インバウンド駆動型地方創生ビジネス 第3回

 

 掲載日:2016年12月14日
 執筆者:浅井 治
 
前回は、FITが求める「おもてなし」について考えた。今回は、観光をビジネスとして捉えた場合、DMOという組織体の必要性が浮かび上がる。今回は、このDMOの概要に触れ、目的や役割について考えてみよう。

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Ⅲ観光ビジネス
 
 ■観光ビジネスの主役は着地型
 これまで、インバウンドビジネスの動向やFITの実態、「おもてなし」について説明してきたが、以降は、これらを実際のビジネスとして捉えて行く。観光ビジネスとは、観光に関連する産業であるが、飛行機や列車などの運輸旅客業や宿泊業、土産物や各種のサービスなど裾野が広い産業である。しかしながら、地域にお金が落ち、地域の活性化という観点で考えると、次の5つの業態に絞られる。これらは「着地型」と呼ばれる産業である。以後、この切口での話としたい。

 1)宿泊業
 2)現地での二次交通
 3)施設の入場券
 4)小売サービス業(飲食サービス、土産物販売)
 5)現地発のオプショナルツアーなど
 
 これらの着地型の産業が、観光ビジネスの主役であり、地方創生や観光立国の立役者であることを意識したい。その意味でも地元の巻き込みが必須になるのである。
 
 
 ■DMO(Destination Management/Marketing Organization)とは
 昨今、観光庁から、日本版DMOなる事業が展開されている。これは、これまでの補助金による事業展開のように年度予算として補助を行う形態では継続性が保証できず、一過性の施策で終わってしまう。この反省から、DMOでは、PDCAが回る仕組みを作り、継続的な事業を構築することが要件となっている。このため、先の5つの業態だけでなく、広く地域を巻き込み、IoTを活用して情報の利活用により、マーケティングとマネジメントを行うことが必要なのである。
 以前、自治体では、PDCAの内、自治体ができるのは、PとDであり、CとAは民間でと言われたことがある。これまではそうだったかも知れない。ただ、その結果「金の切れ目が縁の切れ目」となり、一過性の施策になってしまった。DMOは、これらの反省をベースにしており、同じ轍を踏まないためにも、自治体だけでなく、民間を巻き込んだ形での組織体が前提となる。そして、組織体として利益を追求し事業としての継続性を担保する仕組みを備えなければならない。つまり、これまで、機能していなかったCとAを作り込み、PDCAを回すことが必須条件となる。
 DMOでは、地域でお金が回る経済活動を作り込むわけであり、地元不在では考えられない。巻き込みとは、具体的に、地銀、信金、商工会、地元商店街等、更に、これらのサービスを賄う地元の労働者を育成する意味で教育や研修、人材派遣業等にも波及する。特に、地銀、信金、商工会には、地元のヒト、モノ、カネ、情報が集約するハブとなっており、有力企業や、地元の有力者との人的交流もあり、地元でビジネスする上での有効な人脈にも通じる。

 
 ■DMOと地方創生
 このようなDMOの事業は、地域で展開されている、Uターン・Iターン・Jターンやインキュベーションのような雇用創出の事業とも整合性が高い。このように、DMOは観光庁の施策ではあるが、地域にとっては、地方創生や町興し等、観光の範疇に留まらず、裾野の広い産業に波及する可能性があり、地域を上げて取り組むべき事業でもある。とはいえ、便宜的に、一旦、話を観光の範囲に戻して考えてみよう。本当に観光客のニーズを捉えているのか。真の「おもてなし」を提供しているだろうか。多くの自治体では、インバウンド施策として、以下のような施策に取り組まれている。
 
・外国人向け無料Wi-Fi環境整備
・外国人向けプリぺイドSIM提供
・ゆるキャラの活用
・世界遺産の活用
・案内看板やパンフレットの多言語化
・Web Pageの多言語化
・多言語観光アプリの提供
・外貨系カード決済システムの導入
・免税システムの導入
 
 これらの施策の個々の機能やサービスは、外国人旅行者にとって必要なサービスであり、求められていることを否定するつもりはないが、残念ながら、それぞれの施策が単発的でバラバラの取組になっていることは否めない。担当者の声を借りれば、「我々は、インバウンドの受け入れ対策として、主要駅等の無料Wi-Fi設備を設置している。」と豪語される。ただ、実際に使われているかは無関係である。つまり、施策を実施したことに対する自己満足であり、結果がどうであったかは見ていない場合が多い。また、「隣の市がWi-Fiを設置したので、我が市ではWi-Fiに加えて観光アプリを提供している。」では、このアプリのダウンロード数は何本なのだろう。更に、アプリをダウンロードしてもらうためのプロモーションがどのように仕組まれているのだろうか。
 「ゆるきゃら」に頼った施策も如何なものだろう。そもそも、「ゆるキャラ」は海外のメディアや旅行者にはどのように受け止められているかを意識しているのだろうか。恐らく、ディズニーランドのミッキーマウスか、ディスカウントショップの呼び込みキャラクターだと思われ、地元をアピールするキャラクターであることは一切伝わっていないかも知れない。
 世界遺産にしても同様である。確かに世界遺産は、観光資源であることには疑う余地はない。ただ、「世界遺産だから何もしなくても客が来る」と思ってはいないだろうか。日本人なら世界遺産に選定された経緯も理解できるが、外国人にとってそのオブジェが何物で、何故、世界遺産になるような貴重で価値あるものなのかの説明が一切ない。「世界遺産に立ち寄って記念写真を撮った」という事実は残るが、楽しんではいないし何も体験していない。これでは満足度が下がり、「行ってみたけどつまらなかった」とSNSに投稿されるだけである。
 更に、世界遺産に限らず、貴重な遺産を維持しメンテナンスのための修復が必要である。世界遺産に認定されたから修復予算が確保できた等の事情もあるかも知れないが、認定されない遺跡などが朽ち果てている状況は如何なものであろうか。また、修復の時期にも一考の余地があるだろう、あえてハイシーズンではなく、観光客が少ない時期にスケジュールしたり、複数の施設を同時に修復しない。訪れた観光客にとって修復風景は残念である。まして、すべての遺産が修復中だったらショックでもある。折角来たのだから、せめて1つだけでも修復中でない状態で見たいと思うのが人情だろう。天候が悪くても楽しめる工夫等もこの一環であろう。残念と思われても、代替手段を準備しておくことによりこと、不満足度は軽減される。これらは些細なことかも知れないが、各種の施策を利用者目線で束ね連携させることが、DMOの役割でもある。連携させることで利用者に価値を提供することができることもある。
 その上で体験を作り込み、楽しんでもらい、リピートに繋がるストーリーを構築する。また、持続させるためにはマネタイズは必須である。ボランタリーベースでは続かない。観光立国、そして、広い意味で地方創生を担うのは、他ならぬDMOなのである。
 
 
■データによる分析とマネジメント
 DMOに求められるのは、先にも触れたように事業の継続性である。将来的には、補助金等を期待せず自走できることが求められ、これには、事業者としてのマネタイズが必要となる。これは、これまでの自治体や、各種の非営利団体でのオペレーションを異なり、営利企業と同様な経営が求められる。ここで、戦略のベースとなるのはデータである。データを活用するという意味では、ITの利活用は不可欠である。情報の分析や評価はそろばんや電卓の時代ではない。DMOの運営では、どんな数字を追いかけるかが重要なポイントとなる。そこで、DMOが収集し分析すべきデータとして、以下の指標が掲げられている。
(出展「日本版DMO形成・確立に係る手引き」[国土交通省  観光庁])
 
 1)観光入込客数
 2)延べ宿泊者数
 3)旅行消費額←渡航交通費を除いた、現地での消費額
 4)来訪者満足度
 5)リピーター率
 
 これらは、単に「Wi-Fiスポット敷設数」や「イベント開催数」のように、事業成果を示す目標値ではなく、戦略に基づいて行われた施策の結果として得られる数値目標であることに注意したい。その他、観光資源、宿泊施設、利便性や地域住民の満足度等も収集対象と成り得る。地域経済分析システム(RESAS)の活用も推奨される。
 ここでの指標は、すべて国内旅行者を含んだ指標である。実際、外国人旅行者だけの情報では母数が少ない可能性もあり、偏りが出る可能性もある。そこで、国内旅行者を含んだ全体の中で、外国人旅行者を個別に分析することになる。
 これらの分析にはいろいろな方法があり、各地の事情によりさまざまだろう。ただ、観光ビジネスにおいての共通点は「おもてなし」である。言い換えれば、「おもてなし」は体験でもあり、「また、訪れたい、知人に紹介したい。」と思っていただくこと。これは、NPS(Net Promoter Score)と呼ばれる指標で、当事者の満足度の先にあるロイヤリティを示すものであり、ある意味「おもてなし」力とも言える指標である。「おもてなし」は、サービスに織り込まれて提供されるものであり、それだけで商品価値があり値段がつけられるものではない。ただ「あなたの心遣いにチップをお支払いしたい。」と申し出る外国人観光客もいるという。課題とソリューションの整合性が取れていることはビジネスの基本であるが、その先には、顧客満足度を得てロイヤリティを育むことでリピーター率の向上に繋がり、成長率や収益率の向上に繋がるのである。
 
 
 今回は、観光ビジネスを推進するDMOのあり方について考えた。一過性のキャンペーンでなくPDCAを回してマネジメントしマーケティングすることで、自走できる組織体制を構築することは、地場の企業や自治体に取ってチャンスであり挑戦である。また、ここでは、ノウハウと人財が必要となり、ITCにとってもチャンスである。次回は、ITCがDMOの運営にどのように関わっていくかについて考え、観光ビジネス(インバウンド)が、いろいろな産業に波及し相乗効果を産み、地方創生を成就する様子について考えてみよう。
 
 
 
※第4回の掲載は1月中を予定しております。
 
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