事例本文(東京鋼鐵工業)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:15 東京鋼鐵工業(株)   事例発表日:平成12年3月1日
事業内容:オフィス家具製造
売上高:45億円 従業員数:130名 資本金:1億2768万円 設立:1953年8月
キーワード オフィス家具製造、
在庫管理、在宅勤務、
オフコンからパソコンへ、情報共有
CSOによる我が社の情報化戦略

東京鋼鐡工業(株) URL:http://www.dragon-net.co.jp

東京鋼鐡工業(株) 代表取締役社長 田辺恵一郎

プロフィール

昭和32年生れ。昭和59年入社後平成7年代表取締役社長就任。二代目。オフィス家具
のメーカーであるが、早くからオフィスプラニングを含めた「提案販売」に着手。入社
当初より精力的に異業種交流に取り組み、現在はネットワークも活用した交流を行って
いる。

~17年余かけて情報化を推進。そこから学んだこととは・・・~

現在42歳の若い経営者である田辺氏は、かつて大学卒業後入社したばかりの時から会社の問題点を把握し、解決に取り組んできた。そのツールがコンピュータだ。自社の営業マンが「自社の在庫表は当てにならない」と言う会社をどのように変えてきたのか。



■多品種少量生産の時代の波、コンピュータを使って業務改革に着手
先日、子供のためにソニーのプレステ2を入手したのですが、最初デパートへ行ったら抽選だというので、インターネットを利用しました。私自身コンピュータは好きでも嫌いでもなく電子メールやインターネットは仕方なしに使っています。基本的には人と会って顔をつき合わせていろいろ情報交換をするアナログ人間で、会社の歴史は47年ありますが、負の資産も引き継いできているよくある中小製造業であり、ネットワークビジネスとかベンチャービジネスを起こしている会社ではありません。それを頭に入れて、これから話をお聞きいただきたいと思います。
今から17、8年前、私が入社した当時、社会のキーワードは、情報化、国際化、そしてメカトロニクス=機械にどのようにコンピュータを繋げて柔軟に生産するか、という言葉が非常に流行っていました。その頃当社では「ズッコケ損ゼロ運動」というのをやっていました。かなりズッコケ損が多かったわけです。なぜ多かったか。かつては少ない品種の大量生産で済んでいたのですが、だんだん多品種少量へ時代のニーズが移っていきました。そうなると、今まで人間の勘でやっていたこと、あの辺にあれがあるぞ、というようなことでは工場が動かないし、営業もしっかりしたデータなしでは商売ができません。お客様から注文を貰ったものの物がない、工場が商品を作ろうと思ったら部品がない、そんなことを繰り返していたとんでもない状況の会社でありました。
私が会社に入ってまずやったことは、パソコンの導入です。当時、8ビット高速8インチのフロッピーを使うもので非常に遅いパソコンでしたが、180万円くらいしました。それで給与計算の仕組みを作り省力化を図りました。経理業務、売上集計、在庫管理など計算機の類の仕事をコンピュータにやらせるだけでも結構効果がありました。
次に在庫管理が問題でした。大量に在庫をしていて物を売っている時代と違いましたから、ルールがしっかり確立されないと、思うように物を動かせないのです。ある時、当社の営業が在庫表を見ないので何故かと聞いたところ、「在庫表はあてにならないから」と言うのです。あると思ったらない、ないと思っていたものがいっぱいある、そんなずさんな管理をしていたのが理由です。先ずはコンピュータ化の前に、業務改革に取り組まなくては、と思いました。業務改革をサポートするのがパソコン、あるいはコンピュータであると位置づけ、在庫99%の信頼性を目標に掲げて着手しました。

■我が社の情報化取り組みの経緯
83年 パソコン購入/主に集計業務、帳票印刷として活用。自家製ソフト。
91年 オフコン稼働/生産、販売を含めた定型業務に活用。オーダーメイド。
92年 パソコン購入/非定型業務に活用。自家製ソフト。パソコン通信開始/パソコン通信によるコミュニケーション。
97年 パソコンネットワークの稼働/定型、非定型業務ともパソコン。OCN回線。
98年 ホームページ開設。
99年 取引先とインターネットを介しての受発注を開始。

情報化取り組み時に、社内にプロフェッショナルを育てるのはやめようと思いました。理由は2つあります。1つは、中小企業ですから、能力があるからといって一人だけ突出した待遇にすることがむずかしい。2つめは、この先コンピュータ化が進む社会になるとそういったプログラマーやソフトが作れる人間は引っ張りだこになるだろう、その時に引き抜きにあうのでは、と危惧したのです。それよりも、社内に情報のプロフェッショナルを育てようと考えました。とにかく経理から工場から倉庫から営業から全ての業務に精通させようと考えました。
91年にオフコン稼働とありますが、部品の共通化、在庫がリアルタイムでわかる、そんなことをできるだけ費用をかけないでずっと取り組んできましたが、
パソコンでは限界がありオフコンを導入しました。
92年、ニフティでパソコン通信を始めた時は「こんな便利なものがあるのか」と実感しました。きっかけは、偶々コンピュータ会社から「おもしろいものがあるから、やってみたほうがいい」と勧められて、手ほどきを受けながらやってみることにしたのです。私の入ったグループは15人くらいいたのですが、いっぺんに連絡が取れるのです。それまでのやり方だったら、どこどこで会おうと約束するためには15人に個別に電話かファックスで知らせてしかも確認を取る必要がありました。ニフティのパソコン通信ですと、パティオという掲示板があり、インターネットと違ってクローズドされた世界で登録している人だけが使えるのです。その掲示板に「何時にどこそこで会いましょう。」と書き込むと、みんなが返事を書き込みますので、すぐ約束が成立するのです。たぶんゴルフに行く時など大変便利だと思いますが、こんな便利なものを会社で使わない手はないと思ったのが、いろいろなネットワークへ取り組んできた理由ともなっています。

■失敗が次へのステップとなって
個人的なインターネット体験は1994年からでした。航空券を買ったりパソコンを買ったりするのに、価格の比較が簡単にでき安くものが買えます。それまで海外に行くのに航空券は決まったところに頼んで決まった値段で買っていたのですが、インターネットで検索してみたら、安売り航空券を扱う会社は何社もあるので、価格比較していちばん安いところから買うことができるのです。こんな便利なものはない、と思ったのと同時に、大変な時代になってしまう予感がしました。というのは、私どもはオフィス家具のメーカーであり、ドラゴンというブランドで販売をしているのですが、差別化されていない商品はきっとネット上で価格比較されて価格だけが一人歩きしていく、そんな時代になってしまうのでは、と脅威を感じたのです。
インターネットは物を探したりするのに非常に便利で、時間が短縮できます。Eメールもいろんな人に連絡を取るのに便利です。社会の生産性が非常に向上するものです。この生産性向上のツールを自分の会社がもし持っていないとしたら、それだけで競争に負けてしまうかもしれない、という意識が生まれてきたのもこの頃でした。
こうしてコンピュータ導入に取り組んできたわけですが、この間たくさん失敗をしてきました。たとえば私は図面が描けません。CADに関して自分が適正なジャッジができなかったことを大変後悔しています。今考えたら大したことがないものに、当時で1500万、2000万くらいのお金をポンと投資してしまいました。その失敗を繰り返してはいけないという自責の念をこめて、その当時、ほとんど使わなかったCADを自分の席のそばにおいてあります。細かいところはわからなくても、方向性だけはしっかりと自分でつかんでいかないと、莫大な投資をしても成果が上がらないで終わってしまう、という勉強をしました。
80年代後半オフコンの導入を検討していたところ、コンピュータメーカーさんはSISということをさかんに言ってきました。『ストラテジック・インフォメーション・システム』のことだと思います。つまり、「オフコンを導入して会社の全データを経営者として分析できる、こんな便利なものはないから是非導入すべきだ」というお話でした。私もそれを信じたのですが、実際に購入してみたら、ほとんど経営者にとっては使えない、単なる数字の羅列に過ぎませんでした。
しかしながら、今回起きているIT革命というのは、その時とちょっと状況が違うような気がします。本当に経営者が必要な情報が、必要なタイミングで獲得できます。今、コンピュータ会社さんが言うことはけして大袈裟ではない、と実感しているわけです。

■オフコンとパソコンのリレーか、オフコンだけで行くか
93年から94年頃、オフコンからパソコンへのリプレイスを考えていました。それで、オフコンとパソコンをリレーさせていくのか、もうパソコンだけでいくのか、比較検討しました。コストの比較はもちろんですが、メリット、デメリットを徹底的に分析しました。一番の問題は、これまで多額の金額をかけて築き上げてきたソフトです。もしパソコンを選ぶとなると、そのソフトを捨てることになります。かなりしっかりしたソフトを作り上げていたので、これを捨てるのはもったいないな、という思いがありました。工場の機械は陳腐化してくると、「この機械はだんだん性能が悪くなってきた」とか、「そろそろ買い換え時だ」とか目に見えてわかるのですが、コンピュータのソフトは見ていてもわからない。これは困ったことだと思います。
とにかくメリット、デメリットの比較をし、社会変化の激しさを予測して特に柔軟性を重視しました。今日決めて明日から一部のソフトが変更できるくらいの柔軟性を求めました。また文字情報だけでなく映像情報も一緒に取り込めないだろうか、と考えました。特に工場では職人がだんだん減っているので、素人でも生産できるような機械にしたのですが、できれば図面が読めなくても機械が動かせて生産ができたらいいなと思ったのです。図面に完成図が映像として入っていたら初めて経験する人にもどんなふうに作ったらいいのかイメージがしやすい。そうして、費用も項目を全部リストアップしました。1次から4次までの4段階で進めていくに当たり、各段階でどのくらいのお金がかかるのか、ハード、ソフトの全てと通信費まで考えてコスト比較をしたところ、パソコンで行ったほうが3割くらい安くできそうだという結果が出たのです。さらに実際に進めてからは、予定していた金額よりも2割以上安くできるようになりました。
初期投資が多くかかっているのは、それまでリースにしていたものを買い取りにしたからです。20万円までは経費として計上できるとわかっていたので、パソコンの価格の推移を見ていたところ、ちょうどそこそこの性能を持ったパソコンが20万円をきって購入できることをキャッチしたので、経費で買ってしまおうという事になりました。なおかついっぺんに買うのはやめました。ネット上で「あ、ここで2台安いのが出ている」と探したりして買い揃えていきました。それで、平行稼働の時がいちばん大変でした。今回の2000年問題もそうでしたが、いざという時は中小企業なのだからみんなで出社して手書きでやるくらいの覚悟をしてやろうという意気込みで進めていきました。
当初の検討課題から漏れていたものとして情報セキュリティがあります。予算に組んでいなかったので、ハッカー対策としてはファイヤーウォールにして、そんなにお金がかけられないので最低限のレベルで良しとしました。もうひとつ、内部からの情報漏洩については今のところ社員を信じるしかなく、いずれいい対策方法が出てくることを期待しています。

■情報化がもたらした効用の数々
ネットワークを組んでいるとそこから何か新しいビジネスが生まれるのではないか、と頭をひねってはいるのですが、むずかしいですね。これはいける、と思ったものが、ビジネスモデル特許に触れるとわかって落胆したこともあります。また、ホームページを作れば何とかなるという話を聞いてすぐに作ったところ、最初は結構話題性があったものの、最近ではほとんどどこの会社で作っているのであまり効果を期待していません。もっと着目してもらう仕組みを考えないとだめだと思います。ただ、ホームページはリクルート用には大きく役立っています。会社で求人を出すと、以前は学生さんから資料請求の電話が来て、会社案内を封筒に入れて郵送していました。たぶん人件費を除いても1名当たり500円以上のコストがかかっていたと思います。今では、学生さんもインターネットを利用して会社を検索して調べていますし、電話での問い合わせが来ても「ホームページをご覧下さい」と言えるのです。ネット上で学生さんからの質問にも答えています。
予測しなかった効果は、パソコンが高機能化して低価格化したことです。また、こういう厳しい時代であり、当社も営業所を一部閉鎖しましたが、お客様を失わないように、スタッフを営業所勤務から在宅勤務に切替えました。ネットワークが出来上がっていたので、営業所勤務とほとんど変わらず対応できています。そういう意味では、ネットワークを組んでおくと、柔軟に会社の組織もいじれるということを実感しました。
印刷機やコピー機のコストの大幅削減もできています。今まで色々な商品や提案のチラシをたくさん作ってPRしていました。それを全部サーバーに入れて、各出先が必要な時に必要なデータを取り出して自分のところのプリンターで印刷する方法にしたのです。そうすると、お客様に向けて宛名も入れられるし、ニーズに応じて中身もアレンジできるなどオリジナル性が出せるようになり、とても営業効果の高いツールとなっています。
レイアウトや予想パースなども、ペーパーレス化しています。今までは本社のデザイナーが作ってプリントアウトしたものを宅急便で出先へ送っていたのですが、それも全部ネット上で送るようになりました。営業情報も、納入事例も、工場のアピールも、どんどんサーバーの中に入れ、活発に情報交換が行われて
います。

■今後の目標とキーファクター
情報化の今後の目標としては、
・Eメールによる外部への情報提供
すでに一部の仕入先やお客様とは低コストでネット上でのやりとりがきるようになりました。今後はEメールを活用して、1対1の情報提供をお客様にしていこうと、進めているところです。
・Eコマースの可能性の追求
これは仕組みづくりがたいへん大切だと考えています。
・ 情報セキュリティの向上
特に内部からの情報流出の抑制が課題です。
益々進化する情報化社会のキーファクターとして、webを使った仕事が海外で行われています。私の友人の設計事務所では、中国とネットワークを組んでやっていますが、海外の安い賃金の人たちと競争していかなくてはならないのかな、と考えさせられます。実際に海外に進出しなくてもネット上でできてしまうのは怖い事です。また、消費者視点がものすごく大きくなってくると思います。以前、某家電メーカーのサービスセンターでの対応が問題視され、それがネット上で公開されて大きな話題となりました。消費者が意見を言う場がインターネットです。メールマガジンというのがあり、情報や意見のやりとりがものすごい勢いで若者を中心にはびこっています。「どこそこの会社のどの製品の性能が悪い」、とか平気で書かれています。こういった現象は中小メーカーにとっても、とても脅威です。
最後に、私の考えていることは、「デジタルの時代ですが、私自身はアナログ感覚でやっていきたい」ということです。それから、当社はメーカーですので、「メーカーは物づくりの原点に帰って、技術力の向上と商品開発、サービスの向上で勝負して行こう」と考えています。それをサポートするのがこのITだと思います。

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