事例本文(太洋工業)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:24 太洋工業(株)   事例発表日:平成12年9月20日
事業内容:プリント基板、及び検査装置製造
売上高:不明 従業員数:219名 資本金:2億4452万円 設立:1960年12月
キーワード 業種転換、プリント基板製造、プリント基板用検査装置製造、
生産管理、短納期生産、部品在庫管理、
iモード
地場産業を近代化した!

太洋工業(株) URL:http://www.taiyo-xelcom.co.jp/

太洋工業(株)代表取締役専務 細江美則氏
プロフィール

 昭和49年早稲田大学大学院理工学研究科を修了、同年、沖電気工業(株)に入社。その後、オリエントリース(現・オリックス(株))を経て、昭和55年に太洋工業(株)へ入社し、捺染(なっせん)用ロール彫刻製版事業を引き継ぐ。その後、時代の変化に対応して、保有技術を活かしながら異分野に参入。現在ではプリント基板及びプリント基板用検査機のメーカーとして事業を展開されている。

~捺染用製版から電子部品業界へ。IT化で厳しいユーザーニーズに対応する。~

 繊維業界の中で布に色や模様を染める捺染は、和歌山の地場産業として知られている。しかし、時代の波は容赦なくこの業界に関わる企業を揺るがせた。そのうちの一社、太洋工業は、これまで培った捺染用彫刻製版の技術を活かしてプリント基板設計・製造事業に転換を図った。そして、努力を重ねて、現在ではフレキシブル基板製作、及び基板の検査機の開発・製造メーカーに発展を遂げている。父の会社を受け継ぐ細江専務の若いパワーが、事業転換に成功したといえよう。


■捺染用彫刻製版の技術と基板製作の技術に共通するもの
  当社は、1960年に和歌山で父がそれまで勤務していた会社から、一部の業務を引き継ぐという形でスタートしました。和歌山において捺染(布に色を染めたり色々な模様を染めたりするもの)は地場産業の一つで、当社は、大量生産に向くロータリースクリーンや、ローラー捺染用に色々なパターンを形成する事業を手がけていました。例えば、花模様のプリント布を作るとすると、花の赤い部分は赤い花のパターンが要る、葉の部分は緑の葉のパターンが要る、地の部分は地の色のパターンが要る、というように、3色であれば3つの色を分解して染める分色作業が必要となります。わかりやすくいえば、プリントゴッコで年賀状を刷るような仕組みです。それぞれフィルムを作り、そのフィルムを使ってエッチングしたりメッキの手法を使ったりして版を作っていきます。かなり職人的な技能を要求される仕事です。
  しかし、中国、東南アジア、アフリカなどの海外からの追い上げなどを考えると、業界における当社の存続への明るい展望は得られず、業種転換を模索するに至りました。当社は今年で創業40年ですが、その危機はちょうど20年くらいたった頃のことでした。そんな時、大手電機メーカーさんのご紹介をいただいて、その会社の協力工場として、プリント基板の仕事をいただけることになりました。もともとの捺染事業で培ってきたフィルム作成、エッチング、メッキなどの技術を活かしてできるのではないか、と考えプリント基板の製作を始めました。
  最初は片面のみにパターンのある片面板を製作していましたが、メーカーから受け取るフィルムの通りにエッチングするような仕事で、これでは電子関係の仕事とはいえません。せめて基板のパターン設計ができるくらいにならなくては、という気持ちが強くなりました。ところが、設計したいと思っても社内に設計技術者は一人もいませんでしたので、そういう人材を積極的に採用し設計の仕事を請け負うようになりました。
  次に、片面板よりずっと付加価値の高い両面板の仕事を目指しましたが、それが加工可能な機械はありませんでした。そこで、両面板が作れる外注先を確保し、当社で設計したものを製作してもらいました。
  しかし、後発組の当社にとって、それほど美味しい仕事が得られるはずもなく、やってもやっても利益がなかなか出ない状況でした。もうプリント基板の仕事を止めたいとメーカーに伝えたところ、フレキシブル基板の仕事をやらせてもらえることになりました。硬質の基板と違って曲がる基板です。まだ出たばかりのものであるから、がんばってやっていけば徐々に力がついてくる、そうすれば仕事も増えていくだろうと考え、取り組むことにしました。
  その一方で、いずれにしても基板は非常に原価コストが厳しいため、もうひとつの柱が必要と考え、プリント基板用検査機の開発構想も進めるようになりました。それにはマイクロチップの技術者や、ソフトの開発技術者が必要になりますので人材を採用し、また、時間をかけて社内でも育成し、準備を進めました。それが平成になるくらいの頃です。こうして、フレキシブル基板を作る電子部品メーカー、及び基板検査機メーカーの2本立てでここまでやってきました。

■納期死守の基板の納期短縮化にIT活用
  フレキシブル基板の一貫生産ができる体制にこぎつけたものの、もうひとつの大きな課題として納期がありました。電子関係の仕事をしている方ならおわかりでしょうが、基板と言うものは、例えば外形などは設計の最後に決まりますが、生産にかかる時には最初に必要となります。つまりかなり厳しい納期が宿命なのです。金曜日の夕方に図面が入り、納期は月曜日の朝一番などというケースも珍しくありません。当然、納期は厳守です。しかし、いくらがんばっても1日は24時間しかありません。納期短縮にはコンピュータを使わなくては、という考えに至りました。
  フレキシブル基板の工程は両面だと数十工程あります。例えば工程の5番目と6番目の間に15分間放置され、次に6番目と7番目の間に20分放置されていたら、合計で35分のロスとなります。まず、こうしたロスを解消することが課題として挙げられました。
  また、基板は設計仕様が頻繁に変わるので、受注後もメーカーサイドから設計変更や数量変更が相次ぎます。それでいて短納期、高品質は当たり前のこととなっていますし、又納期の希望優先順位もころころ変わります。しかも沢山のお客様から多くの基板点数を受注していますので、もはや人間には管理しきれない状態でした。そこで、基板工場でのコンピュータ導入により、こうした課題を解消し納期短縮化を図りました。

■検査機においては情報の共有化のためにIT活用
  基板の検査機は、人材不足や開発資金不足など苦労の中で、何とかようやく立ち上げ、5、6年前から売り出すことができました。しかし、検査機においては部品の在庫が非常に重要なのですが、私どものような中小企業には、部品がなかなか回ってきません。基板の検査機へのお客様のニーズは多様化する一方ですから、部品在庫の管理が決め手となります。これには開発部門と営業部門、あるいは、お客様と当社において情報の共有化が必要で、ここでもコンピュータ活用のニーズに直面した次第です。
  検査機は、プリント基板の出荷直前に使われるという特殊性を持っています。つまり、製品が完成して検査機をかければ、もう出荷できる段階なわけですから、万が一検査機が壊れた時はお客様から待った無しでクレームをつけられます。この特殊性については阪神大震災の時に肌で感じました。神戸のお客様が3社ほどあったのですが、「地震で機械などはほとんど壊れたけれども、前日に作った基板が山積みになっているから検査さえすればすぐ出荷できて売上になる。当座の資金になるから何とかしてくれ」と言われ、何とか駆け回って3社のお客様の検査機の修理を行いました。その時に、検査機というものはいちばん売上に近いところにある機械なのだとつくづく痛感しました。
  ですから、故障したらすぐ対処しなければなりません。そのためには、故障の履歴を保管しておき、同じような故障が起きたらどこが悪いのかすぐわかり、部品はすぐ取り替えられるか在庫も照らし合わせて、お客様に即答できるシステムづくりが大切です。
  さらには、基板が使われている身近な例である携帯電話を見ても、どんどん小型化して機能が増えています。つまり、内蔵されているデバイスも高機能化していて、それを実装する基板はもっともっと細かいパターンになっていくということです。当然、検査機に対しても厳しいスペックが要求されますから、コンピュータ活用の効果はかなり大きいといえます。
  競合他社との勝負では、当社は資金力ではかないませんが、IT化で知恵を集めていけば何とかがんばっていけると考えているところです。

■IT化とともにフェイスtoフェイスが大事
  当社のような一般向きではない企業のホームページにも結構アクセスがあり、色々なレスポンスが返ってきています。海外からも来ることがあり驚いています。
  今日、インターネットを使ってBtoB、BtoCというビジネスが広く宣伝されていますが、私どもはやっぱりFtoF、即ちフェイスtoフェイスを重要視していて、インターネットはあくまでも補完的道具だと思っています。お客様のところへ行くことは非常に大切なコミュニケーションです。当社では東京の出先に営業マンを常駐させていますが、FAXやインターネットでのやりとりができるようになっても、先方から電話がかかってきて、会って打ち合わせをすることがかなりあります。営業マンには、全員にiモードを持たせています。私用に使う部分もあるかもしれませんが、あえてiモードを使い慣れてもらうことを目的と考えています。というのは、従来20くらいあるフレキシブル基板の加工工程について、新しい構想にiモードを活用しようと考えているからです。
  現況においては、お客様は発注したら納品までの間に、頻繁に電話してきて「どこまで進んだか」を聞いてきます。その度に、工程を担当している社員はその製品の進捗状況を調べて「ここまで進みましたから3日後には出せるでしょう」などと応対しなくてはなりません。この時間のロスがあるのです。そこで、お客様から製品コードナンバー、社名、パスワードを入れてもらえば、該当の発注物がどの工程にあるか一目瞭然にわかるシステムにしようと考えています。宅配便大手会社などでやっている、荷物がどこにあるかの発想です。このシステムは近々に構築したいと思っています。
  これが実現すると、例えば土日に家族旅行に行っている取引先のエンジニアの方が、家族サービスをしながらも「太洋工業に頼んでいる基板大丈夫かな、月曜日の朝ちゃんと送ってくれるかな」と気になったら、自分のiモードの携帯電話から現在の進捗状況を知り、納期を確認できるようになります。

■社員間のデジタルディバイド解消にiモードに着目
  ITは時間と空間を克服するといわれ、確かにそれは実感しています。先日テレビで観たある金型メーカーさんは、設計はオフィス街の高層ビルのきれいなオフィスでやっていて、それを回線で蒲田の工場に送っていました。金型工場といえば汗と油にまみれたイメージでしたが、設計のオフィスは清潔そのものですし、蒲田の工場も無人化が進んでいました。これもITのなせる技だと思います。当社も、和歌山にありながら、フレキシブル基板の取引先は関東圏が多いため、ITを活用して設計は東京で、加工は和歌山でできたら、と考えています。
  その一方で、やはりお客様と仕事の話をするための出張などは大切なコミュニケーションです。ITを使って時間と空間は克服できますが、匂いや雰囲気などはなかなか伝わるものではありませんから。例えば渋谷、原宿、代官山などに地方にはない都会独特の街の匂いをかぎに行く、こうしたことはITに置き換えられない大事なものではないでしょうか。ですから、IT化とともに、出張や旅行が減るということは考えられません。
  私自身についていえば、インターネットが主流になってきた頃、自分ではできないので、それに詳しい社員に頼んでインターネットにアクセスできる環境をセットアップしてもらいました。自分で実際にインターネットの世界をのぞいて見て、色々なことが瞬時にわかってすごいなと感心し、そこから少しずつパソコンへのアレルギーが薄れていったように思います。
  ここ和歌山のリサーチラボ内にあります社団法人和歌山情報サービス産業協会の会員になっていますが、会員は電子メールのアドレスをとらないと会員同士のやりとりができないし、協会事務局からの伝達なども受けられません。それでメールに慣れ、そのうちキーボードにも慣れてきたというわけです。
  最近、インターネットショッピングを試してみようと思い、本を買いました。数千円の本を買うのに自分の情報が全部ネットの向こう側へいってしまったような感じで結構勇気が必要でした。それでもようやく注文した本は2日後に届き、感激しました。
  当社のようなメーカーの場合、社員間で情報受発信の格差、即ちデジタルディバイドがあります。例えば製造部門の無い銀行や商社ですと、パソコンを使うのが仕事みたいな部分がありますから社員間の格差がありませんが、当社では圧倒的に現場の要員が多く、その現場では頻繁にパソコンを使うということがありません。だからコンピュータに慣れていない社員も少なくなく、電子メールを社内全員でやろうとしても、そのような環境はなかなか揃えられません。工程管理のためにパソコンを使っている程度ですから、社員のデジタル志向を飛躍的に伸ばすまでに至っていません。
  しかし、いつまでもそれではすまなくなってくると思いますし、将来さらに納期が短くなってきた場合の対応などを考えなくてはなりません。納期短縮の見通しは、企業間の開発競争が激化していることから、試作の納期がものすごく短くなっているということがあります。そうした場合に、社員各自の情報受信や情報発信も必要となってくるでしょうから、こうした問題への取り組みをどうやって行けばよいのか悩んでいるところです。
  とはいえ、現場の社員もプライベート用には皆、iモードを持って使っているわけですから、これを活用していけばいいのかなとも思います。私が心配する以上に、若い人たちはiモード、ITというものを自分の生活の中に取り入れているなと実感しています。
 ITは今後も非常におもしろいツールだということは間違いありません。これをどんどん使って、何とかこの厳しい時代を乗り切って行けたらと思っています。

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