図書名: 金融サービス統合のIT戦略 |
推薦日:2003/03/29 |
【要約と書評】
要 約 |
新たに投資されたITは企業の業績向上にどのように役立っているのか、
インターネットを利用した付加価値の高い新商品やサービス提供のための情報システムはどのような組織、プロセス、コンテンツで活用されているのか。
海外の先進・斬新的企業の事例調査研究を交えながら、日本の金融機関における次期情報システムのコンセプトを探る。 |
書 評 |
本書は、海外の先進企業のIT活用を例として、日本の金融機関がグローバルコンペティションで生き残るための、経営や制度、情報システムの方向性について述べている。
そもそも、米国を始めとする先進企業は、日本よりも数年早く、金融の自由化が行われ、その後のIT革命による新市場創造が行われている。
その結果、欧米の金融機関は単なる金融機能の提供から総合金融サービス業への脱皮に成功した。
それを支えたのは、外部環境に応じて内部の経営や業務プロセスを柔軟に変化させることができる組織と見事にコンポーネント化された情報システムの存在である。
一方、日本の金融機関では、長年に渡り、クローズな環境のもと、高性能、高信頼性を追及したITインフラを構築しており、急激な外部環境変化対応するため、
金融改革とIT革命が同時進行するという難局に直面している。
本書では、この数々の難題をクリアし、日本版金融総合サービスへの改革を推進していくために、欧米の組織形態や経営管理手法、IT活用例を引き合いに出しながら、
日本の金融機関が進むべき道しるべをIT面から見事に指し示している。
まず、第一に、欧米の金融機関の特徴として大きく取り上げられるのは、コーポレートとビジネスユニットとの関係であろう。
コーポレートが一般的に持つ機能として①持株会社機能②ビジネス・コントロール機能③シェアドサービス機能をあげ、
とりわけビジネス・コントロール機能が一番重要としている点が明確で、わかりやすい。
それは、IT戦略における貢献度が大きく、企業の競合優位性と収益性に大きく影響すると考えられているからで、
コーポレートとビジネス・ユニットの橋渡しでもあることに起因している。
欧米では、歴史的変遷により、コーポレートとビジネス・ユニットとの権限関係や大きさが異なっているが、明確に分離されている。
日本の金融機関および一般の事業会社では、よく言えば一体、悪くいえば、不透明・不明確な部分であろう。
ただし、こういった欧米型が全てよしというわけではない。
日本の商習慣や文化や制度、タイミングなどに対応した、コーポレートとビジネス・ユニットとの関係を考えることもできる。
むしろここで、学ぶべきポイントは、外部変化への柔軟な対応が可能な組織とITである。
欧米の事例分析では、金融機関に限定せず、対応する企業群の組織形態や経営のあり方まで含めて整理できれば、より有効であったと惜しまれる。
第二に、ビジネス・コントロールのための機能として、リスク管理、収益管理、顧客管理をあげている。
先進金融機関では、リスク見合いのコストを収益管理の要素として取り入れている。
組織別、商品別のみでなく、顧客別の収益をいかに精度を上げて管理していくかが、今後の課題と指摘している。
さらに、これらの収益を高度に管理しようとすればする程、評価コストがかかる点についても述べている。
各人員の業務を丹念に捕捉したり、業務量を把握するなどの地道な作業が必要なため、
かけられる体力と求められる精度との折り合いをどう考えていけば良いか、参考となる記述が多い。
また、本来顧客管理機能も通常、ビジネス・ユニット側が持つ機能であるが、ここでは、付加価値を与えることができるコーポレート側の機能としている点がおもしろい。
ただし、顧客管理機能とリスク管理、収益管理が往々にして、非連携の日本の金融機関においては、各種異論があるかもしれない。
IT戦略としてのインフラ整備が未整備状態であるし、また、合併、吸収、統合などが大手銀行でようやくひと段落着いた状態である。
さらに、現在、紙から電子媒体への過渡期であるため、電子書類に対応した法整備や各関係機関間での制度の見直しなど、
IT化を推進する上で、立ち遅れている問題について、欧米に比して、日本固有の事情があるはずである。
こういった現実に即した点は、本書では、詳細に述べられていないが、本来目指すべき経営モデルならびにIT化構想という点では、しっかり述べられている。
第三に、総合金融サービス業としてのIT面での課題である。
インフラ面として、データモデル、統合顧客データベース、メッセージング技術をあげ、それぞれについて判りやすく解説している。
これらの情報インフラをベースにビジネス・コントロールのための、情報システムの実現イメージについて、小気味良く論理展開されている。
さらに、総合金融サービスシステムの将来像として、
情報システムではそれぞれフロント/バック/ミドルといったコンポーネントで顧客関係管理/取引管理/経営管理を行っていくというのも、
各コンポーネントが担うべき役割と関係づけられて記述されているため、論理的で判り易い。
また、特筆すべきは、これらコンポーネント化によって、
①チャネルの多様化②商品・サービス提供力の強化③会計基準への変化対応④複数コンポーネントの一元管理、を可能としている点である。
顧客を中心とした人、もの、かね、情報が一体となった新たなビジネスモデルの模索が期待される。
これまでの論点を振り返ると、やや欧米を手本に、日本のIT戦略論が展開される感はあるが、現在生き残りをかけ、
大改革中の日本の金融機関にとっては、従来ITだけが一人歩きしがちな風潮の中で、IT戦略投資を前向きにとらえる良いきっかけになる道しるべになることだけは、確かである。
また、金融機関のみならず、一般企業にとっても自社のIT戦略を、取引先や顧客企業との関わりあいの中で、
如何に構築していくべきかのヒントが、数多く発見できること請け合いである。 |
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