図書名: コンピテンシーラーニング |
推薦日:2003/03/27 |
書評者: 森田 晋史 |
所属先: ジー・エー・アカデミー株式会社 |
【要約と書評】
要 約 |
本書は、企業の採用や人材評価などに注目されている「コンピテンシー」について、その学習(ラーニング)という視点からの分析を第一部で解説している。
また、コンピテンシーとは、好業績を挙げている人の特性分析と考えられているが、実際素晴らしい業績を上げている社会人のインタビューを通じた実証研究についても取り上げている。
コンピテンシーを学習するという「ラーニング」の考え方は、本書ではじめて取り上げたトピックであり、企業における人材育成の新しい切り口を提供している。
次に、第二部では、現実の企業活動におけるコンピテンシーの活用法について、「コンピテンシーモデルの構築」と言うテーマで取り上げている。
コンピテンシーの考え方は能力主義時代へ入った現在、人事評価制度や採用・昇進昇格制度に応用ができ、本書では、その構築モデルと検討する切り口を提供している。
最後に第三部ではコンピテンシー概念の変遷や理論について取り上げ、コンピテンシーという馴染の薄い概念を明確に理解させてくれるとともに、関係のある実証検証を紹介している。 |
書 評 |
コンピテンシーという概念は、アメリカを中心に研究が進められ、好業績をあげる人材の特性分析と考えられている。
能力主義が浸透してきている現在の経済環境では、コンピテンシーという概念を、人材教育や評価制度における1つのベンチマークとしての活用を良く聞く。
コンピテンシーの考え方が重要性を高め、注目を集めるようになったのには2つの背景がある。
まず第一には、企業の経営活動が限界を迎え、20世紀型のビジネスモデルから21世紀型への経営革新に取組まなければならない環境が挙げられる。
近年の経済構造不況や情報技術の発展など、経営環境は急激に変化しており、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)に取組んだり、
人員削減などのリストラに取組む上で、人材評価システムも大きな転換期を迎えているのである。
コンピテンシーが注目されるようになった第二の背景は、組織と個人との新しい関係を模索する時代に入ったことがある。
ストラクチャーを再構築している組織では、単なる人員削減によるリストラを推進していくのではなく、
会社の経営方針を明確にし、企業が従業員に対し、具体的なベンチマーク(またはベストプラクティス)を示さなくてはならなくなっている。
また、個人サイドでは組織に対する帰属意識は低くなり、各自のキャリア開発が必要となっているのである。
コンピテンシーという言葉の定義は研究機関によって違っており、本書の監修した古川久敬氏は、コンピテンシーを学習の視点から捉え、新たな研究の切り口を提起している。
つまり、人にフォーカスを当て、コンピテンシーを教育していくための手法を紹介している。
これは企業サイドで、人材育成の観点から教育コンテンツの開発や研修カリキュラムを構築する上で参考にできる。
また、個人サイドでは、自分のキャリア開発を行う上での自己分析に役立つ。
これまで日本の就業慣習であった終身雇用制度が崩壊し、人材の流動化が益々活発になる労働市場では、
これから個人が自らのSWOT分析を行い、キャリア形成に取組む時代になっている。
つまりこれからの時代は、個人が自分の強みや弱みを理解し、性格面や能力面を強化していく必要があるのだ。
個人的にコンピテンシーの捉え方として、"コンピテンシーは各個人がもつ行動パターンで、目標を達成するための法則"と広義に解釈している。
つまり個々人で物事に挑戦する行動様式のもつコンピテンシーが存在し、成功する人はある程度そのひと自身の成功法則を持っていると考えている。
ここでコンピテンシーとは、物事を処理する能力というよりは、物事を処理する行動パターンであると考えている。
また、古川氏は本書の中で、"コンピテンシーの高い人(好業績を挙げている人)は、自分のコンピテンシーを表現できる"という説明をしているが、
実際自分の周りにいる成功者と話していても、自分の成功パターン(問題解決や目標クリアのための行動様式)を整理してプレゼンテーションしてもらえることが多く、
古川氏の考え方に深く共感できる。
さて本書は後半から日本能率協会マネジメントセンターの研究内容が入ってくるが、ここから企業経営に対する活用が具体的に見えてくるので、
ITCはバランススコアカードの"学習と成長の視点"で企業に対するコンサルティング活動を行う場合に活用できる。
ここで取り上げられているコンピテンシーモデルを構築するためのアプローチとして、
①リサーチベース・アプローチ、②戦略ベース・アプローチ、③価値ベース・アプローチ、④統合アプローチなどが紹介されており、
コンサルティング活動にも応用しやすい内容になっている。
戦略的な視点からヒューマン・リソース・マネジメントを行うには、日本能率協会マネジメントセンターの考え方も1つの参考になると考える。
最後に、これからの厳しい経済環境の中で、企業経営において人的資源管理を科学的に行う必要がある。
能力給を導入する場合に必要なのが客観的な人事評価システムであり、また目標管理制度の導入にも、目に見えない特性であるコンピテンシーの考え方は非常に参考になる。
これまでの日本企業には"暗黙知"の領域が多かったが、適正な評価が必要になり"暗黙知"の部分を極力減らしていく努力が必要な時代になっている。
本書は、こうした日本企業の"あいまい文化"から転換する切り口を提供してくれる一冊である。 |
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