ITCA推薦図書

ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: 浜田広が語る「随所に主となる」人間経営学 推薦日:2003/03/28
書評者: 滝井 信幸 所属先: 

【要約と書評】
要  約
自らを本質論者と語る著者浜田広氏の経験と思考に基づく経営哲学、行動原則、人生観を、他にないユニークな視点と表現を通して書き綴られており、 実際にそれらを日々実践している浜田氏自身の強い思い(書籍では人間経営学とタイトルされている)が判りやすく記されている。
書  評
本書は、(株)リコー代表取締役会長であり、日本経団連副会長でもある浜田広氏が、 常々リコー内部はもちろん、社外でも機会がある毎に語っている彼自身の哲学ともいえる考え方や行動指針について、 フリーライター大塚秀樹氏が長年に渡る取材、インタビューに基づき対話形式で纏め上げたものである。

その内容は、「お役立ち」と「納得」をキーワードにして、経営者やマネージャー、企業組織で働く社員に対して、広く判りやすい表現で行動原理を説いている。 それらのメッセージに共通して言える点は、浜田氏自身がヒラ社員の時代から現場組織の中で見て、感じて、考えてきた、 一種の真理と言い換える事が出来るかもしれないが、いわゆる経験に基づく解だということである。

第一章 リコーの軌跡 - 非常事態脱出、快進撃へ では、
リコー初の経営赤字を記録した1991年に自らリストラに取り組んだ事実を下敷きにして、 現在の閉塞感と将来への不透明感が強い、低成長・マイナス成長状態時での事業の再構築に対する考え方と、 それに欠かすことの出来ない能力と人材を生かしきることを、「社員の納得」とリコーの取り組んだCS経営、環境経営を通した求心力で語っている。

第二章 逆こそ真なり -私の経営哲学 では、
彼の最大の経営キーワードである「お役立ち」についての考え方を述べ、 『本質を見極めるための「WHAT」と「HOW」』、『納得できない仕事はしなくてもよい』、『随所に主となる』、『無意味な人事ローテーション』など、 一見理解できないような表現すら交えながら、経営や組織に本質だけを追求する姿勢を判りやすく説いている。

第三章 わが行いにせずば甲斐なし -私の行動原則 では、
二章で説いた本質的思考を実際のアクションに移すときのポイントを、彼自身の心得から話している。 『まさか死刑にはなるまい』、『「寒い」「暑い」「疲れた」「忙しい」とはいわない』、『説得力とは何か』、『現場・現物主義こそが経営の原則』、 『情報は現場に聞き、支持は組織を通せ』など、これもまたユニークな視点と言葉で語られている。

第四章 リーダーの条件 では、
組織を背景に上司と部下の関わりやマネージメントについて、本人がヒラ社員の時に会得したという"上司とは、部下の役に立つべき存在である"と定義し、 管理職の資質や心得るべきことは何かについて言及している。 『「いい奴」と「有能な奴」ほどダメ上司になる』、『美点凝視で部下を育成しろ』など前章までのユニーク路線を踏襲する判りやすい表現に加え、 『人間の能力-理解>思考>表現>行動』では、人間そのものに帰納するような人の能力に対する浜田説や、 (株)リコーの創業者であり"経営の神様"と呼ばれた初代社長の市村清氏、 そのカリスマ的経営者の跡をついで、デミング賞受賞を旗印にして全社員の求心力と体質改善を実現した二代目社長の館林三喜男氏のエピソードや、 浜田氏が社長を退いた理由、浜田氏の後を継いで社長となった現社長 桜井正光氏を選んだ理由など、 リコーという現実の企業を背景にリーダー(経営者)が必要とする資質、備えておきたい考え方にも具体的に触れている点が非常に興味深い。

第五章 これからの時代を読む では、
これまで説いてきた本質的行動原則からすこしはなれ、企業や、日本経済が進む方向性について、取り巻く環境の変化に押さえながら浜田氏ならではの考え方を記している。 もちろんここでも、本質を外すべきではないと一貫して警告を鳴らし続けながら、 『失敗の本質-原理原則から外れると破綻を招く』、『外国からの投資で日本は救われるか』、『変化にどう対応するか』、『雇用の流動化をどう考えるか』など話は進んでゆく。

共同著者である大塚秀樹氏が問いかけ、浜田広氏が応ずるようなインタビュー形式で主文が展開するため、総まとめのような章があるわけではないが、 あとがきとして大塚秀樹氏が浜田広氏との初めての出会いから受け得ている印象、人物像を語っており、タイトルに人間経営哲学と記す由縁を簡潔に結んでいる点も見逃せない。 いわゆるあとがきではなく総括といっても過言ではないだろう。

全編を通じてまず言えることは、その一問一答形式で書かれた主文の中から、 常に本質や真理を定義するという浜田広氏の考え方が一貫して流れており彼の思慮深さと哲学だけでは終わらない行動原理がビンビンと伝わってくる。 しかし各メッセージの表現は物事を突き詰めて考える深さや難しさとは全く裏腹に、 とてもユニークであらゆる立場(企業にたとえるなら経営者、管理職者、一般社員など)の人々にもわかりやすく綴られている。 ひょっとするとこれも、その思慮深さを追求する事によりなせる技なのかと勘繰ってしまう程である。

日頃ぼんやりとでも何か思う所がある人が読むことによって、もつれた釣り糸をほどくような謎解きをしてくれる可能性を持ち合わせているのはもちろんだが、 もし、普段あまりそのような観点で物事を考えていない人が偶然本書を手に取ったとすると、読み終えた時に日常の物事の考え方に対して強烈なインパクトを受けることになるだろう。 読みやすく、やわらかい言葉に包まれてこそいるが、とても芯のしっかりしたメッセージがコアとして脈々と流れている事が本書の真価である。

BACK

トップへ

このページのトップへ