事例本文(志満や運送)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:33 志満や運送(株)   事例発表日:平成12年10月27日
事業内容:運送業
売上高:不明 従業員数:82名 資本金:1000万円 設立:1964年4月
キーワード 運送業、協同組合
帰り便の利用、協同配送、地域中小企業物流効率化推進事業、物流効率化、
求荷求車情報、物流ネットワーク
わが社の情報化の取り組み

志満や運送(株)


志満や運送(株) 代表取締役社長 湯浅恭介氏
プロフィール

 1960年生まれ、徳島県出身、東海大学文学部卒業。徳島県トラック協会理事。協同組合「物流ネットワーク徳島」理事。徳島グランドワーク研究会会長。全国パートナーシップまちづくり連絡会議発起人。1998年度(社)日本青年会議所副会頭などを務める。

~弱者に強者と競合できる力を-「物流ネットワーク徳島」~

 厳しい経営環境が続く時代、物流業界もまた、淘汰の波を受けている。IT化による産業界の変化が進むにつれ、物流へのニーズはますます高度化している。物流そのものの変化、地方の中小零細業者の生き残りのための競争力、を考えて湯浅氏らが取り組んだのが、情報化を活用したネットワーク構想であった。そのネットワーク事業、「物流ネットワーク徳島」の誕生のきっかけから今日までの取り組みを伺った。


■競争力をつけるためにネットワーク化を構想。当初の手段は電話中心。
  私は父の会社に入って15年、社長になって9年経ちました。当社は運送業を行い法人化して36年、従業員82名、車輌数73台、営業倉庫が2カ所、配送エリアは北海道・沖縄・東北(宮城を除く)以外の日本全国をカバーしています。バブル崩壊後からずっと右肩下がりの状況で、どうやって競争力をつけるか、と考えた時にネットワーク化のプランが上がってきました。長距離運送という物流をいかに効率化するかをテーマに情報化を推進してきました。
  運送業務とは、お客様からお預かりした荷物を安全かつ確実にお約束した時刻にお届けすることです。生産地から生産加工する拠点、販売する拠点、もしくは消費者に直接届けるのが仕事です。インターネットによりいくら情報の伝達が発達しても、物流はなくなることはないでしょう。
  10数年前、やはり物流をもっと効率化しなくてはならない、それには自社のみで情報や物流の流れを変えるのはむずかしいと思案していた時、まず問題点を情報公開することにより物流の効率化を図ろうと考えました。また、競争力を強化したいというのが地域の同業者の声でしたので、規制緩和が進んでいた時流もあって、ネットワーク化による連携の強化をプランしたのです。
  当時は大手パソコンメーカーのニフティのようなものはありましたが、今のインターネットのような動画や画像、大量のデータを扱えるようなものはありませんでした。うちの社内ではワードプロセッサやオフコンで、売上管理や請求書発行を行うのが主なOA化という程度でした。連携の情報交換の手段は電話が主流です。現場ではできるだけ多くの荷物を運びたい、そこで、例えばうちの会社で荷物がなくて車が空いているという情報を伝えて荷物を回してもらったり、逆に荷物があるが車が足りない時には荷物を回したり、求荷求車情報を電話でやりとりしていました。しかし、電話ですと、今まで関わりのある業者さんとしかつながりが持てない、時間的な手間がかかるなど、お客様のニーズに十分に対応できないという課題がありました。

■情報ネットワーク化の推進、「物流ネットワーク徳島」誕生
  この状況に着目し、お客様のニーズに対応できるような業務態勢を作るために情報化推進に着手しました。しかし情報ネットワーク化といっても、自社だけで行うのは資金面、設備面、人材面で非常にむずかしいことです。そこで同じ業界の比較的若手の経営者の会社8社くらいで集まって勉強会を始め、組合を作りました。それが「物流ネットワーク徳島」です。
  まず、大阪・神戸のほうで新しい物流の動きがあると聞き、視察に行きました。そこで行われていたことは、自社の荷物や車の状況をコンピュータにデータ入力すると、ネットワークの加盟企業のデータ一覧が見られ、ちょうどニーズが符号した業者と仕事を組み合わせていくというものでした。
  早速、当組合も取り入れていきました。それがローカルネットワークシステムです。コンピュータの画面で、加盟企業の荷物情報、車輌情報を検索、契約ができます。具体的には、荷物情報ですと、荷物を何月何日にどこそこまで運んでほしいという時に、クリックして日時、積込地、目的地を入力して、完了を押せば契約画面に変わります。車輌情報も同様の手続きで、"四国"などのように大枠のエリアを入力すれば、「どこどこで空いています」という情報を得ることが出来ます。
  この「物流ネットワーク徳島」は現在15社で運営し、1社ではできない業務を連携することでキャパシティを高め、弱者が力を結集することにより大手との競争力をつけることが可能になっています。組合の設立においては、各企業の経営状態、売上などの情報公開をどこまでするのかを躊躇しましたが、結局は同業種同規模の会社がたまたま集まっていたこともあり、比較的スムーズに進めることができました。

■全国を網羅する広域ネットワークを実現
  当ネットワークは、平成12年度に徳島県地域中小企業物流効率化推進事業の認定を受け、インターネットや通信衛星を活用したEビジネスにおける物流の効率化を進めているところです。同様のシステムで、トラック業界にも「システムキット」がありますが、こちらも利用しています。
こうしたローカルネットは、私どもが始めた当初は全国に協同組合がまだ7つほどしかなく、全体で200台程度のネットワークに過ぎませんでした。それが、現在では、徳島県で15社、全国で127の協同組合、1500社のネットワークにまで成長しました。これほど急速に進んだのは、現場のニーズにマッチしていたのが一番の理由だと思います。そして、お互いの顔が見える、という信頼性があるからだと思います。ネット社会というのは、通信回線を通じたおつき合いになってしまいますが、情報化時代の前の時代を知っている人間にとっては、安心感や、信頼感に不安を感じるものです。
  当ネットワーク自体の立ち上げには1年もかかりませんでしたが、成熟するまでには3年ほどかかりました。費用としては、組合設立時の資金として60万円ほど、システムはハードとソフトで約300万円かかったと記憶しています。リース料はあまり高いものではなく、毎月3つくらい仕事を取れば捻出できる程度だったと思います。
  物流の流れもずいぶん変化し、新しい変化にいかに対応していくかが当ネットワークでも課題となっています。資金面では導入した設備のコストパフォーマンス、どこまで稼げるかという情報公開を、グループ同士で図っていくことが大事なことです。顧客のトータルコストダウンにつながる共同配送のような仕組みを考えて、配車情報システム、配送支援システム、安全運行支援システム等の基本設計を進めているところです。

■ITは弱者を強くし、目的達成をサポートするもの
  要は、IT化や情報化が目的ではなく、お客様へのサービスのためにいかに情報を有効にコントロールして効率化を進めていくか、ということです。産業界ではITも行き詰まっている感がありますが、IT、ITと言って飛びつくのは疑問があります。生活関連消費財が行き渡っている今日の社会において、新しい需要を拡大することはかなり困難だと思われます。
  我々も、ITを通じて産業界をしっかりと見据え、これからの物流がどうあるべきかを考えていかなくてはなりません。自社の利益も大事ですが、共同の利益、業界の利益を考えるところに、ITの効果は見えやすくなると思います。
  ことに、地方の中小零細の運送業者にとって、この景気の厳しい時代において、ネットワーク化、連携は必要なことです。「物流ネットワーク徳島」へのニーズもますます高まるばかりです。
  私は、情報化は弱者を強くし、目的達成をサポートするものだと考えています。私自身、現在、中小企業物流化研究会で、Eビジネスなどさまざまな取り組みを進めています。グループのメリットを上手に活かしながら、仲間の顔の見えるおつき合いから始まる情報化が中小企業にとって大事ではないでしょうか。
  今後、「物流ネットワーク徳島」としては、お互いのメリットがあれば大手と組む可能性もないことはないのですが、大手のパッケージ化されたサービスと、我々中小零細の特性とでは違う部分があります。融通がきくのが中小零細のよさだと思いますので、地域の物流サービスにできるだけ貢献していきたいと考えています。

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