事例本文(喜多屋)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:3 (株)喜多屋   事例発表日:平成12年1月25日
事業内容:酒類製造
売上高:18億500万円
1999年6月
従業員数:61名 資本金:2000万円 設立:1951年1月
キーワード 酒造業、
営業支援、給与計算、経理処理の短縮、在庫管理、財務会計、販売管理、
バーコード、パッケージ利用、ハンディターミナル
情報を活用した業務革新
(株)喜多屋 URL:http://www.kitaya.co.jp

(株)喜多屋 代表取締役 木下宏太郎
プロフィール
昭和62年東京大学農学部卒業、宝酒造株式会社を経て、平成4年に喜多屋に入社。平成6年まで国税庁醸造試験所にて2年3ヶ月の研修を受ける。平成11年10月、喜多屋代表取締役に就任。
~伝統と慣習の色の濃い酒造業においてシステム化を推進~
江戸文政年間から酒造業を営む老舗・喜多屋の7代目として創業以来の経営理念や品質に対するこだわりは大切に継承しつつ、経営においては情報化という新しい風を吹き込んでいるのが木下社長である。酒造りは伝統のある世界だけに、蔵の中に今も残る習慣や受け継がれてきたやり方が根を張っている部分が少なくない。一見、システム化とマッチしないようなイメージのある独特の業界において、どのような情報化を進めてこられたのか、興味がわき上がる。

■会社概要
企業名
株式会社 喜多屋
設立
昭和26年1月
代表者
木下宏太郎
資本金
2,000万円
業種
酒造業
従業員数
61人
創業
江戸時代文政年間
(1818~30年)
年間売上高
18億500万円
(平成11年6月)
事業所
本社、福岡営業所、東京営業所、筑後工場、福島酒造(株)(子会社)
製造商品
清酒、焼酎、発酵調味料(酒みりん)、リキュール、甘酒等
URL
http://www.kitaya.co.jp


■取り扱いデータ量
商品点数
通常月 240アイテム Max(12月)270アイテム
顧客数
900社
伝票枚数
売上; 平均80枚/日 Max350枚/日
経理; 平均50枚/日 Max500枚/日
月末在庫
平均20000c/s


■新システム導入の経緯
・オフコンによる販売、財務、給与の管理システムを利用していたが、導入後7年近くになり陳腐化していたので新システムへのリプレースを計画。2000年問題の解決。
・新システムの本稼動開始を平成9年10月(ボトリング・倉庫・出荷事務所が入った新工場が竣功するタイミング)に設定し約15ヶ月前から計画を開始。
・(財)福岡県中小企業振興公社の情報化支援アドバイザー事業を利用。

■老舗を変えるコンピュータ世代の若き経営者
講演をお引き受けするにあたり、優れた情報システムを使いこなしている多くの企業があるの中で、私どものような小さな会社の話でいいのだろうかと思いましたが、みなさんのイメージの中で恐らく造り酒屋は、情報化、コンピュータ化から最も遠いところに位置するのではないか、そういう会社の話というのはある意味では、まだ小さいシンプルなシステムですから多くの方に応用が利き、また参考になる点もあるのではないか、と考えお引き受けしました。
当社は、江戸文政年間の創業で、創業者である初代が酒造業を始めるにあたり、お酒という商品を通して多くの喜びを伝えたい、そういう喜びを分かち合うような仕事をしたい、という理念を打ち出し、喜多屋という屋号をつけました。それが今日でも社名と酒銘になっています。
清酒から始まった会社でありますが、現在の取扱商品は、焼酎、発酵調味料、リキュール、甘酒等幅広く、容量も様々ありますので通常商品は240アイテムほどあります。12月はこれにお歳暮のギフトセットが加わりますので取扱商品は270アイテムほどに増えます。またこの時期は忘年会等の宴会シーズンでもあり一番の繁忙期です。取引先も900社程ありますから、伝票処理及び在庫出荷管理はかなり大変になります。
今回ご紹介する当社のシステムは、平成9年10月に立ち上げたものです。
私は大学ではバイオテクノロジーを学んでおりましたが、技術系ということもあって、多少なりともパソコンには親しんできました。今回の話の本題に入る前に、パソコンを使い、システムを作っていく上で私なりに大切にしているポイントを3つ掲げたいと思います。
・あまり肩肘を張らない。大上段に構えない。
自分が必要と思うことが出来ればいいと考えます。OSも、アプリケーションも、ハードも、ものすごい勢いで進歩していますから、全部把握しようなどと思ったら把握した頃にはもう次のバージョンに上がっている。という状況になってしまいます。ですから、経営者として何が必要か、何が優先か、必要なことがきちんとできていればいい、と考えましょう。
・必要十分なものにする。(1の延長線上)
今はいらないけどこんな機能も将来は使うかもしれないな、などとあまり先を考えないことです。特に中小企業ではコストパフォーマンスが非常に重要ですから、情報システムにいくらでもお金をかけられるわけではありません。今現在何が必要であるか、それを第一に考えましょう。
ハードもソフトも先頭切って一番新しいものを買うより、半歩くらい引いたほうがいい場合もあります。出たてのものはどうしてもトラブルが発生しやすいので安定性という点からも、また価格面からも半歩ぐらい引いたほうがいいと思います。
・ 何でも自分で解決しようと考えるのではなく、わからないことは人に聞く、という方法が問題解決には早道だと思います。
しかし誰にでも聞けばいいというものではありません。ゴルフと同じで教えたがる人は沢山いますが、ヘタな人に聞くとかえって混乱してしまいます。相手を選んで、エキスパートの人に聞くようにしましょう。もちろんある程度まで自分で勉強しておく必要はありますが、自分の専門領域外のこともありますので、そういうところは専門家に聞いたほうが結局は早いのではないかと思います。
以上は学生時代から今日までの私のコンピュータとの関わり方の方針で、これが今回のシステム構築にもベースにになっています。

■従来型システムの問題点
当然のごとく昔はオフコンを使っていましたが、2000年問題もあり新システム稼働のタイミングを、ボトリングや製品倉庫関係の新工場を平成9年10月に竣工させるのに合わせて、およそ15カ月くらい前(平成8年7月)からシステム全てのハード、ソフトをやり直そうということになりました。
それには専門家に聞くという意図で、(財)福岡県中小企業振興公社の情報化支援アドバイザー事業を利用しました。また私は(財)福岡県中小企業振興公社の食品交流プラザという異業種交流の会に以前から参加しておりまして、自分のところの業種だけで考えていますと視野が狭くなりますから、できるだけ異業種の方のお知恵を拝借したい、私たちの業界では全然知らないことでもよその業界では取りあげられていることも多いので、幅広くアドバイスをいただきたいと言う意味でも情報化支援アドバイザー事業を利用しようと考えた次第です。
従来型システムについて一番大きい問題点は在庫管理でした。当社の取扱商品には酒税がかかりますが、蔵出し課税といって当社の敷地から出荷されて出ていく時に初めて税金がかけられます。従って在庫は保税物資であり在庫が狂うことは許されません。そのためにこれまで在庫のチェック、間違いの訂正に膨大な時間がかかっていました。「まあいいや、在庫を合わせておけば」という訳にはいかず、どこで間違ったのか徹底的に調べなくてはなりません。ですから、間違いが多ければ多いほど、バカにならないほどの時間が取られていたのです。
特に12月の繁忙期など大変な状況になります。いくら残業しても追いつかないので、これはもはや人間の力だけに頼るのでは無理です。システムを見直して根本的に解決する必要がありました。それが最も重要なポイントでした。
また、古いシステムではデータの処理能力と記憶容量が十分ではありませんでしたので、主要な情報だけをまとめて紙に出力して、データをシステムの外に出していました。営業マンが、売上情報等を加工しようとしてもいちいちエクセルに入力しなくてはなりませんし、今日は朝からいくら売上があるかということはその日の夕方にコンピュータを締めないとわからない状態でした。
またコンピュータ上の在庫数量は前日夕方閉めた時点のもで、倉庫に行って数えればとりあえず今の在庫はわかりますが、それがもう受注が入っている在庫か、まだこれから売ることができる在庫なのか、リアルタイムではわからないのです。例えば緊急の商談が入り、200ケース必要だという時に、ここにある在庫の200ケースを出していいのかわからないのです。これでは営業はどうすればいいかわかりません。そういう面も改善したいと思いました。
それから経営トップとしては当然、経営の舵取りをするにあたって月次決算が欲しいのですが、その作成に時間がかかっていました。これにもたもた時間がかかっているようでは、経営上よろしくありません。いかに早く月次決算を出せるかが重要なのです。

■新システムは必要十分かつリアルタイムがポイント
こうした問題点の解決を目標に、新システム導入のコンセプトとして、必要十分なシステムを、ということを掲げました。まず今必要なことを実現する。その必要十分であるということは、将来それに付け足すことが容易に出来るよう拡張性に優れたものでもある必要があります。即ちカスタムメイドではなく、広く普及しているOS上で動くパッケージソフトであることが大事です。幸い、長年お付き合いのあるソフト屋さんが、私どもと取り組んできたことをベースにして酒税がきちんと処理できるパッケージソフト「三酒の神器」、「ハイ!こちら経理課」(発売元:株式会社エフ・シー・エス)をすでに発売していましたので、それをベースに多少の手直しでできました。
 新システムの基本コンセプト
今必要としていることを実現出来ればよい。将来に備えた余分な(無駄な)機能は持たない。必要十分なシステムを作る。業務の必要に応じた拡張性に優れたもの。
伝票処理だけのシステムではなく、営業や経理でデータを活用できるシステム。過去のオフコンシステムのように、マシンルームに閉じこめたシステムにはしない。
ペーパーレスシステムを目指したものとする。帳票に出力したものを別の紙に整理し直すことは排除する。
データは生データをデータベース化すること。集計して元データを消すことはしない。
出力帳票、分析図などは、固定プログラムを全て用意するのではなく、定常的に利用するものだけを用意する。分析用は表計算に取り込める形を用意すればよい。
顧客要求に即時対応できるようにする。
在庫管理上のミスを根本的に解決すること。ハンディターミナルの利用。

さらに新システムでは、営業データを戦略的に活用できるものであること、バーコード利用のハンディターミナルで在庫出荷管理を行い、リアルタイムで顧客要求に対応出来るものであることを求めました。
新システム導入時に何よりも大切なのは、どうしたいのか、という経営トップの意志であることは言うまでもありません。しかし、トップダウンのみで進めると現場がついてこないで、システムが宝の持ち腐れになる危険性をはらみます。トップダウンとボトムアップを何度も繰り返すことによって、緻密な青写真を練り上げることが重要ではないかと思います。
(財)福岡県中小企業振興公社の情報化支援アドバイザー制度でご指導いただいたアドバイザーには、青写真づくりの段階から現場に深く入り込んでいただき、大変ありがたく思いました。例えば12月の繁忙期に、わざわざ早朝や夕方の出荷状況を把握に来てもっらたり、その都度問題に応じて現場で共に対処していただいたことにより、非常にスムーズに青写真ができました。
  新システムの概要
(1) 財務会計
酒税法に基づいた企業会計システムとする。
仕訳伝票の登録は複合仕訳可能とする。
仕訳データを集約しないで、そのまま原データとして保管できること。
出力レポートは画面参照が可能であること。
主要出力レポート
日計算、仕訳チェックリスト、総勘定元帳、現金出納帳 等
(2) 販売管理
リアルタイムで売り上げ状況が把握できること。
極力リアルタイムで受注分は出庫指示ができること。
出庫指示の日付の予約が可能であること。
売掛回収については一債権ごとの個別消込とする。
主要出力レポート
売上明細表、売上集計表、売掛残高一覧表 等
(3) 営業支援
販売管理で蓄積されたデータをもとにしたレポーティングシステムである。
販売履歴をデータベースに原データのまま蓄積しておき、非定型処理のためにデータをパソコンの表計算ソフトなどへ転送できるようにする。
(4) 在庫管理
出庫指示をハンディターミナルに受け取る。
出庫指示データにしたがって、出庫すべき瓶またはケースのバーコードをスキャンすることで、間違いをチェックし、同時にハンディターミナルに出庫データを貯える。
出庫済みデータはハンディターミナルから倉庫の端末/PCに接続して、基幹データベースへ出庫済みデータを転送するとともに、出荷伝票と運送会社の荷札(路線便の場合)をプリンターから出力する。
在庫チェック表をシステムから出力して、それと実在庫の整合チェックを行い、結果をデータベースへと転送する。
(5) 給与計算

システムの概要をお話しします。財務会計は当たり前のものが並んでいると思います。主要出力レポートもほとんどの会社で必要なものです。販売管理についてはリアルタイムで売上が把握できる。また、同じくリアルタイムで在庫の把握ができることを求めました。営業支援では、営業マンが自分の全得意先のセールスデータを容易に加工・分析出来ることを求めました。例えば「ある商品の直近3ヶ月の前年対比」等をマウスによる簡便な操作で参照できる。これらも今日多くの企業で当たり前のものでしょう。
在庫管理に関しては、先ほどバーコードを使ってのハンディターミナル管理と申しましたが、これは伝票出力を最後にするというやり方に変えたわけです。ダンボールには、商品と同じJANコードを入れています。通常は、受注データをコンピュータに入力して何らかの形で整理されて伝票が出てくる。何枚複写かの伝票の1枚が在庫係に回りそれを見てピッキングする、というやり方だと思います。これを今回は、ハンディターミナルを用いることよりシステム上で全部チェックし終わって初めて伝票を出力する、そういうシステムに改めた訳です。

■具体的なシステムの流れとメリットの数々
システム構成はご覧のように、大変小さくシンプルなシステムです。



本社と福岡営業所をISDN回線(音声、画像、その他のデータすべてをデジタル信号化し、高度情報通信サービスを可能にするデジタル通信ネットワーク)でつないで、本社のコンピュータ室にサーバーが1台、クライアントは本社(コンピュータ室・事務室・倉庫出荷事務所)と福岡営業所を合わせて8台ありオンライン化されています。倉庫出荷事務所は、整然と商品が並べられた倉庫の一部にあり、クライアントが1台とハンディターミナルとプリンターが繋がっています。
新システムを導入する前のやり方ですと、先に伝票出力して後からピッキングするので、人為的なエラーが起きていました。720ミリリットルと900ミリリットル等の商品のサイズや、バラかケースか、純米吟醸なのか純米酒なのか、など似たようなものもあってさまざまなヒューマンエラーが起こるのです。結果的に在庫を数えるとコンピュータの在庫表と合わないということが起きていました。
バカみたいな話ですが、従来は前日の夕方にトラックごとに正の字を書いて商品の集計していました。朝、追加の注文が入るとまた集計し直さなくてはならないので、その間トラックはいつまでも出られないのです。お得意先もそれがわかっているから、まだ追加注文できるだろうと見越して、朝、当日出荷の注文をしてくるというような悪循環でした。結局、非常に効率の悪い配送のやり方になっていました。




システム導入後には、まずコンピュータの中で、方面ごとにトラック単位で全部集計して出荷指示書が出ます。全ての商品にバーコードが入っていてハンディターミナルによって品種と数量をチェックする。卸店へパレット単位でのまとまった出荷もあれば、小さな単位の出荷もありますので、ハンディの画面上でパレット、ケース、バラを切り換えてスキャンする形にしています。こうしてチェックしてシステム上でOKがでたらそこで初めて伝票が出力されて出荷となります。出庫済みデータは伝票出力される段階でコンピュータ上の在庫表から引き落とされます。



新システムによる改善効果として、まず在庫管理上での違算はほぼ皆無になりました。若干残る出荷上のミスは、電話での受注時の聞き間違いです。この対処方法も考えております。ともかく新システムにより違算がほぼなくなった結果、繁忙期の12月でも、この在庫管理をしている管理部物流課では1日平均2時間の残業が減り人件費的にも大変助かります。社員たちにとっても以前は夜の11時近くまで残業していたので肉体的にも負担が大きかったし、精神的なプレッシャーも大きかったはずです。それが解消されたことはかなりの改善成果であるといえます。
営業データに関しては、現場の営業で必要なもの、課長部長レベルで必要なもの、私のレベルで必要なもの、いずれも全部簡単なマウス操作だけで取り出せますから、営業関係、企画関係の会議が非常に進めやすくスピーディに行えるようになりました。会議にムダな時間をかけたくありませんからこれは非常によい効果でした。
月次決算は管理部の人数を1名減らした上で、稼働日でおよそ7日短縮できました。まだ蔵内での酒造りの酒税事務や半製品の棚卸し等がシステム化されておらず、ネックになっていて、月初から実働10日程かかっていますので、この部分も来期までにOA化するつもりでいます。優れたパッケージソフトがありますので、それを使えばだいたい月初から3,4日ぐらいで月次決算ができると考えています。やはりそれくらいのスピードは必要ですね。

■FAX-OCRを導入
まだ酒税法の制約とか、得意先の都合とかがあり、小売店様との直接取引もある関係でなかなかそこまで行かないのですが、将来的には、インターネット等を使ってe-コマースをと考えています。
今およそ受注の60%がFAX、営業マンが取引先を回る時にもらって来る注文が30%、電話で受ける注文が10%です。FAX-OCR(手書き伝票などをFAX送信するだけでOCR自動認識機能を用いてセンターのコンピュータにデータを登録するシステム。受発注業務を中心に各種業務の省力化に最適)のデモンストレーションを見ると、価格も安くなったし、精度もものすごく上がってきていますので、すでに機器とソフトを導入しまして来月から本稼働させるよう準備中です。得意先にお願いしてゆけば、FAXによる注文は今より増えて75~80%くらいまで上げられるのではないかと思いますので、一層の省力化と、受注段階でのミスを大幅に軽減することが可能となるでしょう。
それら一連のことをやる間に、当社では今、主に管理部門の人員を減らしています。人を減らした上でのシステム化でなければ意味がありません。省力化が進めば、そこで浮いた人員をインターネットweb等を戦略的に使うために配置するなど、より質の高い組織に作り替えていくこともできると思います。限られた人員でいい仕事をしていく上では、やはりこういう情報化投資は欠かせないのではないでしょうか。私どもには間違いなくはっきりと変化が現れてきています。
今後も自分たちだけで考えずに、ITSSPなど公的機関のアドバイザー制度を利用していきたいと思っています。公的な支援を利用することは是非お勧めしたいです。

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