図書名: PMBOK準拠ITプロジェクトマネジメント テキスト |
推薦日:2003/03/28 |
【要約と書評】
要 約 |
本書は、IT分野における中級プロジェクトマネージャを育成するための実践教材として、
日本プロジェクトマネジメントフォーラム(JPMF)の教材SIGにより編集・開発された。
本書の特徴は、プロジェクトマネジメントの国際知識標準であるPMBOKのスキームを、ITシステム開発プロジェクトにおけるベンダーの視点で再構築した点にある。
PMBOK準拠のマネジメントプロセスは、特定の業界に偏らず汎用性が高いが故に、
特定分野のプロジェクトを管理するにはマネージャのノウハウとスキルが必要とされるという問題がある。
そこで本書は、人材育成の視点から、PMBOK流マネジメントプロセスをITシステム開発プロジェクトに応用するための具体的な手法を身に付けることを学習目標にしている。
そして、ソフトウェアのプロダクションプロセスの標準的な管理手法である共通フレームと、PMBOK流マネジメント技法の関連性を整理することにより、
ITプロジェクトにおける標準的なマネジメント技法の構築を目指している。 |
書 評 |
プロジェクトマネジメントの知識標準体系として国際的に認知されているPMBOKは、
特定の業種・業界に限定されない汎用的なプロジェクトマネジメントの知識体系として構築されている。
そのため、PMBOKの知識体系は特定分野に限定されない幅広い分野のプロジェクトに対して、汎用的に適用することが可能であるわけだが、
その反面で、具体的なプロジェクトに適用しようとする場合、ともすれば「抽象的すぎる」「どう反映させれば良いか分からない」といった批判に結びつく危険性を有している。
本来のPMBOKは知識体系そのものであり、現実の特定業種における個別プロジェクトのマネジメントに適用するといったレベルの情報までは含まれていないわけだが、
そのために、実務経験の浅いプロジェクトマネージャにとっては、
PMBOKで提示された汎用的な知識をどのように具体的なプロジェクトに適用してマネジメントをすればよいのかという問題で悩むことがある。
本書は、そうした悩みを持つ経験の少ないプロジェクトマネージャに対しての回答を与えるべく、IT分野のシステム開発プロジェクトを管理する際に、
PMBOK流のプロジェクトマネジメント技法を具体的に適用するにはどうすれば良いのか、という視点から構成されている。
ITシステムの開発プロセスを管理するための手法として、日本では「共通フレーム」が提唱されてきた。
共通フレームの特徴は、ソフトウェアの開発工程を標準化されたプロセスごとに分割して扱うことにより、
個々のプロセスごとの管理を、統一的な基準で行うことを可能にした点である。
つまり、共通フレームの登場以前は、ソフトウェアの開発は、たとえば会社ごとに異なるプロセスで定義されていたため、
同一案件に対して作業見積や開発スケジュールを複数の会社が行うようなケースでは、表現が異なるため相互に比較評価できない、といった問題が生じていた。
これが「共通フレーム」という、ソフトの開発プロセスを表現するための標準的な物指しが登場したことにより、企業間でプロセスの定義や対象となる範囲が異なる、
という問題が解消されつつあるのである。
ところが、共通フレームはソフトウェア開発におけるプロセスマネジメントを標準化することで改善を図る技法としては有効ではあるが、
ソフトウェア開発という「プロジェクト」そのものの管理を改善するには、十分ではなかった。
そこに登場するのがPMBOKである。
PMBOKに集約された近代マネジメント観に基づくプロジェクトマネジメントの知識体系を、ITシステムの開発プロセスごとに応用することにより、
より木目の細かいマネジメントが実現可能になる。
そこで本書では、ITシステムの開発におけるプロセスマネジメントを実現するために、
個々の開発プロセスごとにPMBOKのプロジェクトマネジメント技法を適用するため、PMBOKを拡張・補完する、という視点から記述されている。
いわば、ITシステムの開発プロジェクトを、共通フレームというプロセスマネジメントの視点から整理すると同時に、
PMBOKの体系をベースとしたダイナミックなマネジメント技法を組み合わせることにより、ITシステムの開発における、
より立体的なプロジェクトマネジメントの実現を目指しているといえよう。
つまり本書は、PMBOKに提示された汎用的なプロジェクトマネジメント技法を、日本のソフト業界で普及した方法に適用するよう拡張し、
具体的なシステム開発に応用する際の具体的な知見をまとめたもの、とも言えよう。
PMBOKを基本として、個別具体的な分野に適合させるために拡張することによって、
効率の良い木目細かなプロジェクトマネジメントを提供するという発想は、今後も他の業務分野に拡大することが予測される。
本書は、読者としてITベンダーに属するプロジェクトマネージャを想定している。
つまりは、ITCが作成を支援したRFPに対して、企業向けのシステム提案を行うITベンダー側の視点で構成されている。
いわば、ITCとは利害が相反するステークホルダーのプロダクツではあるものの、それだけにITベンダーがどのような価値観で提案するのかを評価するための参考になろう。
なお、本書を執筆・刊行する日本プロジェクトマネジメント・フォーラム(JPMF)は、
我が国におけるPMBOK流プロジェクトマネジメント技法の普及・啓蒙を目的とする団体である。
JPMFと同趣の組織・団体としては、アメリカPMI東京(日本)支部、プロジェクトマネジメント学会などが存在するが、
本書の趣旨と類似のPMBOKを特定分野に拡張する試みとしては、
PMI東京IT委員会による、IT系プロジェクトプロセスにおける標準WBS構築の研究が行われている。
残念なことに、この研究成果は、一般には公開されていない。 |
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