事例本文(山田農園)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:16 (株)山田農園   事例発表日:平成12年2月17日
事業内容:観葉植物の栽培・レンタル・造園
売上高:不明 従業員数:34名
2001年
資本金:4000万円
2001年
設立:1966年7月
キーワード 園芸植物輸出入、造園、鉢植レンタル、
会員登録、園芸モール実証実験、
1to1マーケティング、CRM、e-コマース、ショッピングモール、購入履歴データ活用
サイバーモールの構築事例と情報化への取り組み
 
(株)山田農園 URL:http://rakujan.yamaen.co.jp/

(株)山田農園 専務取締役 定木 納
プロフィール
1988年(株)山田農園に入社。総務部長、常務取締役を経て、1999年専務取締役に就任。
~情報戦略のひとつ、サイバーモール。試行錯誤を繰り返して成長中~

グループウェアやワークフローなどの導入により社内の情報化の推進役を担ってきた定木氏が、時代に即したビジネスの形として始めたのが、WEB上のショッピングモール「楽市らくじゃん」である。始める前と実際に始めてからと、変更、改良した部分も多く、苦労は多いが、着実に育っているようだ。


■消費者との直接取引、情報交換を目指して
当社は、1949年観葉植物の栽培卸を開始し、以後、植物の輸入・鉢物レンタル・造園を手がけ、世界各国より優秀な園芸種苗、ユッカや幸福の木などを輸入しています。世界の園芸生産者と共により良い品質の種苗の供給、生産技術情報を全国の園芸農家に提供しています。
今までの流通としては、こういう観葉植物は、農家さんが市場に物を持っていって買い取ってもらい、市場では競って、それから花屋さんが売り、一般消費者に届いていたわけです。しかし、不景気で農家も大変になり、当社も経営が伸びず、我々から見ると、農家が売った値段を考えても市場の不公平感は強いので、このままでは農家の競争が大変でやっていけなくなってしまうという危機感を持ち、消費者との直接取引を考えました。今のこの時代の環境から、WEB上で何かすることができるのではないかと思い、このサイバーモールを始めたのです。
花と緑のサイバーモール「楽市らくじゃん」というのですが、これは平成9年度の先進的情報システム(電子商取引等)開発実証事業として認可され、事業がスタートしました。
このシステムの特徴としては、相互の情報提供が可能なことです。
今までは決まったルートで生産から消費まで流れていました。つまり生産者は物を市場に持っていく、というのが実際には手っ取り早くて簡単なわけですが、これからは、消費者のニーズを考えて物を生産していかないといけないということで、それが対応できるシステムにしました。
システムの概要は図の通りです。


生産者あるいは小売店がネット上のこの我々の作ったモールで店を開き、消費者から受注する。つまり、生産者から消費者への直接販売、及び、小売店から消費者への販売を可能にしたものです。
これから必要とされていくであろう電子決済の導入もふまえています。まだセキュリティの問題等もあってダイレクト決済はむずかしいのですが、電子決済はこれから広島でも来年にはできるようになるのではないかと思います。
中には情報戦略として、1to1で消費者の購買履歴がありますので、その履歴を元に生産者から情報を送ったり、消費者の方からデータがとれるようになっています。1to1は会員登録をしていただき、サイバーモールにアクセスする際、パスワードの入力が必要なものですが、最近特に増えてきていいますので、皆さんも耳にしたことがあるのではないでしょうか。
履歴の活用として、「毎度ありがとうございます。この前買っていただいたお花は元気ですか」というようなメッセージを出すこともできます。実際には顔は見えていないのですが、1対1のコミュニケーションができるのです。ただこういうことを作戦では考えていたのですが、実際問題としては、これは会員登録が必要で、色々と課題が出ていたため、もう少し会員数が増えてから活用していきたいと考えています。
そのことも含めて、始める前にこういうこと、ああいうことと作戦を考えていたのですが、この業界のサイクルが早いものですから、モールの仕組みを作っている途中でどんどん環境が変わって、新しいものに変えていくような状況になっています。思いついてから実際に作って1年で始める、などとても無理なことです。だいたいコンピュータ自体がそうですよね。3年くらい前に50万円くらいで買ったコンピュータが、今では同じ性能かそれ以上の性能のものが20万円くらいで買うことができるのです。ソフトも然り。そんな感じでどんどんレベルアップしていることを痛感しています。
我々の出店機能も、当初はパソコンにデータを入れてその中で行おうと考えていたのですが、それではソフトも高いしどうしようもないので、WEB上での出店にした次第です。WEB上というのは普通のインターネットの画面上で出店でき、ASPのアプリケーションをサーバーに入れるという方法をとっています。たぶんこれからはこういうことが主流になっていくのではないでしょうか。
情報戦略支援としては、CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)、購買履歴情報のデータベースを元に活用しています。実際にどんな花が売れているか、どういう人たちが買っているかなどの情報を蓄積しています。
セキュリティにおいては、SET準拠のSECEにより電子決済がすでに利用できる状態です。広島の地銀さんはまだやっていませんが、富士銀さんの協力で、郵政省のE-デビットにも対応しています。今後はIモードやコンビニ決済にも対応する予定です。この辺について当初は考えていませんでしたが、Iモードやコンビニ決済がどんどん展開され人気が高まってきたので、これらを盛り込んでいかないと追いつけないということで、対応を進めています。

■小さく産んで大きく育てる
「楽市らくじゃん」の歩みを紹介します。
平成10年10月に案件が認可され、12月から開発を開始しました。開発はやったものの、実際に見て回ったり宣伝したりということを全然やっていなかったので、イベントに参加するなどしてがんばりました。11年7月から園芸モール実証実験を開始し、同年12月に実証実験を終了しました。12年1月から実用開始と同時にトップ画面などをリニューアルしました。12年2月東京にて成果発表を実施したのですが、これは我々が思ったよりもすごい人数が集まり、終始お客さんが途切れることがありませんでした。優秀な案件がたくさんあり、こちらもたいへん勉強になりました。3月に新潟フラワーウエーブ出展予定で、4月には東京フラワーショー(ビッグサイト)出展予定となっています。
現在の開発体制は、当社は売上10億程度の小さな会社であり、とてもこのようなITとかシステムに充分な力を注げるような規模ではないのですが、貿易のほうがあるので、どうしても電子化が必要で、当初は私一人で電子化を進めていました。今回の案件の開発開始には3人くらいで携わってきて、やっていくうちに、とてもじゃないがこれをまともに立ち上げて成功するためにはこの人数では無理だと悟り、情報システム課という部署を立ち上げて現在6名となりました。
その中で、私はウェブマスターとして、全体的なWEBを見て指示します。他にシステムエンジニア、WEBエディター、デザイナー、園芸記事・コンテンツ担当、出店・店舗担当がいます。観葉植物は冬の時期など売れない商品があり、売れない商品だけをインターネットで販売しても誰も買ってくれないですね。ですから、年中売れる切り花などを取り扱う業者の出店の営業に全国を回る者や、記事を書くなどのコンテンツ担当の者もたいへん重要な役割を担っています。技術の方は、㈱日立製作所さんに協力いただいています。
「楽市らくじゃん」の現状は、出店店舗数が25店舗です。目標として、年内に100店舗集まればモールとしても賑やかになりますし、知名度も上がるのではないかと思います。出店費用は月額3万円。サイバーモールの最大手・楽天市場の場合は月額5万円で1500店舗集めています。安いモールでは月額1万円でやるところもあります。今後この出店費用はどんどん安くなって再競争になると思いますので、できるだけ安い業者となって、他の業者さんが入ってきてもこれ以上安くしたら採算が合うかなという程度までがんばりたいと思います。
内容としては、園芸やガーデニング等農産物にテーマを絞り展開中です。主として観葉植物ですが園芸全般に展開したり、フラワースクールなども計画中です。営業推進のためにも、色々な業者が集まってそういうサイトを作っていかないといけないと思います。
メールマガジンでの園芸情報提供も行っています。A4サイズで2ページくらいのもので、月2回発行し、購読者は現在約3000人になりました。色々な流れで知り合ったガーデニングが好きな方とか、展示会で知り合ってアンケートを書いてもらった方等に購読していただいています。興味のある方たちなので、購買予備群として、ささやかな期待を込めているわけです。いつでも解約できる気軽さがあるので、若干増えてきていて、いずれ5000人、10000人くらいになると思っています。

■さまざまな情報やサービスが満載
実際にモールの画面でご説明します。
図「検索画面」参照。これは「楽市らくじゃん」の検索画面ですが、ここには種類別に「観葉植物」「切花」「蘭」「ハーブ」等に区分してあります。また、画像データは重たいので「画像あり/画像なし」を選択できるようになっています。


図「検索画面」
さらに、植物図鑑も作りました。この業界はわりと花の名前がいい加減についていることがありますので、商品として取引しているものですから、名前だけはちゃんとしないと注文があっても実際に一致しないと困りますので、俗名、学名を表したものにしました。いろいろな本や図鑑を参考資料に用いたのですが、著作権の問題があり、各出版元に許可を得る必要があり、大変な労力がいりましたが、今となっては作って本当によかったと思っています。
ギフト用にも対応しています。ギフトカードやラッピング、最初はこれも考えていなかったのですが、いろんなものを試行錯誤し、他のサイトを見ているうちに、こういうことをやったらいいということがわかってきたので、そういう機能も随時追加してきました。送り主登録や、誕生日や、母の日等カードへのメッセージ入力もできます。
いちばん困ったのは、時間指定のある物流です。実際に誕生日に着くように送った方がいたのですが、一日早く届いてしまったのです。物流会社のほうの都合で、早く着く分にはいいのではないかという安易な気持ちがあったのでしょうが、お客さんからはクレームがきました。もっと届ける機能を徹底させていく必要があると思っています。

■まだ発展途上中、評価には時間がかかる
今までに購入した方は会員登録していますが、最初の頃は全て会員登録をしてからポイントサービスなどをつけてやっていこうとしました。ところが、お客様にとっては敷居が高い感じを与えるようで、「いちいち会員登録しないと買えないのならやめた」ということも発生しました。途中で履歴を追ってみたら、サイトを出ていく人もいるので、会員登録しなくても買えるようにしたのです。
実際に購入すると、買った人のところに控えも何も残らないので、不安になりがちです。そこで、機械が自動的に「どうもありがとうございました。確かにこの注文は受けました」とTHANKS MAILを出す機能も取り入れました。
「履歴」「おすすめ商品」「植物の相談」「スタッフの紹介」「事業の規約」などの総合案内所的なものも作っています。
植物図鑑だけでは迫力不足だし、おもしろくないということで、「緑プレイス」も展開しました。これは、植物を好きな者同士で、「こういうことに苦労した」、「花を育てる時にこういう道具を使った」等と自由に会話していただこうというものです。植物相談コーナーもあり、虫がついた、この頃元気がないけどどうしたらいいだろうか、などに答えています。もっと活用して、交流に役立つように工夫していきたいと思います。この方式は、様々な業種で使えるのではないでしょうか。
いちばん人気があるのは、懸賞です。月2、3回コンスタントにやっていて、抽選するだけでも大変なのですが、最初は申込みが少なかったので負担がなかったし、賞品も大判振る舞いでした。それがだんだん人気が出て、申込みが増えるとともに当選者も増やし、今ではAコース、Bコース、Cコースの形で各10名ほど当選となっています。
情報館というものもあるのですが、ここにはまだほとんどアクセスがありません。もう少し時間がかかるものだと思います。
一通り説明しましたが、我々がやっているものはまだ始めたばかりで、事例といっても、まだ成功でもないし失敗でもないと思っています。これから成功に向けて、これをベースにして、もっといろんな使い方をしていただこうと、第2、第3のことを考えています。これがいいか悪いかの判断は、これから先1年か2年はかかるのではないかと思います。通産省など周りの方々の後押しもありますので、がんばっていきたいと思います。

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