ITCA推薦図書

ITコーディネータに役立つ図書の推薦と書評
図書名: デスマーチ 推薦日:2003/05/12
書評者: 神庭 公祐 所属先: 株式会社ケイズ

【要約と書評】
要  約
 サブタイトルは「なぜソフトウェア・プロジェクトは混乱するか」です。
デスマーチは直訳すると「死の行進」だが、デスマーチ・プロジェクトとは、多くの損失・犠牲、高い確率の失敗が予想されるプロジェクトのことである。 実は、大規模ソフトウェア開発プロジェクトのほとんどはデスマーチ化している。デスマーチに参加するSEは、「このプロジェクトさえ切り抜けたら・・・」と努力するが、 それがどのプロジェクトでも特例ではなく常態になっていることに気付くべきである。

 デスマーチが発生する要因は、社内の政治、ヒロイズム、管理者の交渉能力不足など、それを回避するノウハウが不足していることにある。 要因はいろいろあるが、全ての要因を回避することは難しく、現実にはデスマーチが世界中で発生し続けている。
 もしデスマーチへの参加を求められたら、プロジェクトへの参加を断る勇気を持つことが大切である。 ただし、自分の希望・会社の状況など、さまざまな要因から、どうしても参加せざるを得ない状況に追い込まれる場合がある。 この場合も、絶望的な状況に自分を置くかどうか、自己責任での意思決定が必要である。 そして、参加する場合は、あらゆる方法論を駆使して生残る努力を払わなければならない。 その方法には、交渉の戦略、人選問題、動機付け、要求管理、ベスト・プラクティス、リスク管理など、様々な策がある。 この図書には、その具体論が、発想豊かに盛り込まれている。
書  評
 ソフトウェア開発のマネジメントに関係する人・開発する人ならば、一度は目を通されておくと良い本である。

 まず、「デスマーチ・プロジェクトは特例ではなく常態だ」という宣言に衝撃を受ける。 確かに、ソフトウェア開発において、余裕を持って進められるプロジェクトはほとんど無いことに気付かされる。 デスマーチが発生する原因は図書の中でもいろいろ分析されている。 その結果、世界中で大規模なソフトウェア開発はいつでもデスマーチに陥っている。 デスマーチが常態であると認識を変えると、通常のプロジェクト管理ではデスマーチになって失敗してしまうことが分かる。 その認識があれば、管理する視野がこれまでより広がってくるはずである。

 本書の範囲は、「情報システム開発/試験/導入フェーズ」である。 このフェーズでプロジェクトが万一デスマーチ状態に陥ったとき、外部CIOとしての役割を担うITCには、プロジェクトを正常に戻すための助言・指導が求められる。 本書には、そのデスマーチをいかに乗り切れば良いのか、参考になるアドバイスも盛りだくさんある。 バグを残さない開発品質はもちろんだが、メンバーの選定、利害関係者への気配り、社内外の政治など、さまざまなアドバイスが記載されている。 特に、利害関係者とのコミュニケーションの重要性が印象に残る。 条件が厳しいデスマーチ・プロジェクトでは、関係者間の利害をつかみ、必要な人に配慮しておかないと、突然さらにプロジェクトを混乱させる要求が増えることになりかねない。 コミュニケーションを独立要素として重視しているITCの理想を、テキストとはまた違った表現で追求しているといえる。 その他、ベスト・プラクティス、リスク管理など、ITCの方法論と同じ要素を重視して記載している。

 これらデスマーチの分析と対策を、作者のエドワード・ヨードンが実にユニークに表現しているのも、この図書の大きな魅力である。 例えば、デスマーチ・プロジェクトを4つに分類しているが、その分類の名前は「①スパイ大作戦型」、「②モーレツ型」、「③カミカゼ型」、「④自滅型」である。 名前を見るだけで、そのプロジェクトのメンバーの様子が浮かび上がってくる。 ちなみに「①スパイ大作戦型」は、少数精鋭のメンバーが奇跡を起こしてプロジェクトを成功に導くパターン、 「④自滅型」は、諸般の理由によりプロジェクトを離れられないメンバーたちが静かに失敗のときを迎えるパターンである。 これを読む読者の脳裏には、きっと自分が関係しているプロジェクトがどれかにあたっていると浮かんでくるはずである。

 もうひとつ、本書の読後に、「自分が楽しく仕事するためにはどうすべきか?」という疑問も残る。 例えば、デスマーチが発生する原因の一つに、「若い開発者が困難なプロジェクトに魅力を感じるのは、自然な事であり否定できない」という指摘がある。 確かに、困難なプロジェクトであっても、それに参加して自己実現する喜びもある。 参加メンバーの自己実現の喜びを引き出すことも、プロジェクト成功のための大きな要素で、ITCが貢献すべき部分であると思う。 いずれにせよ本書を参考に、ITCとして、デスマーチプロジェクトにならないための適切な助言、支援を行なえるスキルを身に付けることが大切であると思う。

 本書は、プロジェクトマネージャーや「情報システム開発/試験/導入フェーズ」を中心に活動を行なうITCにお勧めである。 ソフトウェア開発の経験が少ない人ならば、あまり表に出てこないプロジェクトの実態を知ることができる。 また、ソフトウェア開発に携わる人ならば、デスマーチを避けるために有効な知識が得られると思う。 また、万一デスマーチに巻き込まれたときも、そこから抜け出すアドバイスがきっと見つかるはずである。

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