掲載日:2017年1月20日 | |
執筆者:浅井 治 | |
前回は、観光ビジネスの主役であるDMOの概要に触れ、目的や役割について考えてみた。DMOが事業体である以上、マネタイズを志向しなければならない。そして、現地でのキャッシュフローは、ヒト、モノ、カネ、情報を誘引し強いては、地方創生の資金源となり原動力となる。 第3回はこちら |
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Ⅳ観光発地方創生 | |
■マネタイズ(稼ぐ力) | |
事業である以上、収益を生み出す必要がありマネタイズは不可欠である。仮に、売上に関するKPIを設定したとしても、「取らぬ狸の皮算用」にならないようにするためには、具体的なビジネスモデルとキャッシュフローが必要である。観光発のビジネスで地方創生を目指す際、先ず、観光ビジネスでのマネタイズを見る必要があり、観光ビジネスの主役は先に説明したDMOである。DMOに関連するマネタイズには、2つの観点がある。まず、DMOは営利企業なので、DMO自身が収益を得て健全に運営されるためのマネタイズと、次に、DMOの各種の施策に参加する地元の企業が、それぞれ収益を得て最終的に地元が活性化して地方創生に繋がるためのマネタイズである。
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(1)DMOのマネタイズ | |
先ず、前者のDMO自身の収益を考えよう。DMOとしてのサービスは、地元の企業に情報やサービスを提供する立場となるだろう。つまり、収益は地元の企業から得る。これは、会員からの会費という形になるかも知れない。そして提供するサービスは、仕入先としてサービスを提供する企業が存在するだろう。いわゆるクラウドのようなサービスかも知れない。例えば、デジタル広告を提供する場合、広告主は地元の企業であり、広告のクリック数に応じて、広告宣伝料をDMOに支払う形態であったり、販売が成立した場合のアフィリエイト(紹介料)を支払う形かも知れない。
いずれにしても、地元の企業から支払いを受けこれがDMOの収益になる形態は、これまでの自治体ビジネスではなかった新しいモデルである。また、事業の経営となると、ある種の選択と集中があり、「判断」が必要となる。これまでの自治体の事業では、公の立場であったが故、公平性、平等性を担保することが必要であったが、事業化することで、事業戦略の元、この公平、平等の概念がなくなり、選択と集中が発生する。この部分も新しいスキームであることを認識しなければならないだろう。
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(2)地元企業のマネタイズ | |
次に地元企業のマネタイズだが、前述の、DMOから広告宣伝サービスを受ける場合、その広告宣伝料を支払い、その効果として自社の製品やサービスが売れ、売上が増えるという図式である。当然、売れないリスクもあり、これを回避するマーケティングが必要になる。ここでも「判断」が必要となる。
事業を営む以上、これらの「判断」が必要になり、その判断をするための材料が情報である。これは、一般の企業におけるマーケティングという活動であり、DMOではマーケティングをして、戦略的に事業を行うことが求められているのである。とはいえ、DMOにも、地元の企業にも、マーケティングの専門家はいないだろう。そこで、専門知識を有する人材が求められ、ITCにとってはビジネスチャンスになり得るのである。マーケティングは広告周りだけではない。販促、商品企画、差別化、プロモーションなどいろいろな角度での取り組みが考えられ、この部分に投資すること、結果的に、売上が増えるというサクセスストーリーを描き、実施すること。これが、DMOの最終的な目的である。そう考えると、ITCとしてお手伝いできる部分は多く、参入のチャンスも多い。ITCはIT導入を支援するが、それだけではなく、マーケティング戦略を含む事業戦略に食い込むチャンスなのだ。
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■DMOとITC | |
ここで、DMOの事業とITCとの関連性を見てみたい。DMOの事業でも、ITコーディネータ協会が推奨する「IT経営」を実現することが望まれており、このようなDMOを支援することが、ITCとして活躍する場になり得るのである。IT経営とは、ITの利活用を最適化した戦略の策定と実現であるが、以下のような手順で推進する。
(1)外部/内部環境分析
(2)SWOT分析
(3)セグメンテーションとターゲティング
(4)ポジショニング
(5)コンセプト策定
(6)戦略策定:あるべき姿(バランススコアカードなど)
更に、戦略の実行では以下のマネジメントを行う。
(7)マネジメント体制を確立して
(8)KPIを見ながら、モニタリング&コントロール
このように、DMOが行う戦略の策定や分析プロセスやマネジメントは、「IT経営推進プロセスガイドライン(ver3.0)」※の内容と整合性があり、これらは既に、ケース研修で体験的に学んだ内容である。つまり、ITCは「IT経営」を推進するスキルを持ち合わせているはずである。これはITCにとって強力な武器となり、大きなビジネスチャンスとなるだろう。
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IT経営を推進する経営者、コンサルタント(ITCを含む)向けの書籍で、「IT経営」を推進しマネジメントする上での基本的な概念、考え方や手順などを示している。
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DMOは、観光庁の事業であり、観光ビジネスを駆動させる仕組みである。ところが、仕組みや内容は観光に限らず、いろいろな地方創生に絡めることもできるし、むしろ、そうすべきである。DMO事業の一端として、地域住民の満足度を指標とする場合も考えられる。これは、観光客向けのサービスが、その地域に住む住民に受け入れられているかという指標である。観光のサービスを手掛けるのは、その地域に住む住民の方々である。彼ら自身にメリットがなければビジネスとして立ちいかないのである。地元に誇りをもって生き甲斐ある地元を創造したい。観光ビジネスはその一部に過ぎない。また、観光ビジネスは観光以外の産業にも波及する。以降では、観光以外の活動との関係や観光ビジネスとの相乗効果について紹介する。 | |
■Uターン・Iターン・Jターン・移住 | |
地元の学校を卒業して、都会の大学などへ進学、卒業後、一旦、都市部で就職することで社会人を経験した後、地元や地方に移り住み新しい人生を送る。そんな価値観を持った人達がいる。この現象は、過疎化が進む地域では人口の流出に歯止めをかけ、成功事例として紹介されている。このような、移住やUターン・Iターン・Jターンのようなトレンドは、積極的な意味での移住と、必ずしも積極的でない移住も存在する。非積極的とは、都会の生活に疲れてしまい、田舎に移り住むという選択である。積極的か、非積極的かはさておき、結果的に移住に伴い、物理的な生活環境が変わり、新天地での生活が始まる。当然、不安も伴い、それ相応の決断も必要だ。これらの施策の成否は、当事者の相談に乗り、コーディネーションすることといっても過言ではない。環境を変え新天地での挑戦する当事者に寄り添うサポートを提供するサービスである。
これらの成功例では、自身の精神的、経済的安定に加え、地域での雇用が創出される可能性もある、その枠を活用して新たな移住が促進され、相乗効果にも成り得る。移住やUターン・Iターン・Jターンが、今後の地方創生の屋台骨となる程のボリュームではないにせよ、地域の活性化の一助となっていることを認識するべきである。
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■サテライトオフィスとインキュベーション | |
とはいえ、いきなりUターン・Iターン・Jターンで移住するのはリスキーな選択である。そのため、まずはリハーサルとして、地域の生活を体験する場としてサテライトオフィスなどが活用される場合もある。その土地に行ってみなければ分からない、行ってみて初めて知り得るメリットもあるかも知れない。サテライトオフィスのような試みは、自身の新たな可能性やチャンスを見出す手段でもある。また、サテライトオフィスと起業(インキュベーション)は非常に親和性が高く、サテライトオフィスの延長で、起業(インキュベーション)の可能性も十分あり得る。
独立した法人を設立する場合も、株式会社に限らず合同会社等の連携企業であったり、NPOなどの非営利組織であったり、やりたい事業に適した形態での最適な組織を選択することもできる。ここでも不安はつきものであるが、これらを応援する組織や環境が整いつつある。サテライトオフィスやインキュベーションでは、特に若い世代が集まる。そこには、創造性があり、活気があり、新しい価値観がある。類は友を呼び、加速的、相乗的に、ヒト、モノ、カネ、情報が集まる。サテライトオフィスやインキュベーションは、これらを意識的に仕掛けることが可能ではないだろうか。
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■雇用創出と人材育成 | |
このような、Uターン・Iターン・Jターン、移住、サテライトオフィス、インキュベーションでは、少なからず人的交流が発生し雇用を創出する可能性がある。このためのアクセスやインフラ等が整備されていることが望ましいが、この環境も一義的なものではなく、流動的、選択的な物になってくるだろう。そして人が動き集まれば移動のためのコストが生まれ、衣・食・住の産業が誘致でき、草の根的な地域の活性化に繋がる。これは、ヒトの後に、モノ、カネ、情報が付いてくることで、マネタイズの環境が整うことを意味する。ビジネスとは、人が動き集まるために理由(ストーリー)を考え、仕掛けることである。
また、地方創生の試みは新しい試みであり専門家が少なく、多岐に渡るビジネスであるため、すべてに精通した人材を探すことは難しいかも知れないが、各方面の専門家を集めたり、そのような人材を育てることも必要かも知れない。先に紹介したように、DMOの形成や運営では、ITCのスキルを十分に使うチャンスがあり、更に、そこに係る人材を育てる必要性もある。Uターン・Iターン・Jターンや移住等、社会人経験者を招き入れることも有効だが、地元で生まれ育った若年層を育て、地域に留まり、定着させることも有効だろう。このためには、地元に雇用があること、生き甲斐を感じられ、地域に留まり定住するだけの価値があること。そして、地元でも自分の夢が叶い、人生を設計ができるような環境が整っていること。過疎化による少子高齢化が加速する地方を救うためにも、魅力ある地域を創造しなければならない。観光ビジネスも移住等のビジネスも、人を動かし集めるための仕掛けである。
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■利用者目線と現場主義 | |
これまで、いろいろな視点でインバウンドや地方創生の話をしてきたが、恐らく根底に流れるのは「利用者目線」であろう。これは、観光ビジネスに限った話ではなく利用者が存在するすべてのサービスに共通することである。「利用者目線」は、先入観や思い込みを捨てる事でもあり、イノベーションの源泉でもある。観光客の「利用者目線」は、実は簡単なことである。何故なら、自分自身も観光客(利用者)になることができるからである。自身が観光客になった場合を想定して、どんな情報が必要で、どんなサービスが欲しいか。自分事で考えることができれば答えは目の前にある。自身の体験に裏付けられた現象は紛れもない真実である。そして現場に出る。現場には現場でしか得られない生の情報があり、現場に出て初めて分かることも多い。机の上だけではなく、現場の声を聴き、肌感覚で感じる。これは、より多くの人の話に耳を傾けることに他ならない。我々は何も知らない、わかっていない、わかっていると思いこんだり、勘違いしているだけなのである。
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■結び | |
以上、観光ビジネス(インバウンド)から始まり、地方創生に至る道のりを描いて見た。この連載を通じて、これらの一連の活動の中に、いろいろな場面で、ITCの活躍の場があることに気づいていただけたのならば幸いである。例えば、DMOでは、いわゆるPDCAを回して、ビジネスをマネジメントすることが求められるが、ビジネス戦略を立てるプロセスは、まさにPGLで定義したプロセスそのものであるし、このガイドラインに沿った形でコンサルティングできるのは、ある意味、ITCの特権ではないだろうか。 また、DMOでは、KPIを設定して結果を見直すことが求められる。ところが、このKPIの設定が、目標値でなく難なくできる値であったり、真の目標とはかけ離れた数値であることも少なくない。このようなKPIを「実効あるKPI」に見直し、施策を推進する旗振り役が求められているのである。そこで、このような切り口で自治体とお付き合いすることで、ITCとしてのビジネスチャンスが十分あると思われ、一連のアプローチで信頼を勝ち取れば、自治体の有識者や相談役あるいは、外部CIOという立場での支援へも繋がっていくだろう。そのためには、ITC自身も果敢に挑戦し、情報収集をし続けなければならない。 ITCはITの専門家であるので、今回はあえてITの話には言及せず、ビジネス系の話に終始した。DMOのデータの分析においても、レポーティングを行うのは、分析の専門者かも知れないが、そのレポートから戦略に展開するのは、ビジネスを推進するITCの役割であろう。多様性と柔軟性、更に、利用者の目線は、どんなビジネスにも求められるスキルであろうし、ITCはITの導入屋や運用屋ではなく、ビジネスを提案し推進する立場でありたい。それが、IT経営の推進でありITCの使命なのだから。 |
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