図書名: MOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)入門 |
推薦日:2003/03/24 |
【要約と書評】
要 約 |
- MOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)は、「技術経営」と呼ばれ、企業のバリューチェーンにおける技術投資の費用対効果を最大化する経営を目的とする体系である。
- MOTは、90年代国際競争力向上の原動力になった米国シリコンバレーのベンチャーなどに見られる企業の技術経営を実践する人材を養成した産学連携の教育課程から発展してきたものである。
- テクノロジーマネジメント分野の体系では、中核課題として先端技術、新製品・新事業開発、グローバルテクノロジーにおける研究開発マネジメントの方法論などがある。
- オペレーションマネジメント分野の体系では、生産管理システム、SCMのほか、生産経営システム設計法、投資意思決定論やグローバル展開におけるプロジェクト・マネージメントなどがある。
- インフォメーションマネジメント分野の体系では、IT戦略立案・導入方法論、技術ナレッジマネジメント体制の構築のほか、経営管理システムの変革、知的財産法の現状、知創経営などがある。
- 日本では国民意識の集団帰属性(Belonger)が社会構造問題の元凶となっており、経済再生の道筋であるベンチャーが真に活性化するためには、MOT人材育成が求められる。
|
書 評 |
MOTとは、マネジメント・オブ・テクノロジーの略で「技術経営」と呼ばれ、米MITビシネススクールのMOTプログラムを由来として、
「技術投資の費用対効果を最大化すること」(SRIインターナショナルの定義)を目的とする経営の体系である。
米国は、90年代に経済の閉塞状況から脱して国際競争力を獲得したが、シリコンバレー型のベンチャー主導「技術経営」がその中核の原動力になったことは周知のとおりである。
しかし、その背景には知的資本産業を進展させた米政府の戦略的な政策の下に、産学の密接な連携が存在したのである。
今日までに米国では200以上の大学が産業界の要請を受けて技術を基盤とした経営戦略を学ぶMOT大学院を設置して、
企業から幹部候補として派遣される人材などを受け入れていることがそれを裏付けている。
経済のグローバル化と知的資本社会の到来の下で低迷する日本企業にとって、再生の鍵とすべきは、かつての米国企業が日本企業から学んだようにその成功要因を真摯に研究し、
強みと思われる経営手法を積極的に取り入れることであろう。
失われた10年と言われながら、総額130兆円にも及ぶ緊急の景気対策、不良債権処理策、省庁改革と規制緩和などが実施されてきたが、
その効果が一向に顕在化しなかったのはなぜだろうか。
経済の再生・発展には新陳代謝が不可欠であり、その真の牽引役には、
国際競争力を有する企業などが抱える有能な技術人材に技術経営ノウハウを修得させて、新技術開発、イノベーション、
社内新事業あるいはスピンオフ・ベンチャー起業へ挑戦させることだとする本書の主張には説得力がある。
MOTの厳密な定義は、企業のバリューチェーン(経営、人事、情報、マーケティング、開発、調達、生産、物流、アフターサービスなど業務プロセス価値連鎖)
における技術課題を体系的に経営することである。
つまり、MOTが企業経営において扱うのは技術課題を伴う全ての領域であり、技術投資の最高意思決定者CTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)を任命し、
製品技術(企業の収益源である製品・サービスそのものに含まれる技術)とオペレーション管理技術(製品を生産するための生産技術、ロジスティック技術、情報管理技術)
に体系化されるもので、研究開発管理はその一部を構成するにすぎない。
本書は、MOT体系の学習エッセンスをテクノロジーマネジメント、オペレーションマネジメント、インフォメーションマネジメントの3分野の切り口から解説しており、
経営とITの関係を取り扱うITコーディネータにとって参考になるものである。
製品技術に対応したテクノロジーマネジメント分野の体系は、開発・生産を管理・統制するものであると言ってよく、特に製造業などにおいては、
企業のコアコンピタンスそのものである。
また、オペレーション管理技術に対応したオペレーションマネジメント及びインフォメーションマネジメント分野の体系は、
経営者が企業経営戦略の企画からITを結びつけて経営改革を行うに際し、最大効果をあげるための支援活動をITコーディネータがする上で修得しておくべき内容が多い。
テクノロジーマネジメント分野では、具体的に先端技術における技術マップとテックモニタリング、新製品・新事業の開発、
グローバルテクノロジーにおけるベンチマーキングと技術/事業戦略立案、産学連携の制度整備など中核課題となる研究開発マネジメント、
さらに今後強化すべきリスクマネジメントなどについて参考資料や事例を持って方法論を示しており、企業のあるべき製品技術戦略が理解できる。
オペレーションマネジメント分野では、同様にプロダクト/プロセス・イノベーションの明確化、カンバンからリーン生産にいたる生産管理システム、
トータル・システム・コンセプトを指向するSCMのほか、生産経営システム設計法とプロダクション・マネジメント・システムの展開、
さらに投資意思決定論とその実施方法やグローバル展開におけるプロジェクト・マネージメントの成功モデルなど、
厳しい国際競争において採るべき経営戦略として知見に富んだ内容となっている。
インフォメーションマネジメント分野では、ITを活用した経営改革とEビジネス進展によるモデル構築とIT戦略立案・導入方法論、
技術資産化やセンター化による技術ナレッジマネジメント体制の構築のほか、企業のポジショニングと経営管理システムの変革、知的財産法の現状、
知創経営における経営改革マップなどについて参考資料や事例を紹介しており、ITコーディネータにとっても今後の研究課題となるものである。
本書のまとめでは、日本社会でなぜMOT人材育成が求められるかは国民の集団帰属性意識(Belonger)が社会構造問題の元凶となっていることと論じており、
ベンチャーが真に活性化するためにはプロフェッショナル人事制度導入や社内企業家による経験の蓄積とスピンオフ・ベンチャリングの奨励が必須施策であると提言している。
これらベンチャー企業にITコーディネータが参画・支援することも当然予想される。
新聞の報道によれば、我が国においてもMOT人材を育成するための産学協同プロジェクトが、2002年末から始動しており、
企業50社と大学30校がコンソーシアムを設立して、大学院に技術経営を学ぶMOT修士課程を設け、社会人の技術者(あるいは経営者層)に対して、
上記各テクノロジー分野に企業財務、金融工学、起業論などを加えたカリキュラムを履修するコースを提供している。
MBA(経営学修士課程)が既存事業の経営に必要な専門領域であるのに対し、MOT修士課程は技術革新に伴う新事業創出に必要な経営ノウハウを身に付ける点に違いがあるという。
また、一方で制度整備が行われ、大学からの技術移転機構(TLO)、民間資金による共同研究、人材交流の円滑化などが促進されつつある。
産業界などには、国内産業の低迷は技術水準が国際的に劣っているのではなく、高度な技術成果を事業化する人材が不足しているためとの認識がある。
今後は企業の業務改革の視点だけでなく、これら産学連携から生まれてくる技術成果を経営に活かすMOT(技術経営)が、
ITコーディネータの能力や活動の中にも求められることになるであろう。 |
|
|