事例本文(カヤバ)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:55 (株)カヤバ   事例発表日:平成13年10月11日
事業内容:ガソリンスタンド、アスファルト・石油製品卸
売上高:13億円
2000年度
従業員数:30名 資本金:6500万円 設立:1963年10月
キーワード アスファルト・石油製品卸、ガソリンスタンド、
トップダウンでの情報化、
ITコーディネータの活用、顧客データベース、車両管理システム、プロジェクト成功の要因
「ガソリンスタンドをカービジネスの拠点にする経営情報戦略」

(株)カヤバ URL:http://www.kayaba.co.jp/


(株)カヤバ 代表取締役社長 萱場 和彰氏
~人中心のサービスを支える統合データベース~

 安売り、規制緩和と厳しい経営環境にあるガソリンスタンド業界。その中で、新潟県のカヤバは、1990年代半ばでガソリンスタンドから、カービジネス全体を扱う「町の車の診療所」として変身を遂げ成長を続けている。しかし、この変身は初めから順調にいった訳ではない。経営上の問題を的確に捉えた萱場社長は、いち早くITの重要性に気づき、お客様を大切にするという経営理念を貫く手段としてITを活用した。また、ここで萱場社長が語るプロジェクト成功のためのポイントは、これからIT化を推進しようとしている中小企業の経営者には示唆に富む。


■会社概要
企業名 (株)カヤバ  設 立 1963年10月 
代表者 萱場 和彰  資本金 6,500万円 
社員数 30名  売上高 13億円(平成12年度) 
営業内容 ガソリンスタンド、アスファルト・石油製品卸 
営業エリア 新潟県内 

■ガソリンスタンド多角化の流れの中で、車検事業に参入
  まず、会社概要を説明させていただきます。1963年10月の設立で私が2代目の社長をやっております。売上高13億円ということでガソリンスタンドとそれから道路舗装用のアスファルト及び石油製品の卸を中心にやっております。
  まず最初にガソリンスタンドの多角化の経緯を説明させていただきます。1996年ガソリンスタンドといいますか、石油製品の輸入の規制が解除されました。これによりまして、本当はそんなに安くなってはいないのですが、我々の中で「たくさん売らなくてはいけない」「そのためには安売りをしてボリュームを増やさなくてはいけない」ということで、価格競争が発生いたしました。時を同じくして、当時の運輸省のほうでユーザー車検の部分で点検項目が非常に少なくなって、一般の人達が参入しやすいような規制の緩和が行われ、全国でガソリンスタンドが一気に車検の分野に参入して参りました。勿論、この規制緩和の中で「ボリュームを増やさなくてはいけない」ということと、もう一つは「付加価値を増やさなくてはいけない」という目的があってのことです。そのために車検を選択したり、あるいは簡易塗装のようなものを行ったり、あるいはガリバーのような中古車の仲介をやったりとかという事業に参入していったわけです。当社も1996年から車検を始めました。あるフランチャイズに入りまして、その当時はガソリンの販売量のボリュームでは全国でもっとも車検をたくさん取っているというところになりました。

■多角化に当たっての壁-低い車検のリターン率、活かしていない顧客接点
  しかし、何年か繰り返しているうちに問題が出てまいりました。車検のリターン率というのがあるわけです。通常2年前に受けたお客様を顧客とし受けていただくことに相当力を入れてやっているわけですが、カーディラーの場合はこれが80%あるそうです。その80%の内訳というのは、廃車ですとか、あるいは転居ですとかということによって自然に減っていくわけです。殆どカーディラーの場合は前回の車検のお客様を取り込んでいるわけですね。ところが当社の場合は僅か50%、半分のリターン率しかなかったわけです。この上がらない車検のリターン率の原因といたしましては、アフターフォローをしていない、車検を取ったあとにガソリンスタンドというのは他のカービジネスと違いましてお客様に接する頻度というのは非常に高いわけです。ですから車検を受けていただく、その2年の間にしょっちゅう給油に来ているわけですね。ところがその接点をうまく使っていなかったということがあります。それは何かというと、顧客データ、せっかく取っていたのにそれを活用していなかったのです。これが大きな反省でした。その結果としまして、従来はこの50%のリターン率ですが、車検をやっている台数は前年よりも多かったわけです。どこにお金を使っていたかと申しますと、販促費。チラシを新聞に折り込んだり、あるいはDM、それからいろんな物をあげたりしてお客様の再来店、再受注というものに使っていたわけです。ですからいつまで経ってもコストが安くならなかったんですね。

■「人中心のサービス」への転換を決意、投資対象を販促費から顧客管理の徹底に

  ここでうちの会社が気が付いたのは、もっとそういうチラシだとかそういう販促にこだわるのではなくて、「人中心のサービスに推移するべきだろう」と考えを展開いたしました。当社は昭和シェルの特約店をやっておりますので、「昭和シェル標準のPOSの後方データ」というのがあったわけです。その後方データから持ってくる履歴を、富士通FIPさんが出しているイーザスという後方データの管理システムがあるのですが、それにうまく利用できていなかったということ。それからうち独自でやっている「車検データ」。それから「ミラーリングデータ」。ミラーリングといいますとIT関係の方々はバックアップのことかなと思いますが、車検の到来が来る、例えば今10月ですが、12月までのお客様に対して車のミラーにチラシを引っかけていくわけです。それによって車番と車検の到来時期をメモしましてそれをデータにしていきます。この3つがうまく関連できていなかったんですね。ですから何が必要かというと複数のDBをリンクして人に配慮した総合データベースというものを構築する必要があったわけです。
  また、接客時の顧客ケアというものも増していかなくてはならないと考えておりました。いわゆる予約管理表というものを、ポストイットみたいなものを使って、事前点検から入庫、それから車検の通検、それから引き渡しというようにしてやっているわけですが、これをシステム化して、車検の受注センター、これは本社側になりますが、そういったところともその情報の共有化をする必要というものに迫られていたわけです。

■バラバラの業務システムを繋ぎ、統合データベースを構築
  今回のシステムに取り組む前の状況は、「車検の見積システム」というものがありまして、全くこれは他と連動されておりません。「昭和シェルの表示のPOS」は、富士通の事務処理センターから当社の本社の給油システムにきます。その下に「車両管理システム」というものがあるんですが、本社と、販売を担当する出先、店頭ですね、全く情報が繋がっていなかったわけです。この辺を改善する必要がありまして、当初は、簡単なシステムでトライし、投資リスクを最少にしました。しかし、顧客データがバラバラだったのが難点だったわけです。
  改善後ですが、先程言った、繋がっていなかった部分を繋げました。POSから事務処理センター、給油履歴システムを経て統一顧客DB、そして車両管理システムに入る、それを車検見積システムのほうにフィードバックする、ということを実は経済産業省の助成金を獲得して、より総合的なデータベースを構築し、マーケティングの効率を向上していこうというふうに狙ったわけです。

■プロジェクト成功の要因-ITCの活用、要件定義を重視、経営者の参画
  この取り組みで成功した要因というのが以下の3つだというように考えられます。まず、
①助成金申請からITコーディネータと係わっていたということ。それから
②要件定義、中小企業はなかなかこの部分に時間とお金を費やすことは出来ません。でもこの部分には時間をかなり費やしました。そして
③プロジェクトオーナーとして私自身が、経営者が責任を持ってやる
ことに留意したということです。
  まず1番目。『助成金申請からITコーディネータと係わる』という部分です。ちょうどこの助成金の公募が今年の1月17日に公募されたわけです。この日が、ITSSPの経営者交流会というものに私参加しておりまして、その最後の会議だったわけです。その日にこれが公募されて非常にタイムリーにその情報を得ることができました。それからITSSPの経営戦略者交流会でビジネスモデルとして私も出しておりましたので、非常に申請する中身を作りやすかったということがあります。そして1月17日から2月16日までがその期間だったのですが、ITコーディネータやコンサルタントの方々、いろんな人達の協力を得まして、この申請書を作成することが出来たということがあると思います。
  それから、『要件定義に手を抜かない』。経営的視点に関してITコーディネータからいろんなアドバイスを受けました。普通中小企業ですとこういう要件定義をするときにそんなに大勢の人数を入れて会議を持つことは出来ないと思うのですが、今回当社の場合は、毎回8人ぐらいの人数で80時間使いました。そういうことに時間とお金を費やす。勿論時間の中にはその知識というものもあるわけで、それが一番大きいのですが、そういったものを使うことが出来た、そしてそこに経営的視点で人というものから視点を外すことがなかったということが言えると思います。何か問題に突き当たると、「人に対して顧客に対する思考でこのシステムを開発していく」のだからここから絶対に逃れることが出来ないわけです。そういう理念みたいなものがあったということが一つ手を抜かない原因にもなったと思います。その中には例えばデータベースの速度を優先するのか、あるいは我々が欲しいものを優先するのか、ということで結構もめたこともありました。あるいは分析データをどのようにするか、今必要な分析データをシステム化してしまうと、暫くすると、こうではなかったということが結構あるわけです。ですから今この部分でお金を使うよりはCSVデータ(注:MS-Excelで扱えるデータ形式)のような形で、自分でそれを、取り回しを良くするというような方法を使って、今回これに関してお金を使うべきではないだろうという結論にも到りました。
  3つ目といたしまして、『プロジェクトオーナーとして経営者が責任を持つ』ということ。まず経営者自ら変わるということが大切だと思います。私も以前のシステムの開発を担当者に任せてしまって、出来上がったらどこに一番注目したかというと現状の専用請求書を作るのに一番お金を使ってしまったというまずい経験がありました。ですから今回に関してはもう絶対に自ら携わろうと考えておりました。
  それから、「専従の担当者を置く」ということが必要だと思います。担当者のことをヨイショするわけではないですが、非常にその専従の担当者は良くやってくれまして、私も自分の経営理念というものを落としていくのは非常に効果的に楽であったと考えております。
  それから、「ノウハウに関して積極的にアウトソースをする」ということが必要だと思います。先程言いました8人の人材を80時間かけて要件定義にかけていくという、この辺はうちにとっても今デモ版、あるいは11月から試験運用に入るわけですが、この辺にいくスムーズさというのは非常にあったと思います。
  そして、あともう一つは「ミッションステートメントを全ての人に理解させる」ということです。これに関してはただシステムを開発してもそのシステムがうまくいくのではなくて、私達の考えていること、会社のミッションステートメント、経営理念というものをどういうふうにしていかなくてはならないか。同時にこの部分も社員に啓蒙していく必要があるわけです。
  以上の3つが、まだ成功はしていないですが、成功の選択として必要だったのではないかと考えております。

■今後の課題
  今後の課題といたしましては、「企画調査」、それから「導入」、この他に「運用」というものがあるわけです。当社もこれから試験運用を始めて行く中で、社員に仕様を落とし込んでいかなくてはならないわけですけれど、今までの私の考え方でITコーディネータが運用まできちんとやってくれたかというと、その辺は非常に疑問な部分だと思います。我々もその部分に関してお金を費やしていたかというと費やしていなかった、というような気がします。ですからこの部分に関しては、今後検討する必要が我が社もありますし、業界としてもあるのではないかな、という気がします。

■開発スケジュール-人材研修も同時に実施
  企画書作成で今年の1月17日から2月16日まで。要件定義で4月の初めから7月一杯、設計も入れますとかかっております。プログラム開発を今、11月の試験運用を目指してやっているところです。これと同時に人に関して注目したシステムを作っていこうということをITコーディネータから指摘されたのが4月の中間でしたので、4月の末に人材研修を始めました。これはワタビフードサービスという新潟の方はあまりご存じないかと思いますが、東京にそういうフードチェーンがあるわけですが、そこのコンサルタントを入れまして人に対するサービス、「顧客満足度をどういうふうに得たらいいのか」という研修をやりました。
  以上が私が取り組んできたことの説明になります。ここでちょっと皆様に今開発しているシステムのデモ版を紹介したいと思います。

≪開発中のカーケアナビゲーションシステムのデモと概要説明≫


デモ担当者(株)カヤバ吉田氏の説明より一部紹介
『最後にお車をお引き渡しする際に必ず精算書を出力するのですが、当社のお客様に対する精算書の考え方といたしまして、会社理念の一部にあるのですが、「お客様に心地よい環境を提供する」という会社理念を念頭におきまして、それはどういうことかと考えた結果、お客様に安心と信頼をいただけるよう見積書イコール精算書という考えを持っておりますので、精算書についても受注確認書に出ました金額と同じ金額、作業内容が自動出力されるようになっております。』

  それでは以上で事例発表を終わらせていただきます。この製作物に関してはオープンソースを考えております。オープンソースの考え方にはいろいろと議論があろうかと思いますが、POSの後方データの接点の部分、ちょっと言い方が難しいのですが、それ以降はオープンソースというような考え方で、これが完成した暁には使えるところにはどんどん使っていただこうと考えておりますのでどうぞよろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。

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