事例本文(田中精密工業)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:9 田中精密工業(株)   事例発表日:平成11年8月24日
事業内容:2輪・4輪エンジン部品製造
売上高:167億7700万円
1998年度
従業員数:705名
2001年3月
資本金:5億円
2001年
設立:1948年3月
キーワード 自動車部品製造、
間接業務の生産性向上、グローバルな挑戦、ペーパーレス、経営のスピードアップ、
情報共有、取引先ネットワーク構築、ネットワーク構築
ビジネススピード向上による体質改善事例
田中精密工業(株) URL:http://www.tanasei.co.jp

田中精密工業(株) 常務取締役 杉木康之
プロフィール

1942年10月 富山市にて出生
1966年03月 富山大学工学部機械工学科卒
1968年02月 田中精密工業(株)入社
1989年06月 取締役就任(製造部門,開発部門担当)
1997年06月 常務取締役就任(品質保証部門,総務部門担当)

~情報化はグローバル、リアルタイム、スピードが決め手~

富山県内の本社及び工場を中心に国内外で自動車関連製造事業を展開する田中精密工業(株)は、厳しい競争市場、淘汰の時代において、ネットワーク構築を進めることにより、体質改善を図り経営力を強化することに成功し、店頭公開を射程距離におく元気な企業である。その成功のコツは、小さく産んで大きく育てること。自分の尺度にあったシステムづくりを時代の流れに対処しながら進めてきた今日までのストーリーとは・・・。


田中精密グループの概要
1948年3月設立、今年で51年目です。資本金は2億979万円、売上高は約167億7700万円(98年度)、従業員数は737人(98年度末)。
主な製品は、4輪、2輪のモータサイクル関係でほぼ100%を占めています。中でもエンジン製品、特にホンダ車に使われているVTECエンジンのロッカーアームAssyを大量生産していて売上高の35%を占めています。その他にはレジェンド(ホンダ車)に使われている油圧タペットAssyや、ピン類も大量生産しています。シンクロセットなどのミッション機器も売上の12~13%くらいあり、その他にはギヤ類、シャーシ製品などの生産をしています。
富山県内に田中精密グループを形成していて、特に日本における生産工場は富山県にしかないので本当に地場の企業と言えます。本社・工場は富山市新庄町に、エンジン部品を作っている主力工場は婦負郡婦中町に、鍛造関係の部品工場を富山市水橋町に、それから色物のシンクロ専門の工場は滑川市の方にあり、この4つの工場が製造拠点となっています。
子会社には、自動車関連部品を作っている田中自動車部品工業が大沢野町の方にございます。板金関係の製品を作っている田中プレス工業は水橋町に、それから、新庄町の本社の近くには技術開発部門と金型の加工関係をやっているタナカエンジニアリングがあります。ちょっと毛色の変わったところでは、今年から仲間入りをした北陸鉄塔工業は、北陸電力さんやセルラーの鉄塔をやらせていただいている会社があります。
以上、田中精密グループは合計9社、資本金約30億、売上は全部合わせて320億ほど、従業員1300人くらいで事業を展開しています。

また、ホンダ車の販売を行っているホンダプリモタナカが富山市内に4拠点あり、毎年だいたい1600台くらいのホンダ車を販売しています。
さらには、自動車部品を作っている会社が海外に2社あります。その1社は、アメリカ・オハイオ州の州都コロンバスから北へ車で約1時間ほど行ったフレデリックタウンという小さな田舎町にあり、FTPと呼んでいます。F.T.Precision.Incという従業員約130名ほどの会社で、今アメリカで好調のV6のVTECエンジンロッカーアームAssyを生産しています。
海外のもう1社はタイのチェンマイのすぐ隣のランプーン市にあります。私どもTPTと呼んでいますが、Tanaka Precision Thailand Co.,Ltd.という従業員約60名ほどの会社で、主にオートバイの部品を生産しています。

■グローバルな競争市場に勝つためのビジネススピード向上による体質改善
当社は今年から新しい中期に入り、3カ年計画を組んでいます。新世紀「オンリーワン」に向けて、先程中尾社長が5年以内にe-ビジネスの必要性を提言されましたが、当社でもその方向で頑張ってまいります。
重点施策としては、以下の5項目があります。

1. 俊敏で簡素・柔軟な経営体質の確立
・3極(日、米、タイ)利益体質の確立
・投入資源効率ビジネススピード向上による体質改革
・上場体質の確立
2. 世界トップレベルの品質・コスト・納期体質の確立
3. 先進、革新技術の商品、生産への仕込み
4. 環境、安全への対応強化
5. グローバル化に対応できる人材教育

中でも、1項目の俊敏で簡素・柔軟な経営体質の確立ですが、具体的には投入資源効率ビジネススピード向上による体質改善などをテーマに掲げて取り組んでいます。この「ビジネススピード向上による体質改革」は以下の4つの考えにより推進しています。
・情報の共有化/同時化による時間の短縮
田中精密グループは国内・海外と広く拠点があります。これらがきちんと情報の共有ができることが重要なことなのです。自動車部品を製造する企業グループということでは同じような製品をグループ各社で作っていますので、情報の共有化、能率化、時間の短縮というものが向上された時の効果は図り知れません。その効果を狙い、生産市場においていかに素早く対処できるようシステムを作るかということが、今後、重要なことであると考えています。
・間接部門の合理化、スリム化による生産性の向上
当社の特徴で、昭和35年頃から生産部門で秒管理というものを行っています。1秒一人当たりの付加価値をいくらあげられるかということを経営のひとつの指標にして、ずっと続けてまいりました。間接部門の合理化はなかなか進まないし、スリム化も生産性の尺度を上げるのも大変難しいことですが、当社では、2000年店頭公開を目指していることもあり間接部門の事務の増大がこのところ大きな問題で、現在合理化に取り組んでいるところです。
・ネットワークを経営のツールとして自己革新を加速
上記2項目は共にネットワークを利用しないと実現できません。色々とスピードアップをしていこうと考えています。
・グローバルな自由競争市場に挑戦できる体質づくり
自動車業界というのは、なかなか官の支援が得られない競争の厳しい世界です。今まで日本の技術力は大変強いという定評がありましたが、今日では日本に海外のメーカーがどんどん売り込みに来るなど、グローバルな自由競争になっています。これに対応できる体質づくりができないと将来性はありません。逆に言えば、これがきちっとできればビジネスチャンスは拡大すると捕らえています。

■小さなネットワークを作り大きく統合していく

システム化の推進は、1987年にできた生産企画室で事業計画のシステム化、というよりもシステムを作れるような事業計画を考えて欲しいということで、当時、電卓を使ってやりました。できた!と思うとすぐに修正があり、徹夜仕事の繰り返しでギブアップしそうな時に、社長の友人がパソコン販売を始めてデモに来ました。それを見てツールに使えるかもしれないと早速1台購入し、その年の事業計画と事業推進をリコーのマイツール(表計算ソフト)を使って行いました。
その後メーカーさんとやり取りしていくうちにパソコンの色々な可能性が把握でき、自分がやる仕事とコンピュータに任せたほうがいい仕事の区分けができてきました。
1990年になって、生産管理系の受発注、納入などは汎用機(ACOS)の専用端末(N5200)を使ったシステムで、同時に、経理系の業務はオフコン(S7100)とその専用端末を使いました。それとマイツールがありますから、各部門に3つの端末があるということになりました。
1998年に一気にPCに切り替えを行いました。専用端末だけではすでに厳しくなりPCを導入し、生産管理系、経理系、人事・総務系など全部ネットワークで繋ぎました。小さく産んで大きく育てるというポリシーの基に、専用端末からネットワークへ切り替えました。実際にどうしたかというと、97年5月からネットワーク再構築とそれにあわせてOA教育をしようとスタートしました。電子メールの利用は10月からにして情報のスピードアップを目的に立ち上げました。
現在ではお得意先と私どもの本社工場とは専用回線あるいは公衆回線を通じてつながっています。当社の売上の主力を占める本田技研工業さんとは単に受発注だけでなく、見積は全部メールで行い、開発情報も3次元データでやり取りしています。
グループ各社及びその中の各部門とはネットワークを構成して情報の共有化、同時化を図っています。国内がやっと整理がついたので、今ようやくアメリカ、タイの海外拠点と専用回線あるいは、公衆回線を使ってインターネットを介して情報のやり取りをするための準備を進めているところです。
このようにいろいろとインフラ整備をやっているわけですが、オープンなネットワークの構築、小さなネットワークを作ってそれを大きく統合していくというやり方をしています。経理系及び生産管理系を全部まとめてひとつのネットワークに集約するのです。加えて、必ずグローバル化できる形であることが必要です。


■ISO取得にもシステム利用、経営情報はペーパーレス
99年2月にはISO9001の認証を田中精密一体で取得しました。その準備には、インテックさんの協力を得て、イソロジーという文書管理システムを導入し、全部の文書をこれでやろうとしたら端末の数が少なくてできませんでした。やはり小さく産んで大きく育てないとだめだと反省しました。
現在はISO14001の取得に取り組んでいます。イソロジーのドキュメントライフスタイル(図 「文書管理」参照)がありますが、決済は全部電子決済で行っています。それから文書システム上で配布して各部門に周知させ、受領確認をもらって初めて文書登録するという仕組みです。改訂した文書を登録した途端に旧文書はシステムから消え、システム上には常に最新の文書しかないという管理をしています。

生産管理システムの再構築が98年10月に完了し、99年1月からはそれと経理システムをドッキングして、原価管理システムを再構築してスタートしました。今年に入ってからは経営情報をペーパーレスでやれないかと取り入れました。今まで経理が毎月の損益計算書を1600枚コピーしていて配布作業まで含めて一人の人間が一日かかった仕事でしたが、これを経理から情報を受け取り加工して各役員及び部課長にメールで送る形にしました。その結果、紙の枚数は0枚になり作業時間も1時間程度になりました。

99年の12月に向けてかなりの情報交換、情報の共有化に向けて進んでいます。
電子メールの活用は、田中グループの情報伝達の活用ということで、ブロックリーダー(課長クラス)以上の間で始め、下に下りてきて現在チームリーダー(係長クラス)まで展開しています。電子掲示板で現在利用しているのは、社報、厚生活動の情報、車の販売情報、品質の情報等でどこがどういうトラブルを起こしているか全員が瞬時にわかるようになっています。ISO関係の情報も全部掲示板に蓄積され、会議室の予約管理もパソコンで行っています。
コンピュータの保守については、システム上にワンポイントレッスンを設け、基礎的なトラブルでシステムエンジニアが頻繁に呼び出されるようなことがないように対処しています。
どんなに立派なハード、ソフトを完備してもそれを使う人材の教育を徹底しないとインフラは完備されません。私も含めていちばん頭の固い役員クラスからスタートし、下に下りていくような形で教育を進めてきました。現在まで延べ300人、Windows,Word,Excel,Notesなどの教育を行っています。
2000年対応については、お客様の要望もあり3年ほど前から準備を進め、1999年9月末でほぼ99%完了し、セキュリティの面ではどんなトラブルが発生したとしても4時間以内に必ず復旧できるシステム保守も整備しております。
データのバックアップは毎日自動で行っています。インターネット等を利用する中で、セキュリティの面の問題やウイルス対応にもアンチウイルスソフトを導入して対処しています。

■情報利用こそビジネスチャンスのカギ
情報化の時代とずっと言われてきていますが、お客様の方から情報の取り扱いや処理のスキルに大変厳しい要求がきています。情報が入ると活用できる者がチャンスを掴むということで、情報化の時代というよりも情報そのものの時代だと思います。特に企業としては、例えばこちらから「見積を入れさせていただくだけでも」と言っても「そんな見積いらないよ」と大変厳しい反応や「対応しないんだったら開発は参画しないでいいですよ」など待ったなしの対応をせまられることが多く、それに対応できないともう取引していけない状況があります。グローバル化を含めてそういう情報をうまく利用するものに新しいビジネスチャンスが生まれるのではないかと信じて、今後も進んでいきたいと思います。

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