事例本文(池内タオル)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:23 池内タオル(株)   事例発表日:平成12年9月21日
事業内容:タオル製造
売上高:8億4000万円
1998年度
従業員数:32名 資本金:1000万円 設立:1953年2月
キーワード TIIP事業、タオル製造業、衣服・その他の繊維製品製造業、、
製造リードタイム短縮、地場産業、
QR、SCM、バーチャルファクトリ、情報共有
愛媛県内の中小企業における情報化戦略

池内タオル(株) URL:http://www.ikeuchitowel.com/


池内タオル(株)代表取締役社長 池内計司氏
プロフィール

 昭和46年一橋大学商学部卒業後、松下電器産業に入社。昭和58年、池内タオルに入社、同年、代表取締役社長に就任。四国タオル工業組合IT担当の副理事長としても活躍されている。

~繊維業界の成功例として知られるQR(クイックレスポンス)。よりいいものをより速く提供できる生産システムを構築~

 発注から納品までの時間を短縮する方法として、生産工程に関わる企業同士の情報共有を図って成功したのがQRである。今日でいうSCMと相違ない。日本屈指のタオルの生産地、今治における業界のIT担当者として池内社長が取り組んできたQRのドラマには、IT革命によってあらゆる業界に起きている従来の流れから新しい流れへの潮流が渦巻いている。


■アメリカの不景気時代に生まれたQRの発想
  これまで我々がQR(クイックレスポンス)としてきたものが、今ではSCM(サプライチェーンマネジメント)という難しい名前に変わってしまいましたが、全く同じことなのでQRとしてお話いたします。
  QRについては、糸偏の業界の方だったらよくわかると思います。1985年から1990年、アメリカは非常に景気が悪く、デパートがバタバタと倒産していきました。日本と違い、米国の繊維業界はデパートそのもので、デパート業界と繊維業界が何とか日本のような勢いを持たせたい、それにはどうしたらよいか、というので出てきたのがQRです。QRというのは、非常に日本的なお客様は神様だというベースと、アメリカで唯一元気のよかったコンビニの発想をうまくコンピュータ的に理論武装したものだと私は解釈しています。
  これが日本へ上陸したのが1995年頃です。当時、通産省が提案した繊維業界のQRの実証実験のソフト開発に対して予算をいただけるという話がありました。しかし、我々組合は手を上げなかったのです。なぜだ、と組合の幹部に噛み付いたら、それならお前がやれ、と言われてIT担当になっている次第です。私は、ITなんて最新のものでも何でもない、情報を共有して我々繊維業界自身が持っている生産から販売までの無駄を省いてコストを下げていこうと考えました。その過程で、お客さんの動向を探る、つまりお客さんが一番だという価値基準を持つことが大事なことです。そこで得られた情報を皆で共有し、利益を分かち合っていこうと考え、現在QRによって今治が生き抜いていく方法を模索している最中です。
  日本のタオルの約60%を今治で作っていますが、タオル業界もご多分にもれず輸入の荒波にもまれ、去年の実績で52%が輸入品、48%が国産品の割合。今年は62~63%が輸入品、国産は38%ぐらいです。先進国の中でも繊維の輸入規制のないのは日本だけです。いくら我々のようにQRでがんばっている産地でも、これだけ規制がなければ安い人件費の中国などからどんどん入ってきますので厳しい状況です。アメリカ、ヨーロッパ並の輸入規制を日本の繊維にもかけてくれるようお願いしているところです。今治のタオル産地において今は220社くらいありますが、このまま政府の輸入規制がなければ、3年後に60社になるだろうと予測されています。

■求む、QRに加わる今治のタオル業者、条件は「メールが使えること」のみ
  では、我々の取り組むQRについて説明します。
  日本の場合、タオルが完成するまでには代表的な商品で13工程くらいあります。元々が原糸であり、それが染められ、タオル工場で織られ、染色工場で再び後処理され、染色整理、縫製、刺繍......と進行し、これらの工程に全体で45日かかります。
  市場ではタオルは180日ぐらいの販売期間で売られています。180日間の販売期間の中45日くらいで作っていきますから、よほどうまくしないと期間発注はできません。基本的には見込み生産をして、売れた売れないの結果が出ることになります。
  この45日を分析すると、実際の工程に要する日数は15日です。残りの30日は何をしているかというと、工程の順番が来るのを待っているだけです。これは日本独特の、産地形態の物の作り方なのかもしれません。この待ち時間をせめて15日にして、工程に必要な15日と合わせても30日にしようと考えでQRがスタートしたのは3年前のことです。
  まず、QRという形で新しいソフトを組む時に、これからQRにより今治でタオルで生きていこうと思う人は集まってくれと呼びかけました。条件はただひとつ、電子メールが使えるということです。タオル会社はどこも小規模で、余計な人員がいないので、社長は営業責任者としても大忙しです。そういう人達を集めて情報共有の話をしようというのはなかなか難しいので、せめて途中の決めごとは電子メールで連絡していくことで効率化を図るためです。
  私がメールを高く評価しているのは、実際に自分の会社で使いこなしているからです。情報共有を外部に言う前にまず社内の情報共有、それにはメールシステム以上に勝るものはないと思います。当社でも皆忙しく、机についている人などほんの数人です。そこで起こった問題に対してこうしろ、と指示を出しても、その場にいた人にしか伝わらず、そのためにまたトラブルを起こすことの繰り返しでした。それが全部メールでやりとりを始めたら非常にスムーズに仕事が運ぶのです。私は社員からすると怖い社長らしいのですが、社員たちはメールだと顔を見なくていいので割とストレートに色々と言ってくれて、風通しもよくなりました。私の会社は平均年齢は45歳くらいで充分高齢化していますが、やろうと思えば使いこなせます。どうしてもメールができない人はFAXを使って情報を共有化しています。
  当社はメインの売り先を失ってしばらく経営が苦しい時期があり、明日の支払いに金がないという状態が続いていたのですが、その頃にメール上で会社の資金繰り表と個別原価表を全て見えるようにしました。すると、社員は今月これを売らないと自分の来月の給料がないとはっきりわかるので、必死で生産・営業をします。原価管理表を見て、利益のない会社からの注文は優先して作らなくなるからそこへの納期が延びて注文が来なくなっていく、利益のあるところの物は早く作るから注文がまた増えていく。そうやってどんどん取引先が変わっていきました。また、タオルはタオル問屋という専門の流通を通じてデパートなどに出ていきますが、当社は引き取り計画のない発注書は生産しないという方針を決めており、引き取り計画優先で取引先を決めています。大変残念なことに、この方針の結果、異業種との取引が大多数になってしまいました。こうした取り決めの中で、メールをフルに活用してきました。

■伝票の一本化&納期優先の生産工程のシステム
  ソフト開発のスタートにおいて、まず伝票の一本化に取り組みました。13工程もあるとものすごい伝票の数になります。例えば池内タオルは自分のところのコンピュータで発注を切る、それをもらったほうはその発注書では自分のところのコンピュータに入らないのでまた打ち換える、納品の時もまたその繰り返しという無駄なことが行われていました。やっていることの中身は同じで、品名と、入り、と出を書いているだけです。250社あったら250通りの伝票が出ていました。それを統一しようと、通産省の決めていたTIIPの中の規則に従って全ての伝票を作りました。
  タオルはタオル会社が注文を受け、販売しますから、発注を受けた段階でタオル会社の納期を優先した生産工程を組むようにしています。それを組んだら、何回もシミュレーションを行い、問題なしとなったら関連の企業に全部情報を流します。発注が来た段階でこの計画を組みますから、たとえば最終工程に近い縫製を受け持つ会社には、1ヵ月前に仕事の予定が入っているという具合です。加工を請け負う会社はそのために日程を決めて待っていても、予定通りに商品が入ってこないとまるまる仕事がなくなってしまう。そのために待ち時間の多いのが今までのやり方でした。万が一予定が遅れても遅れている状態が把握できるように組んだシステムです。
  この結果、当社の例でいいますと、リードタイムが28日くらいになりました。当社は1日の扱い高が300万円くらいの小さな規模ですが、ここで今まで45日かかっていたものが28日になった、つまり17日間縮まるとその間途中で寝ていた資金が浮くことになります。単純計算で5100万のキャッシュフロー的効果があり会社には非常に大きなメリットとなりました。私はQRをやる前は、QRというのは漢方薬のように効くだろうと思っていましたが、やった結果カンフル剤のように効きました。この生産工程を17日縮めたキャッシュフローで次の投資を行うこともできました。この発想でやれば、1日500万円のところでしたら7500万円、1千万のところだと1億5千万というお金が出てきます。中小企業の生産側で活かすには非常に価値のある経営手法だと思います。

■産地と販売店で情報を共有、店頭情報を活かして利益率をアップ
  次に、時代の変化に対応すべく産地だけでなく、デパートと情報を繋ぐ方法をやりましょうというのがSCMシステムです。これは去年、商品と取引先を限定して実証実験を行ったのですが、これこそサプライチェーンマネジメントそのものです。小売店側は我々生産側に対して店頭の売れた情報をリアルタイムに送ってくる。我々はそこを介している卸商に対して、発注を受けている生産状況をオープンにする。卸商はいちいち取引先の生産担当者を呼んで「今これどうなっている?」などと聞かなくてもコンピュータを繋げば画面上で、自分のところの商品がまだ糸を染めている段階なのか、最後の縫製段階なのかがわかる。卸商には必ず納期を書いた発注書を切ってくれるようにお願いしています。というのは、従来、タオル業界は納期のある発注書はありませんでした。注文し放題、売れたら引き取るという業界でした。それではとてもQRはできません。必ず引き取る、換金できるとわかってこそ我々作る側は最終計まで持っていけるのであって、引き取り計画がなければ半製品で在庫する方がはるかに製造コストが安いことになります。
  こうして店頭実験を行いました。店は伊勢丹。去年の秋冬で売ったDというブランドの商品においてです。だいたいタオルや繊維製品は、発売前にお得意さん、デパート、量販店に内覧会に来てもらい、その結果としての仮発注が出ることになっています。その時の手応えではブランドDの1も2も3もほぼ平均して売れるという発注状況でした。それに従って我々は生産にかかりました。たしか去年7月15日頃に市場に出しまして、その後、伊勢丹のデータをみると、D2が全然売れていない。D1とD3が売れているから辻褄は合っているのですが、これはまずい、と発売後1週間でD2の製造を止めました。その段階では糸染めは終わってもう織機の上にのっていましたが、ほぼ半分作ったところでストップしました。そして、そこで空いたキャパでD1とD3の穴埋め分を製造しました。
  結果として、総数はおおむね販売計画通りにこの商品は1億1千万円売れました。たぶん従来のやり方でいっていたら、D2が売れていないなと思っても、伊勢丹では売れなくてもきっと他店では売れると考えてズルズル製造を続けたでしょう。そうしてD1とD3は品切れになって売りたい時に商品はない、D2は売れ残り、たぶん9300万円くらいの売上で終わり、20%はダウンしていたと思います。店頭情報を共有し、売れないものを速やかに途中で生産ストップしたから販売計画は一応クリアできたのです。
  これがもし売れ残って不良在庫を抱えると、それが翌シーズンのコストとなって跳ね返ってきます。こういう無駄を除いていけば、我々がいいものを作っていっても確実に安くなっていくはずです。また当社の例で見ると、QRがコストを下げている裏付けとして、当社のメイン商品はQRをやって在庫はお互いにゼロに近い状態で消化してきていますので、ほぼ2年の間に工場出荷価格を15%下げることができています。

■ネットビジネスで得られる新たな手応え
  こうしたQRのポイントは、お互いに信頼できるかどうかということです。信頼できる相手にうまく巡り会えれば成功することでしょう。それには、会社の方針として打ち出さない限り相手とは巡り会えず良い関係が結べません。
  当社が引き取り計画のない会社とは一切取引はしないと明確化したように、はっきりした態度が重要です。
  この当社の体質も、メールによる社内の風通しのよさがもたらしたものだと思います。
  日本のお客さんは贅沢でわがままですから、管理コストがかかります。その管理コストを下げるには、コンピュータを活用すべきですが、在庫管理などをするよりも、メールで情報を管理するほうがよほど効果的だと私は確信しています。今、お客さんとの間で何が問題でどうなっているということを、社長や営業だけでなく、商品を検品するパートさんまで伝えることが会社をいちばんよくします。
  経験に基づく私の持論は、情報を共有すれば楽になる、メールを使えば楽になるということです。
  当社はメールを主流にして仕事をしていますから、よほどのことでない限り電話はあまり使いません。メールを活用しているからこそ仕事がはかどります。
  最近では、インターネットにもかなり時間を費やしていて、実際にWeb上に池内タオルのショップも出しています。具体的な実績はというと、売上が月10万円、それにかかる経費が担当者の工数とサイトを借りているので約30~40万円。これは、現状として、3千円の商品を買っていただくと、配送料で600円くらい、カード決済は怖いといって代引きにする方が多いからその手数料が500円くらい、つまり商品の代金以外に1100円のコストが上乗せされてお客様は4100円も支払わなければなりません。宅配業者も競争が激化しているので、コストダウンは見込めますが、今はまだ様子を見ているところです。
  しかし、ネット上で店を見て、池内タオルの考え方が気に入ったから取引をしたい、というお話はよくあります。話をしてみたいから出張の際に寄ってくれとか、今治に行くとか、申し出がくるのです。こうしたご縁で新たなビジネス、新たなお取引が始まることを考えればネット商売も十分ペイしていると考えています。

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