事例本文(太洋産業)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:18 太洋産業(株)   事例発表日:平成11年7月21日
事業内容:食品製造
売上高:不明 従業員数:875名 資本金:2億7500万円 設立:1944年10月
キーワード 食品製造、
本支店会計、購買、固定資産、在庫管理、製造原価計算の即時化、販売管理、
ERPパッケージ
情報を活用した業務革新

太洋産業(株)

太洋産業(株) 専務取締役 内藤敏男

プロフィール

1991年、岩手銀行取締役資金証券部長を退任、同年、太洋産業(株)に顧問として入社。95年、専務取締役。99年、取締役副社長に就任する。同社では一貫して財務を担当している。

~リアルタイムかつコストダウン、のERP導入によりリストラ効果も実現~

銀行畑から食品製造の財務及びコンピュータシステム担当へ、数字のプロとして業績を築いてきた内藤氏。SAPのR/3を導入し、製造業に伴う材料入荷から原価計算、出庫までをシステム化する業務革新により、即時性を高め、コストを大幅に削減することに成功した。その手腕を語っていただく。


■2億円の情報化投資をスタート
私は太洋産業のメインバンクである岩手銀行からこの会社にまいりまして、CIOというような立場で、コンピュータのシステムを手がけるようになりました。
当社は、登記簿上の本社は、岩手県大船渡市です。今日は東北の会社として、是非こういう場でお話させていただきたいと思います。「情報を活用した業務革新」という演題ですが、どういう情報を活用したのか、結局は「安くて早くて正確な情報を活用して経営に役立て、ある程度の成果を上げたよ」というお話になろうかと思います。
年商は96年度で落ちていますが、これは事業所を統合したことが影響しています。また、従業員数もご多分にもれずリストラによって削減いたしました。
私どもで使っているERPのパッケージは、ドイツのSAP社が開発したR/3というソフトウエアです。このRとは、REALTIMEのRです。当社のものは、ERPとしては規模の小さいシステムだろうと思いますが、規模の大小に関わらずこのERPの中身は同じです。去年三菱商事さんがこれと同じR/3を使って連結決算のシステム等を作り上げました。そのように何万台規模でも、当社のようにわずか80台程度の規模でも、本体の中身は同じなのです。
情報化への投資費用としては約2億円をかけました。だいたいハード、ソフト半分ずつとお考えいただけたらいいと思います。約1年間かけ、96年5月にカットオーバーし、現在3年以上経ちました。
ネットワークのイメージをご覧いただきますと、4工場、5営業所が64Kの専用線で繋がっており、一方では1工場、2営業所がINS64で繋がっています。



東京本社はもともと築地にありましたが、リストラの一環として借りていた本社を返し、越谷に移転しました。その越谷にある工場は現在、関東支社所属になっています。それと本社が今ではひとつの敷地内にありますので、これらはLANで繋がっています。サーバは2台、この中にR/3のデータベース、アプリケーションが入っています。ハードディスクの容量は100ギガ。100ギガと言いますと、フロッピーディスク10万枚分ですね。そのくらいの数量のものがこのサーバの中に仕組まれています。アプリケーション部分というのは、R/3のいわゆるシステム本体が入っていて、この容量はだいたい14ギガですから、フロッピーディスクにしまして1万枚分くらい入っています。その中から我々の必要な部分だけを取り出して活用しています。

■リアルタイムな在庫把握


システム図の中で上のほうにある、購買、在庫管理というようなものをR/3ではMMというモジュールで、製品を作るまでの部分もMMのモジュール、販売はSDという販売管理のモジュールを使っています。下のほうの、会計に関するものでは、一般会計のFI、管理会計のCOと、固定資産を管理するAA、そういうものがいろいろな形で複雑に絡み合いながら、モノと金が常に一体化するような仕掛けになっています。
たとえば購買のところで、購買発注伝票を機械に入力します。その購買発注したものが、入荷して来た時には、入庫請求仮勘定を計上します。これはたぶん皆様方の勘定の中にはない名前だろうと思います。在庫金額と在庫数量が即加算となり、後ほど仕入れ先から請求書が送られてきますが、請求書と照合して数量と単価が違っていなければそこでOKという形で初めて買掛の勘定が仕入先名でたつような仕組みとなっています。

■ビジネスプロセスが先か、ERP導入が先か
「ビジネスプロセスをしっかりと決めてからこういうERPを導入したほうがいい」と言う方も多くよく議論になります。
しかし、私どもはあまりそこまで考えませんでした。というのは、R/3そのものが世界的に著名なきちんとしたソフトであるからです。ベストプラクティスであるならば、それを導入すればビジネス・プロセス・リエンジニアリングが達成できるんだな、とそんなふうに考えまして、我々は黙ってR/3にのっかれば間違いないんだとR/3の採用を決定しました。
私どもでやった業務の中で大事なのは、製造原価計算の即時化です。R/3ではマイナスの在庫は認められません。つまり在庫がないと出荷できないということになり、当日作ったものの製造原価を計算して製品として入庫しないとそこから出荷ができないので、いかに原価計算の即時性を高めるかには苦心しました。
以前の原価計算は翌日の午後にならないと出ない、というのが普通の状態でした。いかにしてその即時性を高めるかに尽きましたが、これはビジュアルベーシックというものを使って外づけで作り、最終的にはR/3にのっけていくというシステムにしました。
簡単にいえば、まず「やきいか」の原料ということで、原料のイカを出庫します。それを「やきいか」という製造指図書に原料の原価で落としていく。その後生産となり、出来高報告がきます。この報告書には、このくらいの数量が出来上がってそれを作るのにどれくらいの時間がかかったのか、などが書いてあります。この数量に基づいて各種のテーブルからエネルギー費、補助材料費、資材費が算出され、引落とせるようになっています。それから人件費テーブルによって、例えば時給1000円のパートが何人かかって何時間必要だったのか、その人数と時間を入力すれば自然とそのラインの直接労務費が計算され、それに間接費を配賦すれば、「やきいか」なら「やきいか」の製造原価計算が出来るわけです。
受注処理の際は、受注メモで受注伝票を入力しますと、1回入力したデータは出庫、請求、売掛計上、回収までのデータとして最後まで引き継ぎます。
又本支店会計を廃止しました。この問題は当初社内でもかなり抵抗があった部分ですが、今では本社一本の勘定に統合されています。また、社内売買制度というものがありました。これは工場で作ったものを営業所が仕入れるという仕組みです。本来なら外に向けてやるべき駆け引きが中で行われていたムダな部分でした。売買の部分がダブってきますので、社内売買の部分を引いて売上をださなくてはならないということがありましたので全廃しました。

■使ううちに実感した優れた機能

情報化への取組みとしては、従来のシステムはホストコンピュータがあり、各事業所にオフコンがあって、前日のデータをほとんどオフコンで処理しながら、翌日の正午までにホストコンピュータへデータを送るという流れでした。これはリアルタイムのデータではく、ある程度時間が経った後のデータとなってしまいます。やはりクライアントでオンライン化によるリアルタイムの情報を送信して、そのデータの変更はサーバでやる。これが本当のリエンジニアリングなのかなと思います。
ERPの評価としては、電子伝票検索が容易なことが挙げられます。最初に入れた伝票、これは誰が何月何日の何時何分に入力したものか、ということは決してこのシステムの中で消えることがありません。1回入力した伝票は消すことができないのです。訂正はできますが、真っ白な状態に、最初から入れなかったよという形には絶対にできない仕掛けになっています。その伝票1枚1枚が100ギガのデータベースに、半分の50ギガくらいに3年分全部残っています。ですから、いつでもその電子伝票を開きたいと思ったら見ることができるのです。どこの営業所分か、いつ誰が入力した伝票なのか。というところまで行き着く事が容易にできるのです。このブラウズ機能はこのシステムの持つ非常に優れたものだと思います。
加工の自由については、これを使うのはほとんどが本社の部長級、あるいは常務級となります。当社では専務、常務クラスも皆パソコンを叩いてR/3を動かしていて、何でも見たいものは即座に見られますし、マイクロソフトのACCESSで加工して自由に見たいものを作ることができます。これは本部の人たちから感謝されている部分です。

■大幅なコストダウンを実現

コストはどうかということについて。
以前はユニシスさんの2200の200という小型のホストに、11台のオフコンがぶらさがってシステムが出来上がっていましたが、その当時のコストはだいたいリース料だとか保守料だとか紙代まで含めて年間8000万円ほどかかっていました。その他に、システムに必要な人が8名いましたから、人件費も結構かかっていたと思います。一人年間500万円としても8人で4000万円。一切合わせて年間1億2000万円くらいのコストがかかっていたことになります。
この新システム導入にあたって2億を投資しましたが、稼働から5年で償却しますと年間4000万円ですから、以前の8000万円の半分になりました。しかも、8人いた人が1人でやれていますから、人件費は8分の1です。かなりコストパフォーマンスは高いと言えます。
では、このリストラによる経費削減はどうだったのかと言うと、96年対98年で比較すると、合計で約9億6000万円の成果がありました。
それから、ERP導入について経営者が考えるのは、それによりどのような経営が可能なのか、そして、トラブルはどうか、という点でしょう。しかし、私自身が使った経験から、パッケージに黙ってのっかれば間違いない。と、自信を持って申し上げたいと思います。

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