事例本文(東北リコー)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:8 東北リコー(株)   事例発表日:平成11年7月21日
事業内容:事務機器製造
売上高:754億7700万円
2000年度
従業員数:1419名
2001年3月
資本金:22億7200万円 設立:1967年7月
キーワード 事務機器製造・販売、
間接部門の生産性向上、事業計画策定業務の変革、低コスト体質づくり、営業利益重視、
ITキーマン、情報共有
IT/Sを利用した間接部門の生産性向上
  

東北リコー(株)URL:http://www.ricoh.co.jp/tohoku/

東北リコー(株) 常務取締役 小川隆秀

プロフィール

リコーに入社後、1986年に東北リコー(株)へ移る。現在、常務取締役を務める。

~全員参加のIT/Sを推進して厳しい時代でも売上利益を伸長させる経営~

長引く不況の時代は、見方を変えれば企業の本質が問われる淘汰の時代でもある。経営におけるクオリティの高い企業は、生存し、発展していくのは当然の論理。ここにもその好例となる企業がある。東北リコー(株)。時代の流れに迅速に対応、低コスト体質づくりに取り組み、その大きなベースとしてIT/S活用を推進してきた。その効果は売上高推移のデータが如実に物語る。売上低迷に苦しむ企業が多い時代においても、確実な伸びを示している。2000年3月15日、東証2部に上場を果たしたばかり。21世紀に向けてますます発展が期待される。


■会社概要
所在地は、宮城県南部にある柴田町。従業員数1482名(2000年1月)、年間売上高は634億円。印刷機、複写機など事務機器の製造、販売会社ですが、販売の大半は親会社の(株)リコーが行い、私どもはモノを作るほうが専門でした。最近はバーコード機器や周辺機器を独自に開発したり他の大手メーカーへ販売するなど、自社展開もしています。大変厳しい経営環境にあるが、その中にあって売上高は順調に伸びてきています。

■売上志向から利益志向へ、時代が著しく変化
講演のテーマに掲げたIT/S(Information Technology/System)は、社内的にパソコンを中心に仕事を進めていくことをIT/Sと称しています。
私どもは、94年からIT/Sに取り組み始めたのですが、それまでは汎用コンピュータを使い、事務処理の機械化を実現していました。さらに経営拡大を図り、それに対応できるような機械システムを、というのが当時の課題でした。
しかし、時代が変わり世の中の仕組みも変わってきました。バブルの崩壊もあり経営環境が非常に厳しくなり、売上志向から利益志向へ変わってきたのです。こういう流れの中でいちばんの問題は、間接部門の生産性をどうしたら良いかということでした。そこで、今日の講演テーマでもあるように、「IT/Sを使って間接部門の生産性を何とか向上できないか」に取り組むことになりました。

■IT/Sを使って、低コスト体質づくりに挑戦する
IT/S導入にあたって、3つのポイントを掲げました。
従来の高度成長の考え方である「とにかく売上を上げればいい」というような考えを変えなくてはならない。
生産性向上を求めて直接部門はそれなりにコストを下げてきたが、一方では間接部門の生産性は変化が見られなかった。そこで間接部門に着目し、そこを改善しようと考えた。
環境の変化、お客様の変化があり、今までのようにただ単にモノを作れば売れる時代ではなくなりました。簡単にモノが売れない時代、お客様がモノを選ぶ時代に変わり、市場も成熟し、それによって競合が激化してきました。となると、お客様に提供する製品は、良いものをより安く、より早く、というのが当然になってきます。つまり、どうしても低コスト体質づくりに挑戦しないといけないのです。
今まではとにかく汎用コンピュータを中心に仕事を進め、そのコンピュータを使う専任のオペレータがいて、システムを作るのも専門のSEでした。ところがパソコンの時代になりますと「普通の人が使う」事になります。つまりシステムを作るのも、使うのも今までのような専門家に任せるのではなく、実際に業務を知っている人がやらなければならないと考えたのです。しかもパソコンでは「処理コストが汎用コンピュータの600分の1になることがわかり、パソコンでやれ」ということにしました。
まず、着目したのは、データを何度も何度も使うことです。最初のデータを徹底して使おうということを掲げました。それまではこれを転記したり加工したりしていましたが、それを止めようということで、我々はこれを「一貫化」と呼び、情報の電子化に取り組みました。
業務を行う場合に、情報が個人レベルにとどまり、組織活動としてのスピードが上がらなかった。そこで情報の共有化をキーワードとして、組織的コンカレントな仕事の進め方にして、それを「統合化」と呼びました。

■4つの導入方針
どのような導入方針をたてたかですが、これには4つあります。
間接部門は全員参加する。
取り組む期間は2年間とする。
いちばん仕事を知っている人たちが、自分たちでやれるようにする。
お金をかけない。
そしてこれをトップ自らが推進するということで、最初にトップにパソコンを導入しました。
従来、ハードウエアはホスト専用端末、ソフトウエアは購入したものを使い、情報システム部門はシステム開発に、となっていたところを、新しく全社統一ツールを使って推進し、全社のIT/S推進体制を作ろうということです。
そのIT/Sを推進していく為には、いちばん仕事を知っている人たちが自分でやらなくてはなりませんので、ITキーマンという推進体制を作りました。そしてITキーマン91人が中心になって各部門の人々にIT技術を教えるということにしました。
さらに、お金をかけない為に、今まで機械はベンダーから購入していましたが、これからはパソコンの一部とLAN設置も内製化していこう、ということで取り組みました。
現在のIT/Sの環境は、いろいろなサーバを持ち、データベースのどこからでもそれぞれの情報が取れる形になっています。国内はもとより、海外とも繋がる環境が構築されています。
推進体制は、各部門にデータベース管理者をおき、その下に部門単位のITマネージャー、さらにその下にITキーマンをおきました。実際にはITキーマンがIT教育、その他を全てやり業務改革もやりました。ITマネージャーはセキュリティの問題に対応し、情報システム部門はITインフラと、ITキーマンへの教育を担当しました。

■改革の主役は社員、自分たちに使えるものを自分たちの手で改革を進めて
いく中で実にいろいろな事例が出てきた。
IT/S化されたデータベースが441あり(97年度)、その中でも事業計画の改革などをしたり、商品開発期間の短縮、商品企画の編成方法の支援システム、あるいは販売活動におけるホームページ作成等々、たくさんあるのですが、こうした種々の事例に取り組み、それぞれ効果を上げています。
それでは資料に基づいて、事業計画策定業務の変革をどのように実施していったかを説明します。
私どもはIT/Sで低コスト体質を確立し、会社の構造改革に取り組もうとしました。
ではその為にどうするか。
一つは生産改革でモノを作るほうの改革です。もう一つは、それを支援する業務を改革する組織改革です。その中で、特に間接部門には業務改革ということで取り組んできました。各部門が色々な情報を早く提供しなくてはいけない。スタッフの負荷を軽減しなくてはいけない。これらを背景とし、このテーマに取り組むことにしました。
事業計画を策定する場合、経費がかなりの項目で発生します。これを各部門からいろんな情報を集めて最終的に財務で集計して、またフィードバックする形を取りました。具体的な作業としては、各事業部は経費の細目を作り、科目ごとに集計してそれをフロッピー化して財務に渡します。財務部ではそれらを集計します。各事業部で4日、財務でも4日、合計8日間かかります。
そこで、事業計画策定システム経費編ということで、「ブラッドシステム」と称して効率化を図りました。ブラッドは血液、要するに生命の源だという意味づけをして各事業部で取り組みました。作業負荷の軽減化にはパソコン上で行う、というニーズからロータス ノーツ(グループウェア)を徹底して活用し、何よりも自分たちで管理できるシステムを自分たちの手で開発しようということになりました。これが大事なポイントです。
8日間かかっていた作業を3日間に短縮するという目標を掲げ、4月にスタートして、8月にカットオーバー、という5カ月間の勝負でした。
課題としては業務改革です。システムを変える前に今ある業務をどう変えるか、「ヤメル・キル・ステル」ということが必要でした。担当者は、ノーツ開発の経験もあまりありませんから、実際に有効利用できる様に教育も受けました。システム開発は財務部門が実施しました。ノーツというソフトを使うことが前提で、この時にオラクルというD/Bの情報があり、これを何とかうまくノーツとリンクできないかということで、データ活用研究もここで実施しました。
この財務で開発し完成したデータベースに各部門が次々入力していき、最終的には皆が分析できるようにしました。計画ができると、前年度実績に対してどうなるか、予算に対して実績はどうだったか、ということも出てきて、今では分析もできます。
短期間でしたが、97年7月にテストを初め、8月から稼動しました。効果は、各部門でかかる4日間はほとんど変わりませんでしたが、入力が楽になったという付帯効果が出ました。財務のほうでは4日間かかっていたものが1日に短縮できました。また、財務担当はノーツの開発技術の習得ができたので、自部門での新たな開発も可能になりました。しかも、自分たちが欲しい情報をタイムリーに扱えることを、身をもって体験できたことも貴重なことでした。
それ以外に、スピーディーな情報の活用を通じて企業採算意識の高揚が図れるという大きな効果もありました。

■売上は伸びても間接部門の人数は増加しない
IT/S推進をした効果と、これからどういうふうにしていくか、についてお話します。
現在パソコンは、間接部門につきだいたい1人1台で、約900台あります。これは間接部門と設計、営業を含めて稼働していて、全営業所及び国内外の関連会社を全てLANで接続してあります。
先ほど共有データベースは441あると申し上げましたが、これを機能単位で見ますと、やはりいちばん多いのは設計生産技術関連で140、生産関連が70、営業関連が50、という状況です。
その結果、売上が伸長しましたが、間接部門の人数についてはやや上がる程度でそれほど増加していない、ということになります。
定性的にまとめると3つのことが言えます。
間接業務の円滑化。仕事をする時のスピードアップのツールとしてこのIT/Sが非常に役立ちました。「業務改革」「一貫化」「統合化」を推進し、間接業務の生産性向上に努めました。そして向上した分を、今まで人手が足りなくてなかなか進まなかった新規事業や戦略的な仕事などに活用し、間接部門の3分の1くらいの人数がそちらに投入できるようになりました。業務を最初にしっかり直して、それからIT/Sに移し変えたのが良かったと思います。
情報の価値を高めれば利益に繋がることを実感しました。具体的にいうと、情報化を進めていっても、スキルの高い人は必ず追いついていけます。ですから情報化が進むとスキルも上がり、生産性も向上します。このサイクルをうまく利用していくと必ず利益に結びつきます。
社員に期待する能力が明確になりました。今頃明確になったというのもおかしな話ですが、従来は情報の受け渡し役となる管理職もおりましたが、「一貫化」「統合化」により情報の受け渡し役は必要なくなりました。では、管理職は何をするのかということですが、書類を何枚処理したとかではなく、自分たちの提案でどこに会社の利益を上げるのかを考えることが要求されますから、その提案力と効果を図る役割を担います。これこそ本来の管理職のあるべき役割ではないでしょうか。
これからは、今までやってきた部門のIT/S活用を、全社更にはお客様、お取引先も全部巻き込み、全業務のプロセス改革への展開を進め、2000年には事業所の統合なども考えられるので、さらに効果拡大を図っていきたいと思っております。

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