図書名: コスト戦略と業績管理の統合システム |
推薦日:2003/03/28 |
【要約と書評】
要 約 |
本書は、管理会計から経営戦略をロジカルに導く統合システムとしての、
ABC(活動基準原価計算、Activity Based Costing)の実践書である。
原題は「Cost & Effect」であり、
ABCでは因果関係(Cause & Effect)が重視されることに引っかけている。
キャプランとクーパーはABCの提唱者であり、キャプランはさらにこの考えを発展させ、バランスド・スコアカードという戦略経営のモデルにたどり着いた。
本書は、製品や顧客ごとの収益性を正しく評価し、選択と集中の競争戦略に結びつける具体的な方法を、実例で簡潔に分かりやすく説明している。
さらに、ABCからBSC、さらにEVAとつながる大きな現代管理会計の潮流が理解できる。 |
書 評 |
本書は、管理会計から経営戦略をロジカルに導く統合システムとしての、
ABC(活動基準原価計算、Activity Based Costing)の実践書である。
原題は「Cost & Effect」であり、
ABCでは因果関係(Cause & Effect)が重視されることに引っかけている。
因果関係というのはバランスド・スコアカード(BSC)の主題であり、まさに、ここにキャプラン教授の思いが込められている。
バランスド・スコアカード関係の書物の多くは、現実の戦略、つまり製品ポートフォリオとか顧客ポートフォリオなどをロジカルに導く方法論を具体的に提供していない。
そこを埋めるのが本書であり、キャプラン教授らの2作目「キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード」と合わせて読めば、
ABCからBSC、さらにEVAとつながる大きな現代管理会計の潮流が理解できる。
また、よくあるABC関係の書物は新しい原価管理の手法の説明から入り、その応用や適用例を示すものが多い。
それとは対照的に本書は、財務のための管理会計、業務のための管理会計、戦略のための管理会計という明確な目的の違いを示し、
企業の管理システムのあるべき発展の姿を4つの段階を経て自然に導いている。
つまり、戦略経営というゴールを念頭において、そこに至る道しるべを経営陣に見せて行くツアーのような書物である。
キャプランとクーパーは1988年ごろにABCを提唱し、ABM(Activity Based Management)、
ABB(Activity Based Budgeting)と理論を発展する中で1992年にBSCという戦略経営のモデルにたどり着いた。
この流れでモデルを捉えると、管理会計のロジックとしては自然で非常にわかりやすい。
この学問的な経営モデルの発展を、経営者の頭の中の一つの旅として表現しているところは面白い。
グローバリズムと資本主義の終焉として、世界的なデフレ経済、ゼロサムの世界がやってくる。
市場はすでに供給サイドから需要サイドにシフトし、企業は少品種多量生産から多品種少量生産へと戦略の転換を迫られている。
このことは製品の製造よりも研究・開発や販売支援などの間接コストの比重が高まり、伝統的管理会計では正しい収益性の判断が出来ないことを意味する。
また、イノベーションなき市場では選択と集中による競争戦略しかない。
よって、コアコンピタンスを活かしながら、収益性を考慮した最適の製品ポートフォリオ、顧客ポートフォリオを管理することが必要となる。
本書のエッセンスの一部を簡単に紹介しよう。
経済学でよく使われるパレ-ト理論では、一般的に全体の20%の製品群(あるいは顧客群が)収益の80%を稼ぎ出しているといわれる。
正しい収益性の情報を経営管理に使えば、何を取り何を捨てるかの判断が出来る。
製品や顧客を絞ることにより準固定費に生じる未使用のキャパシティーを再編成して戦略的なコストダウンが可能となる。
また、振替価格を設定することにより、収益性のない製品や顧客に過大な営業費用をかけることを防ぐことができる。
また、予算管理については、定常的な業務的管理と戦略的管理を区別し、業務予算は慣習的なギャップ分析による管理、
戦略予算は年度予算にとらわれない柔軟な予算策定の仕組を提案している。
これは日本の経営者には奇異に見えるかもしれないが、最近になって欧州を中心に予算レス経営モデルとして実施され、成功例が報告されている。
本書では、このようなことを管理会計の視点から説明し、具体例を用いて、いかにABCの管理手法が問題解決に役立つかを明快な論理で説明している。
翻訳本特有の読みにくさもなく、訳文で説明しきれないところは、訳注を設けて丁寧に解説を加えてある。
本書は次の2つの場面でITCの皆さんの役に立つと思う。
まず一つ目は、コンサルタントとして、バランスド・スコアカードの導入にあたるとき、因果関係の検証のためにどうしてもABCの導入を薦めたくなる。
しかし、日本の経営スタイルにABCは向かないといわれてきた。
余剰キャパシティーがあるからといってすぐに人を解雇できるわけではないし、収益性がないからといってすぐに顧客との関係が切れるわけではないからだ。
しかし、ゲームのルールは変わったのである。
クライアントが「選択と集中」戦略を望むなら。
きちんと製品ポートフォリオ、顧客ポートフォリオとして、製品(顧客)リストに収益性をつけてメニューを示し、経営者の客観的な判断材料を提供することのメリットは大きい。
その意味で、本書が示す適用モデルや実例は大変役に立つ。
二つ目は戦略的情報化投資のコンサルティングにおいては、クライアントから費用対効果を示せと必ず言われる。
バランスド・スコアカードだけで投資効果評価を説明して満足するクライアントは少ない。
彼らは予測を要求し、投資回収率を知りたがる。
これに答えるプロセスは、まずABCで業務プロセス改善による効果をプロセスごとに予測し経済効果に換算する。
次に、既存の収益モデルの類推で戦略事業分野の収益性を予測する。
そして、バランスド・スコアカードで各視点ごとの目標に割り振る。
最後に、EVA分析によって、キャッシュインフローだけでなく、人材や知財の経済価値を加味した企業価値の向上を測定しROIを求める。
この戦略的管理会計の基本モデルで説明すれば、予測や価値評価に恣意性が残るものの、大概のクライアントは納得してくれるはずである。
上の二つの理由により、本書はITコーディネータ必須の書として、ぜひとも活用していただきたい。
最近のビジネス書の氾濫で、ハウツー本につい手が伸びてしまうが、我々のビジネスのコア部分については、この元祖ABC教科書を体得していたいものである。 |
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