事例本文(南野産業)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:46 (株)南野産業   事例発表日:平成13年2月15日
事業内容:鋳物製造
売上高:不明 従業員数:35名 資本金:不明 設立:1950年2月
キーワード 鋳物鋳造、
トップダウンでの情報化、ペーパーレス、
インターネット販売、工程シミュレーション
情報を活用した業務革新

(株)南野産業 URL:http://web.inet-osaka.or.jp/~nannoind/

(株)南野産業 代表取締役社長 南野 隆弘氏
プロフィール

昭和29年 大阪生まれ
昭和51年 近畿大学卒業

~鋳物業の現場においてIT化により業務革新~

 鋳物鋳造業というと熟練工が不可欠なイメージである。2代目社長の南野氏は、自らIT化に取り組み、ニーズの多様化・高度化・スピード化の進む時代にニーズに適応できる業務改革を実現した。できるところから始めた、最低の投資で最大効果をあげる。謙遜がちなお話の中に、中小企業にも参考となるIT化のヒントがあるようだ。


■導入前の問題点の数々
  当社は、東大阪で鋳物鋳造業を営んでいます。設立は昭和25年、私は2代目社長です。従業員は38名です。鋳物鋳造業というのは、熔解、造型、グラインダー処理などの作業工程があり、当社では複雑な中空形状を要する鋳物の製作を得意とし、特に油圧コントロールバルブ、油圧ポンプ、油圧モーター等の鋳物品が生産の約85%を占めています。
  従来は業務進行において紙の上での作業が中心でした。受注が来たらどういう条件で、どういう製作方法で、いつまでに納品、ということを手で書いてやっていました。つまり、記帳、修正、転記、整理したものを人に見せて仕事をしていました。この作業を繰り返すことによって社内の情報伝達を行ってきたわけです。
  しかし、部品点数だけでも約3,000点あり、作業は非常に繁雑です。受注を受けて生産ラインに仕事の割り振りをする、製品ごとの材料の数量や重量の計算、熔湯の出湯量の計算、造型に必要な時間、などの作業プロセスに関わるものも、入出金や資金繰りなどの経理に関わるものも大変めんどうでした。このような作業のデメリットは、遅い、データとして残らない、あとで引っぱり出すのが大変、並べ替えができない、修正がむずかしい、比較がしにくいなど、あげればきりがありませんでした。現場ではその日に紙を渡されてそこに書かれた分の仕事はするものの、それ以外は情報もないし、わからないからやらないという状態でした。こちらではあれもしておいて欲しかったというものがある、というすれ違いも多々ありました。

■トップダウンでやらなければ、と決意。できるところからスタート
  こうした現状をふまえ、当社では、工程能力を考慮しながらシミュレーションできるシステムを目指し、IT化に取り組んでいきました。開発にあたってはトップダウンでやらなければどうしようもないだろうと考え、自分が開発責任者として強い意志を持って進めることを決意した次第です。
  とはいえ私自身パソコンに詳しいわけではありません。IT化しなくてはいけないことはわかっているけれどもどこから手をつけたらいいかわからない、という声をよく聞きますが、まさにその一人でした。パソコンショップで店員さんに質問しても、説明を受けながら宇宙語を聞いているような状態です。とにかく自分のレベルでコツコツできるところからやるしかないと考えたのです。
  そこで、当社のIT化の基本路線は、紙の上の仕事から現場のノウハウをパソコンの上へと忠実に置き換えることとしました。まず業務分析を行い、現状を変えるためにこうありたいという目標を定めます。システムは段階的にできるところから進めていこうとしました。例えば受注ですと、Eメールやインターネットで入ってくるもの、口頭、電話、ファックスで入ってくるものがありますが、リピート受注、新規受注などそれぞれにフローチャートを作って1個ずつプログラムを開発していきました。こうして受注登録し、製作図を決定、工程ごとの展開を日程計画します。外注に出すものはそこで注文書を発行してそれが納入されたらいつでも内作はOKという形になります。作業がどんどん進んでいって納品、納品書・請求書発行、台帳記帳まで行えます。今取り組んでいるのは財務関係です。市販のソフトを活用して経理の仕事が助かるよう何とかデータ処理できるよう考えているところです。
  現場では、技術情報管理、品質情報管理、保証管理、材料管理があります。ある製品を作るための作業標準の情報が、現場の人間がぽんと押せば出てくる仕組みになっています。こうした当社のIT化においては、システムエンジニアの知人の協力を得ました。
  私は説明の中でシステムと偉そうに言っていますが、今は本当にいい道具があり、マイクロソフトのアクセスというデータベースのソフトを利用し、手書きの書類をコンピュータに書き換えていきました。例えば部品台帳には3,000件ほど登録してあり、品名、単価、工程、そして今受注が何個きているかという処理がパソコン上で行えます。情報は全て共有しているため、いつ出荷予定かなどのお客さんからの問合せに対して、事務所の誰でもデータを見れば答えることができます。

■IT化によるメリットが実に大きい
  こうしたIT化実現を進める中で有利な時代背景として、コンピュータの値段が下がってきたことがあげられます。性能のいいものが安く得られるようになり、当社では現場を含めて12台のパソコンを導入し、ネットで繋いでいます。LANの接続も100メートルくらいのケーブルを買っても1万円程度です。最低投資で最大効果をあげていると思います。
  IT化によるメリットをあげてみますと、
・ 受注・納品・在庫情報・工程表をもとにした部品発注ができるようになりました。
・ 受注負荷生産能力をもとに実績を考慮したリアルタイムの日程計画及び進捗管理ができるようになりました。
・ 各種帳票発行から請求検収処理までがスムーズになりました。
・ 外注先ともメールでやりとりし、お互いの情報をリアルタイムで交換できるようになりました。
・ 作業標準の表示ができるようになりました。
・ 報告書作成などの集計業務が迅速かつ正確にできるようになりました。
・ お客さんに対しての納期計画の信頼性が向上しました。
・ LANで繋ぐことにより各業務のシームレス化による間接業務の生産性が向上しました。
・ 技術情報の整備により品質管理等のコストが低減されました。
  そして、どうやってソフトを開発していくかという考え方、鋳造現場のデータをどのようにソフト化していくかというノウハウを得られたことは会社にとって非常に大きなメリットだったと思います。

■ベテラン社員が率先して取り組んでくれたことに敬意を持っている
  今、実感しているのは、ITを導入することは業務のしかたを変えることだということです。従来はいちいち集まってミーティングを行い口伝えで伝えていた受発注情報をIT化により社員が誰でもたちどころに把握できる、これは業務の改革、ひいては経営の改革そのものになります。この決断を社長自らトップダウンで行い、導入を進めていったのが成功の理由だといえましょう。
  また、開発責任者は業務に精通していなければ、ツボをおさえたシステム開発はできません。私どもは日々の業務でニーズを実感していましたから、スムーズに進行しました。たたき台を作って現場に提示してその反応を何よりの教科書として活かせました。こうして現場の意見を反映したことにより、独りよがりのシステムにならなかったのが良かったのでは思います。
  IT化というと高齢の社員ほど尻込みする傾向にあるようですが、当社の場合は、ベテラン社員のシステム化に対する要求が高かったことも状況として恵まれていました。変わらなくてはならないという意識で率先してシステム導入に取り組んでくれたことには敬意を持っています。
  今後の予定としては、社内のIT化から外部とのITをどんどん進めていかなくてはいけないと考えています。ホームページをさらに充実させ、活用すること、そして、モバイル端末によりどこにいても社内の情報が見られるようにすることから、国際的な部品調達にまで可能性を見いだしているところです。

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