事例本文(ダン)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:6 (株)ダン   事例発表日:平成11年10月14日
事業内容:靴下製造、卸
売上高:73億円
(2000年2月:本部)
従業員数:91名 資本金:1億4700万円 設立:1977年3月
キーワード アパレル、フランチャイズ制、靴下専門店、繊維業界、
顧客中心主義経営、在庫削減、人材開発、売れ筋把握
POSシステム、SCM
情報を活用した業務革新
(株)ダン URL:http://www.dansox.co.jp

(株)ダン 常務取締役 丸川博雄
プロフィール

昭和18年生まれ。大和証券を経て1967年(株)ダスキンに入社。経営企画室長として、アメリカ、ヨーロッパなどと提携する事業を日本に導入する際のコンピュータ・システムの構築などを手がける。その後関連会社の代表取締役に。1988年(株)ダンに入社、1996年から常務取締役として現在に至る。

~ネットワークがアパレルを変える。より無駄なく、よりパーソナルに~

靴下の卸し・製造業の(株)ダンは、全国に専門店「靴下屋」を展開し、靴下の中でも伸び率の高いレディース物を扱い成長を遂げている。製造メーカーから、164のフランチャイズ店や58の直営店(53店舗は百貨店)、84の一般店までを全てネットワーク化し、発注から納品、オーダーシステムまで新しい体制を築いている。システム導入によりこの新生ダンを育ててきた丸川常務に現在までの経緯、特長などを伺った。


■会社概要
企業名
株式会社ダン
設立
昭和52年3月
代表者
越智 直正
資本金
1億4700万円(平成12年3月現在)
社員数
91名
売上高
本部売上 73億円(平成12年2月)
末端売上 101億円(FC売上)
取扱商品
ソックス、タイツ、パンティストッキング
URL
http://www.dansox.co.jp

■ネットワークシステムのコンセプト
  コンシューマー・レスポンス(CR)顧客中心主義
   ・1足からの発注(店在庫の減少) ・全品裸陳列(風合いの良さ)
   ・店からの発注(本部から店は見えない)
   ・オーダーブックの併用(見えない商品の発注)
   ・メーカーから本部に自動補充がメーカー売上
   ・本部はデジタルピッキングで店に配送
   ・本部の全在庫はデジタルピッキングの棚にある分

■旧体制の靴下業界、システムのない会社で始めた人海戦術版POS
私がダンに入社した当時は靴下の卸会社でした。取引先は約1400の小売店です。靴下を扱う業界において、製造、卸には業界がありますが、靴下の小売業には業界がなく情報が全く入ってこない状況でした。デパートで靴下の売場を確保するのは大変で、すぐに帽子や手袋に占領されてしまいます。
ダンの越智社長は中学卒業以来ずっと靴下に関わってきた人物で、何とか自前でコントロールできる売場がほしいと願い、私が入社する3年前の1985年に神戸でサンアイさんの中に10坪程度の店を任せられることになりました。メンバーズショップと呼んでいたその店は思い通りに靴下を並べることができ、充実した品揃えや雰囲気のよさが口コミで評判になり、たちまち全国に30店舗ほどに増えました。
私が友人から「いい会社があるけど、システムが何もない。このままだとパンクする。手伝わへんか」と推されて入社した当時は30店舗ありましたが、システムが何もないというのはこういうことかと身を持って知らされました。というのは、30店が30通りの取引形態になっていたのです。委託あり、掛売あり、現金売りあり、振込あり、ひどいのになると年2回しか入金されないような始末でした。ダスキン時代の経験で業種業態問わず何でもシステム化できるという自信を持っていた私でしたが、靴下業界だけは手に負えないと一度は辞退したほどです。
入社した時のダンでは、全国30店舗で、靴下の上のゴムの部分に品番とカラー番号をつけた管理カードを作って貼っていました。お客様が靴下を買った時に店員が管理カードをはずし、1週間毎にためて本部に送るのです。本部では送られてきたカードを模造紙に貼るのです。それを見ると「この品番のこのカラーが全国で売れているんだな」とよくわかり、生産にも活かせました。つまり現在のPOSシステムの人海戦術版です。これをシステム化することを提案したのですが、会社は今のやり方でいいし、レジスターで間に合っているという理由でPOSを導入してくれませんでした。

■フランチャイズをきっかけにPOSシステム導入を図る
POSシステム導入のために考えたのが、フランチャイズです。「フランチャイズとはこういうことですよ」という案を練りました。靴下屋という看板で店を運営していき、靴下屋をやる人からは加盟金と保証金を預からせていただきますと。まず会社として行うわけですから社員に納得してもらわなければならなかったのですが、社員は全員反対でした。社長が「全員反対とはおもろい。やろう。結局このままやったらうちの会社はどっち向いていいかわからない。だからフランチャイズでやろうじゃないか」と言ってくれてやることになったのです。社長がこう決めると社員全員が「わかった」と、次の日から反対したことを横においてついてきてくれました。すばらしい会社だと思いました。
フランチャイズにするのをきっかけに、POSを導入し、本部にコンピュータを入れるというつもりでしたが、会社にはそんなお金も人材もありませんでした。ところが神風が吹きました。昭和62年から検討して63年2月から導入しようと決めたのですが、63年2月といえばちょうど消費税導入が始まる時で店としてはどっちにしてもレジスターは買い替えなくてはなりませんでした。そこで、本部がそういうんだったら、POSがもし安かったら買ってもいいという話が出たのです。早速NECさんに来ていただき、「靴下屋をフランチャイズにしてこんなシステムを作りたい」と黒板に描いて説明しました。その時の黒板の図は今のシステム図とほとんど一緒です。「システムというのはひとつずつ継ぎ足して作るものではない、最初に完成図をイメージして段階的に作っていくものだ」というのが私の持論です。


前職で、サービスマスター等の組立て、アメリカのシステムの組立て方というのを学んでいましたから、技術としてはわからなくても頭ではどうやったらいいかわかっていました。結局、社員の一人をコンピュータ室の責任者に抜擢し、汎用機を入れて、100%外注でソフトを作ってPOS15台を導入して始めることができました。

■フランチャイズ店との取引代金は自動引き落としで

システム図に三井ファイナンスとありますが、これは自動引落しを専門に請け負う会社です。ダンでは、全国のフランチャイズ店に靴下を納めたら、その取引代金は20日締めの翌月6日払いで自動引落しでいただいています。お店に資金パンクをしてほしくない、現金経営をしていただきたいからです。通常の商売では、まず仕入れが立つから仕入れ代金が必要で、商品を売ってその代金を回収するのです。その期間の1カ月、2カ月、3カ月が小さな商店の経営を苦しくすると思うのです。
ダンでは、靴下屋をやりたいという方にはまずそこまで訪ねていって調査、審査を行います。(ちなみに審査の結果、開店がOKとなる率は10~15%)。その時に
・靴下屋をするには10坪の土地が必要で、それは借地でも所有でも構いません。
・建築費が1坪当たり50万円かかります。これは陳列棚まで全部含めた費用です。
・商品を置いていただくのに、立ち上がり時は1坪当たり50万円用意してください。10坪だったら500万円が仕入代金となります。
ということを説明します。その後は、先ほどの自動引落しで行います。
私がダスキンにいた時にスペシャル取引というシステムを作りました。これはお金を送らないと、商品を送らないという厳しいシステムです。ダンはそれよりもきつくないですが、商品を送ったら自動引落しで現金をいただきますので、当社では売掛管理はしていません。三井ファイナンスがコンピュータ管理で自動引落しを行い、引落しができなかったものの連絡がきます。例えば「2件引落しができませんでした」という場合はそのできなかったリストが売掛金台帳になりますので、ペーパー上での売掛金管理はしていないのです。

■小売店舗の在庫削減をトータルシステムで実現
●POSの利用による小売店舗の在庫適正化
まずフランチャイジーである「お店」にPOSターミナルを設置し、本部で情報を加工利用出来る様にしました。お店の立上時に商品を本部から全部送り込みますので開店時の在庫状況も把握できます。またPOSを通して個々の商品の販売数量(出庫数量)と本部からお店に卸した入庫数量が分かります。従って在庫数量も正確に把握できる為、個々の「お店」の在庫状況に付いて本部から随時適切なアドバイスが出来る訳です。

●在庫状況の把握による効果-万引によるロスのチェック
全国の「お店」の在庫状況把握が出来る様になった為、万引によるロス率が低い店から高い店まで順位が付けられます。実際一番低い店と一番高い店のロス率の差は決定的であり、オーナーのお店の運営姿勢に問題がある事が有ります。その場合は営業マンに「あなたの担当のある店はロス万引率が高いんだ」という注意を与える事が出来る様になりました。

●在庫状況の把握による効果-本部内の仮店舗で全国の店舗の商品陳列をシミュレーション
ファッション業界では店頭商品が「死筋」、「見せ筋」、「売れ筋」、「遊び筋」、「育て筋」の5つに分類されます。問題はどれが「見せ筋」なのかを判断する事です。「売れ筋」が売れるためにはどうしても「見せ筋」が必要になるからです。例えば茶色ばっかり並べてもなかなか売れません。それを目立たせるものがいる訳です。デザインも同様で「見せ筋」がないと「売れ筋」も売れません。従ってPOSから挙がってくるデータからだけでは「お店」に置く商品構成を決定する事が出来ない訳です。そこで当社では本部内に仮店舗を設置してコンピュータに保存している全国の小売店舗の商品陳列状況に基づいてラップで自動的に商品を棚から棚へ移動させ、個々の「お店」と同じ陳列状態を再現出来る様にしました。そしてその仮店舗で社長以下40年以上のキャリアを持つ社員が商品を実際に並べて見て、一番お客様にアピールする「ならべ方」を検討して「お店」にアドバイスする様にしたのです。このシステムのおかげで店を新規にオープンしても本部から人間が応援に行かなくても済むようになりました。

●デジタルピッキングの利用で小口受注を実現。
アパレル業界というのは春夏・秋冬で商品が分かれています。一番の問題は7~11月の毎月収益が上がっていても、12月にドーンと返品される事が有ります。そうすると半年間の利益は一遍に飛んでしまいます。これでは経営が安定しませんから売れる(返品されない)商品をメーカーさんに作って頂く必要がありました。そこでPOSで取得した販売データを本部で加工してメーカーさんに提供したのですがデータの表示の仕方が悪かった為に見てもくれませんでした。「どうしたらいいのやろ」ということで知恵を絞り結局、卸業者である当社のシステムを変更する事に決めました。具体的には全国のPOSから送信される発注情報を物流センターの4000個のランプが付属した装置で表示するのです。つまりランプが点灯した商品の数字が3ならばピッカーが3足ピッキングするという方式です。一番簡単なデジタルピッキングですから出荷されると棚から商品である靴下が減ります。そして減った状況を実際にメーカーさんに見ていただいて補充してもらい、この補充をメーカーさんの売上だと言う事にしています。この仕組は当社の取引メーカー全てから車で10分以内の所に物流センターを建設した為に可能になった事です。

●POSとデジタルピッキングの組み合わせシステムの効果
このPOSとデジタルピッキングの組み合わせシステムのいちばん大きな特徴はお店が売れたものをオーダーブックや現物の靴下に添付されたバーコードをこするだけで1足単位から発注可能にした事です。フランチャイズですから当社だけでなくフランチャイジーである「お店」に利益を挙げてもらわなければ組織として成り立ちません。この為には各店舗の在庫を最小限にしなければなりませんから、売り手の勝手でダースやデカ(10足単位)でしか売らないとか、赤、黒、黄色、全部の色を注文しないと送らないと言う従来の方式ではもはや通用しない訳です。

■システムを活用して専門店展開のノウハウ
当社の社長が専門店というのは3つの条件が揃っていないとダメだといつも言っています。1つ目は店として専門店であること。2つ目は専門店にふさわしい商品が並んでいること。ここまでは大抵の店ができているが3つ目ができていない。それはプロに近い売り手が必要だということ。
ダンでは、店頭で販売する女の子に研修の時1日かけて1足の靴下を自分で作らせます。そうすると靴下を作るのにたくさんの工程があり靴下作りが大変である事がわかのです。研修を終えると店頭ではみな片手でなく、両手で大切に靴下を扱います。店頭の話にはもう1つあり、本当の情報は店頭にあるということです。レジスターに入った情報は既に加工された情報なのです。ダンのお客様の7割が女子高校生で2、3人でやって来てお喋りをしながら靴下を選びます。「この柄がもうちょっとこうだったらいいのにね」「この色きつすぎるよね」「ここがこうなっていたらこれ買うのにな」などと好きなこといっぱい喋りながら買い物をするのです。それが本当の情報なのです。女子高校生は自分のお母さんの年代からは買いたくなく、お姉ちゃんの年代から買いたいようですから、店頭ではお客様とあまり年の変わらない子に店長やアルバイトをさせています。制服は着せずにお喋りしている女子高校生のそばで靴下の並べ方をそっと直したりしながら、彼女たちの話を聞き、それを情報として本部に送るという仕組になっています。

■「顧客中心主義」が経営理念。その実行にもシステムをフル活用。
糸商から見たらメーカーがお得意さん、メーカーから見たらダン本部がお得意さん、本部から見たら「お店」がお得意さん、という考え方は大きな間違いです。本当のお得意さんというのは、店頭で1足の靴下を買ってくださるお客様なのです。このお客様に対してシステムが全部構築されていないといけないのです。その認識を浸透させてからはいろいろな面が変わりました。
ある商品が売れ出すと、シーズンの途中で追いかける商品が出てきます。その追いかける商品は売れている商品の対岸に置きます。その商品はバーコードを特殊にしてあり、メーカーさんが店に行って店員にお願いしないと商品を置けない仕組になっています。なぜそこまでするかと言うと、メーカーさんが店頭を知らない、お客様の事を知らない、ということではいい靴下ができないからです。作る人は売場を知らなくてはならないし、売る人は作る場を知らなくてはいけないのです。ですからメーカーさんの仕事は店頭に行くことなのです。
在庫を持たないように発注するには慎重になります。「売れ筋」になると商品がないということが必ず発生します。メーカーさんが機械を24時間回しても間に合わなくなるほどです。店は売りたい、だからこの商品が「売れ筋」になると本部が品切れを起こすだろうと先読みして在庫を抱えようとします。そのへんの信頼関係がシステムのネックになっているのも事実です。お店はフランチャイズですから仕切率が一定です。100で売っているものは本部では60%で出しています。仕切率が一定だから売れる商品が欲しいわけです。メーカーさんはどの靴下を作ったら粗利がどれだけか原材料とのからみでわかりますから、お店が欲しいものと関係なく粗利の高いものを作りがちなので、そのギャップも課題です。このような課題を完全にまとめられたら、このシステムがさらに活きてくると思います。
このシステムは川下から作ってきました。顧客中心主義は1足の靴下を買うお客様が本当の顧客という概念なわけですから、先にメーカーさんに情報をコンピュータに入れてもらうやり方ではなく、情報はこういう理想像を描いて川下から作っていった方がよかったと振り返っています。
この情報投資についてですが、ハードに関しては全部各々の自己負担です。お店のPOSはお店の負担、本社のハードは本社の負担、メーカーのインフラはメーカーの負担で、ソフトは割り勘にしています。例えば200のお店が使うとしたら、ソフトを入れた時に200分の1で負担してもらいます。メーカーさんも同じく、メーカーさんの数で割算して負担してもらいます。本部のソフトは本部で負担。お金がないところから出た知恵で、みんなでやっていこうというのがこのシステムの特長です。

■靴下のサイズ直しや採寸オーダーもシステム化によって実現
アパレル業界は最終的には個別対応になるでしょう。これだけコンピュータの費用が安くなると、店頭で情報を集めて本部で加工して現在あるネットワークシステムを使って個別に対応していこうと考えています。
既に展開しているのはサイズ直しです。大きな女性をターゲットに考えていましたが、フタを開けてみると、9割以上がサイズを小さくして欲しいというものでした。小学校高学年や中学生が、お姉ちゃんの履いているような靴下を私も履きたい。というのが理由の1つです。また、コンピュータを使って即採寸をしてシステムに乗せて出来上がった靴下をお客様に届けるということも東京の吉祥寺と横浜の店などで展開しています。全く宣伝していないのですが、リピーター客がどんどん増えています。メーカーさんからも「靴下に関して坪効率はやめなさい、コンピュータのメディアを使ってどんなサイズの人にも提供できるものを扱いなさい」と言われて、チャレンジしているのです。システム図に出てくるパンスト販売システム、刺繍システム、捺染システムというのがこれにあたります。
海外に出たメーカーさんは安い人件費で安い靴下を作って失敗しました。当社は上海で靴下の爪先をひとつずつかがった靴下を作りました。安い人件費で若い女の子向けに高級品を作れるから海外に出ようと。店頭に並べたら、2週間で3足千円の商品のトップになりました。女子高校生にはメイド・イン・チャイナでも関係なく、いい商品であれば必ず買ってくれるのです。売り手がいろんな思い違いをしているので原点に戻ったほうが良いと思うし、原点に戻るよう心掛けています。

■システム化改善状況
FC店 ・発注商品に対して納品率アップ
  40% → 60% → 85%
・発注から納品までの日数
  不定 → 3日 → 1~2日
・バックヤードにおける店在庫の減少
  95%減
・掛率のシステム化による経営の安定
  バラバラ → FC契約により一定化、多店舗展開優遇システムの導入
・店頭における商品構成の充実
  ABC分析のフィードバック
  棚割システムの稼動
  季節変動指数の応用
  地域特性情報の構築
・店頭販売員の徹底
  本部研修の徹底
  順回指導の充実
本部 ・営業の計算管理を行う上で予算管理から実績管理をすべてホストで処理。事務作業が大幅に減った。
・担当営業が複数の店を管理、指導する能力がアップした。企画、提案型の営業スタイルに変わる。
・トレンドを先取りする商品企画力がついた。
・品揃えを絞り込む事に成功(1シーズン700品番から350品番に)
・返品商品の激減80%減→95%減)・シーズン末の不良在庫の激減(90%減)
・取引決済を自動引落しの契約にした為、売掛金管理店の激減(一部を除いてゼロ)
製造メーカー ・納品率の向上(50%増)
・残糸、残品の激減(80%減)
・工程管理システムによる生産サイクルの短縮(20%増)
糸商 ・調達リスクの激減(50%減)
・納品までの日数短縮(14日~3日)
染工場 ・計画的な加工が実行されている。加工単位を事前にまとめ、最適の釜を使用するため人件費から見ても一番効率が良い。
・加工日数の短縮(20日から一週間)

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