|
展望は厳しい。 しかし、「できる限りやってみよう」から始まった 「事」のきっかけは、経営系(税理士)ITCの佐伯が、 ![]() 自分で登録している「企業の公開入札案件紹介サイト」に 当該企業のコンサル公募が出ていたのを知り、 その案件への応募のため 岡田(情報系ITC:東海バネ工業(株)コンサルのパートナー)に 声をかけたところから始まる。 ただ、その時点で既に企業側の選考作業は始まっていて、 我々はかなり出遅れていた。 また、大手SI企業を含む十数社に事前ヒアリングを行い、 そこから提案の1次、2次プレゼンと進み、 最終プレゼンに残るのは3社程度という手順からみても、 ライバルが多く、かなり成約は厳しいのではという印象であった。 とはいえ、かりに失注しても、 それはそれで経験にはなるからできる限りのことはやってみよう ということで取り組みを始めたのである。 事前ヒアリングでの我々の主張は、 ・今回のシステム導入の目標はあくまでも業務を変えることでシステム導入は手段にすぎないこと ・ベンダー系のコンサルはシステム主体で、自分たちの開発に役立つような結論しか出ないことが多いこと をとうとうと述べ、 業務とシステムのバランスがとれた客観的な成果を期待するのであれば 中立的なITCを選択してはどうかと力説した。 その結果、まずは、提案を行うことが許され、 1次、2次と勝ち残り、とうとう最終プレゼンの3社に残ったのである。 ITCプロセスをベースに、個人のキャリアを生かした提案 提案対象は、「基幹系業務システムの再構築」であった。 現在運用しているシステムは陳腐化しており、 機能的に現状業務にそぐわない点が多いため補完作業が多く、 また、システムダウンがたびたび発生するという不安定な状態にあった。 ただ、企業としては、単なるシステムの入れ替えではなく、 これからの企業活動を支援できるような新しいシステムを構築したいという思いもあった。 しかし、社内だけでは現状業務もあるので時間がとれず、 また、新しい視点を盛り込むには外部ノウハウを活用することが有効ではということで、 コンサルを活用することとなったのである。 我々の提案は、ITCプロセスをベースにしながらも、 岡田がこれまで長年にわたり実施・蓄積してきた「業務設計のプロセス」を適用したものとした。 前半の経営的な部分では佐伯がコンサルを行うに際してITCのミッションである 経営とITをつなぐという点とプロジェクトを成功させるためのポイントを説明し、 後半の業務設計については、 岡田が東海バネ工業での成果物イメージを示しながら業務分析からシステム化までの 具体的なタスクとその進め方を説明した。 ![]() 決め手は、「価格」と「中立性」そして、「真摯な訴え」 競合相手には準大手のコンサル会社から まさに一流の大手ベンダーまで蒼々たる13社が参加しており、 その中で途中からコンペに参加した我々2名のITCが 最終的に成約を勝ち取るなどとは、いったい誰が予想したであろうか? 我々の強みのひとつは、 お互いに個人事業者であり余計なオーバヘッドがなく 一般のコンサル会社に比べて価格面で有利であったこと。 また、損を承知で低価格の提案を出して取りにきた大手ベンダーが、 我々の主張した「コンサルの中立性」という面で企業側に警戒され、 選考から落とされたという幸運があげられる。 そして、何よりも決め手となったのは、 我々二人がそれぞれの立場で、 「自分の持っている強みが今回の取り組みにどう役立つのか」 ということを真摯に訴え続けたことが企業の選考責任者の心を動かしたものと信じている。 成約の喜びに浸る間は無い。本当の戦いはこれから。。。 ただ、成約の喜びに浸る間もなく、 我々の提案に対する企業側からの熱い期待との格闘が始まった。 そう、提案が成功しただけでは意味がないのである。 いかに期待にこたえて新業務をまとめ、 かつ、調達からその後の業務運用までをうまく支援し、 まちがいなく成功に導くことの方がお互いにとってより重要であることは言うまでもない。 この成功事例の積み重ねこそが、我々ITCにとっては最強の営業ツールなのである。
|
ITCの草分けとして ITCが誕生する前から、「企業のIT化とは、経営に役立つ情報システムを経営者とともに築き上げていくものだ」という理念の下、活動していた川端氏。ITC制度の立ち上げと同時に早速資格を取得した。 川端氏が長年培った経験に新たにITC手法を武器に加え、最初に手がけた事例が「フジ矢」である。 (フジ矢事例:https://www.itc.or.jp/about/casestudy/management/management10.html) 「ITCプロセスをキチンと押さえながら、じっくり取り組みました」と語る川端氏。生産管理システムの構築から始まる基幹業務の再構築は、製造現場から営業など全社を巻き込んだ大経営改革となった。その結果は、「売上25%UP、在庫30%DOWN、コスト20%DOWN」という数字が示す通りである。 最適なコンサルテーションを提供するには? もう一つ、川端氏にはITCインストラクターの顔がある。既に彼がインストラクターを務めるケース研修受講生は300人にも上る。独立・自立を目指す人、ベンダー企業内で活躍する人など様々なバックグラウンドを持つ受講生を見てきた川端氏は、ITCを組織として活動させていく基盤として、ITC-Labo.を立ち上げた。 人の心理として、どうしても自分の得意分野にスポットをあてたコンサルテーションを行いがちになる。大切なことは顧客に「最適なコンサルテーションを提供すること」であり、そのためには、共通の考え方・手法を持つITCが互いにコラボレーションし、得手不得手を補完していく必要がある。メーリングリストを使用したバーチャルの場、OJTやレビューなど実務・スキルアップの場など、様々な形でITCをサポートする場を提供する組織、それがITC-Labo.なのである。 現在、ITC-Labo.には近畿を中心として、約100名のITCが参加している。川端氏は「ITCからもこのような組織が待ち望まれていたようですね。」と語る。ビジネスを実践する場というコンセプトで、ITC-Labo.では、BSC(バランススコアカード)の考え方にそって4つのワーキンググループをたちあげ、ITCに必要なツールの開発、サービス体系・料金体系の研究などを進めている。この活動は、独立系ITCとベンダー企業内ITCのコラボレーションによる新しい事例を作りつつある。 (武田事例:https://www.itc.or.jp/about/casestudy/management/management09.html) ![]() ITCも知名度の認知から「価値の認知」の段階に入ったと考えています。フジ矢の野崎社長が、「結果、財務体質が非常に良くなり、有利子負債も半減、自己資本比率を大きく向上できたので、新たな投資を今年以降でやっていこうと考えている。これも、ITコーディネータと出会い、経営戦略をベースにIT化を進めていったお蔭で、我々の力だけでは決してここまではできなかった。」と仰っています。こういうお言葉を励みに、ますます価値の高い仕事をご提供することによって、世の中にITCの値打ちを知っていただく一助になればと思っています。 ![]() 2005年2月に千葉テレビ,東京MXテレビ等で放送されたTV番組「発想の原点!」の映像(一部)です。
|
――これまで中小企業の経営改革、IT革命にITCの方々が少なからず貢献しています。しかし一方で、ITCの存在を知らない企業もまだまだ多数あります。そこでまず、どうすればITCに出会えるのか、皆さんがマッチングの機会をどう作っているかを教えてください。 ![]() 田中 私は、個人ベースで企業のIT支援を手がけることが多いのですが、これまでの出会いを振り返ると、異業種交流会、経営者研修、紹介、商工会議所の支援、金融機関との連携、成熟度診断などでした。その中で一番多いのは異業種交流会、次が金融機関との連携で、これで半数以上を占めています。 組織的な動きでは、東京・多摩地区のITコーディネータ多摩協議会で、マッチングの場を整えようと、経済産業省が進めているIT経営応援隊の核となる拠点作りに着手し始めました。 河野 中国地区は、経済産業局がIT支援に熱心なおかげもあって、自治体や銀行などと連携したマッチングが効果を上げています。 例えば、経済産業局が牽引役となって、地域の各種金融機関との連携に着手しました。 その過程で、広島銀行が独自にIT支援サービスを展開しようとしていることがわかったので、他に先駆けて広島銀行とITC組合の共同マッチング事業を2004年春からスタートしました。これは、同行の取引先企業からのIT支援依頼に対して、組合がITCをアサインし、商談がまとまったら〝三者契約〟を結び、組合が銀行に紹介手数料を払うという仕組みです。 水口 中部地区の特徴は、情報処理技術者育成のための研修機関である名古屋ソフトウェアセンターと密接に連携している点が一番に挙げられます。NPO法人のITC中部は、「NSC―ITCC」として同センターのコンサル事業の運営を支援する形になっています。ITCにとっては、認知度の高い同センターのブランドを利用することでマッチングの機会を多く作れます。 企業とのマッチングについては、やはり金融機関との連携――当地区では中小企業金融公庫との連携で大きな成果を上げています。 コスト負担に必ず応える質の高さを維持できるか ――企業とのつながりが深い金融機関などとの連携がマッチングに高い効果を上げているということですね。では、「ITCは何をしてくれるのか」「コストはどのくらいかかるのか」といった、企業にとって一番気になる点についてはいかがですか。 ![]() 田中 名称に「IT」と付いていますが、実際には経営面のコンサルティングから入ることが多く、そこからシステム導入・運用まで幅広くサポートしています。 水口 中部地区では、コンサルティングと合わせて、幹部研修や経営者研修も提供しています。研修機関と連携している強みの1つですね。 田中 費用面では、ITC個人が企業と契約する場合で、1回の訪問につき10万円が一般的です。ただ、中小企業がコンサルティング料という名目でぱっと払えるかというと、厳しいところでもありますね。 河野 実は、あるNPO団体と金融機関との提携で取り入れられた手法は、「一回目のヒアリングは無料にして、二回目からは公的なアドバイザー制度などを使えるかどうかも検討して話を進める」というものです。これは、企業側のコスト負担に配慮したこともありますが、もう1つ、ITC個々のスキル差から〝一律いくら〟と決めにくい面もあったからです。 水口 逆に「無料だったら来なくて結構」という社長もいます。つまり、ITCに質の高さを求めているということです。また、具体的な支援内容によって〝総額いくら〟という形で契約を結ぶことも結構あります。こうした例からすると、企業側も「経営改革やIT活用を実現するためにはコストがかかる」ことを認識しているわけですから、ITCとしては対価に見合った効果をきちんと提供しなければなりません。 優れたITCは社長とコミュニケーションできる ――「ITC個々のスキル差」という話がありましたが、ITCに求められる要件は何だとお考えですか。 ![]() 田中 私は、実際のビジネスで必要な知識やスキルもさることながら、もっと基本的な部分の〝コミュニケーション力〟が非常に重要だと思っています。社長というのは個性の強い方が多いですからね。 河野 相談内容にしても「とにかく革新してほしい」「とにかく任せる」といったようなことが結構ありますよね。しかし、これに対してITCプロセスの説明から入ってしまうと、すれ違いが生まれてしまいます。社長も自社の課題を感じていて相談してきているわけですから、その気持ちを汲み取らなければだめです。 水口 ITC自身が、〝商売〟というものを知ることも大事です。業務知識ではなく、〝社長業の感覚〟です。これを養うには経験を積むしかないのですが、中小企業を経営する感覚が分かってくると、突飛な質問や相談でも受けとめやすくなり、それに対する提案にも同意を得やすくなります。 ――すると、いかに実践経験を積むか、どうスキルアップを図るかといった仕組み作りも重要ですね。 水口 そうですね。NSC―ITCCでは1つの施策として、コンサルティングの経験がないITC向けに「インターン制度」を設けました。また、コンサルティングなどの業務フォーマットを蓄積し、会員で共有化することも進めています。 田中 インターンの仕組みは、私も個人的に行っています。若い人に場慣れしてもらいたいと思い、ITC多摩協議会のメーリングリストを使って、個々の案件ごとに一緒に仕事をしてくれる「サブ」「インターン」を募集しています。 河野 中国地域では「アドバイザリー委員会」という組織を組合の中に作りました。新人ITCが、ひとまず企業を訪問して話を聞いてきたら、委員会で全面的にバックアップするという仕組みです。 実践力に理論を加えれば企業の真の力を高められる ――今後、ITCの活動を地域に広げていくうえでポイントになりそうなことは何ですか。 水口 ベンダーやSI業者との連携が、ITCの仕事において1つのポイントになっていくとみています。 ITシステムを導入する場合、一番最初のシステム要件定義に結構お金がかかっていますが、このコストは、導入企業側のITレベルによって左右されます。ですから、ITCがきちんとコンサルティングして支援すれば、システム導入コストは安くなるはずなんです。ITCのコンサルティング費用を合算しても、トータルの導入コストを抑えられれば、お客さんにとっても非常に大きなメリットになります。5000万円かかるシステムを4000万円にできるなら、トータルのコンサル料が500万円だとしても高くないはずです。 こうしたやり方は、経営面の分析が得意ではないベンダーやSI会社の負荷を軽減することにもなります。実際、この点に気付いて「コンサルティングに入ってほしい」と依頼してくるベンダーもあります。 田中 私もベンダーと組んで仕事をする機会がありますが、「非常に助かる」と喜ばれますね。ただ、ITCには〝中立性〟が求められているという面もあるので、その点は気を付けています。 ――最後に、中小企業経営者の方々へ、ITCを有効活用するための提案、意見をいただけますか。 田中 私が言うのもおこがましいですが、ITによる経営革新の前に〝経営の基本〟、今の時代に必要な経営の基本を勉強していただきたいと思っています。かつての良い時代の経営は通用しなくなっています。きちんと計数管理をしなければ、今の時代は乗り切れません。これを理解してもらえれば、「だからITが必要なのか」と気付くはずです。 河野 私は、「実践なき理論は空虚である。理論なき実践は無謀である」という言葉を名刺に刷り込んでいます。企業を経営されている方は、すばらしい実践力を持っていると思います。ここにITCが提供する理論を加えれば、無謀でも空虚でもない企業としての真の力が向上するということです。 水口 実は、私は以前、ITベンチャーの社長でした。その後、ITCのケース研修を受けたのですが、「こんなマネジメントの仕組みがあるのか。今まで誰も教えてくれなかったじゃないか」と正直びっくりしました。そして、「これは皆に教えてあげなきゃいけない」と心底思い、結局ITCを本業にしてしまいました。そのくらい、この仕組みは本当にいい。元中小企業の経営者が言うのですから間違いありません。 |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
連載 ITコーディネータ活用記 <実録 京都府矢代仁の経営改革>
上品な風情を醸し出す「御召」は、京都はもちろん、着物を愛する人々の「程合いの良いおしゃれ着」として重宝されている織物だ。京都府京都市の矢代仁は、この御召を主力商品に据える享保5(1720)年創業の伝統ある呉服メーカー問屋である。 戦後、人々の服装は洋装化へと加速する。同社もその流れを受け一時は多角化を図り、洋装品も取り扱った。しかし、「私どもの強みはやはり呉服。2000年ころからは再び御召と染物の和装品に事業を集中するようにしました」と矢代仁の矢代一社長は説明する。最近になって、「和」が見直されていることも追い風になっているという。 スリム化の先の経営改革をどうするか
相談相手との出会い、そして決意 困惑したままオフコンの保守契約が切れる時期を迎えた矢代社長は、顧問契約を結んでいるひかり税理士法人の間宮達二氏に相談を持ちかけた。税の専門家であるとともにITコーディネータとしての顔も持つ間宮氏は、同法人主催・NPO法人ITC―METRO運営の経営者研修会へ参加を勧める。 2005年7月に開催されたこの研修会は、「予想と違ってITの講義ではなく、自社の問題点を見つけ、参加者のアドバイスを受けるという有意義なものだった」。矢代社長はすでに研修の途中で、ITコーディネータ(ITC)の活用を決意したそうだ。 一方、インストラクターを務めたITCの小形茂氏は「矢代社長の熱心さはひしひしと伝わってきた、是非経営改革のお手伝いをさせていただきたいと感じた」と言う。 こうして両者の波長は合致。来年3月までのシステム発注を目指し、第一ステップである現状分析に着手した。
|
![]() ![]() |
![]() ![]() |
連載 ITコーディネータ活用記 <実録 京都室町・矢代仁の経営改革>
矢代仁様とは、顧問契約させていただいている、ひかり税理士法人の担当者としての出会いでした。まず、経理事務の効率化を目指し業務の見直しと会計システムの入れ替えに着手することになりました。1年後には、経理業務の人的な集中化と時間短縮に加え、今まで会社部門別にしか把握できていなかった損益が営業担当者別まで把握可能になり、社長の要望を達成することができました。 しかし、この取り組みは経理部としての部分最適に過ぎず、経営課題に対処していくためには営業部も含めた会社全体の最適化を図る必要性を感じざるをえませんでした。 会社のビジョン策定へ 経営者研修会を紹介 そこで会社全体の最適化を図るべく、ITCプロセスを実体験できる経営者研修会に社長をお誘いしました。 異業種の参加者で意見交換する少人数セミナーで最初は戸惑いも見受けられましたが、社長は経営改革への高い意識をお持ちで、その研修内容を徐々に自分のものとされました。経営課題として「在庫管理と売れ筋商品の品揃え」「老舗ブランドの活用」の問題を抽出されましたが、これは 現状のシステムへの不満の表れであると私は感じました。現状のシステムでは省力化は達成されているものの在庫管理に関しては不十分で、必要な時に必要な情報を取り出すことができる「コックピット経営」にはまだ少し距離があったからです。 伝統技術を守る老舗として 業界活性化を視野に 加えて矢代社長は今の呉服業界の低迷と後継者難による伝統技術衰退に憂慮されていました。それは業界全体、また老舗の責任と受けとめ、日本文化を継承させていくことが矢代仁の使命であると感じておられたからです。そのため、ITを活用した業界及び企業間の連携強化による業界活性化の可能性の打診を受けました。 私達は驚きとともに深い感銘を受け、この熱き思いを実現すべくIT戦略を生かした「共業事業体の形成」、さらには室町復興の「街づくり」「店づくり」など営業戦略をも含めた「経営改革」のお手伝いをさせていただくことになりました。 社長のお考えを基礎として社員の皆様にもアイディアをいただきながら重要経営課題を抽出しアクションプランも含めた経営戦略の策定を終えました。まとめた中期経営戦略企画書は、株主、金融機関等ステークホルダーへ報告し高い評価を受けております。 現在は詳細な業務プロセス分析から会社全体の最適化を図りながらIT戦略の策定を進め3月のRFP(システム提案依頼書)発行に向け大詰めを迎えているところです。 また並行して矢代仁の将来を担う若手社員とともにITの力を発揮させる次世代営業戦略の策定にも取り掛かっております。 (ITC―METRO京都 間宮達二)
|
![]() ![]() |
![]() ![]() |
連載 ITコーディネータ活用記 <実録 京都室町・矢代仁の経営改革>
経営を分析するにあたり、まず呉服業界の経営環境を把握するところより始めました。 呉服業界の市場規模は1970年代初頭を境に落ち込み現在はピーク時の5%程度にまで減少しています。この数字はまさに呉服という日本の伝統産業が危機的状況に陥っていることを如実に表しています。 その原因を考察してみますと、呉服業界は消費者の嗜好がカジュアル化していくなか高級高額品志向の冠婚葬祭、成人式に代表される式典行事向けのフォーマルシーンに焦点を絞った商品戦略に特化してきました。その結果、展示会販売など業界内での競争も激化し消費者への視点を軽視してきたことで、消費者の生活の中から着物を着るシーンが少なくなっていきました。 新規顧客を創出する努力をせず、既存顧客市場の業界内での奪い合いになってしまったのです。呉服業界の委託販売慣習が経営状況の悪化に拍車をかけた そのことに合わせて、低迷の原因を呉服業界の異常な流通在庫量に見ることができます。市場の最盛期でも呉服業界の流通在庫は、エンドユーザーの消費量の3倍はあったといわれています。その在庫の負担は流通過程で均等に負担されておらず、製造元、卸、販売先という通常の流れのなかで卸問屋と言われる問屋がすべての流通在庫を負担してきました。 これは呉服業界の取引の慣習である委託販売に起因しています。業界大手の財務分析を行う限り、いまだこの滞留する過大流通在庫を克服するには至っていません。緻密なSWOT分析が社長と社員の心をひとつにする このような業界特性を前提とし、矢代仁様における環境分析を全社レベルでのSWOT分析にて行いました。これにより在庫の問題が抽出されるであろうこと、そして矢代仁様個別の問題ではなく呉服業界として長年抱える問題ですから容易に克服できる課題ではないと仮説を立てました。 実際の結果を見てみますと、社長のトップマネジメントによるSWOT分析では「着物離れ」と「在庫過多」の問題をしっかりと捉えておられました。そして社員によるSWOT分析結果は同じ結果が出たのに加え、経営改革のメッセージとも言える内容もいただきました。いわば、社員から会社への、改革へ向けた熱いメッセージがSWOT分析の中に要望として発露しました。SWOT分析のまとめを通じてこの会社は変われること、そして在庫過多の問題などの経営課題についても会社全体で乗り越えていけることを確信しました。 在庫圧縮の施策にはバランススコアカードの視点も取り入れました。学習と成長の視点では「社員スタッフ知識強化と人材育成」と「基幹システムの再構築」から内部プロセスの視点へつなげ「在庫管理強化による売れ筋商品の品揃え戦略の確立」と「製品加工連携事業体の形成」の実行を重要成功要因として設定しました。 現在は、基幹システム再構築のためのRFPの作成と並行し在庫圧縮に向けた経営改革も矢代仁様とともに進めております。 (ITC―METRO京都 間宮達二) ◆SWOT分析とは 企業の内部・外部の環境を分析するための手法。内部環境として自社の強み(strength)、弱み(weakness)、外部環境については自社を取り巻く機会(opportunity)、脅威(threat)という4つの側面から分析する。
|
![]() ![]() |
![]() ![]() |
連載 ITコーディネータ活用記 <実録 京都室町・矢代仁の経営改革>
SWOT分析をもとに中期経営計画をまとめた矢代仁のオフィスには、今後の経営方針を記したポスターが貼り出された。この中に3つの「重要な経営課題」が掲げられている。 一.280年の老舗の本業、御召特化による《矢代仁ブランド》の復興 二.従業員の学習と成長による店舗での営業支援強化、コンサルティングの充実 三.在庫管理強化と、マーケットイン指向による売筋商品の品揃え戦略 そして、これらの課題を解決するための具体的な施策も動き出した。 例えば、ブランド力向上のために、年2回開催する新作発表会に合わせ、御召製作現場の見学などの勉強会を昨年から実施している。 また、従業員の学習・成長に関する施策として、業務報告書の作成・提出を実施した。業務上の課題や意見なども記述し、これに上司や幹部がコメントを返すようにしたことで、意識共有・情報共有、コミュニケーションの円滑化が実現できた。 在庫管理の体制見直しで 1割以上のコスト削減 3番目の課題については、ITの活用を主軸に、解決策の策定・実施が進められている。 すでに、従来の資産を生かした一品ごとの在庫管理が可能なシステムの運用とともに、昨年から社内の在庫管理・出荷体制を変更し、一定の成果を上げている。 「以前は京都本店と東京店でそれぞれお客様の嗜好に合わせた在庫を持っていましたが、新作商品を中心に京都店で一元管理するようにしました」と、矢代一社長は説明する。これにより、在庫商品の回転率が2倍程度に向上しただけでなく、重複在庫の減少で1割以上のコスト削減につながった。 新システム導入のプレゼンで ITCの存在価値を改めて実感 とはいえ現状では、まだ「マーケットイン指向による売筋商品の品揃え」に役立つシステムには至っていない。矢代社長は、「集計データから売れ筋の傾向を分析し、今後の商品計画・販売計画を立てられるようにしたいのです」と話す。 そこで、この希望を叶える販売管理システム構築のためのRFP(システム提案依頼書)を2006年3月にまとめ、複数ベンダーに提示。その中の3社から提案を受けた。 そのプレゼンには6名の従業員にも出席してもらい、社内評価を集めた。こうしてベンダー選定を終え、8月からの運用開始に向けたシステム構築が開始された。 実はベンダー選定時に、岡本取締役は大きな〝驚き?を体験した。3社の見積り金額の上下で数倍の差があったのだ。しかも、RFPに回答するのではなく、自らのシステムの説明に終始するベンダーもあった。「ITの知識に乏しいこともあって、これまで『それがベストなんだろう』と疑うことなく受け入れていました。IT導入の難しさとともに、ITCに相談して本当によかったと改めて実感しました」と、岡本取締役はしみじみと語っている。
|
![]() ![]() |
![]() ![]() |
連載 ITコーディネータ活用記 <実録 京都室町・矢代仁の経営改革>
今後の経営方針の1つとして盛り込んだ「在庫管理強化と、マーケットイン指向による売れ筋商品の品揃え」を実現すべく、矢代仁ではITの活用を主軸とした具体的な展開が進められてきた。 その取り組みは、従来からの資産を生かした在庫管理システムの運用に続いて、販売管理システムの構築へとつながった。 担当ITCの一人であるひかり税理士法人の間宮達二氏によれば、従来のシステムでは「どこにどのような商品があるか分からない」 「社員個々にどのくらいの利益を上げているのか分からない」といった状況だったため、まずは1年ほどをかけて、個人別の売上高や経費、利益率などの統計的なデータが取れる仕組みを作り上げた。そして次のステップで、商品別の統計に基づく売れ筋分析を実現する仕組み 作りが行われた。 「個々の商品に関する在庫情報と販売データを連携させることによって、どのような商品が売れているのか、販売単価はどう推移しているのかといったマーケットの傾向を掴むことができます。しかも、それらの情報を現場だけでなく経営陣もタイムリーに見ることができれば、スピーディな判断と対策が可能になります」と、間宮氏はいう。試験期間中の棚卸し作業で早くも予想以上の成果 販売管理システムの構築については、前回レポートしたように、今年3月にRFP(システム提案依頼書)をまとめ、ベンダー3社の提案を評価・選定した。また、見積り金額の格差に対する矢代仁の驚きも紹介した。 実は、ITの専門家である間宮氏も、ベンダー側の提案にある種の違和感を覚えていた。 「RFPの内容からすると、『本当に必要なのか』と思うような仕様が散見されました。本来なら数多くの組み合わせの中から最適な選択肢を提示すべきなのに、明らかに無駄な投資を勧めていたのです」。 しかし一方で、非常に喜ばしいこともあった。ベンダー側のプレゼンには矢代仁の役員に加え従業員6名も出席し、各社の提案内容をスコア評価したのだが、最も高スコアをつけたベンダーが出席者全員で一致し、最終決定を下すことができたというのだ。 こうして、5月下旬にはプロジェクトチームを発足。システム導入のスケジューリング、旧システムからのデータ移行の準備、新システムのハードウェア発注、一部のカスタマイズを含めた搭載機能の最終決定と設定作業等々を、短期間のうちに慌しくこなしていった。 7月上旬には、旧システムと並行する形で試験運用が開始された。間宮氏によれば、同月末の棚卸しでは、当初の予測時間の半分で作業を完了できたという。 予想以上の効果をもたらした新システムは、8月1日から本格稼働へと移行。その後の日次処理でも目立ったトラブルはなく、矢代仁の業務で活躍している。
|
![]() ![]() |
![]() ![]() |
連載 ITコーディネータ活用記 <実録 京都室町・矢代仁の経営改革>
マーケットイン志向による売れ筋品揃えの実現へ、矢代仁様では新たな販売管理システムの構築が始まりました。 社内のプロジェクトチームが立ち上がったのは2006年5月。メンバーは、本社各部より1名ずつ参画し、総務課長が情報担当責任者となり編成されました。 目指すはデータの戦略的活用余分なコストは発生させない 本システムはオフコンによる専用システムから、オープン系のパッケージソフトへ変更し、システムデータを戦略的に活用することが目的です。したがって、構築自体への工数はできるだけ減らし、無用なカスタマイズは行わず、コード体系・マスタデータ体系はパラメータの変更にて対応するようしました。 一方、ランニングコストにも配慮しました。例えば帳票類の設定では、専用紙に出力するとそのためにムダな経費が発生します。 そこで複写式の専用紙に印刷していた請求書・納品書などの証憑類はすべて白紙用紙に枠線を含めて出力する方法を選択し、コストを削減しました。 並行して進めたハードウェアの選択においては、ハードウェアは消耗品であるとして必要最低限の機能を選定し、矢代仁様自らが汗をかいて探された結果、イニシャルコストを抑えることができました。 管理会計データがタイムリーに内部統制強化にも着手 6月からは、8月の本格稼働に向け、細部の検討に入りました。 まず、6月の下旬には、バーコードのスタイル決定など行うとともに、会社にとって必須であるが実装されていない機能については、カスタマイズによる対応を行いました。 そして7月上旬には、システムの準備稼働です。商品の動きの少ない時期を選んだものの、二重稼働させる期間が約1ヶ月間に渡り、現場には負荷がかかりました。しかし、新システムによって棚卸の所要時間が予の半分となり、メリットを皆で実感することができました。当初のシステム導入の目的を達成するために必要と判断した項目に絞り依頼したカスタマイズ部分も完成、第一段階のシステム導入を終えました。 その他の留意点については、プロジェクトチームがまとめたシステム改善要望に関してシステム対応すべきなのか、社内の業務プロセスを見直すべきなのか、システムに対する習熟度レベルに照らし検討を行いました。こうした積み重ねで本稼働後の経過は順調です。 10月からは新システムの運用に併せた業務プロセス改革とバランススコアカードの導入をスタートさせました。現在では今まで手作業にて集計していた管理会計資料もExcel上にてシステムと連動し必要な情報がタイムリーに経営幹部に届けられるようになりました。 さらに、内部統制強化に対応すべく準備を行っていた外注先管理機能追加システムの導入準備を進めています。 (ITC―METRO京都 小形茂、間宮達二) バランススコアカードとは 「財務的視点」、「顧客の視点」、「内部業務プロセスの視点」、「学習と成長の視点」、という4つの視点から業績評価基準を設定することにより、経営全般のバランスを監視しながら企業革新を推進する経営管理手法。
|
![]() ![]() |
![]() ![]() |
連載 ITコーディネータ活用記 <実録 京都室町・矢代仁の経営改革>
2006年11月決算期までに無事システム導入を終え、2007年度がスタートしています。目標とするIT活用の効果は、在庫管理強化、売れ筋商品の品揃え及び企画提案営業の強化です。この間に売上管理を販売員ごとから販売催事ごとの売上予実管理に変更し、すでに売上アップが見えてきています。 今回は、ITの効果を活用して「あるべき姿」を実現させる矢代仁の挑戦と、内部統制強化に向けた第二次のIT化計画をご報告します。製造問屋の原点を見つめ高級品販売に挑戦 矢代仁は春の催事を「2007矢代仁コレクション.自然の美と匠の調和.」と銘打ち、富裕層のニーズに応える仕掛けを行いました。従来の商品構成から数倍に当たる百万円前後の高級商品を投入することを決定。市場が冷え込んでいる呉服業界で、その挑戦的な動きは、日経流通新聞の1面に掲載され「型破り」と話題を呼んでいます。高級商品である伝統技術を使った自社企画高級品を、なぜ復活させたのでしょうか。 矢代仁が抱えていた在庫過多の原因を整理すると、買取商品を増やすことで価値のある委託商品を預かるという構造ができており、結果的に在庫増加を招いていました。そこから脱却するため委託商品を増やしたものの、売れ筋でない商品では売上が確保できない悪循環が起きただけでした。 そこで気付いたのは、矢代仁の本来の姿は「製造問屋」であり、その伝統と技術が失われる方向に進んでいたという事実と反省でした。 矢代仁では、導入したITをフル活用し、280年の伝統技術を生かす自社企画高級品の開発を目指した「トレサビリティ型」企画提案営業戦略へと方針を転換しました。原糸となる絹の生産地から、糸染、誰が織ったかなど工程を説明できることで、富裕層のお客様に満足していただけるようにしたのです。 その結果、お客様の求めている売れ筋であり粗利も確保できる高級商品への展開が可能となったのです。 新商品開発においては、社員が原産地や機場への研修旅行に参加するなど、全社員一丸となっています。我々ITコーディネータも春の催事開催プロジェクトメンバーと一丸となり、企画から支援させていただきました。 春の催事は大成功のもとに終了し、全国の百貨店から引き合いがあります。秋には業界を巻き込んだ「室町祭」として拡大展開する構想です。 ITがもたらした営業方法や管理方法の転換効果と全社一丸となった取り組みのシナジー効果で、若手社員の目の色も変わってきました。 ○第二次のIT化は加工管理機能のシステム化 企画催事と並行し、内部統制システム基本方針を発表しています。これを受け第二次のIT化として、お客様から商品を預かり家紋を入れるなどの加工業務管理に、お客様最優先の管理強化システム導入を計画中です。すべての自社商品・預かり商品をシステム上でトレースできるようになるだけでなく、納期別加工状況などの問い合わせが可能となり、納期の確実性も向上、顧客満足度の向上が期待されます。 (ITC―METRO京都 小形茂、間宮達二)
|
![]() ![]() |
![]() ![]() |
連載 ITコーディネータ活用記 <実録 京都室町・矢代仁の経営改革>
経営者研修会に参加された矢代社長の思いを実現すべく、ITコーディネータとして支援を始め、早2年。 社是である「慎んで祖業を墜すことなかれ」の原点に帰り、差別化戦略による毎期5%売上増の必達、そして物流改革による在庫圧縮を実現し安定成長企業を目指しました。 "墜すことなかれ"とは祖業に全精力を集中し、研究を怠らず、ただ一筋に進むという意味だけでなく、製造している商品の品格を落とさないことが信用を保つという重要性を説いています。 「社長の思い」を礎として、従業員アンケートによる「社員の改革への決意」も加え、改革へのロードマップを「経営戦略企画書」としてまとめました。企画書のアクションプランに基づき会社は変革へと動き始めます。 ○在庫と販売に着目したアクションプラン 作成された主なアクションプランを次に挙げます。 ①在庫管理強化による売れ筋商品の品揃え戦略を支援するため、現行のオフコンからオープンタイプの販売管理システムへの移行と活用 ②会計システム変更による得意先ごと・担当者ごとの利益の把握(管理会計導入) ③業務の一元管理、シンプルな業務体系を目的とした業務改善 ④部門および社員毎の目標管理(バランススコアカード導入) ⑤催事ベースの営業管理による売上目標の徹底、適切な対応施策の実施、タイムリー性改善。さらには継続的な営業研修実施によるスキルアップ また、IT化の第2ステージである「お客様の預かり商品加工管理システム」については、8月稼働予定としております。この第二次のシステム導入においても要求事項を整理し、会社が必要とする最低限の機能についてITベンダーに開発を依頼しました。当初の提案内容から余分な部分をそぎ落とし、「身の丈サイズ」のシステム導入により、早く安価なシステム導入を実現しています。意識改革、そして結果もついてきた 改革から約2年、各アクションプランを着実に実施することで、徐々に社員の意識改革も進んでいきました。すでに2007年の半期決算で、財務諸表の数字にも改革の結果が表れ始めました。一時期少し停滞気味であった業況も、ITを足がかりに、今や完全に停滞期を脱し安定成長企業へと変貌しようとしています。 しかし、呉服業界は、長年流通段階の在庫量が過剰であるという問題を抱えています。製造から卸、各流通段階への企業間の枠を超えて滞留する過大な在庫を効率的にコントロールするという課題が残されています。その原因はもちろん売れ筋商品の把握などマーケティング不足が挙げられますが、根底には「EDIの標準化」が遅れており、戦略的なIT化の足かせともなっているのが業界としての課題です。 現在、矢代仁様が呉服業界のリーダーとして『室町(呉服業界)維新』を起こすべく、EDI化などの業界内での勉強会の準備を進めています。 業界の流通改革を足がかりとし、呉服文化継承に向けた業界活性化も視野に、秋へ向けIT経営推進の勢いは止まりません。 (ITC―METRO京都小形茂、間宮達二)
|
![]() ![]() |
![]() ![]() |
――まずは皆さんのお立場と、企業経営者との接点をどう作られているのかをお聞かせください。 川端 大阪で運営しているITコーディネータの組織「ITC―Labo」を、一昨年LLPとし、質の高いサービスの提供に努めています。 最近はIT経営応援隊事業の経営者研修会や中小企業金融公庫と連携した研修会などで経営戦略立案をサポートし、 その後、個別契約を結んでIT導入までお手伝いするケースが増えています。 野村 私は5月に独立したばかりです。サービス品質を担保できる組織としてLLPの形態を選びました。 前はITベンダーに勤務し金融機関のシステムに携わっていました。金融機関の皆様に、 その先のお客様である企業の経営改革を支援するスキームを提供するべく、ITコーディネータやIT経営応援隊活動などをご紹介し、 運営のお手伝いなどを通じてバックアップしてきました。 佐々木 私は札幌のITベンダーに勤務し、お客様企業にコンサルティングサービスを提供していました。 今年5月からはITコーディネータとしての立場をより明確にし、多様な相談に応じられるよう、新しい組織を立ち上げました。 現在は9社のITベンダーからITコーディネータが参加しており、中小企業や各種公的機関からの相談、紹介の受付窓口機能を果たしていく予定です。 ――経営者の方にITコーディネータの価値を認めてもらった、と感じるのはどのような場面ですか。 ![]() 佐々木 社長がITコーディネータの存在をうまく使い分けられていると、「パートナーとして見てくださっているのかな」と感じますね。 あるときは社長と若い世代の間を埋める社員としての役割。また別の場面では第三者として社員の方々に改革の必要性を説明する役割であったり。 その時々の「顔」を求められるのは、具体的な利用価値を見出してくださっている証しだと思います。 川端 一番喜ばれるのは経営者の頭の中をコーディネートすることです。 ――「頭の中を」とは? 川端 経営課題や経営者として取り組む最優先課題は何かを整理することですね。話を進めるにつれ、ご自身の中で目標が明確になってきます。 そうなると次は組織内のコーディネート。そして社内がまとまったところで企業とITベンダーとの橋渡しをします。テクニックノウハウ、他業界の知識、理論を持つ外部の人間が入ることで、客観的に整理ができて一本の方向に向かっていく。これがまず大事なところです。 野村 私の場合は、IT活用で企業が満足し、それを見て金融機関が満足するという二段階です。金融機関の方には、IT活用推進という新しいサービスメニューを持つことにまず喜んでいただきました。具体的には千葉地区をメインにスタートし、千葉銀行や中小企業金融公庫千葉支店と千葉県の関係を作り、公的資金も使ってセミナーや研修会を開催しました。 経営者の方々も金融機関の紹介なので入りやすいようです。 ITコーディネータへの評価という点では、やはり川端さんがおっしゃった頭の中が整理されることで目からうろこが落ちた、とか、ITコーディネータが共通で身につけている手法「ITCプロセス」への信頼などでしょうか。 ――経営者の方々は「ITコーディネータ」というポジションをどの程度認知してくださっているのでしょうか。 ![]() 佐々木 「ITコーディネータを探しています」という形で連絡が入ることはありませんね。むしろ講演などで資格の内容や仕事の実績を話し、後でお問い合せをいただくことの方が多い。名称に「IT」とついているので、ITのことしかしないのでは、という誤解も少々ありますね。 川端 私もITコーディネータという名前で入ることはないですね。ある会社では、社員の方々に「ITのわかる経営コンサルタント」と説明してもらっています。 例えば経営者研修会では、経営課題が整理できた会社に対し経営戦略を実現するためのITの役割とITコーディネータのポジションを説明しますが、 そこで初めて内容をわかってくださる方もいます。 講演などでITコーディネータの話をすると、必ずといって良いほど「もっと早く知っていればITで失敗しなかったのに」とおっしゃる経営者に出会います。 名称の認知度はともかく、必要性はご理解いただけると思います。 野村 私が参加している千葉県におけるIT経営応援隊活動は昨年度まで「千葉県経営応援隊」と名づけていました。 これにはITをメインに見せないで裾野を広げようという意図があります。お客様に資格の説明をするときは、「ITコーディネータというのはIT経営コーディネータです」と経営の部分を強調するように心がけています。 ――利用する企業側は費用が気になるところです。公的支援制度を使う段階は別として、個別契約の場合、金額の設定はどうなっているのでしょうか。 ![]() 野村 税理士など他の"士業"と比べると相場感はわかりにくいかもしれません。私たちの場合は、1日10万円が一つの基準ですね。 川端 ITC―Laboでは2人・半日で20万円の設定です。 国が費用を出してくれる無料の研修会で経営戦略立案までを行った場合は、終了時にアクションプランや到達目標を示し、民―民で契約をして取り組みを続けるかどうかの判断を仰ぎます。設備投資と同じで経営の品質を上げるための投資が必要なことは皆さんわかっていらっしゃる。 今までに、企業側がやる気になり我々も熱意を持って応援したいと感じたケースで、費用が原因で頓挫したということはありません。 佐々木 もちろん公的な派遣制度を使うのも良いし、一部分だけ依頼してみるなど、パターンはいろいろあります。気軽に声をかけていただければと思います。 それとコンサルティングの場合は相性も大事ですから、もし合わなければ遠慮なく変えていただいてかまわないと思います。 ――信頼を得るために気をつけている点はありますか。 川端 経営者の方が身を乗り出してくださる一言を言えるかどうかは大きいですね。私は初期の段階で「この会社の真の課題はこれではないか」と仮説を立て、経営者の方とお話していきます。それがだんだん経営課題の核心としてクリアになってくると、本気になっていただける。 佐々木 ベンダーさんの言いなりになってシステムを入れ換えてしまった企業の方に「システムを作るのが目的ではない。 経営課題の解決に使うのだから一部を入れ替えるだけでも、もしかしたら古いシステムを手書きで補ってもいいかもしれない。 大事なのは何をしたいかです」とお話したら、「そうなんだよ。でもそういうこと、誰も言ってくれないんだよね」と言われました。徹底して企業の立場に立ち、その企業にとって適切な手段を考える姿勢は大切ですね。 野村 ベンダーに関していえば、ITコーディネータとITベンダーは共存できる関係だと思います。 経営戦略が立ち、納得してIT導入を図っていく企業であればベンダーの苦労も少なくなります。ユーザー側でITを使う目的が明確でないと使いこなせず、成果も出にくいですからね。ITベンダーにとっても役立つ存在でありたいと思います。 ――最後に、ITコーディネータの力を活かせる経営者とはどんな方でしょうか。 佐々木 過去の失敗も含めて現状を隠さず教えていただけると効果が上がりやすいと思います。 野村 ITCと連携し、人づくりに投資を惜しまない経営者は、大きな成果を得ると思います。 川端 成功の条件は、①目標がはっきりしていること、②現状認識がしっかりしていること、③情熱・やる気があること。人の意見をよく聞き、事実を正しく見ようとする方は成功しますね。 ――今日はありがとうございました。各地ですばらしい経営改革事例が生み出されることを期待しています。 |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
連載 ITコーディネータ活用記 <実録 京都府矢代仁の経営改革> 第8回 ![]()
連載 ITコーディネータ活用記 <実録 京都府矢代仁の経営改革> 第7回 ![]()
連載 ITコーディネータ活用記 <実録 京都府矢代仁の経営改革> 第6回 ![]()
連載 ITコーディネータ活用記 <実録 京都府矢代仁の経営改革> 第5回 ![]()
連載 ITコーディネータ活用記 <実録 京都府矢代仁の経営改革> 第4回
連載 ITコーディネータ活用記 <実録 京都府矢代仁の経営改革> 第3回 ![]()
連載 ITコーディネータ活用記 <実録 京都府矢代仁の経営改革> 第2回
連載 ITコーディネータ活用記 <実録 京都府矢代仁の経営改革> 第1回 ![]()
![]()
![]()
|
1