事例本文(矢橋林業)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:11 矢橋林業(株)   事例発表日:平成11年11月15日
事業内容:建設関連事業全般
売上高:95億円
1998年4月
従業員数:200名 資本金:4500万円 設立:1953年2月
キーワード 建設・建設材料製造・販売、コンピュータディーラー、
トップダウンでの情報化、
CAD、イントラネット構築、営業支援システム、情報共有
矢橋グループイントラネット構築事例/グループ全体の情報提供および情報共有を目指して
矢橋林業(株) URL:http://www.yabashi.co.jp

矢橋林業(株) 代表取締役社長 矢橋龍宜
プロフィール

昭和59年に矢橋林業(株)に入社。以後、矢橋グループの要職を経て、平成10年7月以降、現職。

~異分野多岐に亘る事業グループに、イントラネットによる情報共有化を実現~

矢橋グループは、従業員数など規模的には中小企業の範疇だが、手がけている事業の数の多さから見れば大企業並みといえる。異なる事業を柱とする3グループに加えて海外に子会社も有し、繁雑さが増すばかりであった経営環境を改革したのがイントラネットであった。自らが、習うより慣れろ、でパソコンを使いこなすようになった矢橋社長は、社員にも何とかパソコンを使う機会が増えるように、とISO取得にも取り組んだ。こうして社員の志気が高揚し、全体の活力が向上したひとつの事例を見てみよう。



■広範囲な業務内容の中、浮いていたコンピュータ部門を活用しよう、と
私ども矢橋グループは、まず矢橋林業のグループが約250人、矢橋三星砿業グループが約100人、矢橋工業グループが約200人、全体で約550人ほどのいわゆる中小企業でございます。業務内容としては、矢橋林業グループは建設、建設材料販売、建設材料の製造、それからコンピュータソフトの開発とハードの販売ですが、建設関連事業を主たる業務としています。三星砿業グループでは、鉱山の採掘業がメインで、それと同時に掘った鉱山の復元をしなくてはなりませんから土木工事等、造園事業などもやっています。矢橋工業グループは、三星砿業グループで出た石灰石を使って石灰を作る焼成加工、石灰の販売をやっています。このように、非常に繁雑な業務をやっていて、なかなか効率が上がらずに苦しんでおりました。
私どもがイントラネットを導入したきっかけについてお話しますと、先に述べた矢橋林業グループの業務内容の中にコンピュータソフト事業がありましたが、これは富士通さんのディーラーをしていて、ソフトの開発とハードの販売に参画させていただいています。しかしながら、矢橋林業は建設関連の、建設資材供給を主とする会社で、この部門だけ非常に異質であり、社内の位置づけも本業から遊離しています。そんな中で、このコンピュータ部門がどうやってコンピュータ業界において展開していくかを考えた時、通常のソフトハウスとして販売するのではなく、むしろ社内の業務の中にいかにコンピュータを導入するかということに方針を転換いたしました。私どものような中小企業が抱えている問題は、同様の業種の方、同規模の企業の方が抱えているものと同じではないか、という観点に立ってシステム化を進め、弊社に使いやすいシステムは他でも有効に利用していただけるのではないかと、新たな展開を図ることにしました。そして、矢橋林業のみならず、全グループ内のFA、OA両面の役割を担うこととなり、社内システムあるいは社内で使うソフトの育成をしていく方向に向けてスタートしたのです。こうして、遊離していたコンピュータ部門が、やっと社内にとけ込んでまいりました。

■トップダウンで情報化のスタートを素早くGO!
実は、私自身、それまでコンピュータにあまり興味があるほうではありませんでした。しかし、ある会合で運営役を任されたことがあり、県内及び全国の関連団体あるいは協議団体との連絡だとか、資料の集配等、パソコンを使って電子メールでやりとりもしました。まだインターネットも普及していない時代でしたのでPC-VANを使いました。その時、事務局の運営及び会議をペーパーレス化しようと思い立って提案したのです。とはいえ、当時の私は何とかワープロが打てる程度だったのですが、言い出しっぺなものですからコンピュータのわかる人に一生懸命教えてもらって勉強しました。「学ぶより慣れろ」とはまさしくその通りで、使えるようになるとコンピュータは本当に便利なものかよくわかりました。資料の回収とか編集、あるいはコンピュータ上に送られてくる資料も加工がしやすく、情報が共有化できる便利さも実感しました。
この経験があったものですから、遅まきながら我が社でも取り入れようと、年配の役員の方々にもコンピュータ導入によるメリットを必死で説明し、判断が早くできる、データの整理や管理が便利、など理解していただき、ある時「次の役員会から紙はやめます」と宣言したのです。そうして、役員皆さんにパソコンを持ってもらい、プロバイダと契約して、資料を書いた人からメールで集める方法にしました。約1~2カ月で最低限のインフラを揃えまして、課長以上にまでパソコンを持たせました。
私が思うに、この段階でいちばん重要なことは、私自身が言い出して始めたことがよかったのではないかと思います。下から汲み上げてやるとなるとなかなか時間がかかってしまう。やるか、やらないか、使うか、使わないか、という決断の意味ではトップダウンがいいと思います。また、コンピュータに強い人材が若い社員などに必ずいますので、その中から抜擢して、推進役のポジションにおくことが必要だと思います。個人レベルでいえば、とにかく「習うより慣れろ」。わからないことは人に聞くのがいちばんの近道であり、マニュアルを見てわざわざ勉強しようとするとよけいにわからなくなってしまう。まずは使ってしまうのが早道かな、と実感しています。
それぞれの部門が如何に詳細な情報を持つかが、今日の経営判断のポイントになります。イントラネットによって連絡が密になれば判断が早くできますから、硬化した組織を軟化する事もできる。そういう意味では情報量が増えるということは業務の透明度が増すことになると思います。又情報をいかに活用するかという点、ことにインターネットの世界ではモラルが必要だと思います。

■市場規模は国境を超えつつある。将来に向けて、グループ全体を統括する経営システムづくりを
私どもの矢橋林業グループでは、造林、伐採、工事に伴う伐採、伐採物の産業廃棄処理、製材業、木材建材の販売、木造住宅などの設計施工、分譲住宅の設計施工販売、不動産仲介、鋼材販売、鋼材加工、鉄骨建築、保護柵などの設計施工販売、土木工事、それとコンピュータのソフトの開発とハードの販売等など、小さな商売をいくつもやっていますので、非常に繁雑で情報が混在しています。しかも、各事業が相似性に欠け、流れとして別の運営になりがちで、統括した経営をするにはむずかしい状況といえましょう。
そこで、まずイントラネットの課題として、情報の共有を図ろうということを掲げました。やはり情報を集約しないと経営判断が遅れたり曖昧な対応になったりしますから、きちんと情報を把握したいと切望したからです。とにかく、各課の連絡や報告、相談、散分化していく情報をイントラネット上に引き上げて、多くの社員に共有させるようにしました。
また、ただコンピュータを配っただけではなかなか実践とならないものですから、すぐ使うために、ISO9001の取得に取り組むことにしました。ISOを取るにはかなりコンピュータを駆使することになるからです。
次に、三星砿業グループですが、石灰石の採掘をし、選別を経て、矢橋工業へ原石供給をしています。それから土木事業の運営、展開です。また、三星砿業の土木部門と、矢橋林業の住宅部門は営業において協調して、お互いに連絡、相談がたやすくできることが課題とされています。
矢橋工業グループは、三星砿業で採れた原石を、いくつかの特色ある企業を使って焼成加工し、石灰として出荷しています。こちらも、他の2グループと一連の流れの中で事業の拡大を図るべく、情報の共有と情報密度の向上が必要です。
ベトナムに初めての海外における子会社設立も果たしました。我々のような中小企業は海外で事業をするのは大変なことですが、いかに国内と国外の情報差をなくすかがテーマであり、インターネットのメールを使って距離の短縮を考えています。ベトナムに出向した者も日本に戻って来る時に浦島太郎になっているのではなく、帰国後そのまますぐ現場で通用するような役立つ情報交換に努めています。
矢橋グループ全体の経営方針としては、基本テーマは「技術」。日本の中小企業として、世界に誇れるような技術を持って、生産管理ノウハウも蓄積するという気持ちで取り組んでいるのです。それにおいて、情報管理をどうするか、がイントラネットの目的といえましょう。先端技術の結集されたコンピュータを日常的に使って仕事に取り込む環境を作ることによって、社員の志気改革が図れる。新しいものに対しての適応性も身につけ、抵抗感をなくすことで可能性を広げる。また、情報の収集、分類、整理を行うことで、自らの業務を拡張し、全体として協調する課題を考えるようになる。ある情報に対してグループ全体で共有することにより、各部門間での評価、判断、情報の価値への適正など有効な活用が図れる。インターネットを通じて情報発信することは、統一した認識を醸し出す。小さい会社ながらも、世界におけるチャンスがこれからもきっとあると思いますので、工期短縮化の意味でも、インターネットによる情報の受発信が距離を超えるものと期待しています。
このように、イントラネットによる情報化推進により、たくさんのメリットが考えられました。

■さまざまな事業の場面で成果が芽生えてきた
私どものイントラネットの構築は、決して計画だててきとんとやったわけではありません。まずOA対策として、オフコンからパソコンへの転換。事業所間のネットワークづくり。そして、イントラネットの立ち上げ。現在のパソコン台数はおよそ200台です。必要な情報の共有、各部の選択・整理・保存による各部のデータベースの集積が図られ、役立つというプランが徐々に実現しつつあります。
積極的な活用としては、経営営業支援システムということで「戦略箱」の導入が挙げられます。これは営業支援の管理ツールで、顧客情報管理、物件情報管理、顧客訪問計画、日報などに利用でき、営業担当者は計画、実績、分析を容易に行うことができます。
3つのグループがあり、個別のグループでイントラネットを導入するのではなく、グループ全体として情報の共有化を図りたい、というのが弊社のイントラネットの大きな特徴ですから、利用度を高めて活用しないと成果が出ない、ということもいえると思います。私をはじめ中枢の幹部はグループ内でいくつかの役員を兼任していますが、いずれにおいても情報収集は経営に欠かせない重要な業務であり、速やかな判断や指示を要求される状況ばかりです。こうした状況では、イントラネットは経営に有効なツールとして非常に意義があるものと考えています。
電子会議にして、必要な資料は全部パソコン上におき、紙をなくしましたので、省資源の効果もあったといえましょう。


1.社内業務システムの刷新
    ・オフコンからパソコンでのネットワーク化
    ・ネットワークによる事業所間のデータの一元管理
2.矢橋イントラネットの立ち上げ
    ・役職者へのノートパソコン配布
    ・電子会議による役員会の実施
3.グループウェアの導入
    ・電子メールによる文書交換/ペーパーレス化
    ・掲示板(パブリックフォルダ)による社内文書の共有
4.経営営業支援システム(戦略箱)の導入
    ・社員の営業日報/業務日報の共有及び公開
           矢橋イントラネット構築手順

また、ISOの活動への適用も大きな成果でした。矢橋林業におきましてはISO9001、矢橋プロスティール、矢橋巧務店の2社は9002の取得に向けて取り組んでいます。この承認取得のため、ISOの要求に対して多くの資料が必要であり、全体としてとりまとめるためにはパソコンの導入、イントラネットの需要は不可欠です。社員らのパソコンを使う技術も飛躍的に進歩しています。
今後の展開としては、私どもの業務の中で計算データを使うことが多いので、そこでシステム活用が図れたら、と考えています。たとえば、木造の軸組工法、昔だったら手で書き計算し手で作っていたものを、今ではCADで入力しそのデータによって工場で加工できる。こうしたデータ活用を広げて、住宅の基礎から屋根、フェンスガイドの取り付けなどの部分まで行えるようにし、付加価値づけを行っていきたい。
また、プレカット工場のデータ管理システムの開発を行いまして、CADのデータの入力から加工、現場の搬入までできるような、データのイントラネット版をやりたいと思っています。
鉱山管理のシステムにおいても、鉱山の状況を完全にデジタルデータにして、そこから位置決定による採掘場所を指示し、入口を想定し、機械の工程管理まで一連の採掘管理のデータをイントラネット上で行えるように開発しています。
営業展開の場面では、お客様とのCADの共有。つまり、CADデータをそのまま私どもにメールでいただき、加工するというもの。かつてはFAXでしたが、それがデータ化しつつあります。これにより、コストダウン、工期短縮などのメリットが期待できます。最近では、モバイルを駆使した営業推進も活発になり、受発注をはじめ営業に必要な情報展開をどこにいても速やかに図っていけるよう、取り組んでいきます。
分譲住宅の事業においては、オンライン設定によって、ホームページの中に住宅のページを設け、そこで新聞折り込みチラシにはない細かな部分のデータまで発表したいと考えています。住宅は最終的には現場で実際に見ていただいて購入を決断してもらうものですから、まずは現場へ足を運んでいただけるような、見に行ってみたいと思わせるような情報をコンピュータ上で流したいと思います。

■有効利用の実感をベースに、夢はさらに膨らむ
イントラネット導入の効果について、私の感想としては、社員との距離がぐんと縮まりました。社員のことがよくわかるようになり、社員の個性が明確に把握できるようになりました。それがいいのか、悪いのか、両面があると思いますが、評価に繋がるという点ではいいことだと思います。
私自身の経営方針も具体的に指示ができ、適切な対応が図れるようになりました。現場の状況がタイムリーに把握でき、判断も迅速に効率よく行える。と同時に、以前は途中で止まっていたような問題が止まらなくなる。曖昧にされてきた問題がだんだん少なくなってきたのです。
どこにいてもきちっと報告が受けられ、距離、時間に左右されない経営ができるようになり、経営の透明性も増したと思いますね。
こうして考えてみると、もはや私にとってパソコンは必需品となっています。時代の要求することは我々への課題として認識し、これからは情報に付加価値づけをして将来に繋げていきたい。まだまだ私どもがやっていることは最低限のことでしょうが、なんとか努力をして、イントラネットを活用した商売を展開していきたいと思います。

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