事例本文(カナジュウ・コーポレーション)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:27 (株)カナジュウ・コーポレーション   事例発表日:平成12年10月25日
事業内容:LPガス、冷暖房機器、工事
売上高:不明 従業員数:51名 資本金:8000万円 設立:1963年1月
キーワード LPG販売・配管工事、冷暖房設備販売、
ペーパーレス、
CRM、情報共有
経営革新にITをこう活かす/ナレジマネジメントシステム構築事例
 

(株)カナジュウ・コーポレーション URL:http://www.citygas.co.jp/

(株)カナジュウ・コーポレーション 代表取締役社長 牧野修三氏
プロフィール

 家庭用・業務用・工業用液化石油ガス販売、暖房機器・給湯機器・冷暖房機器販売、家庭用・業務用・集団供給LPガス配管工事、冷暖房・給湯設備設計・施工、東京ガス仕様配管工事設計・施工を事業としている。

~情報の共有化により、組織も社員もぐんと活性化~

 カナジュウコーポレーションは、LPガス販売、厨房給湯機器・冷暖房機器販売、ガス配管工事などの事業をDyneCS(ダイネックス)という基幹システムで行っている。創業が1963年という歴史のある企業において、手書きや紙を使ったアナログの業務体制から、革命のごとくデジタル化が進められた。その経緯、効果などを牧野社長に語っていただいた。


■新鮮な情報を共有することでパワーを引き出せる
  初めにお話しておきますが、私はビデオの録画、テープのダビングもできません。せいぜいその技術レベルですが、あくまでも実務家の立場から私どもの会社で行ってきたことをお話して、皆さんに少しでも参考になればと思います。
  最近、デジタルデバイド、情報化が生む経済格差ということがマスコミでもよく取り沙汰されています。しかし、私が思うに、中小企業においてはもともと経済格差はあったわけです。大企業は情報化投資がどんどんでき、中小企業はそれができないと。むしろ、今は経済格差がなくなってきたと思います。ダウンサイジングでメインフレームを使う必要がないわけですから、小型のパソコンをネットワーク上で使えば、かなり有効に経営の革新ができるという前提条件ができ、初めて我々は同一のスタートラインに立ったと言えます。だからこそ、これから先が問題ですよ、という意味でのデジタルデバイドなのだと、中小企業の経営者としてそう思います。パソコンをつないで経営改善に役立てるか役立てないかは経営トップの意識次第です。ITを活用する企業と活用しない企業の格差は幾何級数的に効いていくことでしょう。それだけ、ITが時代環境の変化の中で、我々の経営が環境変化適応業であるならば、まさに重大な意味を持つということです。
  経営の観点からの情報化というのは、見えないものを見えるようにする、あるいは見えにくいものを見えやすいようにする、透明度のある経営をすることではないかと思います。また、情報は賞味期限があるもので、ある日を境に価値のない情報になる可能性がありますので、全員同時に配信することが大事です。
  昔からの回覧板のように最後の人まで1カ月もかかるようでは意味がありません。さらに社員全員が情報を共有化することにより、参加意識が高まり、結果としてひとつの会社の経営方針にのっとったものになっていくのではないでしょうか。社内に1人1台のパソコンで、それも個別のパソコンがそれぞれ立っていて横につながっていないのではなくて、全部のパソコンをネットワークでつないで情報共有をする。これはいってみれば共同作業環境の確保ということです。ネットワークにパワーを充てる、またはネットワークからパワーを引き出すことになり、社内も社外も全てデジタルで完全に連鎖させていくとペーパーワークでの非効率さというものが完全になくなります。

■さまざまな場面でデジタル化に切り換えていった事例の数々
  かつて私どもの会社でどんなことをやっていたかと申しますと、トップが社員全員に情報発信するということで、『カナジュウ瓦版』というものをやっていました。全員同時に、ということが原則でしたから、コピーをとってどんどん全員の机の上にセロテープで留めておく。コピー機はすぐに壊れました。営業日報は、日別個人別でみれば本人の一日の行動履歴ですが、得意先ごとに並べ替えをしていました。日報のコピーをとって訪問先ごとにハサミで切って顧客ごとの台帳にはりつける作業で、手は汚れる、台帳は糊づけされるから反ってくる、という状況でした。お客様からオーダーをいただいて起こす作業指示書には、お客様の名前、住所、電話番号、指示内容等を書き入れますが、電話番号や住所を間違えるというこが頻繁に起こっていました。
  こうしたことがデジタル化によってどう変わったか。
・紙の日報をデジタルの日報にしました。日報は、工務店さん別に並べ替えたものと、担当者別と2つあります。デジタルで仕組みを作ると色々と便利なことができるわけで、例えば当社では次回の訪問日を入れないとその日報の報告が完了しないことになっています。また、上司や同僚が他部門からもコメントを入れています。これは紙の日報ではありえなかったことで、紙の日報では直属の上司に上がっていくようになっていて、他部門の人が見るなどまずないでしょう。
・電話帳もデジタル化して、色々な部門で分散していた電話帳を一本に統合しました。従来は、電話を受けると紙に伝言を書いて机におく、その移動のロスタイムがありましたし、本人が帰ってきてきちんとそれを見て取引先に返信をしたかどうかもわかりませんでしたが、デジタル化がそれを解消しました。
・稟議書も然り。紙の稟議書は出してから決裁が下りるまで、今どこにあるのかがわからない。私はよく「糸の切れた凧」だと言ったものです。それをデジタル化により、きちんと稟議のプロセス情報も全員が共有することによって今どこで審議中なのかが確認できます。
・勤怠、タイムレコーダーもバーチャルで行います。出勤してきた証にはネットワーク上に書いてある「出」のボタンを押します。休みを取りたい時は、各種届け出申請というデータベースで申請します。つまり、ITを使わないと出勤の証明もできないし、休暇もとれないということです。さらに、この勤怠ボタンで給与明細が自動計算でできます。それで、2年前に給与明細をメールで送るようにしたら、「そんな会社どこにもない」と社員から言われましたが、その半年後くらいに日本IBMで給与明細をメールで送り始めたということを知り、皆が納得したものです。
・戸建ての新築住居の入居時には、お客様に記念にお花を持っていってコミュニケーションを深めてこようという作業を行っていて、花はデジカメで撮影し、それに花屋さんのホームページから花言葉や花の手入れ法などの情報をダウンロードして印刷して添えています。
・お客様の訪問履歴は、一軒一軒のお客様とのコンタクトの履歴を時系列できちんと整理することで、お客様が望んでいるサービスが企画できると考えています。IT化による高度なCS化(CRM)の事例といえます。
・プロセス情報も共有化すべきだと考え、社内的に携帯電話のプッシュボタンによるスピード作業報告、リアルタイムの行動報告を実施しています。携帯電話のプッシュ信号をモデムが受けてそれをまた文字情報に変換して、全員のパソコンからどれを見ても誰がどこで何をしているか、どこまで作業進行しているかが確認できるようになっています。

■IT化の決めてはトップダウンで
  このように情報インフラが変わって業務プロセスを変え、次は組織の改革だということで、当社ではコールセンターや、メールセンターなど、機能中心の組織へと再編成が進んでいるところです。
  ご参考までに当社のIT投資の費用をいいますと、過去7年間の累計値でいって、売上に対する情報化投資額の割合は年平均で5%というところです。ご質問があったので具体的な数字でいいますが、6億3千万円です。しかし、これは私がかなり新しいもの好きなので相当かかっていますが、今これから始める方は、ハード、ソフト共に相当安くなってきていますので、皆さんがその気になればこの金額の10分の1、100分の1、1000分の1くらいで、実現は可能だと考えています。
  もうひとつ、情報の共有化に伴う機密性についてですが、できるだけ「見せない経営はしない」方針です。この部分については、良い悪いではなく、会社トップの人生観や経営哲学の問題になりますので、自分なりに情報化の対象範囲を決めてすればよいと思います。IT化の方針決定の中で情報の共有化の範囲を決定することは、トップのなすべき作業のひとつです。
  IT化の実行の前提条件は、トップダウンです。しかし、トップは必ずしもITおたくである必要はありません。社員の皆さんが情報を使いやすく活用できる環境を整える、そのための段取りをする、総合プロデューサーの役割でいいのです。そして、その環境整備をしたらあとは社員の活力に期待する。社内にITが得意な人材がいなくても、外部の支援を受けながら進めるとよいでしょう。当社も外部の支援や先生の指導をあおぎながら進めてきました。また、当社では、社員の1割くらいをキーマンという形で先行的に情報化の教育を選抜的に行い、インストラクターになるという形をとりました。これはかなり有効だったと思います。
  IT化のマインドとして、ロータスノーツのコンセプトでもある「小さく産んで大きく育てる」が大事です。具体的には、小さな部門でテスト的にネットワーク化して、小さい成功事例をいくつか創り上げていく方法がいいのではないかと思います。いい意味での失敗が経験値になってきます。
  いずれにしても、ITをうまく使いこなして我々の商売の仕方、仕組みというものを新しいモデルに変えていくことがお互いに重要な課題ではないでしょうか。

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