところが、IT投資を行っても、思った程の利益を生み出せない企業、納期遅延やコストオーバーで苦しむ企業が続発しているばかりか、 システム構築そのものの計画を破棄せざるを得なかった企業も後を絶たない。
 そこで、IT投資の救世主として産声を上げたのがITコーディネータであるが、いわゆるITバブルが崩壊した今となっては、 ITがどれだけの投資効果を生み出すのかを算定できずに、IT導入そのものを躊躇する企業が増える傾向にある。
 したがって、IT投資目的の明確化と評価の定量化は、全ての企業、全てのITコーディネータが避けて通れない課題となっている。 言い換えれば、これらの知識を持たないITコーディネータは、企業のIT投資を説得することが出来ないと言っても過言ではないであろう。
 本書は、IT投資目的の明確化と評価の定量化について、金融市場における投資理論とソフトウェアエンジニアリングの考え方に立脚し、 とかく不透明になりがちだったIT投資効果の算定に一定の切り口を示した数少ない書物である。
 第一章「間違いだらけのIT投資」では、IT投資の現状を冷静に分析し、IT投資における失敗の原因と成功へのポイントを指摘している。 この部分は、ITコーディネータにとっては、研修等で馴染みの深い内容である。 本書で提示したIT投資のあるべき姿は、ITプロセスガイドラインの「経営戦略策定フェーズ」「戦略情報化企画フェーズ」の復習にも役立つであろう。
 第二章「システム・コストの分析手法」では、ソフトウェアエンジニアリングの考え方からシステム・コストの評価方法を紹介している。
 ITコーディネータにとっては、ITプロセスガイドラインの「情報化資源調達フェーズ」「情報システム開発/試験/導入フェーズ」「運用サービス・デリバリーフェーズ」 の復習に役立つ内容である。
 ファンクションポイントやCOCOMOといったシステムの評価方法の紹介は、いわゆる経営系のITコーディネータにとっては新鮮な内容で、 しかも平易に解説しているので理解しやすい内容となっている。
 そして、第三章から第五章までが、本書の真骨頂である金融市場における投資理論の観点からIT投資効果を測定するための手法の考察である。
 第三章「IT投資と企業価値の密接な関係」は、最初に企業価値をいわゆる売上高、経常利益至上主義から、時価総額やキャッシュフロー中心の経営に転換するように力説している。 したがって、IT投資もディスカウント・キャッシュフロー法(DCF法)で評価すべきであると導いている。 キャッシュフローの概念からDCF法までを平易に解説しているのは非常に好ましいので、IT投資が生み出す企業価値の理解を助ける内容となっている。
 いわゆる経営系・技術系を問わず、ITコーディネータにとってDCF法の習得は必須条件となってくるであろうが、本書はDCF法の入門書としてもお勧めしたい。
 第四章「評価手法のIT投資への応用」は、DCF法をERPやCRMなどの具体的な投資に応用する場合のヒントを例示しながら説明している。 ERPやCRM等のシステムの特徴ごとにキャッシュフローに与える影響を考察している点は、IT投資効率の算定に大いなるヒントを与えるであろう。
 第五章「より精度の高い評価のために」は、DCF法による評価に金融市場におけるオプション理論を導入して、より精度の高い評価方法の確立に挑戦している。 特にノーベル経済学賞を受賞したブラック・ショールズの方程式をIT投資に応用する試みは非常に興味深い。 もっとも実務上、IT投資にオプション理論を導入するのは、筆者自身の指摘どおり現状では非常に困難である。 しかしながら、近い将来に、ITコーディネータに依頼してIT投資をした場合と ITコーディネータに依頼しないでIT投資をした場合をブラック・ショールズの方程式を応用してシュミレーションすることができるようになれば、 ITコーディネータの将来に希望が持てるのではないだろうか。 いずれにしろ、IT投資にオプション理論を導入することは、DCF法だけではカバーできない複雑なIT投資の判断にヒントを与えるものである。
 第六章「IT投資の未来」は、筆者の考えるIT投資の近未来像である。 筆者の予言するIT資産の証券化、ITセキュリティ保険などは、IT投資の資金調達を容易にする手法である。
 現状では、ITの投資効率の算定もさることながら、IT投資の資金調達についても非常に困難な時代である。 特に中小企業では、IT投資の資金調達を、政府の助成金や税務上の特典に頼らざるを得ない非常に苦しい状況にある。
IT資産の証券化、 ITセキュリティ保険などが早期に実現し、IT投資の資金調達が容易になる時代がやって来ることを強く望むところである。 そして、IT投資の近未来の考察にまで踏み込んだ筆者の視点と洞察力に拍手を送りたい。
 最後に、本書を通じて感じたことは、IT導入を躊躇する企業に対し、ITの投資効果を説明する裏付けが与えられたということである。
 ITコーディネータが本書で提示したIT投資評価法を実務に導入し実証していくことによって、ITの投資効率の算定はより精度の高いものになっていくであろう。
 本書は、ITプロセスガイドライン全体の復習と特に「戦略情報化企画フェーズ」の費用対効果の原則の理解を深めるために役立つ数少ない良書である。 多くのITコーディネータが手に取られて参考にされることを願ってやまない。

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: TOC・スループット経営 推薦日:2003/03/24
書評者: 宮田 和義 所属先: マイクロソリューション株式会社

【要約と書評】
要  約
 エリヤフ・ゴールドラット氏が、著書「ザ・ゴール」・「ザ・ゴール2」で提唱されたTOC(Theory of Constraints:制約条件理論) ・スループット会計・思考プロセスについての入門書として、最適な図書である。
 TOCの活用を、通常の生産管理の部門に限らず、さまざまな多くのビジネスの機会へ応用するための考え方も説明されている。  まず、基本概念である「ボトルネック」についての理解を深め、「スループット会計」の章では、従前の原価計算の考え方とは根本的に違う原価概念を導入し、 今後は、スループット重視の管理方法を構築する必要性のあることが理解できる。
 また、さまざまな問題を解決するときの解決方法のひとつとして、「思考プロセス」という問題解決の手法が説明されている。
 全体に、図解等を多く取り入れ、非常に読みやすく、わかりやすく、解説されている。
書  評
 経営改革プロジェクトを推進するとき、ITCが支援活動を行うプロセスフローの中の「経営戦略策定フェーズ」において、 BSC(Balanced Scorecard:バランス・スコア・カード)等とともに、 問題解決・分析の手法として活用されるTOC(Theory of Constraints:制約条件理論) -ボトルネック・スループット会計・思考プロセス等-が解説されている。
 実際、BSC4つの視点等を考慮しKGIの摘出後、CSF/KPIの抽出を行うことになるが、このときにTOCの基本的な考え方を理解し、 そのTOCでいうボトルネックという概念についての認識を踏まえて、CSF/KPIを抽出することは、新たな観点が発見され、 本来の目的(KGI)の達成に寄与するものと思われる。
 この書では、TOCの基本的な考え方から始まり、個別最適と全体最適との関連が、従来の考え方とTOCの考え方では、どのように違うかを説明し、 そして、結果としてのスループット(すなわちキャッシュフローの極大化)の重視を強調している。
 また、ボトルネック(制約条件)については、それを発見し、徹底活用し、その後、その能力を向上させることによって、 そのボトルネックを解消して、スループットの極大化を目指す。
 その際、バッファーの管理が重要であることも説明されている。 また、プロジェクト管理にもふれ、PERTなどの管理手法や安全余裕という概念に内包するバッファーについても、そのバッファーの管理による解決策が説明されている。
 また、スループット会計の説明があり、管理会計としてのスループット会計を採用することにより、従来のいわゆる原価計算・財務会計などでは存在しなかった、 新しい業績評価指標を入手することができるのではないかと思われる。
 つぎに、このTOCという理論を問題解決手法にも適用できるように進化させた、いわゆる思考プロセスと言われるもについての解説がある。
 TOCの制約条件は、最初は、ボトルネックという概念があり、そのボトルネックという概念を利用して、 生産性の向上、スループットの極大化・キャッシュフローの極大化を目指す。
 そして、思考プロセスという問題解決の手法では、UDE(Undesirable Effect:好ましくない結果) ・RC(Root Cause:根本原因)を列挙し、あたかも、生産管理の現場での工程管理のごとく、その因果関係を分析し、 そのCP(Core Problem:中核原因)-ボトルネックという概念に近いもの-を発見し、そして、それを解消することにより、問題の解決を目指す。
 具体的に説明すると、「現状問題の構造ツリー=問題点の発見を行い」、次に「対立構造図=解決策の発見」、「未来問題構造ツリー=解決策による新たな問題の発見」、 「前提条件ツリー=解決策実行時の障害と中間目的の設定」、「移行ツリー=解決策の実行計画」の5つのツリーで構成されていて、これらツリーを利用して問題解決を行なう。
 最後に、このTOCにより、経営は全体最適をその目標とし、キャッシュフローベースでもその業績の評価が行われるようになり、 また、市場の需要がボトルネックとなった場合は、プロダクトアウトからマーケットインへその指向を変化させることで解決策を見出し、 目標の具体的な設定と、スピード経営が可能になると結んでいる。
 この目標の具体的な設定とスピード経営は、ITCにとっても非常に重要なことであり、戦略の策定や、活動・成果のモニタリング/コントロールにおいても、 効力を発生するものと思われる。
 また、全体を通じて言えることだが、従来の考え方(JIT・SCM・ABC)も言及しながら、それらとTOCとの相通ずる点や異なる点についての解説もあり、 図解等を多く取り入れ、非常にわかりやすく解説されており、TOC(Theory of Constraints:制約条件理論) ・スループット会計・思考プロセスについての入門書として、最適な図書ではないかと思われる。

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: 戦略的バランス・スコアカード 推薦日:2003/03/24
書評者: 渡辺 聡 所属先: キヤノン販売株式会社

【要約と書評】
要  約
優れた業績評価システムとして生まれたバランス・スコアカードであるが、やがて優れた戦略的マネジメントシステムとしての評価が加わり、 米国~ヨーロッパ~アジアへと導入機運の国際的な広がりを見せている。 本書はそのような時代の変遷をふまえながらバランス・スコアカードの可能性を柔軟な視点からとらえ、その魅力を具体的に伝えている。 パートIからパートVまでの構成の中にテーマ別に12の章が扱われ、巻末には補論として視点ごとの業績評価指標のサンプルが掲載されている。 著者は「例示した業績評価指標を絶対視してはならない。」と断っているが、 ITソリューションの観点からバランス・スコアカードを捕らえようとする場合には参考になる補論である。 パートIではバランス・スコアカードの生まれた歴史的背景と基本コンセプトを紹介し、パートⅡでは具体的な構築方法を詳細に解説している。 一般的に有名になった米国企業の導入事例ではなく、特色あるヨーロッパ企業の導入事例が豊富に紹介されている。 パートⅢでは実践面における課題として、ITソリューションとの融合やナレッジマネジメントとの連動というチャレンジングなテーマが扱われている。 ITCプロセスにバランス・スコアカードを活用しようと考えている向きには大いに参考になるはずである。 パートⅣでは投資家をはじめとするさまざまな対外関係者に向けての情報伝達手段としてバランス・スコアカードの可能性と、 公共部門などの非営利組織におけるバランス・スコアカード活用の可能性を解説している。 ここでも中央政府、地方自治体、独立行政法人とさまざまなケースを具体的に取り上げており興味深い。 最後のパートⅤでは、バランス・スコアカードを導入しようという場合におけるプロジェクトの運営方法が具体的に語られ締めくくられる。
書  評
 本書は「経営改革を実現したい」、「経営品質を継続的に向上させたい」と考える経営者やマネージャに、 バランス・スコアカードがそれを実現する有効な方法(ツール)であることを実感させてくれる。 また、バランス・スコアカードを運用する上で、ITの支援が不可欠であることを明快に理解させてくれる価値ある一冊である。
 戦略的マネジメントシステムとしてのバランス・スコアカードにおいて、著者が全編を通じて強調しているのはその柔軟性である。 柔軟性とは企業の規模を問わず導入できること、トップがイニシアチブをとるトップダウンアプローチと、 現場レベルの一部門から導入を進めていくボトムアップアプローチのどちらでも進められること、 因果関係が明確であれば視点やCSFやKPIを自由に設定できること、 企業のあらゆる階層のあらゆる職種のメンバーがプロジェクトに参画できるシンプルな構造を持っていることなどである。 この柔軟性という特長はITCプロセスでバランス・スコアカードを活用しようとする場合においても、その全てのフェーズで高い親和性が期待できる。 私自身はITCプロセスの中でも経営戦略策定フェーズから戦略情報化企画フェーズへの移行段階に最も多くの課題を認識しているが、 第8章はITソリューションとバランス・スコアカードの融合についての重要性が解説されており、このフェーズ移行部分における様々な成功のヒントを提供してくれる。 またバランス・スコアカードによるマネジメントシステムが動き出すことはITと融合した優れたモニタリング&コントロールの仕組みが働きだすことを意味し、 経営品質向上を目指したプログラムの開始をごく自然に促してくれる。
 一方で著者はバランス・スコアカードそのものの完成ばかりに目を奪われることに警鐘を鳴らしている。 良いバランス・スコアカードというものは存在しないし、悪いバランス・スコアカードというものもまた存在しないのだと語り、 バランス・スコアカードを完成させることに重きを置くのではなく、バランス・スコアカードを構築するプロセスにこそ重きを置いて欲しいと強調している。 具体的には経営者から現業部門まで様々な階層から多くのメンバーが入れ代わり立ち代りプロジェクトに参画し、 自由闊達なコミュニケーションの中から全社員の思いのベースを作り、全員が納得しうる明確な因果関係で結ばれたCSFやKPIを抽出することが重要なのだと主張し、 それはどの章においても繰り返し強調されている。 バランス・スコアカードを戦略的マネジメントシステムとして導入し、マネジメントコントロール行うことは組織内のコミュニケーションを変革し、 ひいては知的資本が評価され活用されていく、いわゆるナレッジマネジメントが回りだすことをも促すのである。
 企業の競争力を向上させる目的においても、バランス・スコアカードはその威力を十分に発揮する。 ジェネリックモデルを参照しながら短期間で構築される新しいビジネスモデルは、ともするとベストプラクティスからのつまみ食いの様相を呈する危険があるが、 新しいビジネスモデルのマネジメントコントロールをバランス・スコアカードによって実践していけば、本来その企業が持っている強みにフォーカスが当てられ、 やがてそのビジネスモデルは企業のコンピタンスを明確に反映したものへと洗練されていくはずだと論じられている。 このことは100社の企業があれば100通りのバランス・スコアカードが存在するといわれ、 成功しているバランス・スコアカードとは、企業のコアコンピタンスを明確に記述したものなのであるという主張の中で明らかにされている。 この点についての考察は第6章に詳しい。
 プロジェクトマネジメントとの関係においては、第12章にバランス・スコアカード導入プロジェクトをスタートさせる上での様々なチェック項目が解説されている。 プロジェクト立ち上げからプロジェクト計画にいたるフェーズに関して、バランス・スコアカード導入プロジェクトを成功に導くための様々な課題が理解できる。 バランス・スコアカードを導入してみたいと盛り上がった読者の意欲をさらに後押ししてくれる。
 最後に、ITCにとって優れたテキストと評されるべき本書ではあるが、気になったところをいくつか指摘したい。 翻訳書である本書はやはり翻訳のプロセスに大きな影響を受けていることは否めない。 本書の著者はスウェーデン人であり原著はスウェーデン語で書かれたそうである。 その後、英語に翻訳され米国で出版されたとある。おそらく日本語訳を受け持たれた吉川武男教授は英語版からの翻訳を行ったと思われる。 スウェーデン語から英語、英語から日本語というトランスレーションを受けて、日本語としてやや理解しづらい表現になってしまった箇所があることが残念である。 次に指摘したいのはITソリューションとの融合についての章である。 バランス・スコアカードの実践においてITの支援がいかに重要かは理解できるのだが、こぢんまりとしたツールの紹介に終わってしまっている点が残念である。 本書のテーマが戦略的マネジメントシステムとしてのバランス・スコアカードであることを考えると、 統合基幹システムとの連携などチャレンジングな分野での可能性をもっと積極的に考察するべきではなかったか。 このようなテーマを扱った著作の登場が今後望まれるところである。

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: コスト戦略と業績管理の統合システム 推薦日:2003/03/28
書評者: 上原 啓史 所属先: 鹿島建設株式会社

【要約と書評】
要  約
 本書は、管理会計から経営戦略をロジカルに導く統合システムとしての、 ABC(活動基準原価計算、Activity Based Costing)の実践書である。 原題は「Cost & Effect」であり、 ABCでは因果関係(Cause & Effect)が重視されることに引っかけている。 キャプランとクーパーはABCの提唱者であり、キャプランはさらにこの考えを発展させ、バランスド・スコアカードという戦略経営のモデルにたどり着いた。 本書は、製品や顧客ごとの収益性を正しく評価し、選択と集中の競争戦略に結びつける具体的な方法を、実例で簡潔に分かりやすく説明している。 さらに、ABCからBSC、さらにEVAとつながる大きな現代管理会計の潮流が理解できる。
書  評
 本書は、管理会計から経営戦略をロジカルに導く統合システムとしての、 ABC(活動基準原価計算、Activity Based Costing)の実践書である。 原題は「Cost & Effect」であり、 ABCでは因果関係(Cause & Effect)が重視されることに引っかけている。 因果関係というのはバランスド・スコアカード(BSC)の主題であり、まさに、ここにキャプラン教授の思いが込められている。
 バランスド・スコアカード関係の書物の多くは、現実の戦略、つまり製品ポートフォリオとか顧客ポートフォリオなどをロジカルに導く方法論を具体的に提供していない。 そこを埋めるのが本書であり、キャプラン教授らの2作目「キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード」と合わせて読めば、 ABCからBSC、さらにEVAとつながる大きな現代管理会計の潮流が理解できる。
 また、よくあるABC関係の書物は新しい原価管理の手法の説明から入り、その応用や適用例を示すものが多い。 それとは対照的に本書は、財務のための管理会計、業務のための管理会計、戦略のための管理会計という明確な目的の違いを示し、 企業の管理システムのあるべき発展の姿を4つの段階を経て自然に導いている。 つまり、戦略経営というゴールを念頭において、そこに至る道しるべを経営陣に見せて行くツアーのような書物である。
 キャプランとクーパーは1988年ごろにABCを提唱し、ABM(Activity Based Management)、 ABB(Activity Based Budgeting)と理論を発展する中で1992年にBSCという戦略経営のモデルにたどり着いた。 この流れでモデルを捉えると、管理会計のロジックとしては自然で非常にわかりやすい。 この学問的な経営モデルの発展を、経営者の頭の中の一つの旅として表現しているところは面白い。
 グローバリズムと資本主義の終焉として、世界的なデフレ経済、ゼロサムの世界がやってくる。 市場はすでに供給サイドから需要サイドにシフトし、企業は少品種多量生産から多品種少量生産へと戦略の転換を迫られている。 このことは製品の製造よりも研究・開発や販売支援などの間接コストの比重が高まり、伝統的管理会計では正しい収益性の判断が出来ないことを意味する。 また、イノベーションなき市場では選択と集中による競争戦略しかない。 よって、コアコンピタンスを活かしながら、収益性を考慮した最適の製品ポートフォリオ、顧客ポートフォリオを管理することが必要となる。
 本書のエッセンスの一部を簡単に紹介しよう。
 経済学でよく使われるパレ-ト理論では、一般的に全体の20%の製品群(あるいは顧客群が)収益の80%を稼ぎ出しているといわれる。 正しい収益性の情報を経営管理に使えば、何を取り何を捨てるかの判断が出来る。 製品や顧客を絞ることにより準固定費に生じる未使用のキャパシティーを再編成して戦略的なコストダウンが可能となる。 また、振替価格を設定することにより、収益性のない製品や顧客に過大な営業費用をかけることを防ぐことができる。
 また、予算管理については、定常的な業務的管理と戦略的管理を区別し、業務予算は慣習的なギャップ分析による管理、 戦略予算は年度予算にとらわれない柔軟な予算策定の仕組を提案している。 これは日本の経営者には奇異に見えるかもしれないが、最近になって欧州を中心に予算レス経営モデルとして実施され、成功例が報告されている。
 本書では、このようなことを管理会計の視点から説明し、具体例を用いて、いかにABCの管理手法が問題解決に役立つかを明快な論理で説明している。 翻訳本特有の読みにくさもなく、訳文で説明しきれないところは、訳注を設けて丁寧に解説を加えてある。 本書は次の2つの場面でITCの皆さんの役に立つと思う。
 まず一つ目は、コンサルタントとして、バランスド・スコアカードの導入にあたるとき、因果関係の検証のためにどうしてもABCの導入を薦めたくなる。 しかし、日本の経営スタイルにABCは向かないといわれてきた。 余剰キャパシティーがあるからといってすぐに人を解雇できるわけではないし、収益性がないからといってすぐに顧客との関係が切れるわけではないからだ。 しかし、ゲームのルールは変わったのである。 クライアントが「選択と集中」戦略を望むなら。 きちんと製品ポートフォリオ、顧客ポートフォリオとして、製品(顧客)リストに収益性をつけてメニューを示し、経営者の客観的な判断材料を提供することのメリットは大きい。 その意味で、本書が示す適用モデルや実例は大変役に立つ。
 二つ目は戦略的情報化投資のコンサルティングにおいては、クライアントから費用対効果を示せと必ず言われる。 バランスド・スコアカードだけで投資効果評価を説明して満足するクライアントは少ない。 彼らは予測を要求し、投資回収率を知りたがる。 これに答えるプロセスは、まずABCで業務プロセス改善による効果をプロセスごとに予測し経済効果に換算する。 次に、既存の収益モデルの類推で戦略事業分野の収益性を予測する。 そして、バランスド・スコアカードで各視点ごとの目標に割り振る。 最後に、EVA分析によって、キャッシュインフローだけでなく、人材や知財の経済価値を加味した企業価値の向上を測定しROIを求める。 この戦略的管理会計の基本モデルで説明すれば、予測や価値評価に恣意性が残るものの、大概のクライアントは納得してくれるはずである。
 上の二つの理由により、本書はITコーディネータ必須の書として、ぜひとも活用していただきたい。 最近のビジネス書の氾濫で、ハウツー本につい手が伸びてしまうが、我々のビジネスのコア部分については、この元祖ABC教科書を体得していたいものである。

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: コンピテンシーラーニング 推薦日:2003/03/27
書評者: 森田 晋史 所属先: ジー・エー・アカデミー株式会社

【要約と書評】
要  約
 本書は、企業の採用や人材評価などに注目されている「コンピテンシー」について、その学習(ラーニング)という視点からの分析を第一部で解説している。 また、コンピテンシーとは、好業績を挙げている人の特性分析と考えられているが、実際素晴らしい業績を上げている社会人のインタビューを通じた実証研究についても取り上げている。 コンピテンシーを学習するという「ラーニング」の考え方は、本書ではじめて取り上げたトピックであり、企業における人材育成の新しい切り口を提供している。
 次に、第二部では、現実の企業活動におけるコンピテンシーの活用法について、「コンピテンシーモデルの構築」と言うテーマで取り上げている。 コンピテンシーの考え方は能力主義時代へ入った現在、人事評価制度や採用・昇進昇格制度に応用ができ、本書では、その構築モデルと検討する切り口を提供している。
 最後に第三部ではコンピテンシー概念の変遷や理論について取り上げ、コンピテンシーという馴染の薄い概念を明確に理解させてくれるとともに、関係のある実証検証を紹介している。
書  評
 コンピテンシーという概念は、アメリカを中心に研究が進められ、好業績をあげる人材の特性分析と考えられている。 能力主義が浸透してきている現在の経済環境では、コンピテンシーという概念を、人材教育や評価制度における1つのベンチマークとしての活用を良く聞く。
 コンピテンシーの考え方が重要性を高め、注目を集めるようになったのには2つの背景がある。 まず第一には、企業の経営活動が限界を迎え、20世紀型のビジネスモデルから21世紀型への経営革新に取組まなければならない環境が挙げられる。 近年の経済構造不況や情報技術の発展など、経営環境は急激に変化しており、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)に取組んだり、 人員削減などのリストラに取組む上で、人材評価システムも大きな転換期を迎えているのである。
 コンピテンシーが注目されるようになった第二の背景は、組織と個人との新しい関係を模索する時代に入ったことがある。 ストラクチャーを再構築している組織では、単なる人員削減によるリストラを推進していくのではなく、 会社の経営方針を明確にし、企業が従業員に対し、具体的なベンチマーク(またはベストプラクティス)を示さなくてはならなくなっている。 また、個人サイドでは組織に対する帰属意識は低くなり、各自のキャリア開発が必要となっているのである。
 コンピテンシーという言葉の定義は研究機関によって違っており、本書の監修した古川久敬氏は、コンピテンシーを学習の視点から捉え、新たな研究の切り口を提起している。 つまり、人にフォーカスを当て、コンピテンシーを教育していくための手法を紹介している。 これは企業サイドで、人材育成の観点から教育コンテンツの開発や研修カリキュラムを構築する上で参考にできる。 また、個人サイドでは、自分のキャリア開発を行う上での自己分析に役立つ。 これまで日本の就業慣習であった終身雇用制度が崩壊し、人材の流動化が益々活発になる労働市場では、 これから個人が自らのSWOT分析を行い、キャリア形成に取組む時代になっている。 つまりこれからの時代は、個人が自分の強みや弱みを理解し、性格面や能力面を強化していく必要があるのだ。
 個人的にコンピテンシーの捉え方として、"コンピテンシーは各個人がもつ行動パターンで、目標を達成するための法則"と広義に解釈している。 つまり個々人で物事に挑戦する行動様式のもつコンピテンシーが存在し、成功する人はある程度そのひと自身の成功法則を持っていると考えている。 ここでコンピテンシーとは、物事を処理する能力というよりは、物事を処理する行動パターンであると考えている。 また、古川氏は本書の中で、"コンピテンシーの高い人(好業績を挙げている人)は、自分のコンピテンシーを表現できる"という説明をしているが、 実際自分の周りにいる成功者と話していても、自分の成功パターン(問題解決や目標クリアのための行動様式)を整理してプレゼンテーションしてもらえることが多く、 古川氏の考え方に深く共感できる。
 さて本書は後半から日本能率協会マネジメントセンターの研究内容が入ってくるが、ここから企業経営に対する活用が具体的に見えてくるので、 ITCはバランススコアカードの"学習と成長の視点"で企業に対するコンサルティング活動を行う場合に活用できる。 ここで取り上げられているコンピテンシーモデルを構築するためのアプローチとして、 ①リサーチベース・アプローチ、②戦略ベース・アプローチ、③価値ベース・アプローチ、④統合アプローチなどが紹介されており、 コンサルティング活動にも応用しやすい内容になっている。 戦略的な視点からヒューマン・リソース・マネジメントを行うには、日本能率協会マネジメントセンターの考え方も1つの参考になると考える。
 最後に、これからの厳しい経済環境の中で、企業経営において人的資源管理を科学的に行う必要がある。 能力給を導入する場合に必要なのが客観的な人事評価システムであり、また目標管理制度の導入にも、目に見えない特性であるコンピテンシーの考え方は非常に参考になる。 これまでの日本企業には"暗黙知"の領域が多かったが、適正な評価が必要になり"暗黙知"の部分を極力減らしていく努力が必要な時代になっている。 本書は、こうした日本企業の"あいまい文化"から転換する切り口を提供してくれる一冊である。

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: 巨像も踊る 推薦日:2003/03/28
書評者: 寺坂 茂利 所属先: 有限会社JJC

【要約と書評】
要  約
 この図書は、ルイス・ガースナーがどのようにしてIBMを立て直したかを彼の経営哲学と経営方法により解説したものであり、 彼の自伝というべきものではなく、IBMの奇跡の復活の物語である。 彼はその中でまず手始めに、社内向けと社外向けの改革を行うこととなった。 まずは社内において、組織、ブランド・イメージ、報酬の改革を行った。 社外においては、それまでの官僚的な内向きの志向から、顧客・市場重視の志向へと意識を変革させた。 そして戦略としてサービス重視の姿勢を打ち出し、1993年から2001年までの売上高の伸びのうち約80%以上をサービス事業で稼ぎだした。 また重要な戦略としてソフトウェア事業の再構築を行う必要があり、OS、ミドルウェア、アプリケーションの中で、ミドルウェアに注力することとなった。 これは今後、企業を統合する方法への需要が高まると考えたからである。 そしてそのさきがけとなったのがロータスの買収であり、その後チボリ・システムズなどの買収を行い、今日のIBMのソフトウェア事業を支えている。
 このようにIBMの変革は順風満帆に見えたが、最も難しかったのは企業文化の改革であった。 企業文化は経営のひとつの側面などではなく、経営そのものである。 そして企業文化の方向性が正しければ成功を収めることができ、これらの正しさがDNSの一部になっていなければ、長期に渡って成功を続けることはできない。 IBMの企業文化の特徴は、「ノー」の文化、官僚組織の弊害、IBM語であった。 彼は8つの新しい原則及び「勝利、実行、チーム」のスローガンにより古い企業文化を打破し、休みない自己改革を続ける組織を作りあげた。 そして今「ニュー・ブルー」は、実際に企業文化を大きく変え、eビジネス戦略を基盤にますます成長をとげている。
 本書のタイトルともなった最終章「巨象は踊れないとは誰にも言わせない」では、権限集中と権限分散のバランスの重要性について述べている。 IBMという大企業(象)が、権限集中と権限分散のバランスをうまく取ることにより、敏捷で反応の早い組織に変革したなら、もはや小企業は太刀打ちできないのである。 すなわち「見事なステップを踏んで踊れるのであれば、蟻はダンス・フロアから逃げ出すしかない。」(本文より)のである。
書  評
 あの慎重なエコノミスト誌がこう論じた。「IBMの屈辱は、アメリカの敗北だとする見方がすでに出ている」このような風潮の中で、ある男がIBMを蘇らせた。 これはまさに、アメリカの面子を保った偉業とも言える。
 それをやってのけたのが、数多の経営者の中から白羽の矢がたったルイス・ガースナーである。 彼は、ハーバード大学のMBAからマッキンゼーに入り、企業戦略を学んだ後、アメリカン・エキスプレスを立て直し、その当時はRJRナビスコのCEOであった。 彼は、アメリカへの愛国心から、「自分が望んだからではなく、アメリカの競争力と経済の健全性を維持するため」、この仕事を引き受けた。 彼は最初の役員会の最後に、こう呼びかけた。「会議室を出て、会社を経営しよう。顧客と社員になるべく早く会えるように、出張予定を立てるので支援してほしい」。 これはまさに、顧客重視、トップの顔の見える経営を目指す、彼ゆえの台詞であった。 今でこそ、顧客重視、トップの顔の見える企業が増えてきているが、この当時としてはかなり先進的な考えだったであろう。 さらに今になって振り返ってみると、このときの発言が的確であり、実行すべきだった点、そして実際に実行してきた点は、ほぼすべてこの演説で述べられていたことに驚く。
 それからIBMが奇跡の復活を遂げるまでの物語が本書であるが、評者が特に注目したのがサービス事業への注力とソフトウェア事業の再構築である。 それにより、サービス事業は会社の収益源となり、さらに提供するサービスにより、顧客満足度は向上した。 そしてソフトウェア事業では、ミドルウェアをクロスプラットフォーム対応としたことで、今流行りのWin-Win関係の先駆けともなるべく、 ハードメーカー、ソフトメーカーが共に儲かる仕組みを作りあげた。 数多くの経営者が将来のビジョンやお題目を唱えることに力を注ぐのに対し、彼はビジョンを創ることや戦略を創ることでなく"実行"することに力を注ぎ、 新しいビジネスモデルを作りあげた。
 そしてIBMは現在も成長を続け、ガースナーが残した企業文化により休みない自己改革を続けている。 会社全体がPDCAのサイクルにはまっているかのように。企業文化の方向性が正しければ、しばらくは成功を収めることができると言われる。 まさに彼は、古い企業文化を打破し、新しい企業文化をIBMのDNAに刷り込んで、それをPDCAで回し、永続化させる仕組みを作りあげた。 それも最初の役員会で彼が述べた、「アメリカの競争力と経済の健全性の維持」という大命題のもとに。
 わが国でも、このような国家を憂えた経営者が続々と出てくることが望まれる。 本書はまさにバブル崩壊以降、旧体質の政治・経営手法から脱却できないでいる日本社会へ、進むべき方向性と助言を与える書であろう。

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: 経営はロマンだ 推薦日:2003/03/28
書評者: 小野 省 所属先: 株式会社日本能率協会コンサルティング

【要約と書評】
要  約
 これは、ヤマト運輸の創業者である小倉昌男氏のこれまでの半生を語る書である。 氏は宅急便を日本で最初に手がけ、今や私たちの生活にとって、なくてはならないサービスとして社会に広く浸透させ、多くの利便性を提供し続けているという、 大きな功績を築いた人物である。 氏は現在ヤマト運輸の経営を後進に譲り、ヤマト福祉財団理事長として新たな道を進み始めているが、 ここに至るまでの、幼少時代のこと、ご両親と家庭のこと、学生時代、病に倒れた療養の時代、会社員としての様々な体験、社長就任、 周りの反対を押し切っての宅急便事業の立上げと宅急便専業への転換、官僚との闘い、そして社長退任からヤマト福祉財団での仕事など、 それぞれの時代での出来事が、苦労や喜び、悲しみや怒りをまじえたリアルなタッチで語られている。
書  評
 宅急便事業は、戦後生まれたビジネスモデルの中でも、代表的な成功事例にあげることができる。 その意味で、この成功モデルが生まれ出てくる経緯や、ビジネスモデルとして確実なものになってくる過程など、 ひとつひとつの問題に、どのように対応したかを著した内容であり、経営者を支援するITコーディネータとして、この書から学ぶべきものは多い。

(1)利用者の立場に立った運送事業を目指す(事業ドメインの再構築)
 そのひとつは、やはり宅急便を考え出した経緯である。 父親から引き継いだ運輸会社の経営は、戦後の復興期から高度成長に移る激動の時代の中で、 荷主側の状況変化や、同業他社との市場獲得競争、さらには労働組合との交渉など、あらゆる場面で厳しい状況に置かれ、会社は破綻寸前だった。 追い込まれた状態の中にありながら、原点から考え直すことができたということが、大きな転機になったと考える。 昭和40年代の運送業は、大口顧客中心であり、家庭の主婦のような個人客は、遠くの身内や親戚に、何かものを送ろうと思っても、 不便と時に不快な思いをしながら国鉄小荷物や郵便小包を利用するしかなかった。 こうした今までサービスの外に置かれていた個人の客が、大きな潜在顧客であることに着眼した。 もちろんこの段階ではアイディアにしか過ぎないものであったが、その後いくつもの問題を解決しながら、 さらにはこれまでの大口法人顧客との関係を断り、宅急便に専念することになった。 氏自身は、そこに何らかの確信があったように感じられる。
 分析的なプロセスを経ての事業変換ではないが、これはひとつの事業ドメインの再構築の例と見ることはできる。 従来の大口顧客から個人客へのシフトであり、また法人客の効率一辺倒の要求とは違う、何か別なニーズを、そこに見つけたのではないかと考える。

(2)取扱高の増加と共に事業基盤の確立へ(事業としての成功要因)
 宅急便サービスを開始した昭和51年1月、初日の取扱個数はわずか11個。最初のひと月でも9000個。 1個500円で月の売上が450万円では、常識的には無謀としか言いようがない。 しかしこれが初年度の通しで170万個、2年目で3340万個、5年目で採算ラインを確保できるだけの取引個数を扱えるようになり、 やっと事業としての基盤を確立することができた。 周りの反対を押切って始めた事業であり、この間、気の休まらない日が続いたことが想像される。 それだけに業績が上がってくる足取りは、これまた何ともいえない思いだったに違いない。 ここでのポイントは、当たり前のことではあるが、数量を増やすまで粘り強くやり切ることが収益事業とするための必要条件であること。 もうひとつ忘れてならないこととして、「サービスが先、利益が後」という方針を明確にし、自分たちは何をやらなければならないのかを具体的に示し続けたことがあげられる。 インフルエンスダイアグラムによるビジネスモデルを作る場合、収益を確保するためになくてはならないのが、この取り扱い数量の拡大・増大であり、 そのための手段を具体的にすることであるといえる。

(3)規制や既成の習慣との戦い
 法治国家としてのわたしたちの国の会社経営は、何らかの制度や長い時間をかけて作られた商習慣の上で営まれてきている。 時にこうした制度や商習慣は、商売を行うお互いの利害をバランスさせるものとなり、善きにつけ悪しきにつけ、根付いている。 それだけに新参者の宅急便は、納得のいかない扱いを受けることになるが、敢然と闘いを挑んだ氏の姿勢は、読むものにとって痛快で、勇気を与えてくれるものである。 何か新しいことをやろうとする以上、何かと闘わざるを得ない。 ITコーディネータの役割も、時に古い習慣との闘いでもある以上、闘う相手や闘い方を考えて取組まなければならない。

(4)社員も巻き込んだ「全員経営」
 社員全員が経営者という考え方も、今の時代にはよくあることのようにも思えるが、 当時は、組合が、「組合つぶしの陰謀」と訴えて出るほど、認識のギャップがあったようである。 そんな状況の中で、氏自身の思いを社員に適格に伝え、意識改革をスムーズに実現できた裏には、いろいろな工夫があったと思われる。 運転手は「すし職人」のように、自分でお客の相手をしながら「すし」を握る、 多機能で気風のよさが必要だという話や、「セールスドライバー」という名称など、 経営者の方針を、わかりやすい言葉で、具体的な形で表していることが功を奏したと考える。 思わず、天井の高いクロネコマークのトラックが走る姿を思い出した。
 バランススコアカードの考え方にあるように、最終的に業績を上げるためには、財務の視点だけから戦略ビジョンを考えるのではなく、 顧客の視点、内部プロセスの視点、そして学習と成長の視点からの取り組みが重要であることが言われているが、 この「全員経営」というコンセプトは、まさに社員に最も実践的な学習と成長の機会を提供していると考えることができよう。

(5)人間をどう捉えるか(経営の哲学・ビジョン)
 こうしたひとつひとつの出来事を語る行間に、常に氏の人間に対する一貫した思いが感じられ、 現在のヤマト福祉財団での話を読んでいくうちに、推理小説の謎解きを読むような納得感を覚える。 「障害を持ちながら働いている人に、月1万円程度の給料しか払えないのは経営が悪いからだ。」と言い切る氏の言葉に、一人一人の存在を、なによりも大切にするという思いを感じる。 それが、顧客であり、社員であり、今、目の前にいる障害を持った人たちに対しても、同じ目線で見ていると思わざるを得ない。 同時に、これが宅急便という新しい事業を起こす原動力であり、いわゆる経営理念やビジョンなのだと感じた。
 ITコーディネータは、経営者を支援し、その企業の業績回復や成長を支援することを通して、産業の発展に寄与するものとされているが、 さらに、氏の思いから学び引用するとしたら、より多くの人が、より重要な役割をもって、 社会参加できるビジネスモデルができた時こそが、産業の再生といえる時ではなかろうか。
 氏の心の中にあるものを、正しく理解できているかどうかはわからないが、こうした考え方を共有できるようになるためには、 まだまだ自分自身を成長させなければと、頭が下がる思いで読み終えた本であった。

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評

図書名: チェンジ・ザ・ルール! 推薦日:2003/03/24
書評者: 碧木 和直 所属先: 

【要約と書評】
要  約
 ERPソフト製作会社の主人公が顧客から在庫削減の目的で導入したERPが当初の目論見から大きくはなれ、在庫削減どころか在庫が増加したとのクレームを、 顧客と一緒になって原因を突き止めて、当初の予想を上回る効果を挙げていく過程を小説として描いた内容となっている。
 なぜ、在庫が増えていったのかを一つ一つ検証していく過程で、ERPとは何かを根本から考えさせられる内容となっている。
書  評
 あのTOC理論の提唱者でベストセラーとなった"ザ・ゴール"の著者であるゴールドラットの第三作目の著書で、 一作目から、業務改革を志すものには大変に参考になるTOC理論をわかりやすく、かつ楽しく理解できるように小説で説明されたシリーズの最新作である。
 一作目の"ゴール"は業務改革、特に工場内における生産性の改善に大きくヒントとなる考え方をわかりやすく説明しているが、 今回の作品である"チェンジ・ザ・ルール"はITC、ITCを目指す人および、システム関係者、経営者に必読の一冊になると思われる。
 何のためのシステム導入か?
 なぜERPが必要か?
 ERPは効果があるのか?
 本当に効果の出るシステム導入(IT化)とはどうあるべきかを主人公ERPの開発責任者の目を通してさまざまな懸念、抵抗、危機、葛藤などの障壁を克服していきながら、 システム導入のあり方の根本を問いただす内容となっている。
 これからERPの導入を考えている人、ERPを導入したが効果が出ていない企業関係者にはぜひ読んでほしい一冊である。
 内容の形態は、シリーズ一作目から変わらず、わかりやすく、楽しく問題が身近に感じられるようにディテールまでこだわった完成度の高い小説となっており、 小説を楽しみながら、問題の本質を考えさせる内容形態は一冊目からなんら変わらずとても理解しやすい。
 小説を読み進めていくうちにERP導入がなぜ失敗するのか?ERPの効果を本当に発揮させるにはどうすればいいのかを、 主人公と一緒に読者が考えて行けるのが、ただの入門書と大きく違い、真のIT化、効果の出るIT化とはどうあるべきかを考えさせられる。
 また、ERP開発者の現状抱えている問題、通常では知りえない苦悩までが、ひしひしと伝わってくる内容も新鮮で面白い。
 最近のERPは多機能ではあるがユーザーフレンドリーではないと感じている諸兄も多かろうと思われる。
 かくいう私自身も一ユーザーではあるが、大いに不満を持っていた。
 なぜこのような複雑なつくりになっているのか長らくの疑問であったが、その原因のついても言及し、その対策についてわかりやすく解説してあった。
 企業が本当にシステム導入で効果をあげたいのなら、安易に各部門の要求をシステムに取り込むのではなく、「真に」効果のでるビジネスモデルの構築が必要不可欠であり、 これは、要求を掛け合わせたものではなく、また、各部署の部分最適を求めるのでもなく、ビジネス全体を通して全体最適が重要であり、 これなくしてはERPを導入しても決して効果は出ないことを、わかりやすく理解できる内容である。

 この論旨はなにもERP導入だけの問題ではなく、著者ゴールドラット氏がシリーズを通して全体最適の重要性を一貫して主張してきたものである。
 彼はこれらの内容をTOC理論とし、その理論を提唱してきた。
 今回の内容が、ITCと直接かかわる企業のIT化を問う内容であるばかりか、実際にありそうな問題までもシュミレートした内容となっていることが、 大きな目玉になっているように感じるのは私ばかりではないだろう。

 シリーズ一作目から通して読まれるとTOC理論について理解できると思われるが、この著書だけでも読まれれば、 現在ERP導入局面で抱える問題点とその解決のためのヒントが得られること請け合いである。

 ぜひ一読をお勧めしたい一冊である。

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評

図書名: マネージャーのための経営指標ハンドブック 推薦日:2003/04/23
書評者: 渡辺 聡 所属先: キヤノン販売株式会社

【要約と書評】
要  約
 題名が示すとおり、本書は現場のマネージャーが様々な経営指標を自分の担当分野の中で活用し、仕事の成果に結びつけることを目的に書かれている。 具体的には自社や自部門の業績評価を正しく行うことや、取引先企業の経営状態を的確に把握することなどである。 ハンドブックという名の通り、いつも手元において参照することを想定した構成になっている。 特色としては、パート1からパート5までの構成の中に企業活動の内容別に ①営業活動に関する経営指標、②財務活動に関する経営指標、③株式市場に関する経営指標という分類がなされていること。 また、企業会計の枠組み別に①財務会計、②管理会計、③新たな会計の枠組み(キャッシュフロー、企業価値指標、時価会計など)という分類がなされていること。 さらにグローバル経営の視点から米・欧・日の経営指標の比較がデータをもとに解説されていること、などがあげられる。 これらの多次元的な分類方法を採用することにより、誰にとっても使い勝手の良い仕上がりになっている。 ITCプロセスにおいてクライアント企業の支援を行う場合、財務的指標と非財務的指標を目的に応じてバランスよく組み合わせて目標を設定しなければならない。 その点においても「企業活動の何を見たいのか?」という観点から容易に必要な経営指標にたどりつけるように書かれている。 また、クライアントの経営成熟度によっては投資プロジェクトの評価や株主付加価値(SVA)に重点を置いた目標設定が必要になる場合もあるだろう。 本書においてはパート5でそのような新しい潮流を取り上げ平易に解説している。 クライアントの求める姿を実現するのに必要な経営指標のほとんどが本書の中に網羅されているのである。 なおかつ、リファレンスとして使い勝手の良い構成に仕上がっている。ITC活動の実践に役立つ良書である。
書  評
 ITCの中には企業会計の知識に関して、「どうも自信がない」という方が意外に多いのではないだろうか。 評者は間違いなくその一人である。 ITCの中でも公認会計士や税理士などの専門分野をすでに確立されている方や、会計システムの開発に長年かかわってきた方などは、 企業会計に関する高度な知識をすでに備えており、ITC活動においても各種経営指標を適切に使いこなしているものと思われる。 自分の弱い分野を互いに補い合いながら、クライアント企業の期待に応えていくのがITC活動の理想的なありようの1つであるが、 他のITC任せとか、あるいはクライアント企業とすでに契約をしている会計士や税理士の方にお願いしてというのでは何とも情けない。 やはり最低限の知識は当然備えておくべきである。 企業会計の知識を基礎から確実に身につけるには、伝統的なアプローチであるが、やはり簿記の学習に継続的に取り組むのが王道のようである。 日商簿記検定のできれば1級、少なくとも2級レベルの知識というのが望ましい姿だろう。 とはいえ幅広い知識領域を求められるITCである。 じっくり腰をすえてという訳にも行かないのが実情である。 そのようなときには効率を考えて、ショートカットの学習法を探し出すのが得策である。 評者が本書に出会ったのはバランス・スコアカードの学習を行いながら、 財務・顧客・業務プロセス・学習と成長という各視点でのCSFにおいて、適切な業績評価指標は何かということに悪戦苦闘していた時である。 特に難しいのが財務の視点の業績評価指標であり、成長性・収益性・安全性・生産性をはじめとした代表的な領域で使われる経営指標だけでも50個以上が数え上げられる。 それぞれの経営指標をどのような時に、どのように使うのが効果的なのか、ということを理解するのは非常に難しい。 また、因果関係として各経営指標がどのような関連性を持っているかを分析するなどという領域に入ると最早お手上げである。 しかしながら、これらは避けては通れない課題であり、スキルとしても身につけておかなければならない。 そんなことを考えているときに「何か良い参考書はないか」、と情報を収集して探し出したのが本書である。 本書の特色は要約に述べたとおりであるが、まずは翻訳書にありがちな読みづらさが全くない。 外国語を専攻しビジネスの現場で豊富なコンサルティング経験をつんだ方が翻訳を担当したのが良かったのだろう。 肝心の内容であるが、まずは「目で理解する」ことに重点が置かれている。 どのページを開いても右側に表やグラフやフローチャートといった図表が必ず用意され、左側にその解説が平易な表現で書かれている。 数値の増減、比率の変化、数値同士の比較といった指標のとらえ方、使い方や、指標を求める数式、指標を表す関数の持つ意味などが、 まずは視覚的に理解できるように表現されているのである。 また、5つのパートの各章のタイトルも「企業活動の何を見たいのか?」あるいは「企業業績のどこを評価したいのか?」という視点でわかりやすく書かれている。 とにかく必要な項目にすぐにたどりつけるのである。
 冒頭にも述べたが、企業会計の知識に関して、「どうも自信がない」というITCに特にお奨めの一冊である。 しかしながら、しっかりとした知識として企業会計を身につけ、経営指標を的確に使いこなすには、やはり簿記を中心とした学習が欠かせないと改めて認識させられる一冊でもある。 解説本を片手に行うITC活動ではやはり迫力に欠けそうである。 ITC協会認定研修に企業会計の専門コースが加わるのが望まれる。
 最後に注意事項をひとつ、本書の著者はアイルランド人であり、発行元は英国のフィナンシャルタイムズ社である。 そのため英国会計基準に強く影響を受けているようである。 また厳密に国際会計基準の流れを反映させたものでもないようである。 本書を財務会計の専門書として、あるいは学術書として読まれる方はまずいないだろうが、念のためその点を申し添えておきたい。 この書評はあくまでITC活動における実用書としての価値を述べたものとご理解いただきたい。

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評

図書名: 静かなリーダーシップ 推薦日:2003/04/01
書評者: 野崎 晴雄 所属先: 株式会社横山商会

【要約と書評】
要  約
 本書は新しいリーダーシップ像の話である。従来のヒーロー型リーダーシップでは評価されない「保身」と「倫理」について深く考察されている。 自らの地位や評判を守りながら倫理的に正しいことをするために周囲に影響を与え動かすことを「リーダーシップの発揮」とし捉えている。
 著者はリーダーシップの研究を続けるうちに、世界を動かしている本当のリーダーとは「静かなリーダー」であることに気がついたのである。 「時間を稼ぐ」「具体的に考える」「少しずつ徐々に行動範囲を広げる」「規則を曲げる」「妥協案を考える」等の行動パターンと、 本質的な特徴としての「自制」「謙遜」「粘り強さ」によって、忍耐強く慎重で、段階を踏んで行動し、犠牲を出さずに、組織や自分にとって正しいと思われることを実践する 「真のリーダー」の姿を奥深く解説している。
書  評
 リーダーシップという言葉から連想されるのは「ぐいぐいと引っ張ってゆく偉大なリーダー」「困難に立ち向かうリーダー」「勇敢で高邁な理想のための自己犠牲」等 に代表される、いわゆるヒーロー型リーダーシップである。 これらは我々が「見習うべきリーダーの姿」として存在し讃えられている。 しかし本当にそうだろうか?

 実社会においてヒーロー型のリーダーシップを備え、実践し、歴史に名を残す人はピラミッドの頂点に位置するごく一部の人間でしかない。 そしてピラミッドの最下層には「人生の傍観者」「怠け者」「臆病者」が居る。 ではそれ以外の人々はピラミッドのどこに居るのであろう? この本の冒頭にはアルバート・シュバイツァーによる大変に興味深い、真の言葉が述べられている。

 「・・・(中略)・・・その他の人はすべて、人目につかない小さな行いに甘んじている。 しかし、こうした小さな行いの積み重ねは、大衆に広く認められる行動よりも、何千倍も強いものだ。 小さな行いの積み重ねが深い海洋なら、大衆に認められる行動は、その海洋に浮かぶ波の泡のようなものである。」 これは驚くべき、ほとんど過激ともいえる発言である。 あの偉大なアルバート・シュバイツァーが、人間の世界で偉大な人物が果たす役割は、皆が思っていたほど偉大ではないといっている。 偉大な人物を「泡」にたとえ、「人目につかない小さな行い」の方を讃えている、と著者は述べている。

 企業をコンサルティングする。プロジェクトを立ち上げ、これを遂行する。 この高邁な勇気ある目的を掲げて行く者にとって、「静かなリーダー」のアプローチは、やや「肩すかし」を喰わされたように思うかもしれない。 しかし著者はリーダーシップの研究を続けるうちに、真のリーダーとは「静かなリーダー」であると気づいたのである。

 「静かなリーダー」は現実主義者である。世界をあるがままに見ようとする。 組織には「利己主義」「近視眼的視点」「不正が崩壊した忠誠心」「人間の本質」という昔ながらの要因が交ざり合い混乱が続いている。 「静かなリーダー」は、現実主義者としてこのような事態を受けとめる多くの方法を知っている。

 本書はリーダーシップに対し「斜に構えた」冷笑的な見解を述べているのではない、また宗教書のように教訓と救いを並べた本でもない。 忍耐強く慎重で、段階を踏んで行動し、犠牲を出さずに、組織や自分にとって正しいと思われることを実践している「静かなリ-ダー」の姿を解説し描いている。

 更に著者は豊富な事例研究を基に、「時間を稼ぐ」「具体的に考える」「少しずつ徐々に行動範囲を広げる」「規則を曲げる」「妥協案を考える」など、 幾つかのガイドラインを提供し、それらの正当性と必然性を述べている。 「もちろん、時間を稼ぐのは、少しばかり古い手である。 雑誌では、世界のスピードが加速しインターネット時間で働く時代が到来したと告げている。・・・(中略)・・・ このようなスピード勝負の世界で、時間を稼いで、果たして意味があるのか。 驚くべきことに答えはイエスである。・・・(中略)・・・この常に変化する予想不可能な世界では、流動的で多面的な問題に対して、即座に対策を考えるのは無理である。」 時間を稼ぐことは臆病で混乱しているからではなく、確信の持てない目前の出来事に対する健全で正直な感想である。 とも述べられている。

 これらの実践的なアプローチこそが、我々の行動を正しく慎重に導いてくれるのではないだろうか。 そしてまた「静かなリーダーシップ」を実践するにあたり、「自制」「謙遜」「粘り強さ」という特徴についても深く掘り下げ述べられている。 これらの特徴は日常的で静かな特徴であり、「ごく普通に見られる自然で賢明な発想や行動パターンなので、ほぼ誰でも静かなリーダーシップ特徴を実践できる。 特別な人や特別な行事の時だけの特徴ではない」、この見解こそが本書が伝えようとした大きな意思の一つに違いない。 そして私自身が本書を推薦する大きな理由である。

 経営者、管理職、コンサルタント、コーディネータの立場にとって、これらのガイドラインと深い考察は、決して心を高揚させ鼓舞させる響きを持つものではないが、 心の奥底に深くしっかりと沈んで行く。 この本を読み終えた時、心に湧き上がってくるのは、穏やかで、注意深く、周囲と自分を見つめ、静かに、正しく、粘り強く行動する必然性である。

 ヒーロー型リーダーシップでなく、「静かなリーダーシップ」こそが、現実社会の多くの場合において世界に影響を与えているのである。 本書を推薦する言葉として、ハーバード大学 ディヴィッド・ジャーゲンの言葉を引用したい。
  崇高な目的の為に障害を乗り越える
  ヒーロー型のリーダーに皆わくわくする。
  しかし本書を読んでみれば、
  無数の無名の人が、世界を動かしているのが分かる。
  バラダッコの洞察力と理解は深い。
  中間管理層として
  リーダーシップを発揮しなければならない人は
  本書から学ぶことは非常に多いだろう。
2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: 浜田広が語る「随所に主となる」人間経営学 推薦日:2003/03/28
書評者: 滝井 信幸 所属先: 

【要約と書評】
要  約
自らを本質論者と語る著者浜田広氏の経験と思考に基づく経営哲学、行動原則、人生観を、他にないユニークな視点と表現を通して書き綴られており、 実際にそれらを日々実践している浜田氏自身の強い思い(書籍では人間経営学とタイトルされている)が判りやすく記されている。
書  評
本書は、(株)リコー代表取締役会長であり、日本経団連副会長でもある浜田広氏が、 常々リコー内部はもちろん、社外でも機会がある毎に語っている彼自身の哲学ともいえる考え方や行動指針について、 フリーライター大塚秀樹氏が長年に渡る取材、インタビューに基づき対話形式で纏め上げたものである。

その内容は、「お役立ち」と「納得」をキーワードにして、経営者やマネージャー、企業組織で働く社員に対して、広く判りやすい表現で行動原理を説いている。 それらのメッセージに共通して言える点は、浜田氏自身がヒラ社員の時代から現場組織の中で見て、感じて、考えてきた、 一種の真理と言い換える事が出来るかもしれないが、いわゆる経験に基づく解だということである。

第一章 リコーの軌跡 - 非常事態脱出、快進撃へ では、
リコー初の経営赤字を記録した1991年に自らリストラに取り組んだ事実を下敷きにして、 現在の閉塞感と将来への不透明感が強い、低成長・マイナス成長状態時での事業の再構築に対する考え方と、 それに欠かすことの出来ない能力と人材を生かしきることを、「社員の納得」とリコーの取り組んだCS経営、環境経営を通した求心力で語っている。

第二章 逆こそ真なり -私の経営哲学 では、
彼の最大の経営キーワードである「お役立ち」についての考え方を述べ、 『本質を見極めるための「WHAT」と「HOW」』、『納得できない仕事はしなくてもよい』、『随所に主となる』、『無意味な人事ローテーション』など、 一見理解できないような表現すら交えながら、経営や組織に本質だけを追求する姿勢を判りやすく説いている。

第三章 わが行いにせずば甲斐なし -私の行動原則 では、
二章で説いた本質的思考を実際のアクションに移すときのポイントを、彼自身の心得から話している。 『まさか死刑にはなるまい』、『「寒い」「暑い」「疲れた」「忙しい」とはいわない』、『説得力とは何か』、『現場・現物主義こそが経営の原則』、 『情報は現場に聞き、支持は組織を通せ』など、これもまたユニークな視点と言葉で語られている。

第四章 リーダーの条件 では、
組織を背景に上司と部下の関わりやマネージメントについて、本人がヒラ社員の時に会得したという"上司とは、部下の役に立つべき存在である"と定義し、 管理職の資質や心得るべきことは何かについて言及している。 『「いい奴」と「有能な奴」ほどダメ上司になる』、『美点凝視で部下を育成しろ』など前章までのユニーク路線を踏襲する判りやすい表現に加え、 『人間の能力-理解>思考>表現>行動』では、人間そのものに帰納するような人の能力に対する浜田説や、 (株)リコーの創業者であり"経営の神様"と呼ばれた初代社長の市村清氏、 そのカリスマ的経営者の跡をついで、デミング賞受賞を旗印にして全社員の求心力と体質改善を実現した二代目社長の館林三喜男氏のエピソードや、 浜田氏が社長を退いた理由、浜田氏の後を継いで社長となった現社長 桜井正光氏を選んだ理由など、 リコーという現実の企業を背景にリーダー(経営者)が必要とする資質、備えておきたい考え方にも具体的に触れている点が非常に興味深い。

第五章 これからの時代を読む では、
これまで説いてきた本質的行動原則からすこしはなれ、企業や、日本経済が進む方向性について、取り巻く環境の変化に押さえながら浜田氏ならではの考え方を記している。 もちろんここでも、本質を外すべきではないと一貫して警告を鳴らし続けながら、 『失敗の本質-原理原則から外れると破綻を招く』、『外国からの投資で日本は救われるか』、『変化にどう対応するか』、『雇用の流動化をどう考えるか』など話は進んでゆく。

共同著者である大塚秀樹氏が問いかけ、浜田広氏が応ずるようなインタビュー形式で主文が展開するため、総まとめのような章があるわけではないが、 あとがきとして大塚秀樹氏が浜田広氏との初めての出会いから受け得ている印象、人物像を語っており、タイトルに人間経営哲学と記す由縁を簡潔に結んでいる点も見逃せない。 いわゆるあとがきではなく総括といっても過言ではないだろう。

全編を通じてまず言えることは、その一問一答形式で書かれた主文の中から、 常に本質や真理を定義するという浜田広氏の考え方が一貫して流れており彼の思慮深さと哲学だけでは終わらない行動原理がビンビンと伝わってくる。 しかし各メッセージの表現は物事を突き詰めて考える深さや難しさとは全く裏腹に、 とてもユニークであらゆる立場(企業にたとえるなら経営者、管理職者、一般社員など)の人々にもわかりやすく綴られている。 ひょっとするとこれも、その思慮深さを追求する事によりなせる技なのかと勘繰ってしまう程である。

日頃ぼんやりとでも何か思う所がある人が読むことによって、もつれた釣り糸をほどくような謎解きをしてくれる可能性を持ち合わせているのはもちろんだが、 もし、普段あまりそのような観点で物事を考えていない人が偶然本書を手に取ったとすると、読み終えた時に日常の物事の考え方に対して強烈なインパクトを受けることになるだろう。 読みやすく、やわらかい言葉に包まれてこそいるが、とても芯のしっかりしたメッセージがコアとして脈々と流れている事が本書の真価である。

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: PMBOK準拠ITプロジェクトマネジメント テキスト 推薦日:2003/03/28
書評者: 西澤 利治 所属先: 株式会社電脳商会

【要約と書評】
要  約
 本書は、IT分野における中級プロジェクトマネージャを育成するための実践教材として、 日本プロジェクトマネジメントフォーラム(JPMF)の教材SIGにより編集・開発された。
本書の特徴は、プロジェクトマネジメントの国際知識標準であるPMBOKのスキームを、ITシステム開発プロジェクトにおけるベンダーの視点で再構築した点にある。 PMBOK準拠のマネジメントプロセスは、特定の業界に偏らず汎用性が高いが故に、 特定分野のプロジェクトを管理するにはマネージャのノウハウとスキルが必要とされるという問題がある。
そこで本書は、人材育成の視点から、PMBOK流マネジメントプロセスをITシステム開発プロジェクトに応用するための具体的な手法を身に付けることを学習目標にしている。 そして、ソフトウェアのプロダクションプロセスの標準的な管理手法である共通フレームと、PMBOK流マネジメント技法の関連性を整理することにより、 ITプロジェクトにおける標準的なマネジメント技法の構築を目指している。
書  評
 プロジェクトマネジメントの知識標準体系として国際的に認知されているPMBOKは、 特定の業種・業界に限定されない汎用的なプロジェクトマネジメントの知識体系として構築されている。 そのため、PMBOKの知識体系は特定分野に限定されない幅広い分野のプロジェクトに対して、汎用的に適用することが可能であるわけだが、 その反面で、具体的なプロジェクトに適用しようとする場合、ともすれば「抽象的すぎる」「どう反映させれば良いか分からない」といった批判に結びつく危険性を有している。 本来のPMBOKは知識体系そのものであり、現実の特定業種における個別プロジェクトのマネジメントに適用するといったレベルの情報までは含まれていないわけだが、 そのために、実務経験の浅いプロジェクトマネージャにとっては、 PMBOKで提示された汎用的な知識をどのように具体的なプロジェクトに適用してマネジメントをすればよいのかという問題で悩むことがある。
 本書は、そうした悩みを持つ経験の少ないプロジェクトマネージャに対しての回答を与えるべく、IT分野のシステム開発プロジェクトを管理する際に、 PMBOK流のプロジェクトマネジメント技法を具体的に適用するにはどうすれば良いのか、という視点から構成されている。

 ITシステムの開発プロセスを管理するための手法として、日本では「共通フレーム」が提唱されてきた。 共通フレームの特徴は、ソフトウェアの開発工程を標準化されたプロセスごとに分割して扱うことにより、 個々のプロセスごとの管理を、統一的な基準で行うことを可能にした点である。 つまり、共通フレームの登場以前は、ソフトウェアの開発は、たとえば会社ごとに異なるプロセスで定義されていたため、 同一案件に対して作業見積や開発スケジュールを複数の会社が行うようなケースでは、表現が異なるため相互に比較評価できない、といった問題が生じていた。 これが「共通フレーム」という、ソフトの開発プロセスを表現するための標準的な物指しが登場したことにより、企業間でプロセスの定義や対象となる範囲が異なる、 という問題が解消されつつあるのである。
 ところが、共通フレームはソフトウェア開発におけるプロセスマネジメントを標準化することで改善を図る技法としては有効ではあるが、 ソフトウェア開発という「プロジェクト」そのものの管理を改善するには、十分ではなかった。
 そこに登場するのがPMBOKである。 PMBOKに集約された近代マネジメント観に基づくプロジェクトマネジメントの知識体系を、ITシステムの開発プロセスごとに応用することにより、 より木目の細かいマネジメントが実現可能になる。 そこで本書では、ITシステムの開発におけるプロセスマネジメントを実現するために、 個々の開発プロセスごとにPMBOKのプロジェクトマネジメント技法を適用するため、PMBOKを拡張・補完する、という視点から記述されている。
 いわば、ITシステムの開発プロジェクトを、共通フレームというプロセスマネジメントの視点から整理すると同時に、 PMBOKの体系をベースとしたダイナミックなマネジメント技法を組み合わせることにより、ITシステムの開発における、 より立体的なプロジェクトマネジメントの実現を目指しているといえよう。

 つまり本書は、PMBOKに提示された汎用的なプロジェクトマネジメント技法を、日本のソフト業界で普及した方法に適用するよう拡張し、 具体的なシステム開発に応用する際の具体的な知見をまとめたもの、とも言えよう。 PMBOKを基本として、個別具体的な分野に適合させるために拡張することによって、 効率の良い木目細かなプロジェクトマネジメントを提供するという発想は、今後も他の業務分野に拡大することが予測される。

 本書は、読者としてITベンダーに属するプロジェクトマネージャを想定している。 つまりは、ITCが作成を支援したRFPに対して、企業向けのシステム提案を行うITベンダー側の視点で構成されている。 いわば、ITCとは利害が相反するステークホルダーのプロダクツではあるものの、それだけにITベンダーがどのような価値観で提案するのかを評価するための参考になろう。

 なお、本書を執筆・刊行する日本プロジェクトマネジメント・フォーラム(JPMF)は、 我が国におけるPMBOK流プロジェクトマネジメント技法の普及・啓蒙を目的とする団体である。 JPMFと同趣の組織・団体としては、アメリカPMI東京(日本)支部、プロジェクトマネジメント学会などが存在するが、 本書の趣旨と類似のPMBOKを特定分野に拡張する試みとしては、 PMI東京IT委員会による、IT系プロジェクトプロセスにおける標準WBS構築の研究が行われている。 残念なことに、この研究成果は、一般には公開されていない。

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: 最速で開発し最短で納めるプロジェクトマネジメント 推薦日:2003/04/12
書評者: 徳永 祐一 所属先: 三井造船システム技研株式会社

【要約と書評】
要  約
TOCにおけるプロジェクト管理手法である、クリティカル・チェーンを紹介した書籍。 筆者は、TOCの専門家であり、TOCの概念から、クリティカル・チェーンの内容まで、コンパクトにわかりやすくまとめられている。 本書は、プロジェクト・マネージャー及びプロジェクト管理従事者。 特に、常時プロジェクトのスケジュール遅延に悩まされている人に読んで欲しい。コロンブスの卵的な気づきを得ることができる一冊である。
書  評
本書は、TOC(Theory of Constraints:制約条件の理論)におけるプロジェクト管理手法である クリティカル・チェーンを紹介したものである。

<著者>
 著者 村上悟(むらかみ さとる)氏は、ゴール・システム・コンサルティング株式会社の代表取締役。 大手製造業にて経理、原価計算を担当、社団法人日本能率協会を経て(株)日本能率協会マネジメントセンターにて、コンサルティング業務に従事。 2002年8月に退社独立。 ゴール・システム・コンサルティングは、会社名の通り、TOCを進化させた「ゴール・システム」のコンサルティングを行っている。 著書も多く、本書は、中経出版より出されている「TOCシリーズ」の第3弾にあたる。 第1弾は、「在庫が減る!利益が上がる!会社が変わる!会社建て直しの究極の改善手法TOC」、 第2弾は、「在庫ゼロ リードタイム半減 TOCプロジェクト」である。
 共著者 井川伸治(いかわ しんじ)氏は、(株)日本能率協会マネジメントセンターTOC推進センターコンサルタントで、こちらもTOCの専門家である。 著書に、「在庫ゼロ リードタイム半減 TOCプロジェクト」がある。

<構成>
本書は、序章を含めた以下の5章より構成される。
 序章 「なぜ今、プロジェクト管理か」では、
ゴール・システム・コンサルティングのキーワードでもある、「夢をかたちにする」、「会社がかわる」等の著者の基本スタンスが記述されており、著者の考えがよく理解できる。
 第1章 「進化する革新手法TOC プロジェクト管理必須のTOC・DBR理論」では、
TOCの基本的な考え方として、スループット、改善の5つのステップ、思考プロセス、DBR(Drum Buffer Rope)の解説が行われている。 これらは、エリヤフ・ゴールドラット博士の「ザ・ゴール」、「ザ・ゴール2」のエッセンスがまとめられている。 (TOCに関し、理解されている方は、斜め読みしても良い部分であろう。)
 第2章 「従来型管理技法の考え方と問題点 PERT理論とクリティカル・パス」では、
プロジェクト管理の考え方、プロジェクト・スケジュール管理の重要な概念であるPERTについての解説 及び 本書の最大のテーマである、 プロジェクトが遅れる理由について記述されている。自己の経験に照らし合わせてみても、「なるほど!」という共感するところが多い。
 第3章 「遅れを絶対に出さないプロジェクト管理 リソースを最大に活かすクリティカル・チェーン」では、
クリティカル・チェーンの考え方を解説した上で、人的リソースの活用方法 及び複数プロジェクトの最適化、開発部門への応用という観点で記述している。
 第4章 「夢を「かたち」に変えるスケジュール 開発部門のプロジェクト管理に挑む」では、
仮想の物語を通して、クリティカル・チェーンをいろいろな方面に活用することを、具体的にイメージできるように工夫されている。 事例に変わる部分だが、対話形式で読みやすい反面、クリティカル・チェーンの効能に関する説得力が少ないことが残念。

<クリティカル・チェーンとは>
「従来のクリティカル・パスに能力的に余裕がないという特性を持つボトルネックの要素を加味したもの」であり、クリティカル・チェーンは、 「プロジェクトのクリティカル・パス上の要素とボトルネック・ステップを通るパス」と考える。

<クリティカル・チェーンのポイント>
キーとなる概念は、「ある作業が予定通りに完了する確率が90%になる期間は、それが50%になる期間の3倍もある」。 つまり、ある作業の終わる確率(精度)を50%から90%に上げるために、期間が3倍になっているということである。 言い換えると、各作業者は、自己の担当する作業の納期を守るために、かなりの時間的余裕をもって完了日を申告しており、 加えて、それが、プロジェクトのいたるところで行われているということである。 この内容では、多くのプロジェクトでは、充分な時間的余裕をもっており、順調に推移するということになるが、ほとんどの現実は、逆である。 これに関し、筆者はプロジェクトが遅れる原因として以下の3点をあげている。
 (1) 余裕を無駄にするしくみと心理:遅れないように注意はするが、作業を納期前に終わろうとしない心理。
 (2) 学生シンドローム:学生時代の一夜漬けと同様に、納期ぎりぎりにならないと作業を開始しない性癖。
 (3) マルチタスク:複数の作業を並行して進める場合、思考の「段取替え」に多きな負荷がかかる。
このプロジェクトが遅れる原因に対し、
 (1) プロジェクトの遅れは、クリティカル・パス上の遅れと認識し、クリティカル・パスを管理することに注力する。
 (2) 各作業で確保しているバッファ(余裕)を取り出し、最後にまとめる。これで、完了する確率は50%に落ちるが、期間は3分の1となる。 代わりに、プロジェクトの後ろに「プロジェクト・バッファ」を置く。プロジェクト・バッファを半分にすると、プロジェクトの期間は40%短縮される。
 (3) クリティカル・パスを守るために、クリティカル・パスに入ってくる全ての合流点の前に、「合流バッファ」を入れる。 クリティカル・パスが、関連の作業に影響を受け、遅れないための方策。
 (4) クリティカル・パス上のリソースの競合をさけるために、「リソース・バッファ」を入れる。 クリティカル・パスが他作業とのリソース競合により、遅れを発生させないための方策。
ということが、クリティカル・チェーンの骨子である。
(2)が、本書の肝である。バッファをプロジェクトより取り出すことができれば、このロジックは成り立つ。 計画者それぞれが、バッファをもって計画を立てているという、皆が認識しつつ、しかし、気づいていなかったという点で、コロンブスの卵的なアプローチである。 ただし、本書には、各計画者達に、どのようにしてバッファを吐き出させるかという肝心な点の記述がなされていないことが非常に残念である。

<読んで欲しい人>
プロジェクト・マネージャー及びプロジェクト管理従事者。 特に、常時プロジェクトのスケジュール遅延に悩まされている人に読んで欲しい。 コロンブスの卵的な気づきを得ることができる一冊である。 TOCについても前半部分にコンパクトにまとめられており、TOCの知識が少ない人でも違和感無く読めるはずである。 ただし、TOC自体の学習については、シリーズ第1弾、第2弾をお勧めしたい。

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評(ジャンル別タイトル)
【C:コンピュータ、ネットワーク、IT】
 図書名をクリックすると概要が表示されます
図書名: デスマーチ S0202013
著者:エドワード・ヨードン著 松原 友夫/山浦恒央 訳
出版社:シイエム・シイ
出版日:2001年2月1日
価格:2310円(税込)
購入方法:一般書店で購入可
ISBN番号:ISBN4-901280-37-6
書評者:神庭 公祐 (所属:株式会社ケイズ)
図書名: データモデリング入門 S0202012
著者:渡辺幸三
出版社:日本実業出版社
出版日:2001年7月1日
価格:2940円(税込)
購入方法:一般書店で購入可
ISBN番号:ISBN4-534-03250-1
図書のみの推薦
図書名: 金融サービス統合のIT戦略 S0202010
著者:安信千津子/坂下正洋
出版社:東洋経済新報社
出版日:2001年12月6日
価格:2940円(税込)
購入方法:一般書店で購入可
ISBN番号:ISBN4-492-65295-7
書評者:角田 武 (所属:株式会社日立製作所) 
図書名: SunONE完全解説 S0202008
著者:土屋信明(編集人)
出版社:株式会社アスキー
出版日:2002年9月25日
価格:2100円(税込)
購入方法:一般書店で購入可
ISBN番号:ISBN4-7561-4166-8
書評者:森田 恭一郎 (所属:株式会社大和総研)

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評(ジャンル別タイトル)
【B:投資・金融・企業経営】
 図書名をクリックすると概要が表示されます
図書名: 経営はロマンだ S0202009
著者:小倉昌男
出版社:日本経済新聞社
出版日:2003年1月6日
価格: 630円(税込)
購入方法:一般書店で購入可
ISBN番号:ISBN4-532-19162-9
書評者:小野 省 (所属:株式会社日本能率協会コンサルティング)
図書名: 巨象も踊る S0202005
著者:ルイス・ガースナー
出版社:日本経済新聞社
出版日:2002年12月02日
価格:2625円(税込)
購入方法:一般書店で購入可
ISBN番号:ISBN4-532-31023-7
書評者:寺坂 茂利 (所属:有限会社JJC)
図書名: コンピテンシーラーニング S0202004
著者:古川久敬 監修
出版社:日本能率協会マネジメントセンター
出版日:2002年3月1日
価格:2940円(税込)
購入方法:一般書店で購入可
ISBN番号:ISBN4-8207-4064-4
書評者:森田 晋史 (所属:ジー・エー・アカデミー株式会社)
図書名: コスト戦略と業績管理の統合システム S0202002
著者:ロバート・S.キャプラン(著)、ロビン クーパー(著)、桜井 通晴(翻訳)
出版社:ダイヤモンド社
出版日:1998年10月
価格:3990円(税込)
購入方法:一般書店で購入可
ISBN番号:ISBN4-478-47036-7
書評者:上原 啓史 (所属:鹿島建設株式会社)
図書名: 戦略的バランス・スコアカード S0201005
著者:ニルス・ゲラン・オルヴ/ジャン・ロイ/マグナス・ウェッター(著) 吉川武男(訳)
出版社:社会経済生産性本部
出版日:2000年1月28日
価格:3675円(税込)
購入方法:一般書店で購入可
ISBN番号:ISBN4-8201-1674-6
書評者:渡辺 聡 (所属:キヤノン販売株式会社)
図書名: TOC・スループット経営 S0201003
著者:小宮一慶
出版社:東洋経済新報社
出版日:2002年6月6日
価格:1575円(税込)
購入方法:一般書店で購入可
ISBN番号:ISBN4-492-09190-4
書評者:宮田 和義 (所属:マイクロソリューション株式会社)
図書名: 大丈夫か あなたの会社のIT投資 S0201002
著者:大和田 崇、大槻 繁
出版社:NTT出版株式会社
出版日:2002年2月22日
価格:1995円(税込)
購入方法:一般書店で購入可
ISBN番号:ISBN4-7571-2078-8
書評者:大林 茂樹 (所属:大林茂樹税理士事務所)
図書名: MOT入門 S0201001
著者:山本尚利ほか(早稲田大学ビジネススクール)著 寺本義也・松田修一監修
出版社:日本能率協会マネジメントセンター
出版日:2002年12月15日
価格:2940円(税込)
購入方法:一般書店で購入可
ISBN番号:ISBN4-8207-4116-0
書評者:安川 均 (所属:ITC梁山泊)

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2010.07.09
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評(ジャンル別タイトル)
【A:ビジネス・経済】
 図書名をクリックすると概要が表示されます
図書名: 最速で開発し最短で納めるプロジェクト・マネジメント S0202011
著者:村上悟、井川伸治
出版社:(株)中経出版
出版日:2002年10月26日
価格:1365円(税込)
購入方法:一般書店で購入可
ISBN番号:ISBN4-8061-1709-9
書評者:徳永 祐一 (所属:三井造船システム技研株式会社)
図書名: PMBOK準拠ITプロジェクトマネジメント テキスト S0202007
著者:JPMF(日本プロジェクトマネジメント・フォーラム)教材整備SIG
出版社:JPMF
出版日:2002年3月
価格:2500円(JPMF非会員 税込)
購入方法:JPMFサイトより購入申込書をダウンロードし、FAXにて申込み
ISBN番号: -
書評者:西澤 利治 (所属:株式会社電脳商会)
図書名: 浜田広が語る「随所に主となる」人間経営学 S0202006
著者:浜田広、大塚秀樹
出版社:講談社
出版日:2002年12月30日
価格:1575円(税込)
購入方法:一般書店で購入可
ISBN番号:ISBN4-06-211622-7
書評者:滝井 信幸
図書名: 静かなリーダーシップ S0202003
著者:ジョセフ・L・バダラッコ
出版社:翔泳社
出版日:2002年09月06日
価格:2310円(税込)
購入方法:一般書店で購入可
ISBN番号:ISBN4-7981-0261-X
書評者:野崎 晴雄 (所属:株式会社横山商会)
図書名: マネージャーのための経営指標ハンドブック S0202001
著者:シアラン・ウォルシュ(著) 梶川達也、梶川真味(訳)
出版社:株式会社ピアソン・エデュケーション
出版日:2001年5月15日
価格:2520円(税込)
購入方法:一般書店で購入可
ISBN番号:ISBN4-89471-636-4
書評者:渡辺 聡 (所属:キヤノン販売株式会社)
図書名: チェンジ・ザ・ルール! S0201006
著者:エリヤフ・ゴールドラト著 三本木 亮訳
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2002年10月10日
価格:1680円(税込)
購入方法:一般書店で購入可
ISBN番号:4-478-42044-0
書評者:碧木 和直

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2010.06.17
ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評

 ITコーディネータ協会では、ITC活動に寄与する図書の書評を広くITコーディネータ資格者から募集し、 審査に合格した図書並びに書評を公表することを、活動の一環として実施しています。

推薦図書について
 ITコーディネータの方が、知識を向上させるのに相応しい図書とその書評を公表し、 それぞれの方々が不足している分野の知識を、これらの書籍を通じて効率的に補い、自己研鑽に活用していただくことを目的としています。

公表に際して
 ここに公表する推薦図書とその書評は、予め公募により資格者から応募いただいたものを審査のうえ、採用となったものを対象としています。 公表に際しては、資格者の知識の研鑚に資する狙いに鑑み公表しています。

推薦図書
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  ※絶版になっている可能性もあるためご購入の際には書店等にてご確認願います。
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