図書名: 巨像も踊る |
推薦日:2003/03/28 |
【要約と書評】
要 約 |
この図書は、ルイス・ガースナーがどのようにしてIBMを立て直したかを彼の経営哲学と経営方法により解説したものであり、
彼の自伝というべきものではなく、IBMの奇跡の復活の物語である。
彼はその中でまず手始めに、社内向けと社外向けの改革を行うこととなった。
まずは社内において、組織、ブランド・イメージ、報酬の改革を行った。
社外においては、それまでの官僚的な内向きの志向から、顧客・市場重視の志向へと意識を変革させた。
そして戦略としてサービス重視の姿勢を打ち出し、1993年から2001年までの売上高の伸びのうち約80%以上をサービス事業で稼ぎだした。
また重要な戦略としてソフトウェア事業の再構築を行う必要があり、OS、ミドルウェア、アプリケーションの中で、ミドルウェアに注力することとなった。
これは今後、企業を統合する方法への需要が高まると考えたからである。
そしてそのさきがけとなったのがロータスの買収であり、その後チボリ・システムズなどの買収を行い、今日のIBMのソフトウェア事業を支えている。
このようにIBMの変革は順風満帆に見えたが、最も難しかったのは企業文化の改革であった。
企業文化は経営のひとつの側面などではなく、経営そのものである。
そして企業文化の方向性が正しければ成功を収めることができ、これらの正しさがDNSの一部になっていなければ、長期に渡って成功を続けることはできない。
IBMの企業文化の特徴は、「ノー」の文化、官僚組織の弊害、IBM語であった。
彼は8つの新しい原則及び「勝利、実行、チーム」のスローガンにより古い企業文化を打破し、休みない自己改革を続ける組織を作りあげた。
そして今「ニュー・ブルー」は、実際に企業文化を大きく変え、eビジネス戦略を基盤にますます成長をとげている。
本書のタイトルともなった最終章「巨象は踊れないとは誰にも言わせない」では、権限集中と権限分散のバランスの重要性について述べている。
IBMという大企業(象)が、権限集中と権限分散のバランスをうまく取ることにより、敏捷で反応の早い組織に変革したなら、もはや小企業は太刀打ちできないのである。
すなわち「見事なステップを踏んで踊れるのであれば、蟻はダンス・フロアから逃げ出すしかない。」(本文より)のである。 |
書 評 |
あの慎重なエコノミスト誌がこう論じた。「IBMの屈辱は、アメリカの敗北だとする見方がすでに出ている」このような風潮の中で、ある男がIBMを蘇らせた。
これはまさに、アメリカの面子を保った偉業とも言える。
それをやってのけたのが、数多の経営者の中から白羽の矢がたったルイス・ガースナーである。
彼は、ハーバード大学のMBAからマッキンゼーに入り、企業戦略を学んだ後、アメリカン・エキスプレスを立て直し、その当時はRJRナビスコのCEOであった。
彼は、アメリカへの愛国心から、「自分が望んだからではなく、アメリカの競争力と経済の健全性を維持するため」、この仕事を引き受けた。
彼は最初の役員会の最後に、こう呼びかけた。「会議室を出て、会社を経営しよう。顧客と社員になるべく早く会えるように、出張予定を立てるので支援してほしい」。
これはまさに、顧客重視、トップの顔の見える経営を目指す、彼ゆえの台詞であった。
今でこそ、顧客重視、トップの顔の見える企業が増えてきているが、この当時としてはかなり先進的な考えだったであろう。
さらに今になって振り返ってみると、このときの発言が的確であり、実行すべきだった点、そして実際に実行してきた点は、ほぼすべてこの演説で述べられていたことに驚く。
それからIBMが奇跡の復活を遂げるまでの物語が本書であるが、評者が特に注目したのがサービス事業への注力とソフトウェア事業の再構築である。
それにより、サービス事業は会社の収益源となり、さらに提供するサービスにより、顧客満足度は向上した。
そしてソフトウェア事業では、ミドルウェアをクロスプラットフォーム対応としたことで、今流行りのWin-Win関係の先駆けともなるべく、
ハードメーカー、ソフトメーカーが共に儲かる仕組みを作りあげた。
数多くの経営者が将来のビジョンやお題目を唱えることに力を注ぐのに対し、彼はビジョンを創ることや戦略を創ることでなく"実行"することに力を注ぎ、
新しいビジネスモデルを作りあげた。
そしてIBMは現在も成長を続け、ガースナーが残した企業文化により休みない自己改革を続けている。
会社全体がPDCAのサイクルにはまっているかのように。企業文化の方向性が正しければ、しばらくは成功を収めることができると言われる。
まさに彼は、古い企業文化を打破し、新しい企業文化をIBMのDNAに刷り込んで、それをPDCAで回し、永続化させる仕組みを作りあげた。
それも最初の役員会で彼が述べた、「アメリカの競争力と経済の健全性の維持」という大命題のもとに。
わが国でも、このような国家を憂えた経営者が続々と出てくることが望まれる。
本書はまさにバブル崩壊以降、旧体質の政治・経営手法から脱却できないでいる日本社会へ、進むべき方向性と助言を与える書であろう。 |
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