事例本文(北海道地図)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:30 北海道地図(株)   事例発表日:平成12年8月5日
事業内容:地図調製・印刷・出版
売上高:不明 従業員数:270名
2001年4月
資本金:7000万円 設立:1957年8月
キーワード 地図調製・印刷・出版、
地図の電子化、
GIS、GPS、コンピュータマッピング
情報革命時代の地図づくり~地図屋から空間情報ソリューションへ

北海道地図(株) URL:http://www.hcc.co.jp/

北海道地図(株)代表取締役副社長 朝日 守氏
プロフィール

 昭和42年、北海道地図(株)入社。札幌支店を経て、45年東京支店開設に携わり平成3年まで東京勤務。その後、市場開拓と合わせてコンピュータマッピングシステムの開発、カーナビゲーション地図のデータベース事業などに参画。旭川情報産業事業共同組合の副理事長として活躍されている。

~地理情報システムがこれからの社会を大きく変える~

 紙媒体の地図から電子媒体の地図への変化は、地図にさまざまな情報を付加することになった。北海道地図、という社名から連想する範囲にとどまらず幅広く、業界において屈指の地位を築いている同社は、IT革命の中でも注目されている地理情報システム(GIS)の担い手として大きな使命を果たしつつある。もはや地図屋にとどまらず、空間情報ソリューション企業と名乗る同社の事業を紹介していただいた。


■干物から活魚へ、地図が変わった20世紀末
  最初に、「20世紀末、地図に何が起きたか」とセンセーショナルなことを言いましょう。一言で言うと「"干物"から"活魚"へ」ということです。今まで地図というのは大部分が紙地図、つまり"干物"のようなものでした。紙ですから、書き込むにしても限度があるし、コンピュータにそのまま入るわけではありません。それが電子地図になることにより、乾きものから生ものの"活魚"になり、新鮮な素材になったのです。それにより、誰でもその素材を使い、自分の料理が出来る時代になりました。こうした流れで、当社は最近では、ただ単に地図を納品するだけではなく、納品した電子地図について、お客様がどのような使い方ができるのか、と、色々ご相談に応じるというソリューションの段階になってきています。
  紙地図だと折り畳んでポケットに入れるにしても、携帯性に問題がありましたが、電子化によりカーナビゲーションや携帯電話とも合体するようになりました。ダウンサイジング化の実現です。
  また、我々の業務においても、これまで納品といえば重い荷物を担いでお客様のところまで伺っていたものです。書店では地図を並べてお客さんを待つというスタイルでした。しかし、これから21世紀に入りますと、ネットワークで地図が配信されることも本格化すると思います。

■地図の基本的な分類
  まず地図には、大きく分けて次の3種類があります。
1)基本測量図
 これは皆さんに特に馴染みの深い地図でしょう。測量法に基づいて、国土地理院が作成するものです。2万5千分の1、5万分の1の地形図があり、道路、鉄道、河川、住宅密集地、公共施設などを記号化してプロットしてあります。ちなみに、カーナビゲーションなどで使われているオリジナル地図は2万5千分の1の地形図で、日本全国が4400面で構成されています。
2)公共測量図
 測量法に基づき、公共団体が測量をして図面を作っているものです。代表的なものでは、土地登記簿関係で使われる公図、地籍図などがあります。
都市計画を行っている自治体は全て2千5百分の1の地図を所有しています。特徴的なのは、道路真幅があり個々の家の形まで出ていることです。用途地域などを策定していくための大事な図面です。
3)官公庁の調整図
各官庁が色々な分野にわたって行政を行っていくための目的別の図面です。例えば、農村整備、道路計画など100種類以上あります。もともと当社はこの行政用地図オーダメイドの専門業者で、全国の2割くらいは当社で請け負っているといえます。
この中でも、タイムリーなものとして、3)官公庁の調整図に分類されるものですが、ハザードマップを紹介しましょう。



  有珠山や三宅島の噴火が続き、住民たちがハザードマップを見て避難した、という報道を耳にされたかと思います。ここ数年、全国的に、その町にあったハザードマップの作成が進められてきました。ハザードマップの利用方法の例としまして、過去の洪水履歴からこのくらいの河川氾濫があるだろうという想定のもとで、地区別に色分けして避難場所を明記してあります。当然、そこには災害の復旧活動もありますので、ライフラインといって主要道路が着色されていますが、ここを使って避難をしたり救援物資を運んだりということがあらかじめ地図化されているわけです。
  また、民間の出版地図では、代表的な道路マップや住宅地図があります。

■コンピュータによる地図の作成が、新技術を構築させた
  では、地図作成のコンピュータ化についてお話します。当社は地図屋ですが、最近では情報の分野で熱い視線を注がれています。なぜ地図が高度情報化時代とかIT産業の一角に入れていただいているか、これはやはりコンピュータで地図を作成するようになったからだと思います。
  先にも言いましたように、紙媒体の地図では、それ以上の加工が難しくなかなか高度情報化に馴染みませんでした。ところが、地図をコンピュータで作るようになると、電子媒体で電子成果の原図が出来上がります。次に電子原図を画像処理をして印刷成果でお客様に納品いたしますが、その過程で出来上がった電子媒体の電子原図を、お客様自身が使ってみたいという要望も多く、地図が高度情報化の中に取り入れられていると実感しています。
  しかし、電子地図を作るには、オペレータだけ集めてもできません。品質管理、工程管理を担う人が必要です。
我々は、コンピュータで地図を作るという流れの中で新技術を構築してきました。ここに代表的な3つを紹介します。
1)シームレス
国土地理院の2万5千分の1、この代表的な地図は全国を4400面で構成しております。簡単にいえば座布団を4400枚並べて、はじめて日本をカバーする切り図ということです。4400枚のフィルム紙の地形図をつなぎ合わせることは絶対に不可能です。コンピュータマッピングで電子的に繋ぐことができ、初めてカーナビゲーションの目的地への最効率的ルートを示す経路誘導などが可能となりました。
2)スケールレス
 地図は2千5百分の1、2万5千分の1、5万分の1など色々なスケールがあります。従来の紙地図の場合は、紙の伸縮の影響があり、ことに梅雨時などは3ミリ~5ミリ程度のずれが生じます。電子の世界ではそれが許されません。当社は、他社に先駆けて、各スケールのオリジナル地図に経緯度座標を高い精度で埋め込んであります。これにより、スケールがどう違っていようと、当社の電子地図は正確に重ね合わせが出来ます。
3)10m格子の標高データ
全国2万5千分の1地形図の10m等高線をデータとして取得し、電子的に10m格子のメッシュ方眼をかけて、格子の交わした点の高さをコンピュータで計算し、標高データがられております。毛利さんがスペースシャトルで立体地図を作るための作業を行なっておりましたが、あの時のデータは30メートルの格子データです。当社の格子データは10メートルですからぐっと高い精度になります。これを使うと立体地図が垂直にも俯瞰しても見ることができます。谷筋の傾斜角度までわかりますから、ここに地質、土壌のデータを入れて降雨量も入れると日本のどこで土石流が発生する可能性が高いか等がわかってきます。

■情報革命とコンピュータマッピング
  当社では1970年代からコンピュータを使い地図づくりに挑戦していました。当時、ほとんどの官公庁は行政のデータを、磁気テープに入れて収録していました。総理府統計局では国勢統計調査のデータから人口分布図を作っていました。現場の職員の方々が手作業で色分けしようとしているのを見て、当社が地図専用の画像処理システムを提案してコンピュータマッピングを実現しました。それが日本で初めて画像処理で地図づくりをした第1号機です。このソフトは国土地理院のその後のCCPS(コンピュータ地図処理システム)というシステムの基本ソフトにも採用いただいています。
  1980年になって、GPS(Global Positioning System)という技術が大きなキーワードになりました。これは、軍事用の全地球測位システムの電波で、アメリカが冷戦構造が終わってGPSを開示したことにより、カーナビゲーションの商品化が可能となりました。
  次に、1990年代の大きなできごとは阪神淡路大震災でした。神戸市役所の庁舎の5階に都市計画課があり、マップロッカーに2万5千分の1の都市計画図が保管されていたのですが、そのフロアが潰れて取り出せませんでした。その時に反省したのは、日本にも地理情報システムがあったら、大震災の復興活動にかかる時間ももうちょっと違ったのではないか、救援隊ももっと早く出すことができたのではないかということです。地理情報システム(GIS:Geographic Information System)とは地図を紙媒体ではなく電子化しコンピュータシステムで地図情報を有効する利用システムで、当時アメリカやカナダではすでに本格的な運用が始まっておりました。わが国は大震災が契機となり官民一体となって国土基本図のデジタルの推進協議会を作って、今日に至っています。
  すでに世界的にGISを使う地理情報や電子地図は空間データベースという言葉を使っています。つまり、三次元で座標値をとらえるという意味です。我々はそういう時代に対応すべく、GISへの空間データベースの提供を行っています。
  そこには、社業を傾注すべく相当な投資を行っています。あわせて、お客様からも、GISを作りたいがどんなデータベースを作ったらよいのか、どんな地理情報を整理したらよいのかなど問い合わせが多くあり、それに対して地図づくりのシステムコンサルティング、つまりソリューションということで色々なお手伝いをさせていただいています。
  GISを理解していただく簡単な例として、旭川市の水道局の図面を例にお話しましょう。従来は、2千5百分の1の水道の図面と、さまざまな帳票を付き合わせて漏水などの対処をして多くの時間を費やしていました。ところが、GISにより、地図と帳票が連動し、市内の水道管が材質別とか年代別とかで検索が可能になりました。これからの日本の世の中は新しいインフラ整備よりも、今まで構築して行なったインフラの改善やメンテナンスが大きな事業量になってくると思いますので、さらなる活用が期待されます。

■有珠山の噴火に対応した避難用のGIS
  先頃、有珠山の噴火がありました。実は当社は2000年3月納期で、北海道庁から、有珠山周辺地域の民有林の治山情報システム作成を受注し、進めていました。有珠山は地質的にも土壌的にも大変雨に弱いところで、民有林を守るため、さらには人命を守るためにも構造物を造って大きな洪水の時に泥流が起こらないようにしています。また、急峻な地形では構造物が作れない代わりに、空から植物の種を蒔いて緑化を進めているところもあります。地図を拡大すると、コンクリートの遮蔽がたくさん出来ているのですが、これもひとつひとつ写真にまで撮られてデータベース化しています。
  こうしたGISの製作作業の過程で例の噴火が発生し、早急に避難のためのGISを立ち上げて欲しいと言われて作りました。
  避難所のGISは、まず避難所が色で示され、クリックすると避難所のリストが出てきます。そこに収容人数、所在地などがあり、さらにクリックすると、例えば虻田小学校の場合は1500人収容できるので、もし700人しかいなければあと800人収容できることがわかります。これに個人リストをつけると、誰が今どこの避難所にいるかもたちどころにわかります。
  これからGISについては行政もずいぶん投資を行い、活用を図っていくと思われます。
当社ではGISに対して、全国レベル11種類の地図データベースの提供を開始しています。

■GIS(地理情報システム)の可能性はさらに広がっていく
  政府のIT化推進政策がGISの普及を加速させることは確かです。今後、行政にしても民間企業にしても、情報管理処理の中で、いつどこで、という位置座標を持ったデータを持つことが大変有効だからです。ほとんどの役所はまもなくこういったGISを何らかの形で整備すると思います。
  次に、行政、企業に共通して、経営の効率化が急務な局面にあり、GISは必要不可欠となってきています。特に1つ1つの課がGISを立ち上げるよりも、共通の空間データベースサーバーを持ち、データを投入していき、その共通データから各課が必要に応じてデータを使う、いわゆる情報の共有化が有効といえます。
  縦割りの社会、今まで縦線だけだった企業や行政の組織が、GISによりネットワーク化されます。そこから、組織が活性化していくことは間違いないでしょう。また、GISのシステム構築は、多くの情報関連業種がかかわり合いを持つことにもなります。我々地図屋だけの仕事ではなく、大きな光ケーブルなどのインフラ整備も必要ですし、コンピュータなどのハードの分野、大手の力によるシステム開発も必要になります。GISエンジンは中小企業のユニークな技術を持っているところで数多く作られていきます。
  さらには地域の雇用増大にも繋がります。これは当社が身を持って実感していることです。つまり、どうしても現在の技術では緻密な作業は手作業でデータベースを完成させていくしかないのです。そこで当社は、別会社を作り年間百数十人をオペレータとして採用しています。もう4、5年になります。この町で、140、150人の人を採用できるということは、少しは雇用促進に関与できているかなとも思います。これは情報処理業務の拡大で地図以外でも全国的な傾向になっていくのではないでしょうか。
  GISは帳票のデータと地図を連動することにより、今まで眠っていた情報を活性化して使える仕組みですから、産業、観光などの振興にも大きく貢献すると確証しています。通信回線での情報交流により、地方にあっても全国レベルの知名度、さらには国際化も夢ではありません。今すでにインターネットやwebによって相当な情報がやりとりされていますが、そこにGIS的な発想を入れると、一層情報がわかりやすく有効に伝達できると考えます。
  どうか皆様のお仕事にGIS(地理情報システム)がお役に立てていただけますように、一緒に考えさせていただければ幸と存じます。ご清聴ありがとうございました。

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