事例本文(山本精工)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:5 山本精工(株)   事例発表日:平成11年12月14日
事業内容:アルミ素材の加工、表面処理
売上高:不明 従業員数:26名 資本金:1200万円 設立:1980年9月
キーワード アルミ素材加工、
少量多品種生産、知的作業とルーティン作業の区別、
情報共有
経営効率改善の為の情報化取り組みについて
  
山本精工(株) URL:http://www.joho-kyoto.or.jp/~hilltop/

山本精工(株)常務取締役 山本昌作
プロフィール
昭和52年、立命館大学経営学部卒業後、山本精工(株)に入社。昭和57年に工場長に就任。平成元年から常務取締役となり情報化の要として尽力。また、昭和58年から京都機械金属中小企業青年連絡会の副代表を5期に渡って務める。
~人にしかできない仕事以外は徹底してデジタル化する「高収益体質づくり」~
厳しい経営環境にあえぐ日本の産業の代表例ともされる製造業。利益率の低下にあえぐ上に、3Kと言われる労働環境、従業員の高齢化もあり、将来性を憂える声も少なくない。しかし、そんな状況にITを武器に革命を起こした人物がいる。山本昌作氏である。家業である鉄工所、山本精工において情報化を進めてきたきっかけと道のりは大変興味深い。

■会社概要
設立
昭和55年9月1日
資本金
1,200万円
社員数
26名
事業内容 ・機械加工事業部
精密機器部品、精密機械部品、医療機器部品、科学計測器、真空機器、自工具設備製作、金型製作、ソフト開発
・表面処理事業部
アルマイト処理(白、黒、硬質、硬質黒、テクノマイト)、メッキ処理(無電解ニッケル、テクノフォス)

■利益効率悪化の製造業の現状
今日は製造業の現場の生中継というつもりでお話したいと思います。私たちをとりまく環境は大変厳しいものがあり、特に製造業はバブル崩壊後ずいぶん少量化の苦しみにあえいでいます。要するに数の多いものはどんどん海外にシフトして、国内に残ったものは多変少量、変種変量、多種単品と言われるロットサイズになってきました。人を介在させなくてはできない小ロットの仕事しか残らなくなってきました。極めて経営効率が悪化しているのが製造業の現状です。そのように機械化による効率化が図れないということであれば、人によるスキルを上げ、モチベーションを上げることを考えないと私たちのような中小企業は持ちません。これからの問題点は、人をどう引き立て、能力をどれだけ引き出すかであり、それが企業全体の力の循環になっていくと思います。今まで日本の経済成長、戦後の高度成長を遂げてきた日本というのは人が監視する、中間管理職や経営に携わる人たちが社員を見張るとか、ケツを叩いたりしてきました。それでは水を飲みたくない馬に水を無理矢理飲ませるようなものです。そういった中で100の能力のある人間が60、70の力しか出せませんでした。それを単純に80、90、100という能力を出すだけで簡単に利益構造が改善するという思いがずっとありました。それで10数年前から始めた私たちの取り組みを、今日は皆さんにご披露したいと思います。
当社は社員数30名近く。アルミ素材の加工及び表面処理をやっています。一般的な鉄工所ですが、最近の鉄工所はだいぶ様変わりしまして数値制御がついてNC旋盤だとかマシニングセンターなどの機械を使いながら加工します。半導体製造装置、医療機器部品、分析機器などを手がけています。このようなところに使われるものは精密で軽くて手に持てるもの、付加価値が非常に高いということで、素材によく使われるアルミに事業を絞りました。ただ、この業界は利益が3%、5%、8%くらいしか上がりません。昨今では利益どころか赤字で苦しんでいるのが大半の製造業だろうと思います。
当社も10数年前までは大変な収益の悪化に苦しんでいました。毎月、月を越すのが大変な時期がずっとあり、社長は月末になると朝から集金に走り、手形を割って午後から支払いに回るような忙しさで、辛い思いをしながら会社を維持していました。

■高収益企業へ体質改善したシステムとは
私どもは、今自分たちがやっている作業を細分化することによりおもしろいことができるということを発見しました。人のやるべき知的な仕事と、機械のやるべき仕事を上手に区別することで、非常におもしろいことが起きると悟り、作ったのがHILLTOP(ヒルトップ)システムです。これを始めてから収益構造が改善され、3%、5%、8%だった利益が20%から25%くらいまで上がりました。これはこの業界にしたら驚異的な数字です。私たちの狙うのは、売上を伸ばすことではなく、一人あたりの利益を上げることです。当社が京都で売上高ランキングに載ることは絶対にないでしょうが、一人あたりの利益率ランキングがあったとしたらどんな企業でも上位を狙えるはずです。当社も徹底して高利益の企業を目指そうとやっています。
社内にパソコンは40数台あります。社員の数より多いので、一人1台以上、鉄工所としてはすごい数だと思います。社員全員がプログラマーを目指し、データ化、情報化の入力ができる環境を作っています。他社では不可能とされる特注品もの、つまりオーダー品の無人稼動というものもやり始め、かなり出来上がっています。大手さんが量産もの、計画生産にのっとったものを無人化するのは非常に簡単でしょうが、私たちのような特注品ものは大変です。今コンパックやデルコンピュータなどがオーダー品を1週間ぐらいでお届けするというサプライチェーンマネジメントを徹底していますが、それに近いことができていると自負しています。
このHILLTOPというシステムを作るにあたって、3つの要素を重点として留意しました。
・量産ものはやらない!
・知的労働とルーティン作業を区別
・職人はつくらない
量産ものをやらない理由は、私自身の経験も関与しているのですが、20年ほど前、大学卒業後この会社に入った当時は自動車の部品加工が主で、量産ものの製造の孫請けでした。ある自動車メーカーの子会社から当社に量産のラインをやらないかというお話があり、私が現場の研修に行ったのですが、1日6000個くらい製造する現場の仕事は「これが人間のやる仕事か」と疑問に思うほど時間の経つのが遅かった記憶があります。何故ならまったく頭を使わない単純作業の繰り返しだからです。
現在、私たちは部品加工の仕事していますが、まず図面が来て、どの機械を使うのか、材料は何か、敷き板はどの向きだ、刃物は何を使うのか、ということを一生懸命考えています。これを加工デザイニングと言いますが、これは人間にしかできません。人間らしい、人間のやるべき仕事なのです。ところが、その後のデータを利用して加工するところは全くのルーティン作業になり、2個目からはデザイニングやデータ作成という工程は何もありません。自動車部品をやっていた頃はこの部分しかやっていなかったので、人間のやるべき仕事はひとつもありませんでした。これでは人が育つはずがありませんでした。



本当に大事なことは、知的な作業をどれだけ人にさせて、ルーティン作業をどれだけ効率よく情報化・機械化するかだと思います。いわゆるファーストロット、量産ものに関しては知的な作業はわずかしかありませんが、単品ものには非常に知的な作業が多く、当時売上の約7割を占めていた自動車部品の仕事をやめて、単品もの主体に変えたのです。「単品ものはクリエイティブで楽しいぞ」と言う事で、歌って踊れるような楽しい気分の鉄工所を目指しました。

■いつでも誰でもできる─情報の共有化のもたらす成果
ところが、楽しいはずの単品加工が楽しくありませんでした。なぜか。確かに1回目は単品加工で知的な作業があります。単品加工はそれっきりで終わるのではなく、何カ月に1回というサイクルでまたリピートしてきます。何百点の仕事が順繰り順繰り色々な形で来ます。そうなると知的作業ではなく、前にどうやったのだろうという回顧的作業になってしまうのです。ある製品を受注したらプログラマーAがプログラムを組んでオペレートして完成させ、次にまた同じものが来たらプログラマーAはボタンをポンと押して出来るのかというとそうではないのです。また前のやり方を思いだし、同じようにやり方を考える。その作業が以前の半分に減るかといえばそうならない。無人化などとても無理なのです。また、プログラマーAが休みだからプログラマーBにやらせると、できないのです。「以前のデータもあるのにナゼできないか?」と問うと、「人の作ったプログラムはようわからん。それだったら自分で作り直したほうがいい」ということになってしまうのです。例えで言うと車間距離をたくさん取る人が車間距離をあまり取らない人の車に乗ると恐くて仕方がない、そんなこわい思いをするのだったら自分で運転するというのと同じです。人の記憶に頼るやり方の弊害が出てくるのです。プログラマーAは自分の思いこみの中で曖昧なノウハウで自分の仕事をどんどん積んでいく。だからAさんが1回やったものはその会社の中ではずっとAさんの仕事というのではなくて、いつでも誰にでも同じようにできる仕事のやり方が必要でした。お釜で御飯を炊くと人によって、またはその日によって固くなったり柔らかすぎたりで、おいしくできたり、できなかったりしますが、現代の炊飯器なら指示通りにお米とお水を入れてスイッチを押せば誰にでもいつでも同じようにおいしい御飯が炊けます。私たちの業界の仕事もこうでなくてはダメだと思いデジタル化し、今やっているサブルーティンの部分をもっと事細かにデータとして落としていけば、いつでもおいしい御飯が炊けるのと同じ成果が得られると思ったのです。
つまり、情報の欠落をどこかで防ぐということです。従来型の製造工程の中で、同じ仕事をもう1回やる時になぜ同じことがボタンを押してできないのか、無人化できないのか。情報が欠落したままで次の仕事に移ってしまうところに大きな問題点があると思います。
マクドナルドでは昨日今日入ったばかりのアルバイトでもちゃんとハンバーグが焼けます。温度、時間など徹底したマニュアルの成果です。私たちの業界もそれができないだろうかと考えました。
まず、企業内でやっていることをデジタル情報に変えようということに取り組みました。何百とある段取りの仕方はまず細分化して、似ているもの同士を括って大きな分野ごとに分け、標準化を図りました。加工情報は個人の持っている曖昧な情報を全部捨てさせました。たとえばある製品を作るのに機械を何回転させるかと聞くと、みんな答えが違います。1500とか、3000とか、4000といった具合です。それぞれの言い分を戦わせて、山本精工の真実の値、データを出すようにしたのです。誰が使っても同じデータで違和感なく使えるという情報の共有化です。他の人の作ったプログラムを見ても誰でも使える。それをとりまとめるソフトウエアも社内で作れるようになり、SEもちゃんといます。HILLTOPシステムにあるALMAC(アルマック)、COMxNC(コメックス)など全てオリジナルのソフト名です。人が介在しながらやっている中で繁雑な作業は一連のルーティンになっているものをよく理解するとコンピュータに置き換えられることがわかったので、ところどころでたくさんのソフトを使っています。こうして人の記憶に頼ることなく、できる限りワンシートに作業環境、加工環境を忠実に再現できるようなシステムづくりを行ないました。それがHILLTOPシステムの起こりと内容です。
手配業務は従来と同じです。例えばプログラマーA、B、C、Dでやる場合、通常通り加工しオペレートして完了させますが、加工環境、段取りのポジションや方法、使ったもの、道具......ボルト1本にまで名称がついていますのでこれを全部記録します。光ファイルやパソコンを媒体に全部記録し、これを企業としてのノウハウ、財産に変換させます。そして、同じ注文がきた時に、今度はコントローラが今まできたリピート品を一手に引き受けてやってしまいます。最初にやった時の段取りを忠実に再現できるので誰がやってもボタンを押すだけでモノが出来上がります。



Aが1回やったらその仕事はずっとAのもの、という従来型に対して、この方法では、1回やったものはすでに人間の仕事ではなく、次に注文が来た時には誰でもできる体制が取れるのです。ひとつのエピソードがあり、Xさんが納期をせかされて3日3晩かかってある製品を作りあげ、それを検査の場所に置きましたが3、4日してまた同じ場所に同じものが置いてありました。あれだけせかされて作ったのになんでいつまでも置いてあるのか、とXさんが怒りました。すると、検査の担当者いわく「君の最初に作ったものはもう納品したよ。ここにあるのは、その後すぐにもう一回注文が来たやつだよ」といった話もありました。どれだけ難しい品物も、リピートの時にはそのデジタル情報さえあればいとも簡単にできることがわかりました。

■向上心のある人が育つということは、企業の発展パワーが増すということ
こうしてルーティン作業を徹底して排除する体制ができあがると、昼間の8時間で加工チェックをして、夜にボタンを押して帰ると翌朝来た時には品物があがっています。だから昼間の8時間にどれだけたくさんのチェックができるかが重要で、プログラマーは皆機械の取り合いです。納期の余裕のあるものには土日にシフトして週末ワークと称しています。お正月ワークもあります。
利益率が大幅に改善され、メリットの大きいシステムですが、これを作り上げるためには本当に苦労しました。経営を預かる立場として私は絶対に社員を監視しない、ケツを叩かないことをモットーにしてきましたが、このシステムを定着させる時の1年間は徹底して鬼のように見張り続けたことを今でもよく覚えています。社員に「これが本当に正しいんだ、絶対に自分たちの為になる、自分たちが楽になる」と知ってもらうためには、体験してもらうしかないので実践させながら、間違っていないか、ミスはないかを監視していました。
成果のひとつとして、人の質の向上、技術の向上も得られました。先に職人は作らないと申しましたが、この業界はあまりにも職人さんと言われる人が多すぎます。しかし、今やっていることは少しの訓練でみんな修得できるものがほとんどです。当社に面接に来る人でも20年やってきたという職人さんも、実際にフタを開けてみるとこちらの求めることが何もできない人が多いのです。こうした状況を作った企業の責任は大きいと思いますし、私たちは職人という言葉の中に人を括らないことを前提にやっています。一生かかって同じ作業ばかり繰り返すのがいいことかどうか。企業がその人のできた仕事を20年も30年も引っ張るのが大きな間違いだと思います。1年2年で習得したものを次の世代、若い世代に全部渡して、その人にはさらに新しい技術などを与えていくことが大事なのです。私たちがやった知的作業とルーティン作業を分けることから、人がどうやって育つのかよくわかりましたから、そのことは人材育成に役立てています。当社の人材教育は、「まず自分の持っているノウハウ・能力を全部捨てなさい」ということから始まります。本当に捨てるということではなく、データ化する、企業内にデジタルとして落としていく、マニュアル化するということです。それから人伝えに教えていき、自分の仕事を軽くし、軽くしたところへ新しい技術を習得しようという方針です。新しい技術がその人にとって刺激になり、楽しんで仕事ができ、それが人の向上となります。企業の中にこういった人がたくさんいるということは大変厚みになります。中小企業でもこういった人間がどれだけいるかで、大きく飛躍するかどうか決まるのではないかと思っています。



私たちが標準化、合理化、企業内デジタル、コンピュータ導入などを進めることは、けして人を阻害することではなく、人に新しく創造する時間を与えられることだと思います。コンピュータを導入すると、コンピュータに使われるのではないか、と脅迫概念にかられたような誤解をする人もいますが、知的作業とルーティン作業を区別できないからそうなるのです。人は人にしかできないものをちゃんとやりましょう、そして普段の雑務となっているようなものは全てコンピュータに置き換えられるはずだと意識すると、コンピュータを道具として上手に使っていくことが私たちに最も大事な要素であることがわかるのではないでしょうか。
これからは間違いなくwebの時代になると思います。その時に企業がどれだけデジタル化できているか、これが勝負になるでしょう。是非とも皆さんの会社でも、これからひとつひとつの自分たちのやっている仕事を知的な作業なのか、そうでなければデジタル化できるかどうか、考えながら仕事を進めていかれたらどうかと思います。

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