ITCニューヨーク支局通信 Vol. 2 米国での人工知能動向

 

掲載日:2016年6月7日
 執筆:森 大樹

 

 皆様こんにちは。ITコーディネータの森 大樹(もり ひろき)です。
NY支局通信の第二回目となりました。
 

 ニューヨークは早くも初夏の陽気が訪れています。先日は早くも最高気温が31度に達しました。とはいえニューヨークは東京と比べると乾燥している為、蒸暑くなる事はまれです。気候が良くなるにつれて観光客の数も増えています。先日の休日にセントラルパークに行ってきたのですが、沢山の人達で賑わっていました。これからの数ヶ月は気候も良く最も過ごしやすい時期だと思っています。

 さて今回は前回の予告どおり米国での人工知能(A.I Artificial Interigence )について、メディアの記事を中心にお届けします。


休日のセントラルパーク

 

◆Google

 人工知能で最近話題になった事の一つとして、今年2016年3月にグーグルの研究部門であるGoogle DeepMindが開発したAI囲碁ソフト「AlphaGo」が、韓国の囲碁棋士である李世ドル九段に勝利したというニュースでしょうか。
 このAI囲碁ソフト「AlphaGo」の凄いところは、ディープラーニングの積み重ねでここまで強くなったという点です。実は「AlphaGo」ソフトウエア自体には、最初に囲碁のルールすら組み込まれておらず、囲碁のルールを学習するところからスタートしています。
 従来型のこういったソフトウェアは、有効とされる棋譜の情報や思考ルーチンを人間が組み込むという形で、つまり人間のインプットの積み重ねで所謂「強い」ソフトウェアを作り出していました。ところが今回の「AlphaGo」はソフトウェア自体がルールを覚えるところから学習を重ねて行き、今回、人類最強と言われる棋士を撃破するところまで成長したというのは、驚くべき成果だと言えるでしょう。
 また有名な話ですが、グーグルは自動車の自動運転についても力を入れています。自動車の運転は場面毎の判断の連続とも言えます。こう考えると、状況に応じて定性的な判断を下すという点ではAIが得意とする分野だと言えるでしょう。ただ、そこには問題もあるかと思います。2016年2月にGoogleの自動運転する車が路線バスと接触事故を起こしたケースが報道されました。報道によると路面上の障害物を避け様とした際に、バスと接触してしまったとの事です。幸いにも大きな事故には至らなかったとの事ですが、これはAIが運転している車が事故を起こした際に、不幸にも怪我人や死者が出てしまった場合にその責任が誰に帰属するかを考えさせられるきっかけになったと思います。

DeepMind「AlphaGo」 

Google’s Self-Driving Car Caused Its First Crash 
 

 

◆IBM

 IBMは業界に先駆けて人工知能に対する積極的な研究開発を進めている事で有名です。古くはGoogleの「AlphaGo」からさかのぼること20年、1990年代後半に当時のチェス世界チャンピオンに勝利した人工知能「ディープ・ブルー」があります。
 最近では「ワトソン」と名付けられた人工知能があります。「ワトソン」は自然言語、つまり我々が普通に話した内容を理解し、質問に答える事が出来るという機能に特に焦点を当てられています。 「ワトソン」は2011年には米国の人気クイズ番組の「Jeopardy」に出場し人間のクイズチャンピオンとの対決に見事勝利し、賞金100万ドルを獲得した実績を持っています。この「ワトソン」はユーザとの会話が出来るという点で汎用性が高く、日本でも「ペッパー」等に使用されているとの事です。
 「ワトソン」の活用が広がりを見せており、米国Welltok社の提供するCafeWellという医療コンシェルジュサービスにも活用されています。ユーザとの会話を通じて、個々のユーザごとに最適なエクササイズや食事のアドバイスを与えるというものです。
 同様に、ホテル業のヒルトンにはコニーと名付けられたAIコンシェルジュを提供しています。これもエンジン部分にも「ワトソン」が搭載されており、例えばホテル周辺の有名レストランや観光情報提供など宿泊客の問い掛けに、コンシェルジュとしてベストな回答をするというものです。
 そんな「ワトソン」をマーケティングに活用しているのが、ダウンジャケットで有名なThe North Faceです。ここではウェブサイトを訪れたユーザに対して、質問形式で会話をする事で、ニーズに最も合致した商品を提供するという試みが始まっています。対話を通じてユーザ毎にきめ細かいサービスを実際に提供するという点で、「ワトソン」は他のAIに比べると既に一歩先を進んでいる様に感じます。

Watson Wins Jeopardy!

CaféWell Concierge | Cognitive Computing | IBM Watson

IBM Watson now powers a Hilton hotel robot concierge

The North Face + IBM Watson on Cognitive Retail
 

 

◆FaceBook

 10億人のユーザーを擁するFaceBookもやはり人工知能の研究に余念がなさそうです。
Facebookの人工知能の研究開発部隊は、FAIR(Facebook AI Research」と呼ばれており、メインサービスであるSNSのFaceBookに連携するサービスの研究開発が行われています。
 FaceBookが稼動させているアプリケーションに「Moment」がありますが、これはFAIRが開発した顔認識機能を活用し、友人同士が手軽に写真を共有出来るというものです。他にもユーザの投稿記事入力支援サービスの研究など、ユーザがFaceBookを更に使い易くする為に人工知能を活用しようというコンセプトがFAIRの中心に見受けられます。

Facebook FAIR「Moments」
 

 

◆Microsoft

 最大手のマイクロソフトも同様にAIの研究開発を進めています。特に主力であるWindowsを初めとするOSの利便性向上などを目的としたAI研究が盛んに行われています。また最近は人工知能を用いたパーソナルアシスタント機能の「CORTANA」に注目が集まっています。
 一方で、「TAY」と名づけられた人工知能を用いたTwitterでは問題も起こしています。
 「TAY」はディープラーニングとして、ユーザーとのやり取りから単語や言葉使いを覚えていくのですが、その中で差別発言を覚えてしまい、稼動初日から差別的発言を連発するとんでもない人工知能に育ってしまいました。その結果、マイクロソフトは「TAY」の稼動を即時停止し謝罪に追い込まれるという事態になりました。
 現在までに「TAY」のバックグラウンドにあった人工知能の詳細やハード構成等は公開されていませんが、マイクロソフトの公式アナウンスとして、今回の事件の原因に「一部のユーザーから、Tayの脆弱性を悪用した組織的な攻撃があったため」と回答しています。これは対話を繰り返す中で学習するというAIのディープラーニング特性を逆手に取り、AIが悪い方向に育てられてしまったという事例です。

Microsoft apologizes for hijacked chatbot Tay’s ‘wildly inappropriate’ tweets
 

 
 

  今回は米国のAIをテーマに米国でのメディア記事を中心にお送りいたしました。個人的にもっとも興味深かったものは、MicrosoftのTayが差別的な発言を連発する等、悪い方向に学習してしまったという事件です。
この事件は、「AI=人工知能として賢い」という図式は簡単には成立せず、育ての親(つまりユーザ)次第では悪意を持ったAIが完成してしまうという事例になったのだと思います。

 AIといってもやはりシステムに変わりません。従来通り、使い手の運用の仕方次第・つまり育て方次第で便利にも不便にも育つという点は変わりなさそうです。その点、我々はITコーディネータとして、経営者やユーザのニーズを適切に汲み取り、システムを「Tay」の様にさせない事が使命なのだといえるのではないでしょうか。


次回は米国ならびに海外におけるシステム導入時の失敗例を中心にお届けしたいと思います。
こちらで行われるカンファレンスやイベントへの取材や、執筆内容のリクエストもお待ちしております。
 


日曜日のタイムズスクエアです。
夏が近づき連日多くの観光客で賑わっています。


夜のクライスラービルと満月。
藍色の夜空がとても綺麗です。

 
※記事内で紹介しているリンク先は掲載時点のものとなります。
 

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