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ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: 最速で開発し最短で納めるプロジェクトマネジメント 推薦日:2003/04/12
書評者: 徳永 祐一 所属先: 三井造船システム技研株式会社

【要約と書評】
要  約
TOCにおけるプロジェクト管理手法である、クリティカル・チェーンを紹介した書籍。 筆者は、TOCの専門家であり、TOCの概念から、クリティカル・チェーンの内容まで、コンパクトにわかりやすくまとめられている。 本書は、プロジェクト・マネージャー及びプロジェクト管理従事者。 特に、常時プロジェクトのスケジュール遅延に悩まされている人に読んで欲しい。コロンブスの卵的な気づきを得ることができる一冊である。
書  評
本書は、TOC(Theory of Constraints:制約条件の理論)におけるプロジェクト管理手法である クリティカル・チェーンを紹介したものである。

<著者>
 著者 村上悟(むらかみ さとる)氏は、ゴール・システム・コンサルティング株式会社の代表取締役。 大手製造業にて経理、原価計算を担当、社団法人日本能率協会を経て(株)日本能率協会マネジメントセンターにて、コンサルティング業務に従事。 2002年8月に退社独立。 ゴール・システム・コンサルティングは、会社名の通り、TOCを進化させた「ゴール・システム」のコンサルティングを行っている。 著書も多く、本書は、中経出版より出されている「TOCシリーズ」の第3弾にあたる。 第1弾は、「在庫が減る!利益が上がる!会社が変わる!会社建て直しの究極の改善手法TOC」、 第2弾は、「在庫ゼロ リードタイム半減 TOCプロジェクト」である。
 共著者 井川伸治(いかわ しんじ)氏は、(株)日本能率協会マネジメントセンターTOC推進センターコンサルタントで、こちらもTOCの専門家である。 著書に、「在庫ゼロ リードタイム半減 TOCプロジェクト」がある。

<構成>
本書は、序章を含めた以下の5章より構成される。
 序章 「なぜ今、プロジェクト管理か」では、
ゴール・システム・コンサルティングのキーワードでもある、「夢をかたちにする」、「会社がかわる」等の著者の基本スタンスが記述されており、著者の考えがよく理解できる。
 第1章 「進化する革新手法TOC プロジェクト管理必須のTOC・DBR理論」では、
TOCの基本的な考え方として、スループット、改善の5つのステップ、思考プロセス、DBR(Drum Buffer Rope)の解説が行われている。 これらは、エリヤフ・ゴールドラット博士の「ザ・ゴール」、「ザ・ゴール2」のエッセンスがまとめられている。 (TOCに関し、理解されている方は、斜め読みしても良い部分であろう。)
 第2章 「従来型管理技法の考え方と問題点 PERT理論とクリティカル・パス」では、
プロジェクト管理の考え方、プロジェクト・スケジュール管理の重要な概念であるPERTについての解説 及び 本書の最大のテーマである、 プロジェクトが遅れる理由について記述されている。自己の経験に照らし合わせてみても、「なるほど!」という共感するところが多い。
 第3章 「遅れを絶対に出さないプロジェクト管理 リソースを最大に活かすクリティカル・チェーン」では、
クリティカル・チェーンの考え方を解説した上で、人的リソースの活用方法 及び複数プロジェクトの最適化、開発部門への応用という観点で記述している。
 第4章 「夢を「かたち」に変えるスケジュール 開発部門のプロジェクト管理に挑む」では、
仮想の物語を通して、クリティカル・チェーンをいろいろな方面に活用することを、具体的にイメージできるように工夫されている。 事例に変わる部分だが、対話形式で読みやすい反面、クリティカル・チェーンの効能に関する説得力が少ないことが残念。

<クリティカル・チェーンとは>
「従来のクリティカル・パスに能力的に余裕がないという特性を持つボトルネックの要素を加味したもの」であり、クリティカル・チェーンは、 「プロジェクトのクリティカル・パス上の要素とボトルネック・ステップを通るパス」と考える。

<クリティカル・チェーンのポイント>
キーとなる概念は、「ある作業が予定通りに完了する確率が90%になる期間は、それが50%になる期間の3倍もある」。 つまり、ある作業の終わる確率(精度)を50%から90%に上げるために、期間が3倍になっているということである。 言い換えると、各作業者は、自己の担当する作業の納期を守るために、かなりの時間的余裕をもって完了日を申告しており、 加えて、それが、プロジェクトのいたるところで行われているということである。 この内容では、多くのプロジェクトでは、充分な時間的余裕をもっており、順調に推移するということになるが、ほとんどの現実は、逆である。 これに関し、筆者はプロジェクトが遅れる原因として以下の3点をあげている。
 (1) 余裕を無駄にするしくみと心理:遅れないように注意はするが、作業を納期前に終わろうとしない心理。
 (2) 学生シンドローム:学生時代の一夜漬けと同様に、納期ぎりぎりにならないと作業を開始しない性癖。
 (3) マルチタスク:複数の作業を並行して進める場合、思考の「段取替え」に多きな負荷がかかる。
このプロジェクトが遅れる原因に対し、
 (1) プロジェクトの遅れは、クリティカル・パス上の遅れと認識し、クリティカル・パスを管理することに注力する。
 (2) 各作業で確保しているバッファ(余裕)を取り出し、最後にまとめる。これで、完了する確率は50%に落ちるが、期間は3分の1となる。 代わりに、プロジェクトの後ろに「プロジェクト・バッファ」を置く。プロジェクト・バッファを半分にすると、プロジェクトの期間は40%短縮される。
 (3) クリティカル・パスを守るために、クリティカル・パスに入ってくる全ての合流点の前に、「合流バッファ」を入れる。 クリティカル・パスが、関連の作業に影響を受け、遅れないための方策。
 (4) クリティカル・パス上のリソースの競合をさけるために、「リソース・バッファ」を入れる。 クリティカル・パスが他作業とのリソース競合により、遅れを発生させないための方策。
ということが、クリティカル・チェーンの骨子である。
(2)が、本書の肝である。バッファをプロジェクトより取り出すことができれば、このロジックは成り立つ。 計画者それぞれが、バッファをもって計画を立てているという、皆が認識しつつ、しかし、気づいていなかったという点で、コロンブスの卵的なアプローチである。 ただし、本書には、各計画者達に、どのようにしてバッファを吐き出させるかという肝心な点の記述がなされていないことが非常に残念である。

<読んで欲しい人>
プロジェクト・マネージャー及びプロジェクト管理従事者。 特に、常時プロジェクトのスケジュール遅延に悩まされている人に読んで欲しい。 コロンブスの卵的な気づきを得ることができる一冊である。 TOCについても前半部分にコンパクトにまとめられており、TOCの知識が少ない人でも違和感無く読めるはずである。 ただし、TOC自体の学習については、シリーズ第1弾、第2弾をお勧めしたい。

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