事例本文(タマル)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:2 (株)タマル   事例発表日:平成12年2月4日
事業内容:レコードの販売(小売)、中古レコードの販売(小売)
売上高:不明 従業員数:75名
1997年4月現在
資本金:1000万円 創立:1928年
キーワード フランチャイズ制、レコード業界、レンタルビデオ、
プレミアムポイント、在庫管理、
1to1マーケティング、POSシステム、オンライン受発注、顧客データベース、商品データベース
当社における情報化への取組み 過去~現在~未来  
株式会社タマル URL:http://www.tamaru.co.jp

(株)タマル 代表取締役 吉岡哲朗
プロフィール
昭和20年6月高松市に生まれる
昭和43年 慶応義塾大学卒業
同年    株式会社タマル入社
昭和46年 同社常務取締役
平成8年  同社社長
昭和57年度 (社)高松青年会議所理事長
昭和61年~ 民事調停委員
大学卒業後直ちに家業のレコード屋であるタマルに入社。父が創業した会社を「兄弟3人で発展させよう」と頑張ってきた。だんご3兄弟的コンセプトを持ったブラザーカンパニーであるが、その枠を越えたいと社員一丸となって本物の企業(公開企業)を目指している。ITへの取組みは早く、そのことを夢の実現への大きな機動力にしたい。情報は瞬時に世界を駆け巡る。その意味で地方発の本物のシステム構築を目指す。
~One to Oneマーケティングへの展開~
アメリカのアマゾンドットコムが著しく業績を伸ばしているのは、顧客ごとのデータベースを活用し、その人向けの情報を発信している強味が大きいことが勝因となっている。
我が国でもさまざまな業界で情報化を駆使した新業態が生まれているが、香川県内でレコードショップを展開している(株)タマルも注目されている企業のひとつである。顧客の嗜好が年代、ライフスタイルなどにより多様化している商品であるが、情報システムを活用し、顧客へのアプローチ、顧客の選別化などを実現した効率的な経営を行っている。

■ネットワーク構想を描いてコンピュータ導入を決意
当社における省力化、情報化への取り組みについてお話しいたします。
当初は、情報化というよりはEDP(エレクトリック・データ・プロセシング)と言われていました。今から20年ほど前より、我々規模の地域の企業でもコンピュータに手が届くような時代になってきました。当時は経済成長のスピードが早く、小売業、流通業では、地方においてダイエーさんとかジャスコさんなどがどんどん駅前進出を果たしており、現在で言う郊外型の一時代前のショッピングセンターが相次いで出店していました。レコードは在庫管理が難しいことから、各ショッピングセンターでは直営ではなくテナント契約での出店となっていました。
当社でも、タマルという社名を店名として出せる場合と出せない場合はあるものの運営を任せられる店舗の計画が4、5店舗ありました。私はまだ若かったのですが、多店舗化に備えて情報武装しなくてはならないなと考え、1979年にコンピュータを導入しました。予算は2000万円少々。当時であれば1店舗出店できるくらいの金額でした。
まずどのメーカーのどの機種にするか、という選定からスタートしました。9社について数カ月間検討し、その検討過程がコンピュータに関する知識を得させてくれたと思います。最後にNECに決めた時、「SE=コンピュータを保守する専門の人間を一人用意してください」と言われ、「そんなの経費もかかるし無理だ」と答えると、購入していただいてもそのシステムがちゃんと動くかどうかわからないのでこちらとしても売れない、という旨の対応があり、「それなら私がやります」ということになったのです。つまり、コンピュータを買ってしまって人を雇うに雇えないから自分でそれを始めたのがきっかけでした。
どうせコンピュータを使って情報化していくのなら、売れ筋情報や、この商品についてはどの店で売れているのか、どの店で残っているか、などのデータを集めたネットワークを作りたいと考えていました。業務の合理化、給与計算、売掛管理、買掛管理、などは私にとっては2次的目的でした。そういうことはコンピュータが計算して答えが出てくるからです。
第1の夢はネットワークによって商品戦略を得ることだったのです。
■POSレジを駆使したシステムで発展
昭和60年にはPOSレジを導入しました。この年は、通産省がバーコードのソースマーキングというのを進めていた時で、レコードにもソースマーキングされたJANコードが印刷され始めていました。
昔はレコード屋さんでレコードを買うと商品の裏に小さな名刺ほどのカードがあり、そこにいつ出た、いつ仕入れたなどの情報が書いてあったのです。そのカードの記録をパソコンに打ち込んだり、市内の近い店ではそのカード自体を本部に持ってきて事務の女性社員がそのデータを入力して、データ蓄積をする方法をとっていました。
導入以前はお金のやり取りとデータ入力が同時ではなかったので情報の精度が90数%で、98%までは上がらない状態で3~4%の情報がもともと狂っているという前提でものごとを推測していました。そうすると、もともとデータが狂っているという発想が社員にあるものですから、なかなか思うような方向に進みませんでした。
POSレジ導入後は、情報入力と金銭入力が同時進行していきますから、情報精度は100%に近いものになりました。不正やタッチミスがない限り、100%情報が正確に集まってくる環境となりました。
それと、POSレジには通信機能もついていますから、各支店で打ったデータがその日の夜には本部のサーバーに集められ、深夜にコンピュータ処理をし、翌朝には発注書ができて、本部から各レコード会社へ注文するというシステムが1985年にできあがりました。
それが本支店間でうまく使えている状況を見た方から、もう少し広いところで活用してはどうか、というご提案をいただき、タマル以外のお店を私どもの支店と同じような感覚で管理をする、つまり依頼するお店にとってサーバーがなくてもネットワーク情報を活かした品揃えができるデータプロセシングを、RESPONS事業と名付けて1990年に始めました。レスポンスとはレコードショップPOSネットワークシステムを短縮した造語です。
1996年には社内にメールサーバーを導入しました。大企業もどんどん導入しているし便利だから導入したいけどまだまだパソコンの高い時代ですから、1人に1台というわけにはいきませんでした。しかし、メールは1人1つずつ郵便受けがないと不便です。1台のパソコンを5人、10人で使うメールなど考えられない。そこで、シャープのザウルスというコストパフォーマンスのいいマシンがあるので、メールサーバーを導入して、社内メールをザウルスで構築しました。
■情報化によりムダなく商機と商圏が広がる
POSレジシステムはNECの6830POSというものを使っていますが、PTOSというOSで、将来を考えると発展性がないと思い、1996年、WindowsPOSの開発に着手しました。店頭情報端末の開発にも着手しました。これを、タマルのタマとマルチのマルをくっつけて、TaMulti(タマルッチ)と勝手に呼んでいるのです。(図 情報システムのイメージ参照)

情報システムのイメージ

同じ年に、ソニーミュージックエンターテイメントの子会社・ソニーミュージックシステムズから、データベースを統合して1つにしないか、というお話があり、承諾して(株)エプシスという会社を東京に設立しました。社長が私で、副社長はソニーミュージックシステムズの社長が務めています。
1997年、Windows版のPOSが完成しました。ちょうどその時3月21日に太田店がオープンしました。それに合わせて開発を進めていたTaMultiの稼働を開始して、本支店間をINS64による常時接続環境にしました。
そうこうしているうちに、今度は(株)エプシスで発表したPOSシステムが日本レコード販売網という卸し屋さんの評価を受け、そこのシステム端末として使われることになりました。先方のつけたACTRESS(アクトレス)という名前で導入がスタートし、1998年12月にACTRESSの第1号店が稼働しました。
今日、レコード業界も大変な不況で新譜を売っていてもあまり利益が上がりません。かねてより名古屋の親しいレコード屋さんから「中古は儲かるよ、中古をやらなくちゃこれからは伸びていけないよ」と言われてはいましたが、乗り気ではありませんでした。しかし、どんどん売上が落ちていく中、社長の仕事って何だろうと考えたのです。
今は株主のために株式の時価総額を上げることが社長の仕事のように言われていますが、私たちのような地域の零細企業にとっては社員がきちんと食べていける状態を作ってあげることこそ、社長の仕事だと思いました。社長が夢ばかり追ったり、きれいごとばかり言ってはいけない、社員が食える道を探すのが社長だと。そこで、名古屋のレコード屋さんと中古ビジネスを一緒にやることにしたのです。システム開発能力はうちにあり、中古の運営能力は先方にありました。昨年10月に名古屋に(株)マルスという会社を立ち上げ、私どもで20%出資しました。
中古という言葉はあまり使いたくないので、USED(ユーズド)と表現していますが、通常の商品で売れているものは高く買い取り高く売る、通常の商品で今世の中で動いてないものは安く買い取り安くしか売れません。中にはお宝情報、陰での限定商品などはお客様から高額で買い取り、売る時も新品で発売された当時より高い価格を設定しています。
■お客様への個別情報をメールや店頭端末でアプローチ
当社が現在保有しているコンテンツは商品マスターです。国内盤、輸入盤、廃盤そういうものを約80万件処理しています。しかし、その80万件全てが商品として生きるかというとそうではありません。商品別の売上記録のデータは全国のレコード屋さんでどのくらい売れていますという単品ごとの記録ですが、80店舗分くらいを記録したデータを持っています。
もうひとつが顧客データベースです。これについては新しいPOSを昨年8月に導入したのですが、情報の蓄積は古いシステムを使って昨年12月から開始しました。今後、商品情報データベースには、毎月1500~2000のソフト、新商品が出ますが、それらの発売前に全ての情報について選択していきます。
こういうデータベースをいかに活用して私どものビジネスをより効果的にするか、ということが今後の戦略ではないかと思います。
ACTRESSの第1号店が稼動し始めてから8カ月後の1999年夏には社内のPOSシステムをWindowsに入れ替えました。と同時に、One to Oneマーケット情報発信をレシートに印字することを始め、携帯電話にメール発信できるようにも考えました。いろいろと、お客様を巻き込んだ提案を工夫しています。
まずお客様にはバーコードが入った会員カードを持っていただき、レジでそのバーコードをスキャンするとお客様のお買上履歴のデータベースが開きます。

店頭での接客時1to1のイメージ


購入頻度、直近では何を買ったか、ずっと前には何を買ったか、過去にお買上いただいたものが何点あるとか、などがわかります。そして今回お買上になったこの商品にはどんな特典がついているかの商品情報もわかります。

お客様の買上履歴の表示


こうした顧客情報、コメント、アーチスト情報、商品情報など6つの情報が、接客する店員側に向いたレジスターの画面に表示されるので、その表示を見ながらお客様にいろいろな説明ができるわけです。
お客様に対しては、こんな商品がいついつ発売されますというふうな情報がレシートに印字されます。お買上ごとにプレミアムポイントがつきますが、ポイントカードは持たずに会員カードで兼ねています。レシートにポイントが印字されていますから証拠になるし、お客様は情報を載せたレシートを捨てずに大事に持っていてくださって、うまく機能しています。お客様に伝えたい情報を本部のサーバーにセットすれば、支店では任意にそのお客様が来た時にプリントアウトされる仕組みです。

レシートへのコメント印字


もうひとつのOne to Oneは無人化です。これは携帯電話のショートメールを駆使してやっています。お客様履歴を活用し、このお客様にはこんな情報をさしあげたらいい。という内容を商品の発売情報などと照らし合わせて携帯電話にショートメールで送ります。もちろん、事前にお客様にショートメールの契約をしていただきますが、契約に費用はかかりません。お客様にショートメールを発信すると同時にホームページにそれよりももっと詳しい情報のページを作ります。メールの中には「ホームページにもっと詳しい情報が載っていますからそれも見てください」など商品情報を流し、もしメールで注文いただいたら、いつ頃入荷するかをメールで返信します。「今日はお誕生日おめでとうございます」などいろんなことを考えていけると思います。これらが全部無人化できますから、コストがあまりかからないのも大きなメリットです。

無人1to1のイメージ


店頭では、会員さんが会員カードを使ってTaMultiを使うと、その会員さん向けの情報があればカスタマイズされた情報がホームページとしてTaMultiの中で展開されます。
これらが情報系の戦略です。
業務系では、何が売れて、何をどれだけ注文したらいいのかの情報がわかりますので、それにもとづいてメーカーさんへオンラインで商品を発注しています。メーカーさんからは「こういうものを納品しました」という納品データが、オンライン上で自動的にもう一度POSの方へ戻ります。
先ほどのRESPONS(レコードショップPOSネットワークシステム)についてもう少し詳しく話しますと、従来のオフコンが持っていたコンセプトの継承ですが、品揃えのための戦略システムやOne to Oneマーケティングの機能も付加させています。商品データベース、顧客データベースなど多くの情報を抱えています。
レコード店にとって品揃えをしていく時に、その店で売れた売れないだけではダメで、全国ベースで売れているものであればたまたまその店では売れなかったのではないだろうか、というふうに判断していくことが大切です。在庫しておく商品なのか、もうこれはどこででも売れないから在庫はいらない商品なのか、そういう判断をネットワークデータを通じて、大きな枠組みづくりをしておくとシステムが勝手に判断してくれるのです。これにより、店では自動的に日次の補充発注という業務が素早く簡単にできます。
■待つ商売から、情報発信により新しい業態へ
このように情報化が進んでいくと、真のお客様が誰なのかがよくわかります。つまりお客様をいい意味での差別化していけるのです。たくさん買ってくださるお客様にはたくさん買っていただくお客様に対する接客をする。手のひらを返すというと悪い意味で使われますが、いい意味で手のひらを返すのです。私はいつも社員にこう言っています。「お得意様が来た時には手の平を返すのです。今まで、いつもお買上ありがとうございます、と言っていたら、それよりももっと丁寧な接客をするように。もし自分がそういうお客様の立場だったら、気分がいいでしょう。」
丁寧な接客をされて怒る人はいません。でも、その状況がわかる状況を作らないと、それはできないのです。真のお客様を知る、そしてお客様にマッチした情報を差し上げる、これが決め手です。
従来、私たちの業界はお客様が来てくれるのをひたすら待っているやり方でしたが、このようなシステムを使ってそのやり方から脱却を図り、レコードショップの新業態を開発したいと思っています。顧客データベースなどを活用し、インターネットでの情報発信、香川における音楽シーンのポータルサイトになりたいと思っています。e-メールのあるお客様との連携、CS(顧客満足度)の指針によるハイタッチで魅力的なデータなど。
片一方ではハイテク化を進め、IT化を進めていくわけですが、そうやってお客様を呼び込んで、お客様が来店された時には、お客様が本当に喜んでくださる楽しい店舗である工夫をもっともっとやっていかなければならないと思います。きっと楽しい音楽がある、そういう場でありたいと。

このページのトップへ