事例本文(レンタルのニッケン)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:10 (株)レンタルのニッケン   事例発表日:平成11年10月19日
事業内容:土木建設関連機械レンタル
売上高:555億円
2001年6月
従業員数:1526名
2001年
資本金:12億2512万円 設立:1967年7月
キーワード 建設機械レンタル、
レンタル機械管理、経営のスピードアップ、ペーパーレス、
情報共有
情報を活用した業務革新

(株)レンタルのニッケン URL:http://www.rental.co.jp/

(株)レンタルのニッケン 取締役 鈴木友之

プロフィール
昭和43年三菱商事株式会社に入社。
以来、情報システム関連の業務を通じて、財務経理等の経営管理や、石油、資材、自動車、生鮮品、情報機器ソフト等、総合商社の取り引きの現場に参加。平成9年に、建設機械レンタルの基幹システム再構築に取り組む。
株式会社レンタルのニッケンに移り、現在に至る。
~情報共有で柔軟なスピード経営を~

レンタルのニッケン、といえば業界屈指の全国ブランド。レンタルの取り扱い商品はおよそ2000アイテム、100万点という規模になり、それに係る業務はかなり繁雑であることが想像できる。今日お招きした講師役の取締役・鈴木氏は「鴎 長太郎(カモメ チョウタロウ)」と自己紹介をされた。それが仕事の場面における氏のビジネスネームだとか。全社員がこうしたビジネスネームを持つという、なかなかクリエイティブな企業経営に取り組まれているようだ。この企業が情報化をどのように使いこなしているのか興味深い。


■会社概要
昭和42年創立、本社は東京ですが足利が発祥の地です。創業社長が足利出身で、そこで兄弟と仲間の3人で2tトラック1台を足にレンタル業をスタートしました。現在の資本金は12億2500万円、売上高は99年6月決算で538億円。事業内容は、土木建築関係の機械を主要商品にしたレンタルを軸に、全国に事業展開しています。オリジナル商品の開発(すでに特許取得数500以上)、製造、販売、修理も行っています。
従業員数は約1700名、事業拠点は約160カ所。経営理念は、創業社長が考え出した言葉である「有料ボランティア」。つまり、ボランティア精神を持ってお客様の声に耳を傾け、商品を提案し、使っていただき、その対価としてそれ相応の報酬をいただく、ということです。
レンタルは単なる機械販売と違って、機械をお貸ししてそれが返ってくる。返ってきた時にその機械の壊れ具合、疲れ具合、お客様のご意見、クレームなどが得られますからそれを参考にして、もともとメーカーの作った機械をベースに新たな特許を持った製品などを開発・発展させます。主力商品の例の中には、富士山7合目にも使われているドライレットという乾燥式トイレがあります。これは、全てを乾燥させて粉にしてしまうトイレで、バキュームが難しい場所で利用していただいています。

■我が社のコンピュータ化の歩み
当社では早くからネットワーク化に取り組み、全社員の情報共有を進めてきており、全社員がメールアドレス上にビジネスネームを持っています。私の本名は鈴木友之ですが、社内ではビジネスネームの「鴎 長太郎」で呼ばれています。これは、公私の区別を明確にすることにより、仕事の場で公に徹することを目指すもので、上下の隔てをなくし、風通しをよくすることにもなっています。社員とパート合わせて2000名を超える人間のビジネスネームは全て違います。ちなみに創業社長は「亀太郎」、2代目社長は「鶴ひみこ」、現在の3代目社長は「スバル 三郎」といった具合です。
コンピュータ化の歩みを振り返りますと、まず76年から84年くらいが第1世代。リコーのペンコールというペンタッチのシステムで、請求処理を各機械ごとにやり、その結果をフロッピーディスクで本社に持ってきて月次集計をしていました。80年代後半が第2世代、NTTのドレスサービスを利用して初めてレンタルシステムを分散オンラインエントリー型で進めました。90年代になって第3世代、IBM製のAS400という分散処理コンピュータを全国の営業拠点に100台おき、拠点主体の分散オンライン処理化。第4世代として、AS400がホストコンピュータ並みにパワーが出たということで足利本社に導入し、集中処理方式の統合システムを構築しています。集中化によりコストダウンも図れました。現在は情報共有の仕組みを「NUT(ナッツ)」というシステムに移行しましたし、また2000年1月をメドに基幹システムの組み直しを進めているところです。

■全てをコンピュータ上で行うペーパーレスのトータルシステムを目指す
情報化において、まずペーパーレスを目指しています。創業社長の強い意志で、「とにかく紙を持つな」と、一般社員の机には引き出しがありません。かつて一時的にですが、実験的な意味を含めてフリーアドレスを本社でやったこともあります。社員は出社したら好きな机に自分の名札をPCの上に立てて、そこから自分のアドレスにアクセスするというものです。そういう流れもあって、紙を持っていると社長に怒られる環境です。2番目に、管理制度の確立を図っています。右肩上がり一筋の時代は売上を一生懸命伸ばして利益は後からついて来ると考えていけばよかった、しかしこれからはリターン・オブ・アセットという観点からより有効な資産活用を考える必要があります。当社の保有する機械は約2000種100万点ありますが、これらひとつひとつの機械のいろいろな原価も押さえた損益を見ながら、ツボを押さえた運営をしていかなくてはなりません。そういった考え方の大きな切り替えを今しているところです。3番目には、情報共有。これは約10年近く、創業社長に始まった経営トップの強いリーダーシップでやってきましたが、この中で経験的に得られたノウハウをベースに、新しい経営体制、スピード経営、稼ぐ仕組みづくりということに展開しようとしています。この3つを統合した形で情報化を進めています。
出社してから退社するまでの業務の出来るだけ多くを、いわば全てをコンピュータ上でやることを目標に徹底しました。メモ的なもの、あるいはいちいちコンピュータを見ている余裕のない現場がどうしてもあるので、紙は存在しますが、できるだけコンピュータ上で仕事をしようという努力をしています。これにより、情報のデジタル化も推進出来ます。たとえば出張時の旅費の精算や支払いも画面で行います。交際費の支払い、会議費の支払いなども領収書だけが紙で、コンピュータに登録した時の確認ナンバーを領収書に書いておき、出納のほうはそれをコンピュータ処理された後に出てくる日計表という台帳に張り付けておくだけです。また仕入・購買ではコンピュータ上で稟議決裁して発注に繋げます。社内通達、上司への報告、皆への連絡、勤怠の届け出なども全てコンピュータで行います。さらに営業日報のコンピュータ処理化を新しい取り組みとして今やっていますが、道具よりもPLAN、DO、CHECK&ACTIONをどういうふうに進めるかが重要な課題です。そこで全国一斉に始めるのではなく、プロセスを重視し、2カ所のモデル店をベースにスタート。そのモデル店では努力が実って前年度比で売上が140%となったので、この成果をテコに地道に展開していこうと考えています。レンタル業務においても全てコンピュータで見積から在庫の問い合わせや納品から返却まで、そして利用いただいている期間の請求書の発行といったことをすべて処理しています。さらには返却いただいた機械の点検、修理・メンテナンスまでを作業日報に記録を始めています。油にまみれて働くような現場ではどうしてもコンピュータに向かって記録をつけることが億劫になりがちで、それが課題のひとつです。
ですから、こういうことを全てコンピュータ上で行うペーパーレスのトータルシステムを目指した取り組みの過程にあるとご認識いただきたいと思います。
また、一方管理制度においては、個別管理によってセグメント別の分析をし、どんなところどのようなに施策をしたらよいのかを考えていく計画です。この管理制度に基づいた情報システム体系を考え、基本要件を定義し、業務プロセス、ルールを作るべく、敢えて優秀な各現場のベテランスタッフを動員しています。これが確立できると、個別損益のみならず、組織としての業績評価、目標管理における個人の業績なども見えてきます。今日のような時代においては人材生産性を的確に把握することも大事です。

■全社員にオープンでこそ情報共有化、新情報システム「NUT(ナッツ)」
今日のメインテーマである情報共有についてですが、先ほども申しましたように創業社長の強いリーダーシップの下、自前で開発した情報システムを利用してきました。このシステムは稼動当初から全ての情報が全社員にオープンです。私の交通費等も誰でも見ることができるし、社長へのメール、社長が出したメールも、稟議も全部見ることができました。人事だけはプライバシーといった特殊な部分があるので全部というわけにはいきませんが、基本的にはコンピュータ上で全部オープンにしています。これは創業社長の強い意志であります。
当初はひとつの仕組みの中で、いろいろな情報が混在するごった煮でやってきましたが、NUTという新情報システムに移行するという中で、情報伝達の部分と提案の部分、議論の部分、稟議決裁の部分、資料蓄積の部分、というように大きく分ける整理を今やっているところです。議論をコンピュータ上でどうやるか、については、ノーツというグループウェアをエンジンに使っています。例えばある機械の導入について議論する場合、関係部署の人間が各地に分散していますのでこのノーツの上でディスカッションの展開をして結論に持っていきます。簡単なものですとそれで結論にしてしまいますし、重要な議題ですと経営会議の方で最終的な判断をすることになります。また資料蓄積においては、いろいろなカタログの情報もあるし、規程集も含まれます。大分類、中分類と分けていますが、従来の情報システムでは中分類ベースでなんと12000にもなっていました。これには過去10年間の中で思いつきで出来て重複している、あるいはそれきりになっているものもたくさんあるので、それらを整理して新しい仕組み「NUT」に移そうとしています。たまっている荷物を整理するには引っ越しがいちばんいいわけで、まさに今その引っ越しをやっているところです。

■業務系と会計系から成る基幹システム「BEANS(ビーンズ)」
情報インフラ整備については、業務効率化と管理制度といった観点から、基幹システムの位置づけでビーンズというネームで取り組んでいまして、大きく業務系と会計系のシステムに分けています。業務系というのは、レンタル業ですから、レンタルする機械を管理する、購買、あるいは部品の在庫管理などがあり、効率化を主眼に進めています。この業務系システムから得られるデータをベースに総合的な資産管理も行っています。レンタル用の100万点の資産、それに自家用の資産を合わせて全部一元管理・運営していく。なぜなら、同じトラック、自動車、フォークリフトなどでもお客様にお貸しするものと自家使用があるからです。勿論、会計上のあつかいも違いますが資産としては、状況に応じて転用が生じますので、一元管理をしているわけです。時にはお客様のほうにお貸しするし、自社用で使っているものでもお客様にお貸しする機械が足りなくなれば、転用手続きをしてこれを優先することもあります。それから一般会計と管理会計、そして勤怠、旅費交通費等を賄う小口現金、給与、こういった一連のものを全部会計系ということで整理しています。
当社で使っているシステム名のビーンズもナッツも豆類。どちらも蒔けば芽が出てまた新しい実がなる、というところに期待を込めているわけです。
営業支援関係については、新たな取り組みとして営業日報からPLAN、DO、CHECK&ACTIONに繋げるもの、企業情報、営業情報を軸にして展開していきます。
これをどのようにコンピュータ・ネットワークではどう展開しているかというと、まず全国100台の分散コンピュータでやっていたものを99年1月から足利にあるコンピュータ室に集中させました。




これはまさに技術の進歩で、10年前の当時できなかったことが今1台のコンピュータで可能です。メインコンピュータとこれをバックアップするホットスタンバイのコンピュータの2台で全体の基本は押さえています。これを足利のコンピュータ室に置き、全国専用回線網をNTTさんのお世話になりながら展開して、それをインターネットで社外にも繋いでいます。当社では海外にアメリック、タイテックという子会社を持っています。世界的にも有力な建設機械メーカーがアメリカにあり、そこの製品を輸入するとか、日本ではなかなか手に入らない大型扇風機などを製造委託して輸入するとか、その窓口の役割をアメリックが行っています。日本各地で中古販売するだけでなく、世界的なオークションにも出品したりしています。一方、タイではもともと新品の需要よりも中古機械が需要の中心。言ってみれば日本の中古機械がタイでまた再度ご奉公として仕事をします。タイテックはその基地の役割を果たしています。これからの、顧客や仕入先をインターネットで繋ぐことも想定しています。実際に大口購入先とは既にコンピュータ間で直接データ伝送をしています。それからモバイルアクセス網ですが、これは営業系でこれからのメインになると思いますが、ネットワークサービスを通じて全国どこからでもアクセスできます。セキュリティを確保して押さえるところは押さえていきます。

■情報共有化によりスピード経営の実現を図る
情報共有のテーマとしては、スピード経営、稼ぐ仕組みづくりを掲げています。今まで自前の開発システムのため利便性に制約のあった世界から、ノーツを内側のエンジンにして、表にはインターネットエクスプローラーのブラウザーをオブラートのようにかぶせるという仕組みを作っていますので、ブラウザーの動くPCからならば、どこからでも随時繋げられるようになっています。利用できる機能としては具体的に、まず、「本社通信」といって毎日会社に全員に見てほしい伝達事項があります。全国160カ所に分散していますからこういう形でメッセージを出しています。その中があまり長い内容だと仕事に差し障りがあるので、だいたい1~2分でざっと読めるようにとどめています。よく見てほしいものは、情報ナンバーを参照してそれを「掲示板」に入れておきます。「情報交換」は、いろいろなできごととか、お断り情報、お客様のこと、機械の紹介、などの情報と意見交換を載せています。「依頼申請」は、単に依頼とか申請だけではなく、稟議に至るレベルのものや提案などもあります。「資料室」は規程からあらゆるカタログまでで、今整理中です。それと、メール、カレンダー、電話帳。「人事事典」には全員の自己紹介と写真も入っています。ちなみに中途入社でも新入社員でも、まず最初の仕事はビジネスネームを自分で考えて申請することが最初にやることです。ビジネスネーム登録をしてみて他の人とだぶらなくて上司が適当だと了解すればそれを正式に登録します。さらに自己紹介を入れないと情報共有環境で社員と認知されません。
いまご説明したとおり情報共有機能は基本的には5つに区分けされています。
具体例として、依頼申請のケースで説明します。(図 「画面サンプル」参照)



これはインターネット関係の仕事をしているビジネスネーム「西戸 健作(サイト ケンサク)」さんの画面です。彼が稟議を上げて、それがどうなっているかということを見ます。「西戸 健作」という名前がついているところは彼が実際にドラフトを作っている、あるいはこれから稟議に出そうという状態です。「楽子 太郎(ラッコ タロウ)」という名前は彼の上司で、「楽子 太郎」のところにその提案が上がっていて今「楽子 太郎」が考え中ということです。このように自分が提出したものの処理ステータスが確認できるのです。また、自分がこれからやらなくてはいけないことは何か、という角度から見ることもできますし、全社員の回覧が見たい時には回覧検索機能があります。
仕組み的には、依頼申請ですと、起案者から決裁されるまでを、「フロー」というデータベースで集中管理します。次に決裁が下りますと稟議ナンバーの台帳管理に入り、「ストック」という情報管理状態に入ります。両方とも基本的には全てオープンです。また、いったん決裁されたものは自動的に起案者のもとに通知がいきますし、人事関係だったら人事のところに流れてしかるべきプロセスに繋げる、という形になっています。このところが新しい仕組みで、従来は総務部が担当し部分的に人が介在していたのですが、今度のシステムでは自動化できるところまで進めました。



情報共有においてはオリジナル製品開発への活用も重要です。例えばドライレットについてお客様の使い勝手を考えると少しスリム化したほうがいいとか、問題を起したことがどういった方法で解決できるか、ということが提案されます。これまでは創業社長の「亀太郎」がその提案を評価する部分をやっていましたが、「亀太郎」がなくなりましたので、今度は組織で運営していこうと「亀太郎」に代わる仕組みにしていくことが今の課題です。その工夫の中でのポイントは一次受付、二次受付を作っていること。ワークフローの上でロールという機能を使い、提案者が提案を入れると一次受付のロールになっている社長室がその提案をみて、内容に応じた二次受付に渡します。たとえば顧客対応の問題なのか、法律関係の問題なのか、商品改善か、こういった内容に応じて適切な役割の部署に橋渡しをすることが第一の役割です。そして二次受付が内容を判断してしかるべき施策・実行に移して行くのです。
(図 「提案の審査)参照)


スピード経営の大きなポイントとして、基幹システムにおいては、BEANSで「業務効率化」を第一にやり、それと共にそこから得られるデータを「管理制度」という確立した中で活かす仕組みにすることです。そして「情報共有」の仕組みがあります。この3つの機能を通して経営課題を速やかに抽出し、意思決定に繋げること、これがスピード経営の大きなポイントと思います。もうひとつは、「有料ボランティア」という創業社長の考え、経営理念のもと、お客様それぞれのニーズを把握して、お客様第一の視点で考え、迅速かつ柔軟なスピード経営を図るということです。柔軟もスピード経営の一環と考えています。

このページのトップへ